クロスアンジュ 遡行の戦士   作:納豆大福

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第9話  ヴィルキス飛翔・後編

 

 

 

「クソッたれ!!」

 

ゾーラは、襲いかかってくる光弾を何とか撃ち落としながら、悪態をつく。

 

二方向からの挟撃を受け、不利な態勢での戦闘を強いられた第1中隊。

ゾーラの巧みな操縦と、隊員達への的確な指揮のお陰で何とかもっているが、それでも次々と

被弾してダメージを受ける機体が続出する。

辛うじて被撃墜機は出ていないが、墜ちそうな機体がすでに何機かあった。

 

(このままでは………)

 

ゾーラのその表情に焦りが浮かぶ。

 

そして、ガレオン級が次の攻撃を繰り出そうとしていた。

 

(まずい、次が来る!! 凌ぎ切れるか………)

 

ゾーラは思わず身構えた。

 

 

 

 

その時である。

 

 

突如、ガレオン級の頭上に弾丸が降り注いだ。

 

 

「何!?」

 

ゾーラは目を見開く。

 

突然に飛んできた弾丸は、盾のような魔法陣に阻まれたが、それでもガレオン級の攻撃を止める

事は出来た。

 

 

「あれは!?」

 

ゾーラは上を見上げると、彼女達の遥か上空に1機のパラメイルがいた。

人型に変形した状態で滞空していたそれは、純白を基調とした機体カラーであり、その姿は天使を

連想させるものであった。

 

 

「何あれ!? 超かっけー!!」

 

その姿を見たヴィヴィアンは興奮気味に叫ぶ。

 

 

「何だ、あれは!? あんな機体、うちにあったか?」

 

「中には誰が乗ってるんだろう?」

 

ロザリーやクリスが口々に言う。

 

 

そんな中、サリアは目を見開き、ヴィルキスの姿を見上げながら、茫然としていた。

 

「ヴィルキス!? ………嘘…………何で……」

 

 

 

するとその時、ゾーラの無線機から声が聞こえてきた。

 

「こちら、アンジュ。 私にも参加させてもらうわよ。」

 

「何!? お前、アンジュか!!」

 

 

するとアンジュは即座に動いた。

 

スラスターを噴かすと、敵目がけて急降下。

高速で接近しながら機銃を撃ち込み、敵の盾を削る。

 

それに対して敵は夥しい量の光弾をヴィルキスに向けて放った。

 

 

しかしヴィルキスはそのまま真っ直ぐに速度を落とさず、弾幕目がけて突っ込んで行く。

 

「アンジュ!!」

 

ゾーラは叫ぶ。

 

 

 

 

次の瞬間、アンジュは操縦桿を素早く動かした。

 

 

(そこっ!!)

 

アンジュが狙っていたのは、無数の光弾による弾幕……その僅かな隙間である。

 

高速で突っ込みながら、そのわずかな隙間に機体を滑り込ませた。

そうする事によって弾幕を突破する事に成功する。

 

 

見ていた者は皆驚愕した。

 

あのスピードで、あの針の穴に糸を通すかの如き僅かな隙間を狙ってすり抜けたのだ。

相当の動体視力と反射神経、空間認識能力が無いと出来ない芸当である。

 

 

 

弾幕を突破したヴィルキスは、そのスピードのまま敵に急接近する。

機銃で敵の盾を削り、そして素早くアームで剣を取り出す。

 

ヴィルキスに装備されている零式超硬斬竜刀……ラツィーエルである。

 

 

 

「ハアアアア!!」

 

対竜刀で刺突の構えを取って、高速で敵の懐に飛び込む。

 

そしてドラゴンの胸部に剣を突き刺した。

ドラゴンの強靭な鱗を、刃が突き破る。

更に間髪入れずに、刺さった剣を引き抜き、密着状態から、アームに装填した凍結バレットを

撃ち込む。

 

ガレオン級が悲鳴のような鳴き声を上げながら、墜ちていった。

そして全身が凍りつく。

 

 

 

「まずは一匹!!」

 

目にも止まらぬ早技で巨大ドラゴンを一体仕留めたアンジュは、すぐさまもう一体のガレオン級の方へ、ヴィルキスを加速させた。

敵の放った光弾を難なく次々と躱していきながら、機銃を撃ちつつ、距離を詰めていく。

 

敵は防御用魔法陣を展開し機銃弾を防ぐが、高速連射の弾丸がそのシールドを一気に削っていく。

 

そして機銃弾がシールドを貫通した。

ドラゴンの体に次々と着弾していき、血飛沫が上がる。

これでかなりダメージを与える事は出来た筈だ。

 

 

「このまま一気に仕留める!」

 

アンジュはここで一気に止めを刺しにいった。

ヴィルキスが剣を構え、突撃をする。

 

 

 

しかし、ここで敵は反撃を繰り出してきた。

 

体を大きく捻り、尻尾を振って、ヴィルキスに叩きつけようとした。

硬質な鱗を纏ったそれは強力な打撃武器と化し、真っ直ぐ突っ込んできたヴィルキスの側面から

襲いかかる。

 

 

「アンジュ! 危ない!!」

 

「アンジュ様っ!!!」

 

それを見たミランダとココが叫んだ。

 

 

 

 

しかし、その時のアンジュは敵の攻撃に、即座に反応し、対応していた。

 

敵の尻尾をラツィーエルで受け止める。

激しく金属音が鳴り響いた。

 

そして次の瞬間、相手の打撃の力の向きを逸らすように、刃の角度を傾ける。

それによって、竜の尻尾が激しく火花を散らしながら刀身の上を滑っていき、受け流されたのである。

 

敵の打撃を完璧に受け流した直後、隙だらけになった敵に対し、アンジュはカウンターアタックを仕掛ける。

敵の懐に飛び込みながら、スラスターを噴かし、機体を素早く回転させた。

 

「ハアッ!!」

 

そして回転しながら剣を横薙ぎに振り、ドラゴンの首に叩きつける。

回転の力を上乗せした鋭い斬撃が、鱗を割り、肉を引き裂き、そして首を切断した。

 

 

「討伐完了よ。」

 

アンジュは宣言した。

 

首を失ったドラゴンは、そのまま力無く墜ちていく。

敵殲滅が完了した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「「「………………!!」」」

 

戦闘終了直後、皆は驚愕の表情のまま茫然としていた。

ヴィルキスの凄まじい戦いぶりに、皆は思わず見惚れてしまっていたのだ。

 

戦闘中のヴィルキスの一連の動きは、どれも精練されたものであり、高度な操縦技量を窺わせる

ものだった。

まさにお見事の一言に尽きる。

見ててほれぼれするほどの戦いぶりである。

 

 

 

そんな中、サリアはヴィルキスの姿をその目で見ながら、苦々しい表情をしていた。

 

「どうして…………どうしてヴィルキスが……。」

 

その呟きは誰にも聞き取られる事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、危機的状況に陥った戦いではあったが、終わってみれば1機の被撃墜も無く、全機が

無事に帰投する事が出来た。

 

そして、その戦闘の様子は司令室のモニターで映されていたのである。

その場にいたオペレーター達もアンジュの駆るヴィルキスの戦いぶりに驚愕していた。

 

 

「凄いよ! ヴィルキスをあんなにも乗りこなすなんて!!」

 

「やるじゃないか、あのお嬢ちゃん。」

 

戦いの様子を見ていたメイとジャスミンが感心したように言った。

 

 

 

そして、ジルは心の中で呟く。

 

(僥倖だな。 予想以上に強力な駒が手に入った。 この分なら計画を大幅に繰り上げる事が

 出来る。)

 

その時、ジルは笑みを浮かべた。

何か企み事をしているかのような、そんな笑みだった。

 

(作戦名、リベルタス……………その計画発動の日は近い。)

 

 

 

 


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