クロスアンジュ 遡行の戦士   作:納豆大福

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初投稿なので緊張します。

今回は序章という事で、時間遡行が発生する前のお話です。


プロローグ1  偽りの理想郷……そして再会

この世界には“マナ”という技術が存在し、広く普及している。

 

マナという魔法のような技術によって、戦争や貧困などの諸問題が解消され、人々は平和で豊かな暮らしを送っいた。

誰もがその社会の事を、争いの無い、夢のような理想郷と信じて疑わない。

 

しかしその一方で、マナが使えない人間は“ノーマ”と呼ばれ、迫害されていた。

 

この世界では、ノーマは例外無く、反社会的存在とみなされ、“ノーマ管理法”に基づき、逮捕され社会から隔離される。

赤子であろうと親元から引き離されて、世界の果ての強制収容所へ放り込まれるという、

非人道的な扱いを受けていた。

 

マナが使えないノーマであるというだけで、まるで犯罪者のような扱い。

しかも多くの人々はその事に何の疑問も抱かず、ノーマを差別し、憎み、蔑視した。

 

 

 

そして、嘗てミスルギ皇国の第一皇女であったアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギも、

そんな人間のうちの一人だった。

 

この世界を素晴らしき理想の社会であると考え、その社会を維持していくために、ノーマは

排除しなければならないと考えていたのである。

彼女もまた、歪んだ社会に染まってしまった人間であった。

 

 

しかし、そんなアンジュリーゼに大きな転機がやってきた。それは彼女が16歳になって

洗礼の儀が執り行われたときのことであった。

アンジュリーゼの兄であるジュリオの手によって、アンジュリーゼが実はノーマであったという

事が大衆の前で暴露される。

 

それは本人ですら知らなかった事実だった。

アンジュリーゼの両親が彼女がノーマであるという事を、ずっと隠し続けてきたのである。

そうとも知らす、アンジュリーゼは16年間、自分が()()()()()だと信じて疑わなかった。

 

それまで国民から絶大な人気を集めていたアンジュリーゼだったが、ノーマであるという事が

分かると、すぐさま掌を返され、排除すべき存在として扱われる事に。

そして混乱状態の中、母のソフィアはアンジュリーゼを庇い、その結果、銃弾に倒れて命を

落とした。

 

父である皇帝ジュライも、国民を欺き、ノーマを皇室に入れようとした罪を問われ、皇帝の座を

追われてしまう。

 

 

 

そしてアンジュリーゼは身分はおろか人権までも剥奪され、世界の果てと呼ばれる辺境の

軍事基地“アルゼナル”へと追放された。

 

 

アルゼナル……そこは国防の最前線であった。

それはノーマを隔離する強制収容所であると同時に、人類の敵、()()()()と戦う前線基地でも

あったのだ。

 

そこで彼女は、この世界の実態を知る事になる。

 

ドラゴンと戦うための兵器……それがノーマに許された唯一の生き方。

 

そんなノーマである彼女達が命がけでドラゴンと戦い、人類の領域を守っている。

だから人々は平和で豊かな暮らしを送る事が出来るのだ。

 

しかし、その事実は極一部の人間を除いて、誰も知らない。

ノーマ達が命をかけて人類に貢献し、そして決して人間達から感謝される事は無く、そして多くのノーマ達が人知れず死んでいった。

 

ノーマ達の犠牲の上で成り立っている、偽りと欺瞞に満ちた()()()。それがこの世界の

実態だったのだ。

 

 

 

アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギという名前までも奪われ、()()()()となった彼女は、当初は

現実を直視できずにいた。

自分がノーマであったという事も、自分があんなにも素晴らしいものであると信じて疑わなかった世界がこんなにも歪みきったものであったという事も、……そして、こんな地獄のような場所で

戦わなければならないという事も。

 

一度はは全てを投げ出して死ぬ事も本気で考えたアンジュ。

しかし彼女は、母が最期に残した言葉を思い出す。

 

 

 ── 何があっても生きるのです。 ──

 

 

母のその言葉を思い出したアンジュは思いとどまる。

 

 

そして彼女は決意した。

この地獄で戦い、そして生きる……ノーマのアンジュとして戦っていくと。

 

 

アンジュはノーマとしての自分……その現実を受け入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てを受け入れ、戦う事を選んだアンジュ。

パラメイルの搭乗者として、ドラゴンを狩る日々。

 

そんなある日の事。

 

突如アルゼナル全域に警報が鳴り響く。

それは侵入者発見の一報であった。

 

こんな地獄にわざわざ外部から侵入してくる者など前代未聞である。

アンジュは戸惑いながらも、事態に対処するべく、侵入者の所へ向かった。

 

すると、そこにいたのは……

 

 

「モモカ!?」

 

「あ、アンジュリーゼ様!!」

 

 

そこにいたのは、嘗て筆頭侍女としてアンジュリーゼに仕えていたモモカ・荻野目であった。

再びアンジュに会うために、海を渡って来たのだ。

 

 

しかし久々の再会も、アンジュは素直には喜べなかった。

 

自分がノーマであるという事を隠すためにずっと嘘をついていた……自分を騙してきた。

そんな思いがアンジュの中にはあった。

そんなわだかまりはすぐには解けず、そのせいでアンジュはついモモカに辛く当たり、冷たく

接してしまう。

 

 

しかしそれでもモモカは引かなかった。

 

「私の居場所はアンジュリーゼ様のお傍だけです。どうか私をここに置いてください。」

 

そう言って、モモカはアンジュの傍から離れようとはしなかった。

 

 

 

 

「お慕いしております……アンジュリーゼ様。」

 

 

モモカの一切の偽り無き言葉。

本当に心の底からアンジュの事を慕ってくれるモモカに、次第にわだかまりは、少しずつでは

あるが、氷解していく。

 

だがそうしている間にも、モモカが滞在を許された期限は刻一刻と迫っていた。

 

そして、ついに期限切れとなりモモカはアルゼナルから退去しなければいけなくなった。

 

 

 

 

その日、アルゼナルに一機の輸送機が兵士達と共にやって来た。

表向きはただの移送をするための兵士という事になっているが、その実態は口封じの刺客。

ドラゴンや、それと戦うノーマ達の事は、この世界における最高機密である。

 

このアルゼナルに来て、秘密を知ってしまったモモカは、このままでは口封じのために抹殺されてしまう。

 

 

そこでアンジュは決心した。

 

その日、ミッションで獲得した報酬の金と、今まで貯金してきた金を合わせた、大量の札束……

それを一杯に入れたケースを両手で抱えて走った。

 

すると、ちょうどモモカが輸送機に乗せられ連れて行かれるところだった。

 

 

「待って!!」

 

アンジュは叫んだ。

 

「その子の身柄、この私が買い取るわ!!」

 

 

その言葉に誰もが驚愕した。

ノーマが()()を買うなんて前代未聞である。

 

しかし、金さえあれば何でも買えるというのが、このアルゼナルのルール。

移送は即座に中止となり、モモカはの身柄はアンジュのものとなった。

 

 

こうして、アンジュによってモモカは事なきを得た。

 

「アンジュリーゼ様……。」

 

モモカは感激のあまり言葉も出なかった。

 

そんな彼女に、アンジュは微笑みながら言った。

 

「これからもよろしくね、モモカ。」

 

「はい。アンジュリーゼ様。」

 

 

一度は離ればなれになったアンジュとモモカは、嘗ての絆を再び取り戻したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュも、アルゼナルでの暮らしに徐々に慣れていった。

 

最初の頃こそ、アンジュはアルゼナルの中で完全に孤立していたが、そんな中でも、気さくな

ヴィヴィアンや、世話焼きなエルシャが積極的にアンジュに声をかけていった。

そんな彼女達との交流によってアンジュの態度も徐々に軟化していく。

 

そして、よく衝突が絶えなかった、第1中隊の隊長であるサリアや、同じく第1中隊の

メンバーであるクリスやロザリーとも紆余曲折を経て、和解。

少しずつではあるが、同じチームの一員として受け入れられていき、アンジュ自身も彼女達と

打ち解けていった。

 

 

 

 

そんな中、転機は突如として訪れた。

 

ある日、アンジュと一緒にいたモモカの下に、マナの通信が入ってきた。

 

 

「これは……皇室の秘密回線です!!」

 

「なんだって!!」

 

それはミスルギ皇国の皇室の人間しか知らない通信チャンネルだった。

これが使える人間はごく一部に限られている。

 

即座にモモカは回線を繋いだ。

 

すると、そこから聞こえてきたのは懐かしい声だった。

 

 

「モモカ。アンジュリーゼお姉様には会えた? そこにお姉様はいるの?」

 

「シルヴィア!!」

 

アンジュは思わず目を見開く。

それは故郷に残してきた最愛の妹、シルヴィアの声だった。

 

しかし、久しぶりに声が聞けた事を喜ぶ暇は無かった。

 

 

 

「お姉様、助けてください!」

 

それはシルヴィアの身に危機が迫っている事を知らせるものだった。

 

 

 

「いやっ、離して!」

 

すると突如として、シルヴィアの声が、より切羽詰まったような感じになった。

どうやら誰かに捕まったようだ。

 

 

「助けてください、アンジュリーゼお姉様ああああああ!!」

 

「シルヴィアッ!!」

 

アンジュは叫ぶ。

 

そこで通信が切れた。

 

 

音声だけで得られる僅かな情報だけでは、シルヴィアがどういう状況に置かれているのかは

詳しくは分からない。

しかし、彼女の身に重大な危機が迫っているという事だけはハッキリと分かった。

 

 

 

アンジュは決心する。

シルヴィアを助けに行くために、アルゼナルを脱走する事を。

 

それは、このアルゼナルで出会った、新たな仲間達を裏切る行為に他ならない。

勿論、アンジュもその事は理解していた。

 

だが、それでも止まるわけにはいかなかった。

 

故郷に残してきた家族……最愛の妹が助けを求めている。

このままではシルヴィアが殺されてしまうかもしれない。

そう思ったら、もうアンジュはいても立ってもいられなくなったのである。

 

必ずシルヴィアを助けてみせる……アンジュはそう思った。

 

 

 

それから、アンジュは迅速に動き出した。

 

輸送機を一機奪取すべく、駐機場へ向かう。

 

 

すると、そこにいたのはヒルダだった。

彼女もアンジュと同様に、脱走の為に輸送機を奪おうと画策していた。

 

そこでアンジュは知る事になる。彼女の胸の内に秘められた思いを……。

 

ヒルダもまたアンジュと同じで、故郷に家族を残してきていたのだった。

 

ヒルダは昔、母親の下から引き離されて、アルゼナルへ強制連行されていた。

実に11年もの間、故郷にいる母との再会をずっと夢見て生きてきたのである。

 

 

アンジュはそのヒルダの思いに胸を打たれる。

だから協力し合う事にした。

 

 

 

 

そして、アンジュはヒルダと力を合わせて、モモカと共に輸送機でアルゼナルから飛び立った。

 

離陸後、機内で言葉を交わす二人。

 

「アンジュ……会えるといいな。 妹に。」

 

「ええ。」

 

 

ヒルダの言葉にアンジュは頷いた。

 

それまでは、いがみ合ってきた二人ではあったが、互い相手の背負っているものを知った結果、

奇妙な友情のようなものが芽生えていた。

 

 

 

 

 

 

その後、アンジュ達は無事に海を渡り、陸に到着。

ヒルダは母親に会うために……アンジュは妹を助けに行くために、それぞれ別行動を取る事に

した。

 

 

別れ際にヒルダは言った。

 

「ここでお別れだな。あばよ。 命は大事にな。」

 

「ええ。あなたこそ。 ………無事、お母さんに会えるといいね。」

 

 

ヒルダと別れた後、アンジュはモモカと一緒にミスルギ皇国を目指して歩き出した。

 

「行きましょう、モモカ。」

 

「はい。アンジュリーゼ様。」

 

 

 

 

こうして、アンジュは再び故郷の土を踏むことになった。

 

 

(待っててね、シルヴィア。必ず私が助けに行くから。)

 

その思いを胸に、アンジュは力強く、前へ進んでいった。

 

 

 

 

その先に、絶望的な結末が待っているとも知らずに……。

 

 




というわけで序章でしたが、サブタイトルからも分かるように、次回は序章その2みたいな感じで続きます。
こんな感じで、時間遡行が発生するまでの経緯をダイジェストのような感じで、やっていきます。

あと、誤字脱字などを発見したら、ご一報をお願いします。

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