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―――ザッ、ザッ、ザッ
静寂を切り裂くのは、たった一つの足音。
江戸の国境とはいえ、国の都市に存在する家屋はたくさんある。ただ、その足音は迷うことなく一つの場所に向かっていった。
「誰でしょうか。」
「……、これから僕が言うこと、どうか信じてください。」
「……?」
名乗ることもなく、いきなり話し始めた家の前に立つ青年。フードの深いものを被っており、その身なりすらわからない。月も雲に隠れて、その口から「僕」という単語が出なければ、男だということも判断出来ない。
「ここからなるべく遠くに行ってください。少しの間で構わないんです。」
「……。」
何も言い返せなかった。それは、目の前の人物が言っていることがあまりにも突拍子もないことであることも、理由の一つではあるが……。
「君は知らないかもしれませんが、私、意外と強いんですよ?」
「知ってますよ。
……吉田松陽。いや、それは……“虚”だからですか?」
「!!」
「とにかく一時期でもいいので、身を隠してください。
……今、あなたに、死なれる訳にはいかないんです。」
「あなたは……、」
その家の家主、吉田松陽が何か言う前に、その青年はマントを翻して立ち去った。
その内容よりも、何よりも、松陽には気になったことがあった。
「私は……君とどこかで会ったことがあるでしょうか……。」
彼から全くと言っていいほど、初見の感覚を感じなかった。
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不気味なほど、燃えるように道を照らす橙色の道。
「おい。見廻組の佐々木が殺られたってのは、本当か。」
「なっ!?」
江戸城の敷地内、その一角に存在する牢。そこに向かって伸びる影が三つ。
「はい。だから、見廻組の仕事が
殿中守護の任を仰せつかっていた見廻組の長・佐々木異三郎が、何者かに重傷を負わされた。そして、その佐々木には佐々木を刺したという、捕えられた下手人の城内への侵入を許した罪で、その任を解任。その後釜が、真選組に回ってきていた。
「ちっ、どうにもクセェな。」
「えっ!?何が!?!?」
近藤だけが異常な反応を示すが、潮屋にはその意図がわかっていた。
「その下手人の取り調べ、特に行われることもなく、明朝、処刑が決まったようです。」
「まるで、何かをもみ消そうとしてるようにしか思えねぇ。」
土方と潮屋が牢に向かう中、少し離れたところでケツに手を当てていた近藤を見たものは誰もいない、……多分。
「ま、まぁ!とりあえず下手人に会ってみるか!」
重々しい扉が開かれ、視線の先には……
「あ、近藤くん!土方くーん!潮屋くーん!ちょっと、おはなしがあるんだけどぉ!」
「「「……。」」」
──バタン
「殺すぞ!!腐れポリ公!!!」
すぐに閉じられた。
「ダメだ。ありゃあ、洗っても落ちやしねぇ垢だ。」
「とても洗えねぇな。」
ドア越しに叫ぶ銀時の声に無視を決め込んでいると、土方が気づいた。
「……俺らには無理でも、出来る奴もいるわな。」
「そうだなぁ……。」
土方の横を見た先からは、さっきまでいた人影が消えていた。
「無駄ですよ、ダンナァ。
流石に今回ばかりは、相手が悪かったようで。」
真選組にシカトされた銀時のもとにやって来た沖田総悟が、懐から取り出したのは、箱に詰められた大量のドーナツ。
「ポテリングよこせぇぇ!!!」
「晩飯よこせや!ゴラァァァ!!!」
そのまま格子越しに、大事なものを奪われていった……
そんな光景を新八と銀時が、横目で見ていた。
「やっぱり、相手が悪すぎですよね。佐々木さんもこの城中は、定々の狩場だって言ってたし。」
「……そーいや、定々は、どうやって鈴蘭を利用したんだぁ?」
「国さえも色香に溺れさせて傾けるが傾城。関わればその身を滅ぼすことにもなりかねない。」
「「!!」」
「まさか、僕の提供した情報で、こんなことになるとは思いませんでしたよ。」
「潮屋さん……。」
銀時の疑問に答えたのは、どこから来たのか、真選組監視の幕府の人間。
「いいのか?喋っちまって。」
「じゃあ、勝手に喋ってるだけなので、気にしないでください。」
銀時たちに背を向ける形で、牢によしかかり喋り始めた。
「当時から、吉原は政府のお偉いさん方の会合の場所として使われていました。そこに集まる政府人は必ず鈴蘭の魅力に取り憑かれてしまいます。
この国のトップは思いつきました。鈴蘭の魅力に、政府の要人たちを取り憑かせてしまえば良いのではないか、と。
あの男は、傾城をその名の通りに利用したんです、……国くずしの道具として。」
そう語る潮屋の顔を、月が照らした。
「……。」
潮屋の話が一段落した所で、同じく牢に閉じ込められていた月詠が口を開いた。
「例えどんな話であろうと、変わらないのは、鈴蘭の待つ男などどこにもおらんかった、ということじゃ。鈴蘭は知っていたのじゃろう、自分がここから逃れられないことを。
結局、夢に惚けていたのはわっちの方でありんす。」
「……。」
牢屋に一瞬の静寂が訪れる。
「本当にそうでしょうか?」
「「「「「??」」」」」
潮屋が牢屋を離れて、重い扉を少し開けた。
「こんな所にいたら、怒られますよ。……姫様。」
「はうっ!?」
「そよちゃん!!!」
牢にいる銀時たちに向き直り、潮屋は言い切った。
「あなた方が見ているのは、氷山の一角に過ぎません。
まだ……、確かめるべきことがあります。」
……語られるのは、氷山の裏側。
お久しぶりです!1年間、頑張ってきました、作者でございます!!
帰って来れて、本当によかった(*^^*)
休止期間中も、たくさんの方が読んでくれたようで、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!
最終章“一国傾城編”でございます!!
かつてない長さの章になると思いますが、お付き合いよろしくお願い致します!
※一年ぶりに書いて、書き方が下手くそになった……。