戦車道全国大会、二回戦に向けて。
大洗女子学園は日々練習に明け暮れている。
一回戦を勝ち抜いたとはいえ、大洗の戦車経験はまだまだ低い。操縦にも射撃にも改善の余地は大いにあり、基礎練習の反復は欠かせない。
「基本! イズ! 最強! 基礎練習だからといって疎かにしていると強くなれないのはバレーも戦車道も同じです! ガンバルゾー! 今も昔も、カラテを極めたやつが上を行く!」
「はい! キャプテン!!」
「……バレーボールって、カラテが必要なんだっけ」
「うちのバレー部は実際スゴイみたいでありますから、必要なんじゃないでしょうか。それに言ってることは大体合ってますし」
アヒルさんチームが謎理論を口走りながら輪になってスクワットなどしていて、その体育会系理論にはついていけないみほたちだったが、優花里の言う通り間違ってはいない。なんか別のものに対する正しさを発揮している気もするのだが。
「ところで西住隊長。八九式の操縦について聞きたいことがあるのですが」
「え、わ、私? 私操縦の方はあんまり……」
「Ⅲ突は回転砲塔がないのがやっぱり辛い。西住隊長、なにかいい戦術や射撃法はないか?」
「わ、わわ……」
「西住隊長ー! 戦車道の話したら男友達に引かれたんですがー!」
「私は彼氏に逃げられました!」
「ふええええ!?」
総合的に見て、大洗女子学園の戦車道チームは士気と向上心が高い状態にある。
戦車の技術を高めることに余念がなく、最近では練習後にこうしてみほの周りに集まる光景も多々見られる。仲間との絆と、勝利がもたらした自信が彼女たちのモチベーションとなったのだろう。
まあ、一部方向性が微妙な向上心もあったりするのだが。
わらわらと寄ってたかる大洗戦車道チームの乙女たち。
ただでさえ引っ込み思案なみほとしては、チームを率いて戦車道をやることですら一杯一杯。こんな状況ともなれば簡単にオーバーフローして、目をぐるぐる回して今にも倒れそうな勢いだ。
しかし、それでもかまわない。
今のみほには、頼れる仲間がたくさんいる。
「戦車の操縦だったら、私が教えてやろう」
「知識面でしたら、不肖、秋山優花里にお任せください! 及ばずながら力になります!」
「書類整理でしたら、わたくしでもお手伝いできると思います」
「恋愛? なら私に聞いてちょうだい!」
「男友達に引かれたり彼氏に逃げられた? ……大丈夫、それなら女友達と戦車の話をして、彼女を作ればいいんだよ」
「……店長、あなたは少ししゃべりすぎました」
「ごえんあはい! ごえんあはい!」
その中には一部、邪念100%の妄言を吹き込もうとする変態もいつの間にやら混じっていたりするのだが、華によって両頬を思いっきり引っ張られて退治されることで事なきを得た。
「……店長のほっぺ、なかなか柔らかいですね。楽しいです」
「華がドSに目覚めようとしてる!?」
「割と最初からだと思うぞ」
そんなこんなで、大洗女子学園の各チームに対してあんこうチームによる指導・相談会が開かれる運びとなった。一応たまに蝶野教官も来てくれてはいるのだが、何分自衛隊の忙しい人。大洗女子学園の戦車道は物理的にも技術的にも自給自足が基本となる。
アヒルさんチームの八九式をはじめとする戦車の操縦に関しては麻子が担当し、説明書をぱらぱらと一読しただけで要諦を把握。その極意を伝授しようとするも麻子の理解力が常人をはるか超越する物だったためにイマイチ伝わらなかったり。
「こう……きゅっとしてどかーんだ」
「わけがわかりません!」
優花里がⅢ突やら何やらについての戦車知識を語るも、オタク特有の熱の入りようで軽く引かれたり。
沙織による恋愛講座はそこそこまともなことを話すも、「これまで何人くらい付き合ったんですか」という1年生による純粋かつ鋭く的確に急所を抉る一撃で大破白旗状態になるなど、現在の大洗女子学園の戦力を現すような苦戦ぶりだった。
だが、あんこうチームにはまともな乗員もいるわけで。
「……小山さん、この資料なのですが」
「はい? ……20年前、戦車道が行われていたころの資料ですね。保有戦車数と、売却数」
「この資料によると、現在わたくしたちが使っているⅣ号戦車を含む5輌の外にも売却されていない戦車があるようです。どこにあるかまではわかりませんが、2、3輌はあっておかしくありません」
小山柚子と共に資料の整理をしていた華が見つけた古い書類。
その内容が20年前に行われていた戦車道の当時最終資料であるとするならば、大洗女子学園の学園艦上にはまだ何輌かの戦車が残されている可能性があった。
その資料こそ救いと信じ、生徒会は第二次戦車捜索作戦を敢行する。
どこぞの変態が暗躍しているため練習用の資材・消耗品には事欠かないとはいえ、戦車そのものの数はいまだ聖グロリアーナとの親善試合の時から増えていない。
2回戦の相手は豆戦車主体のアンツィオが相手とはいえ、向こうはその編成でマジノ女学院に勝利を収めた猛者。今のままで勝てる保証はない。その上、そこから先に勝ち進めば高校戦車道四強のプラウダ、聖グロリアーナ、黒森峰いずれかとの対決が待っている。というか、組み合わせ次第では練習試合を含めて四強全てとの戦いを経験することになるわけで、想像するだけでも頭が痛い。
ゆえに、少しでも可能性があるならば戦車を増やすことは急務中の急務だ。
「というわけだ! お前たち、必ず戦車を見つけ出せ!」
「「はーい!」」
というわけで、戦車探しと相成った。
ちなみに、我らが店長は同行を禁止された。以前の戦車探しの際、こいつがついていったチームはことごとく変な戦車を見つける羽目になったため、そのジンクスを打ち破るための措置であった。
前回見つかったそれらの戦車は回収する意味もなければ廃棄するような予算もないため、今も同じ場所に放置されたままとなっている。予算は全てに優先する……!
閑話休題。
目下最大の課題は戦車の増強だ。
戦車そのものが見つかればよし、そうでなくとも現在運用している戦車を強化できるパーツの一つも見つかれば御の字。そんな感じの戦車捜索だった。
「探すっていっても……最初のときも大分探したよね?」
「はい。それで5輌が限界だったわけですから、今度はもっと見つけづらいかもしれません」
学園艦は広大だ。
艦の名そのものである学園はもちろんのこと、その運営と学園に通う生徒たちが生活するにあたって必要となるインフラ、商店、各種公共施設などを内包する都合上、人口は数万人を越え、それだけの人口を支える電気ガスのエネルギー、上下水道といった衛生設備が海の上をいく。
そして、それらを享受して学園艦上で暮らす人のほとんどは甲板上に築かれた町の上で生活している。
すなわち、学園艦の内部には普段生活している甲板上をはるかに凌駕する広大な空間が存在するということだ。
「通路はそんなに広くないですけど、歩いても歩いても終わりがないですね……」
「でも、だからこそいろいろあるかも! もっと下の階層まで行ったらきっとレアアイテムが! なんか上ったり下りたりするたびに構造変わってる気がするし!」
「桂莉奈、現実とゲームの区別はつけよう?」
一部なんか勘違いをしている子もいるが、沙織が引率するウサギさんチームは学園艦の内部を探索していた。
以前の調査で甲板上はほとんど探したし、今日も他のチームがくまなく探してくれている。だからここらで一つ目先を変えてみようというのが彼女らの方針だった。
「それにしても~、なんで学園艦って海の上にあるんでしたっけ?」
「あ、私も知らなーい」
「この前ゆかりんに聞いたんだけど、来るべき国際化社会のために広い視野を持ち大きく世界に羽ばたく人材の育成がなんとかって言ってたよ。つまり、私達はすごいってことだよ!」
「なるほど!」
「さすが武部先輩!」
「あと秋山先輩も!」
沙織の博識さに感心するウサギさんチームの面々。いやーそれほどでも、と満更でもない様子で照れる沙織。なんだかんだで面倒見がよくお姉さんオーラが溢れる沙織は、後輩たちから慕われている。
その様が、当人の望むモテモテな女性のそれとは異なることに、当人だけは無自覚だ。
「でも、今こうして歩いてる艦内も使った方がたくさん人を乗せられるんじゃないですか? さっきは魚の養殖場がありましたし、ここには畑も」
「あー、それもゆかりんに聞いたな。なんだっけ……?」
学園艦内もなんだかんだで右へ左へ、上へ下へと大分歩き回ってきた。その結果、普通の船のような通路と船室が並ぶ区画から、艦内での養殖池と畑からなるインフラ維持区画にまで足を踏み入れることになった。
途中すれ違った船舶科の生徒から聞いた「なんか戦車っぽいの見たことあるようなないような」という情報と、「もっと奥の方」という大雑把な方向のみを頼りに来たので、正直現在地がどこなのかすら良くわかっていないのだが、まあ大体なんとかなるだろうと楽観中だ。
「えーと、確か空が見えないのがどうとか……」
「空が見えないと気が滅入る、ってやつだね」
「そうそう、それそれ! ……って、店長!? こんなところで何してるの!?」
しかも、存在そのものがシリアスを吹っ飛ばすヤツまで出てくる始末。
今日の戦車探索への参加を拒否された、店長である。
沙織たちと出会ったその時、この男の格好は珍妙だ。
普段店にいるときはそれなりに清潔感のある格好にエプロンが主で、戦車道の応援に行くときも最低限TPOくらいは弁えているのだが、今この男は農作業中にしか見えない上下のコーディネート。どんな泥田も踏み越えて、雨風も日差しも大丈夫とばかりの完全防備。畦道をランウェイ代わりに歩けば村中の注目を浴び、第二次大戦中のロシア周辺であればそのまま兵士にスカウトされそうな姿である。
「いや、戦車探しを手伝わせてもらえなかったから、いも掘りの手伝いを。うちの店で使ってるいもは基本的に大洗の陸地で取れたのを使ってるけど、最近は学園艦でもいいの作ってるからね。一角を借りて育ててるんだ。みんなもいも掘りしていくかい? 掘ったヤツで焼き芋作っといてあげるよ」
「ほんとですか!? わーい!」
「店長! 私は大学芋がいいです!」
「任せておいてくれ。とびっきりおいしい蜜を絡めておくよ」
「ちょ、みんな!? 戦車探すんでしょ!?」
そして、さっそく馴染むウサギさんチーム。だが仕方ない。焼き芋に大学芋。これに抗える女子などいるはずがないのだ。そこらに生えている蔓をそいやと引けば、土の中から姿を現すのはおおきなさつまいも。学園艦の中でこれほどに育てるとは、と見る者が見れば驚嘆するサイズである。
この店長という男、仲よく土と戯れるウサギさんチームを見て、安楽椅子に腰かけて庭で遊ぶ孫の様子を見ながらいままさに天に召されようとしている老人のような顔をするほどの度し難い変態であるということを除けば、割と万能なのだった。
「で、さっきの話だけど」
「……何の話でしたっけ。ものすっごい話が逸れた気がしますけど」
「学園艦の中に町を作らないのはなんでだろうって話」
その万能さは技能面のみならず、知識面でも発揮される。
特に男でありながら戦車が好きと言う珍しい趣味を持つことから、戦車道が盛んな各学園艦や、その歴史に関する造詣も深い。
いまやその話に付き合っているのが、ウサギさんチームのリーダー澤梓くらいしかいないのが悲しいところではあるが。
「昔、試してみた学園艦はあったらしいよ。広大な艦内空間の有効活用を目的として。実際、本当に広々使えたらしい。それこそ最終的には2000万人くらい住めるんじゃないかって試算もされたとかなんとか」
「すごい数ですね!? ちょっとした都市どころじゃないですよ」
「うん。学園に収まる規模じゃないから<クレイドル>って呼ぶべきじゃないかって話もあった。……でも、問題も続出したらしい」
「それが最初に言ってた気が滅入るってやつ?」
「その通り。あと、学園艦に進出してきた企業がのきなみ変態になったとか、そんな企業がぴょんぴょこ飛び跳ねて自爆したり酸を吐いたりする可愛い生き物を生み出したり、艦内管理用のAIが暴走しかけたり、水場に河童が潜んだり、戦車道がなんか全く別のガチタン道になりかけたりしたらしいよ」
「店長、それ何か別のものについて話してません?」
そして、殊勝に聞いてやった結果がご覧の有様だった。
普段から妄言の多いヤツではあるが、この信用のなさ。もしこの怪しい話を問い詰めて法螺だったと判明したとしても、「騙して悪いが、仕事なんでな」とか言ってすっとぼけそうだ。
「……まあいいや。みんなー! そろそろ戦車探しに戻るよー! 掘ったおいもは店長に渡しておいて!」
「はーい!」
元気な返事の1年生。素直である。
沙織がまるで引率の先生かお母さんのようで、純粋に慕っている1年生たちの様子に「いいものを見た」とまゆ尻を下げるバカが一人。
なんだかんだで寄り道はあったが、ウサギさんチームと沙織の戦車探しは、まだまだ続くのである。
◇◆◇
その後!
「……沙織たちからの電話だ。遭難したそうだ」
「そうなんだ」
「店長、この場における寒いダジャレは万死に値すると知ってください」
「あがががが!? 華道で鍛えた五十鈴ちゃんの握力がついに俺の頭蓋に多大なダメージを!?」
「華道で握力って鍛えられるんでしょうか」
「ハサミとか使うからじゃないかな」
学園艦のさらなる奥へと戦車を探しに行く武部ちゃん達と別れた俺は、学園に戻ることにした。さつまいももたっぷり掘れたし、ウサギさんチームリクエストの焼き芋や大学芋を作っておく必要もあった。
それに、他のチームによる戦車探索の結果も気になるところだったからだ。
結果、戦車道復活初日の成果にはさすがに及ばないものの、ルノーB1bisを1台と、Ⅳ号戦車に搭載可能な長砲身の75mm砲が見つかっていた。
ルノーB1bisは大洗女子待望の重戦車。M3と同じく車体と砲塔に砲を備えた形で、75mm砲は車体据え付けだが、装甲防御力は結構なものだ。
そして長砲身75mm砲はあんこうチームの戦力強化につながる。これがあれば、T-34クラスの敵とも戦うことが可能だ。これから先にぶつかるだろう数々の強力な戦車のラインナップを考えれば、こうして既存戦車の強化もできたことは極めて喜ばしい。
……ただ、このままだとウサギさんチームが丸ごとひとつ消えかねないので総合で見ると恐ろしいマイナスになる可能性がある。
「とりあえず、西住ちゃん達。捜索よろしく。ついでに戦車も見つけてくれたらうれしいな」
「えぇ……」
てなわけで、人道的な面からはもちろんのこと、戦力的な面でもウサギさんチームの救出が次なる最重要目標となり、捜索には西住ちゃんたち残りのあんこうチームが指名された。
これなら安心。秋山殿はサバイバル技術に長けているし、たとえ複雑に構造が入り組んだ学園艦の中であろうとも、方眼紙にもりもりとマッピングして効率よく探索してくれるはずだ。
「がんばってくれ、秋山殿。もし宝箱を見つけても不用意に開けちゃいけないよ?」
「任せてください、店長殿! いしのなかにいる、とかならないよう気を付けるであります!」
とりあえず、サバイバル用の携行食として干しいもを託しつつ、秋山殿たちの無事を祈る。きっと今頃、ウサギさんチームのみんなは不安で震えているだろう。
学園艦内で、現在地を見失うくらいの深層ということはロクに電気も通らず、外も見えない薄暗い通路の可能性が高い。
そんなところで身を寄せ合って、励まし合いながら助けを待っているに違いない。触れ合う手と手の温もりだけが心を支え、いつしかその温もりを通してお互いの心に確かな絆が芽生え……。
「ところで店長。この期に及んでなお不埒なことを考えていらっしゃるようなら……切りますよ?」
「俺もついて行きたいけど、そうしたら多分変な戦車見つけちゃうから……頼んだよ、みんな!」
「さすがの店長も保身に入る迫力……すごいな、五十鈴さん」
そんな妄想してないよ。断じてしてないよ。
あと、俯き加減になったせいで長い髪の間から光る五十鈴ちゃんの目が怖いなんてことはもっとないよ!
◇◆◇
そして、学園艦内部。
絶賛遭難中の沙織を除くあんこうチームの4人が捜索隊として学園艦の奥深くへと潜っていく。幸いにして沙織たちとは携帯で連絡を取ることはできるが、彼女らは自分達の位置を完全に見失ってしまっているため、周囲の掲示物などを教えてもらって大雑把な位置を把握し、あとはしらみつぶしで探すしかない。
なにせ学園艦の構造は複雑だ。見通しが悪く、似たような景色が続き、通路は上下左右複雑に入り組んでいる。マッピング機能付きのヘッドパーツ、と言って店長が勧めてきた謎の被り物は謹んで辞退しておいたが、それくらいの備えがなければミイラ取りがミイラになるのは確実な迷宮っぷりだった。
「えーと、いま私たちがいるのがこのあたりで……武部殿たちは、おそらくもうすこし艦の後方に行った辺りですね。さっきカエサル殿から指示のあった方角とも一致しますし、行ってみましょう!」
「優花里さん、生き生きしてますね」
「ちょっとサバイバルっぽいからかな。こういう時はすっごく頼りになるよね」
「こわい」
それでも迷わずずんずん進んでいくのは、優花里。
当然のようにライト付きのヘルメットを用意してくるわ、どこから持ってきたのか学園艦内の簡易地図にコンパスまで用意している。
しかも、なんか戦車探しでカバさんチームに付き合っていた結果、とても仲良くなってソウルネームも賜ったらしい。優花里に曰く、グデーリアン。電撃戦の祖の名をもらい、ご満悦である。
「ソウルネーム……?」
「魂の名、だそうです。店長のことを店長って呼ぶみたいなものだ、ってカバさんチームのみなさん言ってました」
「ああ、あれもそういう……ちょっと待ってください。店長の本名って、なんだったでしょうか」
「ん? 店長の名前は、そりゃあ…………店長?」
そして、ふとしたきっかけで落ちる沈黙。
あまりにも当たり前すぎて、言われなければ気付かないことというものは存在する。
たとえば、普段から何かと戦車道に顔を出してはしゃいでいる、ある男。
戦車道と女の子同士が仲良くしているのを見ることが何より好きという変態でありながら、その性根は一応善良にして純粋。大洗女子学園戦車道チームが仲良く、楽しく戦車道をできるように陰に日向にサポートしてくれている、なんだかんだ言って欠かすことのできない存在。
そして、誰もがあまりにも自然に「店長」と呼んでいることから、良く考えてみたらはっきり名前を思い出せない、男である。
「……今度、お名前聞いてみようね」
「そ、そうでありますな!」
「適当にはぐらかしそうな気がしますから、そのときはわたくしが聞き出しますね」
「ホラーみたいなはなしでますますこわい」
ちょっとひやっとした雰囲気のせいでさっきからまともにしゃべらなかった麻子がますますポンコツになりつつあることだし、沙織とウサギさんチームもきっと不安で震えていることだろう。一刻も早く探し出さなければ。
みほ達は決意も新たに再び歩き出す。
それは決して、一刻も早く忘れたかったからではない。少なくとも彼女たちは、必死で自分にそう言い聞かせていた。
◇◆◇
「は……は……ぶへっくし! なんだろう、かわいい女の子たちがおしゃべりで盛り上がってた気がする」
「どういう理由でくしゃみすんのさ、店長」
なお、話題の主はみほ達が沙織とウサギさんチームを必ず見つけてくると信じて、焼き芋と大学芋を用意していた。干しいも以外もたまにはいいものだ、とついてきた杏につまみ食いされながら。
こういうところだけ見ればいい人なんだけどな、とは杏の感想。
芋を揚げ、蜜にからめる店長の手つきはてきぱきとして、これを食べるウサギさんチームのことを思っているだろう表情は優しい笑顔。
決して前向きな理由で始めたとは言えない戦車道だったが、こうして見守ってくれる人が一人でもいるのなら、巻き込んでしまった生徒たちにとっても救いになるかもしれない。杏はそのことに感謝しているのだ。口に出すことは決してないが。
「ふふふふふふふ……蜜は固まらないように、でもこってりと。そうすれば、坂口ちゃんあたりは元気よく食べてくれるだろうから、口の周りについた蜜を拭いてもらったりするに違いない……!」
「……」
本当に、これさえなければなあ。
その感想もこぼさず抑えた杏は、根はやさしい少女なのである。