IF~転生先で、私は鬼子を拾いました。   作:ゆう☆彡

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こんにちは。
とうとうこの日を迎えました。そして、迎えることが出来ました。
本当に嬉しいです。そして、この作品を読んでくださった皆様には、本当に感謝です。

どのような終わり方にしようか、たくさん悩み、結局たどり着いたのは、私がこの小説の連載を始めた頃に考えた終わり方でした。

終わり方に納得出来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、どうが、お許し下さい。


最終回ですが、特別版としてご希望のあった【死亡ルート】模作成中です。ですが、とりあえず完結です。

更新を止めてしまった時期、受験にぶち当たり再び止めた一年。読者の皆様のおかげでここまでこれました。2年と4ヶ月、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

たくさんの人に葵ちゃんを愛していただき、本当に幸せでした。
では、最終回!どうぞ、よろしくお願いします!!


【最終回】IF~転生先で、私は鬼子を拾い、彼は私に幸せを与えました。

「本当によかったんですか?」

 

声が響いた場所は、何も無い空間。

“無”という言葉が良く似合うその空間で、誰かの背中に声を投げかけたのは、葵の世界にいた神様。

 

「葵が決めたことなら、いいのよ。それに……」

 

 

『君が復活することは出来るよ。けど、代わりに何かを失う。代償として、君の身体は完全に復活することは出来ないんだ。』

『それでも構わない。』

 

代償に、何かしらの障がいが出ると言われても、一つも揺らぐことのなかったその瞳が、すべてを物語っていた。

 

 

「あんなにも強い目で言われちゃったら、何も言えないもの。

 

さすが松陽さんの子ね。」

 

そう、笑いながら言ったのは晴香だった。

 

「吉田松陽に似てましたか。」

「えぇ。一度だけ、同じ顔をした松陽さんを見たことがあるわ。」

 

そう言うと、よほど面白いのか思い出して笑っていた。

 

 

 

『私は決して人に胸を張れるような生き方はしてきませんてました。』

『……。』

『その罪が消えることは一生ないと思っています。それは、私が一生背負っていかなければならないものです。』

『私をその罪滅ぼしに、守りたいということですか?』

『もしかしたら、それもあるのかもしれません。

 

 

ですが、それだけではないことをどうか分かってほしいのです。

 

 

あなたを一目見た瞬間、私の中で存在しなかった感情が生まれました。

私には欠けている部分もたくさんあります。ですが、あなたを悲しませるようなことだけはしません。』

 

 

会って早々、いい生き方をしていないと言い切り、

それでも自分を信じて共に生きてほしいと言われ、

 

あまりにも真っ直ぐな瞳でそれを言うから……。

 

 

 

「私よりもあなたの方が悲しいんじゃないんですか?」

「……、」

 

晴香が投げかけたのは、もちろん神様であった。

 

「いえ、逆でしたね。

あなたはきっと、葵に生きてほしい。」

「……。」

「それがあなたの願いだから。

 

 

そうですよね、葵の弟さん?」

「……いつから気づいていたんですか。」

 

驚きを通り越したような顔をしながら、神様は聞いた。

 

「あなたに会って、しばらくしてからですよ。

 

葵の蒼汰に対する愛情の注ぎ方と、それを見るあなたの目を見て……。

確信してた訳ではありませんが、予想はしていましたよ。」

 

 

そう。

 

葵に転生の道を与えたのも、

 

何度も精神世界から力を貸したのも、

 

復活させることに貢献したのも、

 

 

「……恩返しみたいなものですよ。

 

僕のせいで彼女は自由ではなかった。

彼女のおかげで僕は生きることが出来た。」

 

前世で、葵が自分の命を懸けて守りたいと思っていた存在・弟だったのだ。

 

「だから、その姉にもう一度楽しく生きてほしいと思ったんですね。」

 

その長い時間で、神様も成長したのだ。

 

 

「次は、僕が姉を自由にする番ですから。」

「そう。」

 

 

──ポンポン

 

「!?」

「頑張ったわね。

 

そして、私に葵をくれてありがとう。」

「……っ、」

 

 

神様と言えど、その年齢はまだ幼い少年だったのだ。

 

「さてと、行きましょう。

 

葵のことはもう少し待つ必要があるみたいね。」

「はい。」

「もうちょっとだけ、二人で楽しく見学してましょ。」

 

 

 

母親に手を引かれる子どものように、二人は手を繋いで白い光の中に消えた。

 

後には、涙の水だけが横に流れた。

 

 

その涙は、きっと悲しみだけではないはず……。

 

 

───────────────────────

 

 

セミが鳴きわめき、太陽はジリジリと地を照らす。

 

一秒でもたっていれば汗が吹き出しそうな気温の外とは対象に、汗ひとつかかない場所に一人の男は立っていた。

 

 

『僕らは依頼を受けてきますから、一人で行ってきてくださいね。』

『しょーちゃんの護衛なんて、神楽様にお任せアル!!』

『朧さんもいますしね。』

 

そう言って、半ば強制的に休みを作らされた銀時がいる涼しい場所は、病院だった。普段なら、絶対に入ることのないVIP専用の病棟。

 

 

その扉の一つの前に、銀時は立っていた。

まだ目を覚ました、という連絡はない。ただ、松下村塾で朧に会い、手紙を読み、そして自分の気持ちに素直になり、眠っていたとしても会いに行かなければ、と感じたのだ。

 

しかし、ギリギリになって、やはり怖気付く。誰だって、多少なりとも自分が関わったせいで、目を覚まさない状態になってしまった相手に、何も感じず会いに行くことなどできない。

 

 

 

『貴様の知っている吉田葵は、お前に責任を負わせるような奴か。』

 

松下村塾で言われた朧の言葉が、銀時の頭に響く。

 

「俺……、弱くなったかな……。」

 

自分がこんなにも迷ってること。それを、乾いた笑いで吹き飛ばした。

 

 

 

『松下村塾、吉田松陽が弟子、坂田銀時。』

 

あの名前を名乗った日から、自分も彼女を守るんだと決めた。

いつも、彼女の方が先を歩いていたけど、

 

 

──今度こそは、隣を胸を張って歩けるように。

 

 

 

 

 

それは、“偶然”。

 

それでも、その理由が全くないとは言いきれない。

 

 

 

彼にとっても、そして、彼女にとっても、

 

その存在は

 

 

あまりに大きかったから。

 

 

 

──ガラッ

 

いつもと変わらない風景。

 

葵の命を知らせる一定した音と、風に揺れるカーテンの擦れる音。

 

ひとつ違うといえば、白い光に包まれているカーテンのところに、いつもはない黒い影があったこと。

 

 

 

「……、」

 

白い光に次第に慣れていった銀時の目に、その影が映る頃、ゆっくりとその影は振り向いていた。

 

 

 

 

「……っ、」

「……

 

 

 

 

 

 

 

銀時?」

 

その声を、二度と聞けないとまで覚悟したその声を、一体どれだけ待ったことか。

 

 

「あお……い、姉……??」

「やっぱり、銀時だよね。」

 

その笑顔は、昔、よく見たあの笑顔。

自分たちが取り戻したかった、大切な姉の笑顔だった。

 

「……っ!!」

 

 

 

思わず入口から駆け寄った。ベッドを飛び越えて、それでも勢い余らずに、優しく抱きしめた。

 

「わわっ!!」

「葵姉……っ!

 

 

 

 

……よかったっ、ほんとに……っっ、、」

 

 

抱きしめた葵が、銀時の腕の中におさまる。

 

自分の大切な姉は、こんなにも小さかっただろうか。

 

こんなにも細かっただろうか。こんなにも儚かっただろうか。

 

 

昔、追いかける背中は大かかった気がしたのに。

 

守ってもらっていた背中は、しっかりとしていた気がしたのに。

 

近くて感じると、こんなにも消えそうなものなのか。

 

 

 

 

それは、彼女が女であり、

 

銀時にとって守られる存在から、守りたいと思う存在に変わった証でもあったが、

 

 

それだけではなかった。

 

 

「葵姉……、俺のこと見えてる?」

「……気づくの早いなぁ、さすが銀時。」

 

そう言って、少し悲しそうに笑った葵の目の焦点は、銀時のことを見ていなかった。

 

 

そう。神様が言っていた“復活の代償”。それが、葵は視力として表れていた。

だが、そんなことは知らない銀時。もちろん、自分のせいだと感じていた。

 

「銀時のせいじゃないよ。」

「!!」

 

見えていない葵に、銀時の表情など分かるはずもないのだが、

 

 

「わかりやすいなぁ。」

 

彼女が培った、感じ取る力と、

 

 

命をかけて守りたいと思い、そして、

 

 

特別な感情を抱いた相手。

 

 

「銀時の、みんなのもとに戻ってくるために私が自ら望んだことだよ。」

「!?」

 

すべて話したとしても、きっと理解できない。

だから、話さない。けども、嘘はついていない。確かに、彼女は彼に会うために、代償を払ったのだ。

 

 

「だから……

 

 

 

 

 

泣かないで。」

 

銀時の頬には、いつの間にか、大粒の涙がつたっていた。

 

「!!」

 

 

銀時は、もう一度、葵を強く抱き締めた。

 

「今度は、……俺が守るから。」

「銀時のせいじゃないよ?……全然、責任なんて感じる必要ないんだよ?」

「そうじゃねぇ!!」

「!?」

 

突然の大きな声に、小さな葵の体が驚きで跳ねた。

 

 

 

 

「大事なやつを守りたいって思うのは、普通のことだろ。」

「……?」

「……なんで、そんなに鈍いんだよ。」

「へっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵のことが好きだって言ってんだよ!!

 

だから守らせろっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

謎の沈黙。

 

 

「あ、葵……??」

 

不安になった銀時が、腕の中にいる葵の顔を覗くために、少し離すと……

 

 

「!?」

「……、、、、」

 

そこには、見たことのない、葵の戸惑った真っ赤な顔。

 

 

「ぶっ、……ははははっっ、」

「な、なんで笑うの!?」

「いや、……

 

 

 

 

 

 

初めて、葵に勝った気がした。」

「~~~~~っ!!」

 

いつも余裕の表情で、銀時の前に立っていた姉が、自分の前で女になった。

 

 

 

 

 

 

「大好きだ、葵っ!!」

 

 

ただ、

 

 

 

「っ、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私もだよ!!!」

 

 

 

──チュッ、

 

「!?!?!?」

「まだまだ、私の勝ちかな?」

 

 

ニヤニヤしながら、見上げるその顔が、どうしようもなく愛おしく感じる自分は、一生勝つことなんて出来ないと、銀時は思い知っていた。

 

 

 

 

 

 

外の光が、青空が、……全てが彼ら二人を祝福しているようだった。

 

 







──キーーンッッッ!!!


「んだよっ!!こいつ!!!」
「見えてねぇんじゃねぇのかよ!!!」
「情報と違ぇじゃねぇか!!!」


その後、パタリと争いがなくなる訳ではなく、天導衆がバックにつかなくなったことで、江戸は一層、天人に狙われることになっていた。

その中心にいる将軍と、その妹君はもちろんであった。

しかし、彼らを傷つけられたものは誰一人としていなかった。



「彼らの命を取りたくば、まず、私を倒していただきたい。」

天人の前に立ち塞がる者は、いつの日かこう呼ばれていた。


“人斬り似蔵の再来”……と。

盲目ながら、圧倒的な戦闘センスと、その剣の実力が、その者をそう呼ばせた。


しかし、彼女の実力がそれだけではないことを、彼らは知らない。




「てめぇ、誰の許可得て、人の女に手ぇ出してんだ、ゴラ!!!」
「てめぇの女になったことを許可した覚えもねぇよ!!!」
「なんで、てめぇらに許可とんなきゃなんねぇ!!!」
「私には取るべきではありませんか?」
「後、僕にも。」
「ぐっ……、ぼちぼち取りに行きます……多分。」
「まだまだ銀時に、葵を渡すわけにはいきませんねぇ。」


彼女を取り巻く者達の存在を知るものは、極一部。
味方にとっては、もはや日常茶飯事の出来事であったが。






「葵さんも大変ですね。」
「あぁ。だが……」

妹・そよの言葉に肯定を示したが、葵の顔を見た茂々は感じていた。

「不死の力を失い、力が劣ったとしても、


きっと今の方が幸せなのだろうな。」


守られるという感覚。葵が感じてこなかったものだった。

感じたいと思っていたものだった。








──彼女は確かに、幸せの中にいた。

───それは、劣化という代償を受けて得たものだった。

────彼女にとって、それはあまりに大きい褒美だったのだ。






「……さてと。これはいらないですね。」
「葵ー?帰るぞー??」
「はーい。」

葵がいるのは、松下村塾の彼女の部屋だった。
その手には、一枚の真っ白な封筒。


「良かった。」

それを見て懐にしまい、少し笑った葵は、映るはずない青く澄み渡る空を見上げ、愛する人の元へ戻った。




fin.

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