クロスアンジュ 遡行の戦士   作:納豆大福

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第5話  タスク

 

 

 

アンジュが消息を絶った後、すぐさまアルゼナルから捜索隊の第一陣が発進した。

しかし発見の報は届かず、時間だけが過ぎ去っていく。

 

そんな中、捜索隊の第二陣が発進準備を進めていく。

すると、航空機の離陸準備をしていたメイ達の所に、ゾーラがやって来た。

 

「あたしも乗せてくれ。」

 

「ゾーラ! でもあなたはさっき帰ってきたばかりじゃないか。」

 

「それでも行くよ。 それに……あいつは、あたしを庇って墜とされたんだ。

 だからせめて、あたし自身の手で助けねぇと……。」

 

部下が自分を助けようとした結果、墜とされてしまった。

隊長として、これ以上に悔やまれる事は他にはない。

 

「分かった。」

 

そんなゾーラの心中を察したメイは、ゾーラを乗せようとした。

 

すると……

 

「待ってください。私達も行きます。」

 

そこに、やって来る人影があった。

 

「ココ! それにミランダ、ヴィヴィアン、エルシャまで!」

 

ゾーラは目を見開いた。

 

 

「私にもお手伝いさせてください。私もアンジュ様を助けたいんです。」

 

「私も。 ………それに一刻も早くアンジュを見つけないと……。」

 

ココとミランダが言った。

二人とも元々アンジュに対して好意的であった事に加え、先の戦闘の際に助けられた事もあって、

アンジュの事を心から慕っていたのだ。

 

 

「私には分かるもん。アンジュはまだ生きてるって。」

 

ヴィヴィアンは断言した。

それは単なる希望的観測ではなく、彼女の直感がそうさせているのである。

 

 

「そうよ。 それにアンジュちゃん、きっとお腹空かせてるわ。」

 

そしてエルシャはその手にバスケットを持ちながら言った。

 

それらを見たメイは頷くと、彼女達の搭乗を促した。

 

「そろそろ出発するから、早く乗って。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃………

 

 

アンジュは声が出なかった。

目が覚めるや否や、全く予想だにしていなかった事態に直面し、フリーズしてしまう。

 

(何なの、これ!? 本当に何なのよ!!!?)

 

アンジュは天井を見上げながら心の中で叫んだ。

意識を失った状態から目が覚めたら、服は脱がされてる……男が隣で寝ている……もはや全く

意味が分からない。

状況が理解出来ない。

 

 

しかし、そこでアンジュはある事に気づいた。

 

(あれ? そう言えば、この男……どこかで見た事あるような気が……。)

 

それはアンジュの隣にいる男の事である。

先程はあまりにもビックリし過ぎて、よく見ずに目を背けてしまったが、

一瞬だけ見えたその顔は、どこか見覚えがある物だった。

 

そこで、アンジュはもう一度、隣にいる男の顔をよく見てみる。

すると、アンジュは目を見開いた。

 

 

(なっ!! タスク!!!)

 

 

そこにいたのはタスクだった。

 

“前回”アンジュが遭難した時に、助けてくれた男である。

 

(どうしてタスクがここに!?)

 

未だ頭が混乱気味のアンジュ。

 

 

 

すると、目の前のタスクが目を開けた。

 

「あ……おはよう。目が覚めたようだね。」

 

何事も無かったかのように普通に話しかけるタスク。

 

 

それに対してアンジュは………

 

「何してんのよ、あんたはああああああああ!!」

 

思わず叫んだ。

 

「これは一体どういう事な、ぐっ!!!」

 

続けて怒鳴ろうとしたアンジュだったが、叫んだ拍子に体に激痛が走り、言葉が途切れる。

 

「うぅ……。」

 

「駄目だよ、急に動いたら!

 全身数ヶ所に打撲と裂傷……致命傷になっていないとは言え、重症である事に変わりは

 ないんだから。」

 

タスクはアンジュを宥めようとする。

するとアンジュは痛みで表情を歪めながら言った。

 

「くっ………何で私の服が脱がされているのよ。

 あんた………事と次第によっては只じゃ措かないわよ。」

 

その言葉には、どこか殺気がこもっていた。

それを聞いたタスクは慌てて弁明した。

 

「いや、ちょっと待って! ち、違うんだよ!

 僕が見つけた時には、君は全身傷だらけだったから、服を脱がして手当てしたんだ。

 決して厭らしい事なんて何もしてないよ。」

 

「本当に?」

 

アンジュは尚も警戒心を解かず、タスクを睨んでいた。

 

「本当だよ。

 だいたい、いくら何でも意識の無い女の子……ましてや怪我人を襲うなんて、そんな事は絶対に

 しないよ。」

 

そこでアンジュは改めて、掛け布団の下の、自分の体を見てみる。

すると体中の至る所に包帯が巻かれてあった。

タスクの言った通りで、それは打撲や裂傷の手当てをした痕跡である。

 

ここでアンジュはようやく状況を把握できた。

ドラゴンとの交戦中に撃墜され、漂流した事……。

そして偶然にも、“前回”と同様に、タスクのいるこの島に流れ着いたという事を……。

 

 

そしてアンジュは“前回”の、タスクとの出会いの事を思い出した。

 

嘗てアンジュが遭難した時、タスクには世話になっている。

パラメイルの修理をしてくれたり、食料を与えてくれたり……

そしてアンジュが毒蛇に噛まれた時には、手当てした上で看病までしてくれた。

 

その事を思い出したアンジュは、殺気を解く。

そしてタスクの言う事を信じる事にした。

 

「分かったわ。とりあえず、あなたの言う事を信じてあげる。

 それで、私の着てたスーツは?」

 

「それだったら、そこにあるよ。もうボロボロで使い物にならないけど。

 だから、代わりの服をこっちで用意しておいた。そこに置いてあるよ。」

 

タスクの指さした所には、衣服が綺麗に畳んで置いてあった。

アンジュはそれを一瞥すると、次は別の事を尋ねた。

 

「私が乗っていた機体は? あれはどうなったの?」

 

「ああ、あの機体ね。あれは完全に大破してたよ。

 とてもじゃないが、飛べる状態じゃない。」

 

「そう………。」

 

「何にせよ、とにかく今はじっと安静にしている事だよ。

 とりあえず、俺はこれから食料を取りに行くけど、大人しく寝てて。」

 

タスクはそう言い残すと、洞窟の外へ出ていった。

 

 

 

「………………。」

 

タスクの背中を見送ったアンジュは、そのまましばらく横になっていた。

 

(早いとこ、アルゼナルへ帰りたいんだけど……そのためには、あの時みたいに機体を

 修理しないといけないわね。

 損傷の度合にもよるけど、それなりに時間はかかる筈。)

 

ベッドで横になりながら考えるアンジュ。

 

 

そしてその後、しばらくの間大人しくしていたおかげで痛みもある程度治まってきた。

 

するとアンジュはゆっくりと体を起こした。

そして傍に置いてあった衣服を手に取る。

 

いくら掛け布団を被っているとは言え、裸のままではやっぱり心許ないので、その服を

着る事にしたアンジュ。

そこに置いてあった衣服は、ズボンとYシャツだった。

アンジュはそれらを素早く着る。

 

すると次は、ライダースーツの方に目を向けた。

そしてアンジュは顔を顰める。

 

(確かに、こんなボロボロで血塗れのライダースーツなんて、もう使えないわね。)

 

それは所々破れてボロボロになっており、しかも至る箇所に血液がこびり付いていた。

その血塗れのライダースーツが、物語っている。

如何にアンジュが危険な状態だったのかを………。

 

 

 

「あれ? もう起きて大丈夫なの?」

 

すると、そこにタスクが戻ってきた。

 

「ええ。痛みもだいぶ治まってきたわ。」

 

「そう。それは良かった。 あっ、そうだ。お腹空いてない?

 今から調理するから、ちょっと待ってて。」

 

タスクはそう言うと、取ってきた食料をその場に置いて、準備に取り掛かる。

 

しかしこの時、タスクは気づいていなかった。

足元に空き瓶が転がっていた事に……。

 

そしてタスクはそのまま空き瓶を踏んでしまう。

 

「うわっ!!」

 

空き瓶に足を取られ、バランスを崩したタスクはアンジュの方へと倒れこんできた。

 

「あっ!!」

 

自分の方へ倒れてきたタスクを見て、アンジュは思い出した。

 

“前回”、アンジュがタスクと一緒にこの島にいた際に発生した事故を……。

 

 

あの時もちょうど今みたいに、タスクがアンジュの方に倒れこんできた。

そして気がついた時には、タスクが顔面からアンジュの股へとダイブしていたのである。

しかも、そういう事が起きたのは一度や二度ではなかった。

その後もタスクは、事ある毎に、何かに躓いて倒れては、アンジュの股へ顔面から

突っ込むという事を繰り返したのである。

タスクはまさにラッキースケベ体質だったのだ。

 

 

それらの事を、タスクが倒れこんで来るまでの、ほんの一瞬の間に思い出したアンジュ。

しかしそうしている間にも、アンジュは倒れてきたタスクに押され、一緒に倒れそうに

なっていた。

 

そこでアンジュは咄嗟に、受身の姿勢を取ると同時に、素早く両足を閉じ、防御態勢を取る。

そして、そのままタスクが上に覆い被さるような形で、一緒に倒れた。

 

 

 

するとその時、何やら鈍い音が響いた。

 

「ん……?」

 

違和感を感じたアンジュは、仰向けに倒れた状態のまま、下の方に目を向ける。

 

「………あっ!?」

 

そしてアンジュは、鈍い音が鳴った原因を知った。

何とアンジュの膝がタスクの顔面にめり込んでいたのだ。

 

倒れこんできたタスクの顔が、ちょうどアンジュの膝の位置に来てしまっていた。

そのため、タスクの顔面に膝が直撃したのである。

 

 

「…………あ……が……。」

 

偶然にも膝蹴り(?)がクリーンヒットしてしまったタスクは白目を剥いた。

そしてタスクは、そのまま気絶したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……………あれ?」

 

しばらくした後、タスクは目を覚ます。

気がつくと、彼はベッドで横になっていた。

 

すると、心配そうに覗き込むアンジュの顔が見えてきた。

 

「大丈夫?」

 

「あ…………ああ。」

 

頬に痛みを感じながらも、彼はゆっくりと上体を起こした。

 

「何か記憶が飛んじゃってるだけど、何が起きた?」

 

「……………その事なんだけど………ごめん。」

 

とりあえず、アンジュは謝ることにした。

その上で、何が起きたのかを説明する。

 

タスクが倒れこんできた事自体は、決して故意では無かった。

それに対して、同じく故意では無かったとは言え、顔面に膝を叩き込んでしまった事は、

アンジュとしても悪い事をしてしまったと思っている。

 

「わざとじゃないんだけど……ごめん。」

 

「いや……別に………。」

 

「でもよくよく考えてみれば、元はと言えばあんたがいきなり転んだのが

 いけないんじゃない!!」

 

「えっ!!」

 

「ああ、もう! 謝って損した!!」

 

「……………………。」

 

 

すると、タスクが突然笑い出した。

 

「プッ………アハハハハハハ。」

 

「な、何よ?」

 

「いや、ごめんごめん。 ただ、謝ったり、急に怒り出したりで、何か変だなって思ってさ。」

 

「悪かったわね。」

 

アンジュは拗ねたように言う。

 

 

すると、タスクが改めてアンジュに向き直った。

 

「そう言えば、自己紹介がまだだったね。 俺はタスクっていうんだ。」

 

勿論アンジュは既に彼の名前を知っていたが、その事はおくびにも出さなかった。

 

「私はアンジュよ。 よろしくね。」

 

 

 

 





というわけで、タスクのラッキースケベは未然に阻止されました。
アンジュの身体能力、反射神経を強化した事による影響が、こんな所で・・・・(笑)

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