砕蜂のお兄ちゃんに転生したから、ほのぼのと生き残る。   作:ぽよぽよ太郎

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序章 6度目の任務
第1話


 

 

 

         +++

 

 

 「あのお方が見えるか、列缺(レツケツ)。我々(フォン)家は、あのお方に全てを捧げることになるのだ」

 

 少年は、父親に連れられてその少女と出会った。

 ”天賜兵装番(てんしへいそうばん)”四楓院家の22代目当主、四楓院(しほういん)夜一(よるいち)。近いうちに隠密機動総司令官、及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長という職務も譲り受けると言われている才媛で、少年が生まれながらにして仕えることが決まっていた相手だった。

 

 「今日からお前は、龍蜂(ロンフォン)と名を変えろ。そして、あのお方のためにのみ生きるのだ」

 

 少年は父親になにも返さず、ただゆっくりと頷いた。そんな少年を見て、父親は満足そうに頬を緩める。

 

 少年の生まれた(フォン)家は、代々処刑と暗殺を生業としてきた下級貴族。強さこそが全てで、刑軍にすら入れぬ者は一族を追放された。

 

 少年の兄4人はすでにこの世にはいない。皆がそれぞれ優秀だったが、任務の遂行中に殉職していったのだ。だからこそ、父親は残った末の少年に家の繁栄を願った。

 

 そして、幼いながらも少年はその期待に応えてきた。幼い頃から大器の片鱗が見え、それゆえに課される厳しい修行にも耐え抜いた。少年の才は四人の兄をも凌ぐほどで、父親はこれで家の繁栄が約束されると、そう確信していたのだ。だからこそ、万感の思いを込めて少年に言い聞かせた。

 

 ――あの方に仕え、あの方に命を捧げる。それがお前の運命なのだ。と。

 

 だが、少年は知っていた。これから訪れる、己の運命を。

 

 明確に訪れる、自身の死を。

 

 「――はい、父様」

 

 そう答えた少年の目には、決意の炎が灯っていた。

 

 

 

 

 

 

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 俺は死んだ。いや、死んだはずだった。

 代わり映えのない毎日を怠惰に過ごし、自堕落な生活を送り、ある時ぽっくりと命を落とした。死の間際には不安や恐怖などなく、ただただその現実を受け止めるだけだった。

 後悔することだってなかった。そもそもこの世界に執着なんてないのだから。

 

 ――でもせめて、できることなら、生まれ変わったら楽しい人生を。

 

 そんなことを願いつつ、暗闇に飲まれていった。

 

 そのはずなのに――

 

 「――おお、また男児か! これで(フォン)家も盤石だ……!」

 

 次に目が覚めた時は、赤ん坊になっていたのだ。

 突然のことすぎて、冷静に物事を考えることなどできなかった。だが、それでも時間だけは過ぎていく。そして、だんだんと状況が理解できた俺は、自分の生まれに絶望することになった。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)の下級貴族、(フォン)家。代々処刑と暗殺を生業としてきた貴族で、なにより、俺はこれを知っていた。

 

 BLEACH。

 漫画の世界に、転生したのだ。

 

 ただ、百歩譲ってそれは良い。可愛い女の子も多いし、これから巻き起こる騒動を当事者の目線で楽しめるなんて最高だ。

 

 だが、(フォン)家のキャラクターといえば砕蜂(ソイフォン)しかいない。そして彼女の五人いた兄は、例外なく全員が死亡しているのだ。

 

 原作にはいなかったキャラかもしれないと期待もしたが、俺の上には兄が四人いた。ご丁寧にも全員隠密機動に所属していて、俺が修行を始める頃にはすでに他界していた。面識がなかったために彼らについては思うところはなかったが、俺は気が気じゃなかった。

 

 俺は砕蜂の五番目の兄。このままだと、俺は死んでしまう。

 

 死についての嫌悪感はなかった。それでも、渇望していた楽しみを奪われたくはない。努力した結果死ぬのならそれで良いし、それもまた面白いだろう。だが、なにもせずに簡単に死ぬのだけは許せなかった。

 

 この世界で生き抜いて、放縦不羈(ほうしょうふき)な日々を送る。そのために自身の避けられぬ死の運命に抗うことを決め、俺は一層修行に励んだ。

 

 

 

 

 

 龍蜂(ロンフォン)。それが今の俺の名前だ。

 幼少期の修行の日々はキツかったが、死亡フラグを折るために必要なこと。俺は懸命に取り組んで、隠密機動へと入隊した。

 なお、隠密機動に入隊したと同時に(フォン)家の八代目も襲名した。原作通りだとこのまま俺が死んで、砕蜂――今はまだ梢綾(シャオリン)という名前だが――に九代目が受け継がれるのだろう。

 

 俺の現在の役職は隠密機動第一分隊”刑軍”の隊士だ。護廷十三隊の序列で言えば、ギリギリ席官くらいの強さはある……と思う。そんな刑軍の隊長はみなさんご存知夜一さんで、彼女は二番隊隊長も兼任している。

 ……これもうわけわかんねえな。このあたりはややこしすぎて、面倒になってくる。

 

 砕蜂は俺が隠密機動に入隊する前には生まれていた。まだ修行中の身だが、なかなかに筋が良い。そしてなにより、めっちゃ可愛い。夜一の追放が起こる前だからか性格も大人しめだし、あのおどおどした感じがたまらない。やはり(フォン)家のものとして死んだ兄たちのことは情けなく思っているらしく、刑軍に入って実力もある俺のことは尊敬してくれている。たぶん、死んだら失望されそうだけど。

 

 砕蜂については原作のように夜一と百合百合しくなるのも良いが、俺的には妹としても愛でたい。砕蜂の隠密機動時の服はとても魅力的だしな。なんといっても、あの貧乳横乳と横開きズボンから見える紐パンだ。それらを身近で見られるとか、死亡フラグさえなければ最高な気もする。

 

 そうこうと砕蜂(愛しの妹)のことを考えていると、知らず知らずのうちにニヤけてしまう。我ながらシスコン甚だしい。

 

 「……おや、龍蜂サンじゃないですか?」

 

 そんなことを考えながら隊舎内を歩いていると、不意に声をかけられた。声のした方を向くと、ボサボサの髪に眠そうな目の男が立っている。

 

 「――おう、喜助か」

 

 浦原喜助。将来の二番隊の第三席であり、第三分隊監理隊隊長も務めることになる男だ。俺よりも後輩で、今は第三分隊監理隊の一般隊士。お互い夜一と仲が良いこともあり、こうして頻繁に話すようになった。

 

 飄々とした態度で自身の底を見せない点は、個人的に気に入っている。なにより、初めて会った時はものすごくテンションが上がった。なんせ原作でも重要なキャラなのだ。それを生で見ることになるなんて、前世では考えもしなかったからな。

 

 「まーた妹さんのこと考えていたんスか?」

 

 どうやらにやけていたところを見られていたらしい。

 

 「龍蜂サンがニヤニヤしてる時は、基本女の子のこと考えてる時っスからねえ」

 

 「うっせー。それより、夜一さんってどこにいるかわかるか?」

 

 四楓院夜一。俺たち二番隊士の上司なのだが、原作通りに奔放な人だった。なにより、あの健康的なエロさがたまらない。本人がそういうことに頓着しないせいか、胸チラなんぞは日常茶飯事だ。眼福眼福。

 

 隠密機動に入ってすぐ「自分のことは名前で呼ぶように」と厳命され、当初は一応「夜一様」と敬称をつけて呼んでいた。だが、長く過ごすうちに様付けするのがバカバカしくなったのだ。毎度毎度振り回され、尊敬という感情はほぼなくなった。なんというか、動物を見ているみたいな気分にすらなる。

 

 「いや、知りませんねえ。またどっか出歩いてるんじゃないっスか」

 

 夜一さんは、突然いなくなることがある。一応護衛隊なんていうものもあるくせに、連れ立って歩くとこなんて滅多に見たことがなかった。

 

 「そっか。……まあいいや、適当に探してみるよ」

 

 どうせまた、流魂街でもウロウロしているんだろう。人のことを呼び出しておいてどういうつもりなんだ、まったく。まあかく言う俺も、仕事をサボりつつ流魂街に入り浸っていることが多い。

 西流魂街1地区”潤林安”をはじめとした治安の良い場所には、多種多様な店が存在する。甘味処だったり大小様々な飲み屋、料亭。果ては見世物小屋から遊郭まで。

 尸魂界(ソウルソサエティ)にも飲み屋や甘味処もあるけど、雰囲気が違うんだよなあ。

 

 ……よし、俺も行こう。

 

 喜助にひらひらと手を振り、俺は流魂街へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 




主人公スペック

名前:龍蜂(ロンフォン)
身長:185cm
容姿:黒い長髪で普段はポニーテール

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