書いてる作者が、シリアスで、悲しくなってきた。←
《銀時side》
──キーンッ!!
──ダンッ!!!
──ドカーーンッッ!!!!
目に見えない速さとは、こういうことを言うのだろう。
二人の……、葵と銀時の戦いは、空気中にその衝撃の振動がかろうじて見える程度。常人には、その振動さえ目で追うことなど出来ない。
ましてや、そのどちらかと戦うなど、瞬殺もいいところだろう。
「くっそ、腕は相変わらずだなっ!!」
──ドカーーンッッ!!!!!!!!
今日一番の爆発と爆煙が広がる。それだけ銀時が思いっきり木刀を振ったのだが、その木刀が振り切れることは無い。
葵は相も変わらず表情一つ変えずに、その木刀を受け止める。
「んな無表情でやられっと、銀さん傷ついちゃうよ?」
銀時は気づいていた。
自分が、少しずつではあるが追い詰められていること。
外傷はなくとも、体力と精神力は確実に削られていた。
だから喋るのは、体力を使うだけで無駄なのかもしれない。でも、銀時は喋らずにはいられなかった。
『はい、脇が甘いね。』
『いでっ!!』
『踏み込みが甘い。』──スカッ
『くっそ……』
『……。』
『……ふふっ。』
『??』
今でも覚えてる。俺の、楽しかった記憶。
負けてばっかりで、結局、今の今まで勝つことなんて出来てないけど。
それでも楽しかった。葵姉に挑む毎日は。
そして覚えてる。
「……随分と喋りますね。」
「あれれー?忘れちまったのかよ、葵姉。葵姉が言ったんだぜ?」
「……。」
「『いつも余裕を持って。
黙っちゃったら、相手に、俺は追い詰められてますよー、って言ってるのと同じだよ?』
ってな!!」
「……っ。」
──ドカーーンッッ!!!!
あの時とは違う体格。いくらその実力の差があるとはいえ、男と女だ。一瞬でも隙があれば……。
そして、あんたに教えて貰ったことをやれば。俺は強くなれた。
巻き上がる砂煙に神経を尖らせる。……が、次に葵姉が現れたのは前ではなく、
「危ねっ!!……下っ!?」
いつの間にか移動していた、城のどこかの屋根の上。その屋根を破壊して、下から葵姉の刀が突き刺さりかけた。
そのまま屋根ごと破壊して、二人は真っ逆さまに落ちていく。意外と高いところにいたらしく、着地まではまだまだありそうだった。
「っ空中でもお構い無しかよ!?」
一体、どこにそんな筋肉があるのか。どこにも踏ん張る場所なんてないのに、勢いよく刀を振ってくる。……もちろん、俺も受け止められるが。
──パリーーンッッ!!
「……。」
「!?」
拮抗し続けた刀と木刀は、空中で分解された。
が、驚いてる暇なんてない。葵姉は、すぐさま割れた刀の破片を掴んだ。
──まずいっ!
咄嗟に思った。今、この状態で、この空中で、この攻撃を受けたら、その傷も、落下した時の衝撃も、もしかしたら死ぬかもしれなかった。
すぐにその刀を防ごうと、……木刀を握った。
握ってしまった。
「……やっと、」
「!?」
「……
やっと、終わる……。」
「!!」
──ズシャッッ!!!!
それは、耳を塞ぎたくなるような……、それでも、聞き慣れてしまった音。
──内蔵を貫いた音。
「……は?」
「……
銀時。」
「!!……あおい、ねえ……??」
「……ごめんね。」
木刀を握る俺の手は葵姉に掴まれて、その刀の先は葵姉の身体の中。
信じられなくて顔をあげたら、そこで見たのは……
「守れなくて……っ、ごめん……なさいっ。」
苦しい顔をした、笑顔の葵姉だった。
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……分からなくなっていた。
引き際が分からなかった。
「お前の目的は、なんだ。」
「……吉田松陽を、
守ること。」
あの日、確かに誓った。今も変わってない。
──松陽先生を、父上を守る。
──大切な弟達を守る。
松陽先生の身代わりとして朧に連れてこられた私は、すぐに天導衆に謁見した。そして、
「ほぅ、朧が連れてきた女子か。」
「まぁ、よい。その者を使って、吉田松陽を捕らえるのも、悪くなかろう。」
すぐに、朧の側近として通された。
そこで、初めて聞いたのだ。
「お前に、話しておくことがある。」
「??」
──朧と父上との関係を。
───朧が、銀時たちや蒼汰の兄弟子に当たるということ。
「……!?」
「お前にも、知らぬことがあったということか。」
「いえ……、想像はしてましたが……。」
出来てしまったのだ。もう一つ、守りたいものが。
朧と組んだ時点で、事を起こすならば一国傾城篇だとは思っていた。
そこで私は、晋助の代わりに定々を殺し、天導衆を出来るところまで一掃したいと考えていた。
だが、会わせたくなってしまった。朧が、どうしても悪い奴だと思い切れなくなってしまった。そして、一国傾城篇で銀時と朧が戦うことすらも、避けたくなったのだ。
全てに手を出すことはおこがましいのかもしれない。それでも、手が届く範囲であるならば、守りたかった。
考えた。何をしなければいけないのかを。
この時、最も危惧していたのは、原作からかけ離れてしまうこと。
なにかの歯車が最悪な形でハマってしまい、松陽先生の命が危険にさらされては意味が無い。だから、なるべく原作のまま、最後に定々を殺し、天導衆を片付け、私の仕事は終わりだと思っていた。
こんな僅かなことを、と思うかもしれないが、異端者である私が何かをしでかしたせいで、より悪い展開になってしまうことが怖かったのだ。
「だけど、それだけじゃ、朧は救われない。」
この先どうなるか詳しくは知らないけど、記憶の限り朧VS銀時と晋助という場面があったのは覚えてる。
例え、松陽先生が生きていて、もしかしたら止めてくれるかもしれないとはいえ、そのことを知っている私がどうにかしなければと思った。
「朧。」
「何だ。」
「……、
全てを捨てて、私を信じる覚悟はありますか?」
「俺の全ては吉田松陽だ。お前を信じた時点で、俺は何も捨ててはいない。」
「……ふふっ、
そうですか。」
「……なぜ笑う。」
「気にしないでくださいな。」
真っ直ぐ信じられるというのは、恥ずかしく、純粋に嬉しいものだ。
そこからの行動は早かった。
茂々に直談判をするために、その直近として側にいた。そして、一国傾城篇が近づいた時、全てを将軍・茂々に話した。
その上で、この先も全てをお守りするという約束で、朧を傘下に入れ、守って欲しいとお願いした。
松陽のもとへ寝返った場合、松陽よりも先に朧が消されるのは間違いなかった。奈落最強と言われる剣の腕は、伊達ではない。
「では、条件がある。」
「私にできることであれば、何でも致します。」
「その朧という者と一緒に、そなたも余の側にいることだ。」
「!」
「部下ではなく、……友としてな。
そなたにとっては、願いを叶えるべくしてした行動でも、余にとっては、そなたといる時間はとても楽しかったのだ。
将軍ではなく、茂々として扱ってくれるそなたが。」
まだ幼い将軍様は、幼い頃の蒼汰や銀さんを思い出させた。無意識にそうなっていたのかもしれない。
「この先、あなたの味方であり続けること、ここにお誓いいたします。
……あなたの友として。」
跪き誓いをたてた。
一国傾城篇でやるべき事が、少し増えた。
定々を殺す。
そして、茂々のあの時出される辞表を回収する。あれは、後々面倒なことになる。
それから、朧を奈落の前で将軍の側であることを示す。これはきっと、将軍が何とかしてくれる。
……最後に、
後から気づいて、傷つくのでは遅いのだ。
ならばそれは、
異端者であり、
君たちの幸せを願う、
姉の仕事だよね……??
「銀時……、ごめん。」
「!!」
驚いた顔をする銀さんの首に腕を回し、そのまま空中の位置を逆にする。
後……もう少し。
私の身体が、尽きる前に……。