好きなものは百合&パンツァーです!   作:葉川柚介

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秋山殿の愛です!

「副隊長?」

 

 その声は、特になんということのないものだった。

 強い感情がこもっていたわけでもない、本当にただ思わず口をついて出た、という程度の呼びかけ。

 

「……」

 

 その後の沈黙には、しまった、とばかりの後悔の気配があった。

 先の声に引き寄せられるようにそちらを向いていた俺は、そこで見た。

 

 西住ちゃんのことを副隊長と呼んだ、セミロングの髪の少女。呆然としていた表情を悔しげにゆがめ、唇を噛み、しかしすぐに毅然と表情を変える。短時間での百面相。

 最後に浮かべたのは、努めて取り繕ったようにぎこちない、嘲笑の色。

 

「ああ、『元』でしたね」

 

 彼女は、黒森峰女学園において今年度の戦車道副隊長を務める逸見エリカさんは、皮肉気にそう言いきった。

 

 

 予想しておくべきだったかもしれない。

 今日は全国大会の抽選日で、ここは戦車喫茶で、位置的にも抽選会場からほど近い。戦車喫茶に入れるということで舞い上がってうっかり忘れてしまっていたが、こういう事態が起きることは十分に考えられるはずだった。

 後の祭りもいいところの理解が遅ればせながら追いつき、西住ちゃんへの申し訳なさが湧いてくる。

 

 

 黒森峰女学園は西住ちゃんの古巣。

 そして今俺達のテーブルの脇を通りかかったのは、おそらく西住ちゃんが最も顔を合わせづらいだろう人たちのうちの二人。黒森峰で戦車道の隊長を務める西住ちゃんの姉のまほさんと、去年副隊長を務めていた西住ちゃんに代わって副隊長に就任した、逸見エリカさんなのだから。

 

 

 だが。

 ああ、と俺は嘆く。

 人目がなければ手で両目を覆い、天を仰いでいたことだろう。

 

 

 神様。

 なぜ人の世にこんな、こんなにも尊い人を遣わしたのです。

 

 

 なんかこう、逸見エリカからは色んなものが溢れている。

 西住ちゃんに対する敬意と対抗心。絶対に負けないという強い意志と、それでも届かないのではという不安。西住ちゃんの不甲斐なさに対する怒りと、そんな彼女を受けとめきれなかった自分自身の不甲斐なさへの憤り。

 ほんの少しの言葉からさえ、複雑に絡み、ねじれ、こじれにこじれきった感情が伝わってくるようだ。

 

 何てことだ。なんてことだ。

 黒森峰に、こんな逸材がいたなんて! 逸見だけに!

 

 

 しかも、もう一人。西住まほさんまでいる。

 この二人は、強豪校の隊長と副隊長ということもあって雑誌やテレビのインタビューなどで顔を見たことがあるからひと目でわかった。

 呑気な大洗のチームとも、優雅な聖グロリアーナのチームとも違う、ピンと張りつめるような常在戦場の精神が背骨を貫いているような緊張感をただそこにいるだけで放っている辺り、やはり只者ではありえない。

 

 

「……みほ」

「お姉、ちゃん……!」

 

 だから、だろう。

 西住ちゃんは呆然と呟くことしかできていない。

 きっと、本来は顔を合わせたくないほど苦手な相手というわけではないだろう。

 だが、合わせる顔がないとは思っているかもしれない。

 

 一方のまほさんも、言葉の端々に躊躇いが見える。

 どんな言葉をかければいいのか、かけることができるのか。自分の持つ手札さえ見えていない。そんな印象を抱いた。

 

「……元気そうだな。ちゃんと食事は食べているか。それと、乳酸菌は取っているか?」

「あ、うん。最近は、ちょっと料理も覚えたよ。……乳酸菌は、まあそこそこ」

 

 なぜ食事と同列に乳酸菌が、などとツッコミを入れられる空気では断じてない。

 だがきっと、これが精一杯だったのだろうとは思う。

 

 西住ちゃんのお姉さんで、でも黒森峰の隊長で、西住流の跡継ぎ。思うに任せられない事情は、きっと俺なんかでは計り知れないくらいたくさんある。

 

「お、お言葉ですが!」

 

 しかし事情というならこっちにだって、西住ちゃんの友達にだってたくさんある。

 たまりかねたように立ち上がる秋山殿が、その代表だ。

 

 おっふう愛だよ愛の為せる技だよあのコミュ障気味だった秋山殿が憧れの黒森峰の隊員に啖呵切るなんて、などと変態臭いことを持っている人間はこの場にいない。いないったらいない。

 

「西住殿のしたことは、間違っていなかったと思います!」

「部外者は口を挟まないでちょうだい。あれは黒森峰の問題よ」

「うっ! ……そう、ですよね」

 

 ああああああもうなにこれなにこのバトル西住ちゃんモテモテだよ二人の女の子に取り合われてるよおおおお! とか内心悶え転がりたいのを必死で我慢しているような外道なんて、この世に存在するはずないじゃないですか。

 

「……みほが、まだ戦車道をしているとは思っていなかった」

「……」

 

 まほさんは、そう言って去って行った。

 エリカさんと冷泉ちゃんの間で皮肉の応酬もあったりしたが、そんなものは試合前の小競り合いとしては可愛いものだろう。

 

 なにせこれから始まるのは、本物の戦車道。

 先日の練習試合とは違う、負ければ終わりのトーナメント戦。

 戦車道の価値が勝利にのみあるなんて思わないけれど、負ければ終わってしまうものも、確かに存在する。

 

 それは戦車道に邁進する全ての少女達に等しく課せられた真理だ。

 だから俺は、祈るしかない。

 西住ちゃん達の戦車道が、どこまでも続いて行ってくれるそのことを。

 

 

 

 

「……ぐふっ!」

「きゃー!? て、店長が血を吐いたー!?」

「落ち着いてください沙織さん。どうせ、さっきのやり取りを見て妄想をこじらせただけです」

「なら、店長はもうケーキを食べられないな。私がもらうぞ」

「せっかくですし、わたくしと半分こしませんか? 美味しそうだと思っていたんです。そのパインケーキ」

「いいぞ。分けよう」

 

「五十鈴殿と冷泉殿、めっちゃくちゃ肝が据わってますね」

「ねえやめてあげなよ華! 麻子も! たぶん店長まだ二人が話してるの聞こえてるよ!? 鼻血まで噴きはじめたし!」

 

 だから、必ず見届けよう。たとえ天国からのお迎えが来ても、その手を振り切って!

 

 

◇◆◇

 

 

 全国大会の抽選から、一夜が明けた。

 戦車喫茶での出来事のあと、少々強行軍ながら俺達はその日のうちに学園艦へと帰投した。何せこれから始まるのは全国大会本番。備えるために使う時間は一分一秒でも惜しいからだ。

 行きと同じく俺が車を運転して港へ。学園艦との連絡をしているフェリーに乗り込み、その日の夜にようやくたどり着く。

 

 俺はそこで西住ちゃん達と別れたが、その後に起きたことは大体予想がついている。

 次なる相手はサンダース大付属高校。その特徴は全国一の戦車保有数を誇り、選手層も厚く1軍から3軍までチームが存在すること。

 しかも何より恐るべきは、当代の隊長であるケイさん。フェアプレイ精神を重んじるまさにサンダースの精神を体現するような人だという噂だ。

 だからこそ、容赦がない。正々堂々、優れた戦車と優れたチームを真正面からぶつける戦車道が彼女の得意とするところ。正直言って、今の大洗がまともにぶつかったら紙切れのように吹き飛ばされる。

 

 だからおそらく、相手が無名校、試合に投入できる戦車数が10輌に限られる1回戦からでさえ全力を尽くしてくるだろう。

 なにせサンダース大付属の主力戦車はM4シャーマン。バリエーションこそ多いが、運用の仕方の近い戦車が大量にあるため、仮に試合で数輌が修理に入ったとしても同型別車両にチームをそっくりそのまま載せ替えてしまえばほとんど変わらない戦力を試合に投入し続けることができる。それこそがサンダース大付属の強みだ。

 

「だからせめて、相手の編成だけでもわかれば……」

 

 帰りのフェリーの中でサンダースについて軽く話したとき、西住ちゃんはそう言っていた。その点に関しては、俺も全く同意見だ。

 ただでさえ例年優勝候補に数えられる強豪校。黒森峰、プラウダ、聖グロリアーナと並んで高校戦車道四強に数えられる相手と数の上でさえ互角になることのできない試合。こうなってくると、いかにして事前に情報を仕入れ、戦略面での優位に立てるかが勝負の分かれ目になるだろう。

 

 そのことは、ある程度戦術・戦略、あるいは戦車とその戦史について知っていれば当然たどり着ける結論となる。

 

 この場においては、西住流の後継者として幼少のころから戦車とその戦術についての造詣を深めてきた西住ちゃん。

 僭越ながら、戦車に乗れない代わりに知識面を充実させてきた俺。

 

「……」

 

 そしてもう一人。

 戦車を友達として育ってきた、秋山殿が該当する。

 

 白状しよう。

 この時既に、俺は西住ちゃんのことを黙って見つめていた秋山殿が何を考えているか、おおよそのところを察していた。

 だが、止めることはしなかった。それはおそらく、大人として褒められることではないことだと思う。

 こういう時、教え導くとまではいかないが、せめて諭すのが俺のあるべき役目だとわかっている。

 

 それでも、俺は秋山殿に何も言わなかった。言えなかった。

 当たり前だろう。秋山殿のその目を見れば。

 西住ちゃんの姿を瞳に映し、決意と覚悟を固めた、その目を見れば。

 そこに輝く光の色は、俺がこの世で最も尊いと信じるもの。

 そう、それこそは。

 

 

「愛、だよ!」

「何故そこで愛でありますか、店長殿」

 

 

 俺が秋山殿を大好きでいられる理由なんだから!

 

 

◇◆◇

 

 

 翌日のこと。

 みほたちにとって、驚異的なことが起きた。

 

「ゆかりんが……朝練に来なかった……!」

「普段なら、誰より早く来て戦車を磨いているくらいなのですが、何かあったのでしょうか」

「たまにその勢いで主砲に頬ずりしてる姿も見るな。それで、連絡はつかないのか?」

「うん、今朝から何度か携帯にも連絡を入れてるんだけど、つながらなくて……」

 

 そう、優花里の朝練欠席だ。

 戦車といえば優花里。優花里といえば戦車。

 人生は戦車。戦車は人生。

 気付けば戦車の中にいて、今でもたまにパンツァーハイを発症してテンションを無駄に上げることで有名なあの優花里が、なんとチームの面々にも黙って練習を欠席した。

 これは由々しき事態だ。仮に病気の類であったとしても、よほど性質の悪いものでない限り、優花里は這いよる戦車好きと化して朝練に来ていたはずだ。

 しかも、携帯での連絡も通じないとなればこれが意図的なものであることは明らかで、すなわち優花里にとって戦車以上に重視する物が存在したということに他ならない。

 

「まさか……彼氏ができたんじゃ!」

「沙織さんはその恋愛脳を少し抑えてください」

「秋山さんに彼氏ができるとしたらどんな人なんだろう。戦車乗りか、戦車メーカー辺りの御曹司か、人型戦車辺りだと思うんだが」

「さ、さすがに最後のはないと思うけど……」

 

 そんなわけで、みほたちは優花里の実家にやってきた。

 学園艦上にある店の一つ、秋山理髪店。煉瓦模様の外壁に、文字の褪せた看板。店舗2階部分に住居があると思しき窓の配置。商店街の中の一店舗という雰囲気を醸し出す、「床屋」という概念が形になったような店だった。

 

「あのー、すみません」

「はい、……いらっしゃい?」

 

 扉を開けて中に入ると、そこには店の人、ひいては優花里の両親らしき男女がいた。優花里とよく似たくせ毛の優しそうな女性と、新聞を読んでいるパンチパーマの男性。二人とも、きょとんとした顔でみほたちを出迎える。

 当然だろう。なにせ女子高生が戸を叩くにはレトロすぎる床屋だ。ここが美容室であるなら話は別だが、いかに学園艦上といえど床屋では早々見ない客層なのだから。

 

「あの、私達優花里さんの友達で……」

「え、優花里の!? ま、まさかあなたたちは戦車のサブコンピュータ的な……」

「あなた、失礼なこと言わないの。優花里と一緒に戦車道をしている子たちよね? この前の聖グロリアーナとの試合、見させてもらったわ。全国大会も頑張ってね」

「あ、ありがとうございます! それでその、優花里さんは……?」

「優花里? 今日は朝早くに家を出てまだ戻っていないけど……まあ、あの子のことだからそろそろ帰ってくるんじゃないかしら。上がって待っていてちょうだい」

 

 しかしそこは、さすが優花里の両親というべきか。

 微妙にズレた勘違いをする父親と、やたら懐が広い様子の母親。優花里がこの家でのびのびと育ってきたのだろうということが伺える、温かい家庭だった。

 

 みほたちはお言葉に甘え、優花里の部屋へと通されることになった。

 そこに広がっていたのは、予想そのままの戦車時空。壁に、棚に、所狭しと並べられた戦車関連のコレクション。模型はもちろん、眼帯をした渋い軍人のポスターと、その人を女体化したかのようなピンク髪の軍服女の子のポスター、履帯模様のタペストリーなどなど。戦車のパーツらしきものはレプリカか本物か、いずれにせよ埃の一つも積っていない。優花里が普段からこれらをどれほど大切にしているかが伺える。

 

 そしてもう一つ目を引くのが、部屋の隅にまとめられた筋トレグッズ。

 ダンベルや伸縮するゴムチューブなどなど、まだ新しいようだが使い込まれている様子のそれらは、優花里が日ごろから鍛錬を欠かしていない証拠だろう。

 優花里はⅣ号の装填手として、常日頃から重くて仕方ない砲弾を素早く装填するための努力を続けている。優花里らしい部屋と、優花里らしい生真面目な努力。みほたちは友人の普段の様子を垣間見て、自然と笑みがこぼれる。

 優花里は紛れもなく、頼れる仲間だ。

 

 しかし、だからこそ疑問が残る。

 こんなにも真摯に戦車道に取り組んでいる優花里が、どうして今日になって突然練習にも現れず黙って姿を消したのか。

 優花里の母親は心当たりがある様子だったから心配はいらないのかもしれないが、それでも友のことなのだ。どうしても気になる。

 

 さすがに部屋の中を漁ったりはしないものの、何か手がかりはないのかと見回していた、その時。

 

 

 カラリ、ドサッ。

 突如窓際から響くその音。

 みほたちは全員、お互いを視界に収められる場所にいる。誰かがふと窓を開けに立ったわけでは断じてない。

 では、一体何が。

 こういう時の定番は妖怪と呼ばれるものの類だが、この場合は。

 お化けが嫌いだという麻子が特に青い顔をして凍り付いているが、振り向かずにはいられない。意を決して、全員揃って振り返る。

 

「よいしょっと……って、あれ? みなさんおそろいでどうしたんですか?」

「きゃああああ!? ゆかりん!? どっから入ってきてるの!?」

 

 するとそこには、当然のような顔をして窓から荷物を放り込み、部屋へ入ってくる優花里の姿が!

 あとなんか、口元をバンダナか何かで隠している。しかもどういうわけかそのバンダナには「戦」「車」とか書いてある。ニンジャか何かか。

 

「いや、玄関から入ってきたらお父さんが心配するので」

「それは……確かに心配しそうですね。いろんな意味で」

 

 普段学校で使っている物よりさらに巨大なリュックを部屋の隅に寄せ、バンダナを外した優花里の格好は、確かにいつものそれではない。

 まず第一に、あちこち汚れている。血ではないようだから怪我をしているわけではないのだろう。かといって土埃の類でもない。あれは油か何かだろう。

 その上、汚れのついている服もまた問題だ。大洗の制服ではなく、私服ではなく、しかしなんとなく見覚えのあるその服は、某コンビニ店員の物なのだからして。

 

「優花里さん、バイトとかしてたっけ?」

「いえ、これはバイトじゃなくて……このためでありますっ!」

 

 そして明かされる、優花里がこんな恰好をして、ほぼ一日姿を消していたわけ。

 それは、1つのメモリに集約されている。

 

\サイクロン!/

 

「おっといけない、これは別のメモリでした」

「どこをどうやったら間違えるんだ」

 

 

 

 

『潜入!! サンダース大付属高校!!』

 

 

「……なにこれ」

「今日、ちょっとサンダース大付属高校へ偵察に行ってきたんであります。これは帰りの途中でちょっと編集しただけなんで、まだまだ完成度は低いんですけど」

「力の入れ所はそこでいいのか秋山さん」

 

 改めて、優花里が取り出したメモリには映像が記録されていた。

 遠くに見えるは大海原を行く巨大な学園艦、サンダース大付属高校。その雄大な姿を背景に、墨痕たくましく翻る白塗りのタイトル。そりゃまあ帰りの道中は暇だったのかもしれないが、昭和の特撮か何かのようなこの字体、これだけは手を抜くことができない、という優花里のこだわりが感じられた。

 

「だ、大丈夫だったの、優花里さん!?」

「はい、コンビニ艦に潜り込んで行きましたので。……途中船員の方に見つかりそうになったのですが、なんか私と同じく潜入してた人に色々教えてもらって、ダンボールに隠れて切り抜けることができたでありますよ」

「え、コンビニ艦ってそんなに密航者いるの?」

「その人はたまたま、本来の潜入先と間違えて迷い込んだらしいですよ。助けてもらったお礼に持ってたカロリーメイトをあげたら、その人のお父さんが好きらしくて喜んでくれました」

 

 どうやらその道中にも色々大冒険があったようだが、まあそれはそれ。

 映像の中ではサンダース大付属の戦車や作戦会議の様子が次々に映し出されていく。しれっと戦車道部隊の会議にまで潜入する優花里の大胆さに、みほたちは舌を巻く。

 

「……って、さっきからたまに映るゆかりん、私のと同じ型のメガネかけてない?」

「ああ、それですか。これは店長殿からもらったものであります」

「ええ!? て、店長からのプレゼント!?」

「西住さん、落ち着いて。あの店長のことですからそういう意図は一切ありません」

「店長に曰く、『潜入美人捜査官メガネ』だそうです。誰に見咎められることもなく目的地まで到達することを可能にするのだとか。実際、こんな貴重な場面にも遭遇することができました!」

「いや、それは別に関係ないと思うぞ」

 

 と思ったら、店長も一枚噛んでいやがった。

 うら若き乙女の潜入工作を後押しするなどいかなるものかと思うのだが、仮にその辺を問い詰めたところであの男は反省などすまい。なにせ今回の行動は、優花里がみほのためを思ってのこと。女の子が女の子のためにすることは基本的に肯定する。

 どうせ、どっかの闇カジノの支配人のような顔で「我々は……その姿を心から応援するものです……!」とか言うに決まっている。

 

 

「1回戦に出てくるのは全部M4のバリエーション。それにまさかファイアフライまで出てくるなんて。……うん、ありがとう優花里さん。この情報があれば、作戦を立てられるよ」

「本当でありますか!? 西住殿のお役に立てたのなら何よりであります!」

 

 しかし、この情報は大洗女子学園にとって値千金のものだ。

 ただでさえ格上のサンダースに対し、ぶっつけ本番ではなく相手の戦力を把握したうえで作戦を練ることができるのはとても心強い。これなら、勝負ができる。みほは冷静に、しかし熱くなりつつある心でそう確信する。

 

 全国大会が始まるまで、もうほんの数日。

 明日からの練習はいよいよ対サンダースを本格的に想定したものとなる。

 

 西住みほの、大洗女子学園の戦車道。試練の時は、近い。

 

 

◇◆◇

 

 

「見ない顔だな……。お前は何者だ!」

「通りすがりの第六機甲師団、オッドボール三等軍曹であります! 覚えておいてください!」

 

「正体バレてるじゃないか」

「いやあ、あんな聞き方をされたら、そりゃ答えちゃいますよ」

「わかるよ、優花里さん」

「みぽりん!?」

 

 固い握手を交わすみほと優花里。

 大洗女子学園の絆は盤石だった。

 

 

 

 

「……ぬう! 学園艦のどこかで女の子同士の友情がきらめいている……!」

 

 そして、第六感で目ざとくその気配を探知する変態が一人。

 大洗女子学園は、今日も平和である。


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