書きたいことがありすぎて、パンクしかけました。本当に申し訳ありません。
今回、これを書くにあたってBGMを流しながら書きました。
機〇戦〇ガ〇ダ〇の私が最も好きなBGM、あのUから始まるやつです!!想像しながら読んでいただけると、より一層面白いのではないかなぁ、と思います。
「……っ」
張り詰めた空気とはこういうことを言う。
強敵を前にして、数では圧倒的有利な俺たちを制するそのオーラ。
それほど敵が凄まじい、
それもある。
「これが……葵殿の本気……。」
その空気を作るのは、決して敵だけではなかった。
その敵を前に佇む葵からも、凄まじい殺気を含むオーラが滲み出ていた。
それは、一般人が浴びればあてられるなんてものじゃ済まされない。最悪、死ぬかもしれない。そんな空気が充満していた。
現に今も、将軍とそよ姫のことは、真選組と見廻組が身を挺して守っており、その警察組織でさえも、平隊士は抑えなければ震えが止まらない。
──カチャ
葵が刀を手にかけた。
「ほぉ、その怪我でまだ私に立ち向かいますか。」
葵の脇腹からは、止まることを知らずに多量の血が流れ出ていた。
それでも決して顔を歪めることはない。
「これが、私の役目ですから。」
「フッ、……そうですね。そして私の前で、松陽の前で、無残にも散ることがあなたの運命です。」
「「「「「「っ!!」」」」」」
後ろで見ている銀時たちが、僅かに反応する。が、それを見越したように、虚の背後に控える奈落たちも構えた。
──キーンッッッ!!!!
いつ動いたのかも分からない、目にも止まらぬ速さで二人の剣は交わった。
──ゴクリ
そう、唾を飲み込んだのは誰か。
味方も敵も関係ない。
双方がその異様な速さの戦闘に釘付けになった。
「葵姉が……、押されてる……。」
「っ、あいつ何もんだっ……。」
スピードは拮抗している。けれども、葵の顔は次第に歪んでいく。長年、一緒にいた銀時たちや蒼汰でさえ、見たことのない顔だった。
「葵姉があんな押されんのかよ……。」
「気配もなく、突然、葵殿の背後に現われて、その脇腹を刺したんだ。」
「は?葵の背後!?」
「あぁ。僅かに混乱したすきに、俺と葵殿を制圧する勢いだった。
その前に、葵殿が俺を避けさせてくれたが……。」
自分が重傷を負ってることを欠片も気にすることなく、一目散に桂の身体を押して、強制的に虚からの攻撃をかわさせたのだ。
「ハァ、……ハァ、……っ。」
「動きが鈍ってきたようですね?」
「……何のことでしょうか。」
「強がるのもいつまで続けられるでしょうか。」
「そのセリフ……、
忘れないでくださいよ。」
「……。」
誰がどう見ても葵が押されていた。
いつでも戦闘出来るように、全員が構え直した。
──キーンッッッ!!!!
───ガンッ!!!!
「スピード……、上がった……?」
桂がすぐに気づいた。
先程まで虚に付いていくのが精一杯のように見えた葵の動きが、ぴったりと虚と同じスピードでやりあっていたのだ。
「……上がったんじゃねぇ、反応してるだけだ。」
「は??」
銀時は、信じられないものを見るようにその戦闘を、食い気味で見ていた。
「実際のスピードじゃ追いつけねぇから、予測して本能で動いてんだよ、葵姉は……。」
「!?そんなことっ、相当戦歴を積むか、」
「あぁ、実際にあいつとやったことがあるか。どっちかってことだろ……。」
──『そんな事はありえない。』
誰もが一瞬、そう思った。だが、彼女なら……
葵なら何か対策をしていたのでは、と思ってしまう。
「やはり……そうでしたか。」
「……?」
「……今、気づいたような口ぶりですね。」
「予測はしていましたが、確信はしていませんでしたよ。ですが、あなたに会って、確信しました。」
訪れた久しぶりの落ち着き。敵である虚の言葉に耳を貸してしまうのは、
師の姿であるからか、……それとも、異様に信憑性が感じられるからか。
「やはり、あなたは未来がわかるようですね。」
「「「「「「「「「「!?!?」」」」」」」」」」
「いえ……わかる、と言うのには語弊があるでしょうか。
『未来から来た』と言うのが、正しいですか?」
「……。」
虚が言い放ったことは、到底信じられない言葉。
そして、葵が長年抱えてきた秘密。
複雑な空気があたりを覆う。非現実的過ぎるこの話を、すぐさま理解するのもおかしい話なのだ。
「……未来がわかる私を、消しに来たということですか。」
「えぇ、それもありますよ。ですが、聞きたいこともあったので、消す前に聞いておこうかと。」
そう言うと、虚は刀をしまい、余裕の態度で葵の方に向き直った。
「どうしてこの世界に、そこまで執着するのでしょうか。
未来がわかるのであれば、あなた自身が英雄になる道を選ぶことも出来たはず。そうすれば、守るものを増やさなくて済む。
そこまでの力を持ちながら、どうして弱者を守るためだけにその力を使うのでしょうか。あなたほどの実力であるならば、私の手元に置いておきたいくらいだ。」
「……。」
虚の言葉を聞きながら、葵の表情は読めなくなっていった。
が、かすかに見える口角が上がった。
「あなたには分からないですよ。」
「……はい?」
葵は、後ろからのたくさんの視線を……幸せに感じていた。
「最初は思いましたよ。私が運命の全てを覆し、彼らを救う方法だってありました。それが一番、最短であることも分かっていました。
でも、それではダメなんです。
ここに存在しているのは私ではない。生きているのは私ではない。
そんな私のやるべき事は、彼らの運命を奪ってまで安全にすることではない。
大切だと思う彼らのために、彼らの運命を守ること。
私がしたいことは、私が生き残ることではありませんから。」
「……。」
「きっと理解できませんよ。
自らの命を犠牲にしたとしても、守りたいと思う存在のことは。……あなたにはね。」
「そこまでして、彼らに未来をたくせる理由は何でしょうか。
未来で彼らが成功しているのが見えましたか?」
「いいえ。」
周囲は少し驚いたであろう。未来がわかると言うならば、もちろんそこまで知って自分たちを信じていると思ったからだ。
しかし、
「彼らを見て、成功すると確信したからです。」
本当にこの先を知らなかった葵の行動の中には、確かに多少の介入があったのかもしれない。
でも葵は分かっていた。例え、自分がこの世界に生まれなかったとしても、きっと彼らならこの世界を守っていくのだろうと。
「私がどんな介入をしたところで先は変わりません。でも、変わらないんだったら、
『幸せであって欲しい』
未来がわかる
──キーンッッッ!!!!
「「「「「「「!?」」」」」」」
突然仕掛けたのは、虚の方。その攻撃に驚いたのは、銀時たちだけではない。
「どういうことだ。」
分かっていたかのようにしっかりと受け止めた葵に対して、虚でさえ驚いたのだ。虚が初めて見せた、若干の感情。
受け止めるだけにとどまらない。葵はそのまま攻撃を仕掛けていく。
「彼らを守るためだけに、腕を磨いてきた訳では無いんですよ。」
葵は予測していた。
自分が考える最悪の未来が、最悪の形ではまってしまった歯車によって引き起こされるとしたら、どのようなものか。
「答えはあなたですよ。
あなたが誕生することが、最も懸念すべきことでした。」
そう気づいた時に、葵が行ったこと。
「……っ!!まさかっ、……松陽かっ!!」
「「「「!?」」」」
「えぇ。そうです。」
葵が松下村塾にいた頃、唯一、本気でやり合っていたのは、松陽だけ。その時の気持ちは、どれほどのものか。いつの日か戦うかもしれない敵に備えて、自らを愛してくれる父を本気で倒しに行かなければならないのは。
「全て、この時のために、準備してきたんです。」
彼女が転生者として、できる最大限の幸せと警戒を。
彼女の命と人生のすべてをかけて。
全てはあの時の誓いのために。