クロスアンジュ 遡行の戦士   作:納豆大福

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第4話  二度目の初陣

 

いよいよ、“あの日”がやって来た。

“前回”において、アンジュが初出撃をした、あの日である。

 

アンジュはこの日、いつでも出撃できるように、心構えをして待機していた。

そこへ突如として鳴り響く警報。

アンジュはすぐさま駆け出す。

ライダースーツを身に纏い、フライトデッキへ向かって走った。

 

「全機発進準備だ! 急げ、モタモタするな!!」

 

整備士達が慌ただしく動き回る中、第1中隊のメンバー達が次々と集まって来た。

いよいよ実戦の時である。

 

 

メンバー全員の集合を確認したサリアがゾーラに報告する。

 

「隊長。第1中隊、全員集合しました。」

 

「よし。 生娘共、初陣だ。 しっかり付いて来いよ。」

 

「「は、はい!!」」

 

ココとミランダが緊張気味に答えた。

どんなに訓練を積んでも、初の実戦ともなれば、やはりどうしても緊張してしまうものだ。

 

そんなココとミランダの二人を横目で見ながら、アンジュはここで改めて、頭の中で作戦目標の

確認を行なった。

 

(ドラゴンの撃退。 そして、ゾーラ、ココ、ミランダの被撃墜を阻止しての生還……。)

 

“前回”のアンジュの初陣の際に戦死してしまった三人を無事に生還させる事である。

とは言え、ゾーラに関してはベテランのライダーであるから心配は無い筈。

つまり実質、アンジュが注意しなければならないのは、新兵のココとミランダの二人である。

 

 

 

「各員、乗り込め!!」

 

ゾーラの掛け声とともに、ライダー達は各自の機体に搭乗していく。

そして全機の発進準備が完了した事を、ゾーラは確認した。

 

「進路クリア。 ゾーラ隊、出撃する。」

 

先頭のゾーラ機が発進すると、他の機体も続いて、次々と発進していく。

 

第1中隊は、全機が発進すると上空で編隊を組み、作戦空域へ向けて飛び立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

そして、出撃から数十分後。

第1中隊は作戦空域到達まで、あと少しという所まで進出した。

 

「隊長機より各機へ。そろそろ接敵する頃だ。これより全機は戦闘態勢を取れ。」

 

「「「イエス・マム。」」」

 

各機がフォーメーションを組んだ。

アンジュ機は事前の打ち合わせ通り、陣形後列に展開。

その位置は、ココ機とミランダ機に隣接する位置である。

アンジュはパラメイルの操縦をしながら、二人の事に注意を払った。

 

 

 

その時、アンジュ達の前方の空に、突如として稲妻が走る。

同時に、空間に裂け目ができた。

その裂け目は次第に大きくなっていき、やがて巨大な穴となる。

 

「シンギュラー、開きます。」

 

オペレーターが警戒を促した。

 

空間に出現した巨大な穴。

それが所謂シンギュラーという、異次元へ通じる穴である。

その穴から怪物達が飛び出してきた。

 

「来たな。」

 

ゾーラが不敵な笑みを浮かべた。

彼女の目線の先にあったのは、シンギュラーより襲来した怪物達。

その怪物こそが、ノーマ達が戦うべき敵であり、人類の脅威となる存在……すなわち即ちドラゴンである。

 

巨大な1頭のドラゴンに、その周囲を囲むように飛んでいる大量の小型ドラゴン。

巨大なのはガレオン級であり、小さな群れはスクーナー級である。

 

 

「敵、ガレオン級1。スクーナー級22。」

 

敵を観測した管制室より、敵の戦力情報が各員に知らされる。

すると即座にゾーラが動いた。

 

「いくよ。 全機駆逐形態。」

 

「「「イエス・マム」」」

 

すぐさま、全パラメイルがフライトモードから、アサルトモードという人型の形態へと

変形していった。

アンジュ機もアサルトモードへ変形し、対ドラゴン用ライフル型機銃を構える。

 

「攻撃開始!!」

 

ゾーラの号令と共にパラメイルの火器が一斉に火を噴く。

 

放たれた弾丸が次々と、敵の群れへと降り注いだ。

無数の機銃弾がスクーナー級の体を射抜く。

そして大口径砲弾が炸裂し、複数の敵をまとめて吹き飛ばしていった。

 

弾幕の猛攻に、ドラゴン達は血飛沫をあげて、次々と落ちていく。

 

「チッ……ウジャウジャと湧いてきやがって。」

 

前衛のヒルダが思わず舌打ちしながらも、敵を撃ち落としていった。

同じく前衛のゾーラとサリアも手際良く、敵を捌いていく。

 

 

しかし敵は数が多い上に、高速で突っ込んで来た。

 

「まずい。 おい!そっちに何頭か行ったぞ!!」

 

ゾーラが言った。

複数のドラゴンが、前衛のゾーラ達を飛び越えて、後衛陣を目がけて突撃してきたのである。

 

 

 

 

「いやっ!!! 来ないで!!」

 

ココが悲鳴を上げた。

突如、ドラゴンが目の前に迫って来た恐怖で、一気に冷静さを失ってしまったのである。

 

そのままドラゴンがココの機体に取りついてしまった。

このままではドラゴンに引き裂かれてしまう。

 

「いやああああ!! 放してえええ!!!」

 

ココはたちまちパニックに陥る。

 

 

「ココ!!」

 

ミランダは叫んだ。

この時、ミランダ機にも敵が迫っていたのだが、ココの方に気を取られてしまったせいで反応が

遅れた。

 

「あっ!!」

 

ミランダが気づいた時には、敵はもう目前まで迫って来ていた。

ドラゴンが今まさに牙を突き立てようとしていたのである。

 

「ひぃっ!!!」

 

ミランダは恐怖で体が竦み、反射的に目を瞑った。

 

 

 

「………………………ん?」

 

しかし、いつまでたっても何も起こらない。

そこで恐る恐る目を開けてみる。

すると、そこにあったのは、血飛沫をあげながら墜ちていく敵の姿………そしてアンジュの

搭乗機、グレイブ型パラメイルの姿だった。

 

 

アンジュはミランダの無事を確認すると、すぐさまスロットル全開にし、全速力でココの救援に

向かう。

その時、敵がココの機体に喰いつこうとしている所だった。

 

「させるか!!」

 

アンジュ機はこれに急速接近し、そして機銃で敵の体をピンポイントで撃ち抜いた。

敵は断末魔の呻き声を発しながら墜ちていく。

ココの機体から敵を引き剥がす事に成功した。

 

アンジュが見て確認したところ、ココは無事であった。

 

 

「アンジュ様!?」

 

ココは驚き、目を見開いた。

今まさに自分に喰らいつこうとしていたドラゴンが、突然に血を噴いて、墜ちていったのである。

 

冷静さを取り戻し、落ち着いて周りを見渡すココ。

その時、アンジュに助けられたという事はすぐに分かったのである。

 

すると通信機越しのアンジュの声が聞こえてきた。

 

「二人とも落ち着いて。冷静に……。」

 

そしてアンジュは混乱していた二人を鎮めるように言う。

 

「大丈夫よ。 冷静に訓練通りにやれば、生還できる。私がフォローするから。」

 

「「はい。」」

 

その言葉で、ココとミランダは冷静さを取り戻す事が出来た。

 

(アンジュ様…………。)

 

(ありがとう、アンジュ。おかげで助かったよ。)

 

今の二人にとってアンジュのその声は、助けられた直後という事もあって、非常に頼もしいものに感じられた。

だから精神を落ち付かせるのに、十分な効果を発揮したのである。

 

 

そして敵と交戦しながらも、アンジュ達の様子を見ていたゾーラは一安心した。

 

「やるじゃないか、アンジュ。あっちは任しといても大丈夫そうだな。よし。

 それじゃ、こっちも一気に畳み掛けるか。」

 

 

 

こうして第1中隊とドラゴン群との戦闘は、第1中隊が圧倒的優勢に立って、推移していった。

敵は次々と撃ち落とされていき、その数は順調に減っていく。

 

そして遂にスクーナー級の殲滅は完了。

あとはガレオン級を残すだけとなった。

 

 

 

「残すはこのデカブツだけだ。一気に止めを刺しにいくぞ。

 全機、凍結バレット装填。」

 

ゾーラの指示で、全機が凍結バレットを装弾し、敵ガレオン級を取り囲んだ。

そして彼女達の攻撃が次々に、その巨体へ撃ち込まれていく。

さすがに大型ドラゴンだけあって、防御力が高く、耐えていたのだが、こうなっては

もはや時間の問題であろう。

 

 

その様子にアンジュも、とりあえずは安心した。

 

(これなら誰も死なずに任務を終えられそう。)

 

そう思ったアンジュは、自分もガレオン級への攻撃に参加しようと前に出る。

すると、今まさにゾーラが敵に止めを刺そうとしていた瞬間であった。

 

 

 

その時である。

 

 

「!!!」

 

アンジュが何かに気づく。

そしてアンジュは叫んだ。

 

「ゾーラ、上!!」

 

「何!?」

 

ゾーラが上へと目を向けると、そこには一頭のスクーナー級がいて、自分目掛けて

急降下してきていた。

 

「しまった!!」

 

ガレオン級以外はすでに殲滅したと思われていたのだが、スクーナー級がまだ一頭だけ

残っていたのである。

どういうわけかセンサーが捉える事が出来なかった。

そして、その一頭は頭上の死角からゾーラに襲いかかる。

 

ゾーラは咄嗟に撃ち落とそうとするも、あと一歩間に合わず、スクーナー級に取りつかれて

しまう。

 

 

ゾーラは機体に取りついた敵を振り払おうともがく。

 

「くっ……放せ!!」

 

そして何とか機体の足を使って敵を蹴り飛ばし、引き剥がす事が出来た。

しかし僅か数秒の間だったとは言え、動きを止められて、それが隙になってしまう。

 

その小さな隙が命取りとなった。

 

 

「…………………あ。」

 

ゾーラが前方に目を向けると、そこには敵の放った攻撃が目の前にまで迫って来ていた。

この距離ではもう避けられない。

 

そして、この時のゾーラには全ての物の動きがスローモーションに見えていた。

 

(何だこれ? ああ、そうか。これって所謂、死の瞬間ってやつか。)

 

ゾーラはこの時、死を悟った。

 

ここは戦場であり、いつ誰が死んだとしてもおかしくはない。

どんな凄腕のベテランであろうとも、あっさり死んでしまう事だってある。

戦場とはそういう物であり、ゾーラはその事が分かっていた。

 

死の覚悟は常日頃からしてきたゾーラ。

だから己の死をすぐに受け入れる事が出来た。

 

(これが私の最期か。あっけないねぇ………)

 

心の中で呟くと、ゾーラはそのまま目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾーラがスクーナー級に取りつかれた時………アンジュはその瞬間を見ていた。

 

そして、ゾーラ機に一撃を叩き込もうとしているガレオン級にも……。

 

「まずい!!」

 

アンジュ即座にスラスターを最大推力にし、全速力で駆け抜けた。

 

「間に合え!!」

 

 

すると突然アンジュの脳裏に、あの光景が蘇ってきた。

 

物言わぬ屍と化したゾーラが、夥しい量の血を流し、光を映さなくなった虚ろな瞳で、

自分を見下ろす、あの光景。

突如フラッシュバックのように思い出したのだ。

 

このままではあの光景が再現されてしまう。

 

(それだけは…………それだけは、絶対に駄目!!!)

 

アンジュは必死で機体を飛ばした。

 

しかし、そうしている間にも、敵の攻撃はゾーラを打ち落とそうとしている。

もはや後先考える余裕なんて全く無かった。

アンジュは全速力でゾーラの所へ飛ぶ。

そして、そのままパラメイルの腕でゾーラの機体を突き飛ばした。

 

 

「なっ!! アンジュ!?」

 

ゾーラは突然の事に驚き、目を見開く。

その目に見えたのは、自分を庇って、突き飛ばしたアンジュの機体。

そして、アンジュに敵の攻撃が当たる瞬間だった。

 

 

アンジュは衝撃に襲われる。

 

「がぁっ!!」

 

凄まじい激震で体を揺さぶられ、狭いコクピットの至る所に体をぶつける。

肺の中の空気が吐き出され、同時に激しい痛みを感じた。

 

「げほっ!! ぐっ………うぅ……。」

 

破壊された計器やモニターが、破片と火花を撒き散らす中、アンジュは呻き声を上げた。

体がバラバラになってしまいそうな痛みで、意識を持っていかれそうになる。

ふと、アンジュは自分の体を見るが、至る所から血が溢れていた。

 

機体が真っ逆さまに落ちていく。

 

「アンジュ!! アンジュ!!!!」

 

薄れていく意識の中、無線機から聞こえてくるゾーラの声。

 

(やった……………今度は……死なせなかった。)

 

その声を聞くことによって、アンジュはゾーラが難を逃れた事を辛うじて理解できた。

その事に安心したアンジュは、直後に完全に意識を喪失。

搭乗機は海面に激突した。

 

 

 

 

 

 

「アンジューーーー!!!!」

 

ゾーラは絶叫した。

叫ばずにはいられなかった。

自分を庇い、助けてくれたアンジュが目の前で落とされたのだ。

 

すぐに助けに行こうとするが、そんなゾーラの前にガレオン級が立ち塞がる。

すると次の瞬間にゾーラは咆哮した。

 

「クソがああああああ!!」

 

鬼のような形相をしながら叫ぶ。

 

「邪魔すんじゃねえええええ!! くたばれ!!!」

 

アンジュを助けに行くためにも敵を迅速に排除しなければならない。

だからゾーラはガレオン級に全力の猛攻をかけた。

そして中隊各機も、それに続く形でガレオン級を攻撃。

それが止めとなり、遂に最後の敵を仕留める事が出来た。

 

 

 

ゾーラは敵殲滅を確認するや否や、即座に低空に降下。

アンジュの墜落地点へと急行した。

 

「アンジュ、どこだ。」

 

海面を見渡すが、アンジュは見当たらなかった。

機体の一部の破片だけが水面を漂っているだけである。

 

「アンジュ、どこなんだ。 返事をしてくれ。」

 

どんなに目を凝らしてみても見つからなかった。

 

 

 

その後、ゾーラ率いる第1中隊の全機で、墜落地点周辺を手分けして探したが、アンジュの救助は

出来なかったのである。

ギリギリまで粘って探したが見つからず、このままでは燃料切れになってしまうのでゾーラは

司令部に救助要請を出した上で全機帰投を命じた。

 

ゾーラにとって帰投命令を出すのが、こんなにも辛いと感じたのは初めてである。

 

ジルの命令の下、すぐさまアルゼナルより捜索隊が発進したが、結局その日はアンジュが

発見される事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここは……?)

 

アンジュは瞼をゆっくりと開けた。

 

すると目の前には天井が広がっていた。

どうやらベッドに寝かされていたらしい。

そして、その天井は明らかにアルゼナルの物ではなかった。

しかし、どこか見覚えがあるような気がする。

 

(私は確か戦闘中に落とされて………うっ!!)

 

覚醒し、意識が徐々にハッキリしてくると、痛覚も次第に呼び覚まされていった。

 

(くっ………と、とりあえず、生きているって事は分かったわ。)

 

痛みを感じるのは生きている証。

アンジュは痛みを堪えながら周囲を見渡して、状況を把握しようとした。

 

 

 

 

 

(……………………………え?)

 

 

次の瞬間、アンジュはフリーズする。

 

アンジュが顔を横に向けると、そこには一人の男がいた。

その男はアンジュに寄り添うようにして眠っている。

 

その時、アンジュは自分の体を見た。

すると、布団が覆い被されていたものの、その下は裸になっていた事はすぐに分かった。

 

気を失い、目が覚めたと思ったら、服を脱がされ裸にされ、しかも男が隣で寝ている。

それが今のアンジュが置かれた状況であった。

 

(なっ……なっ……… ////// )

 

アンジュの顔は真っ赤になり、頭の中はパニック状態で、脳の処理が追いつかない。

こんな状態では、もはや痛覚すらも麻痺する。

 

 

そして…………

 

 

(何よこれえええ!!!)

 

アンジュは声にならない叫びを上げた。

 

 

 

 




次回、何とあの男が登場。て、言わなくても、この時点でもう分かるか。

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