ルカのふざけたようなセリフに、ロロの視線は更に鋭くなった。
「ふざけないでよ……」
「ふざけるだなんて、とんでもない。僕はあなたの心を奪いたいだけですよ」
「…………」
「あー、どうしたらこの子の心を奪えるんだろうかなぁ〜」
聞こえよがしに大きな声でルカはつぶやく。
「うーん、どうしたものかなぁ」
大きな歩幅でその場をぐるぐると回る。
「……はっ、そうだ!」
これまたわざとらしい身振りでルカは手を叩いた。
「僕がお姉さんを取り戻せればいいんですね!?」
「誰があなたなんかに……ッ!」
「そんなぁ!」
ルカはミュージカルにでも出ているかのような動きで天を仰いだ。
「僕はただ、あなたのお力になりたかっただけだというのに!」
ルカはおもむろに上着を脱ぐと、それを投げ捨てロロの前にひざまずいた。上着は弧を描いてラーの乗る車椅子の麓に着地した。
「ああ、それでもあなたの心は動かすことができないのですね……!」
無表情で睨みつけてくるロロの返事を待たずして、ルカはそそくさと上着を拾い、そのまま立ち去ってしまった。
その場にはなんとも言い難い変な空気が残された。
「まあ……元々わたしたちでやる予定だったし、大丈夫よ。きっとあなたのお姉さんを取り戻してみせるわ」
雰囲気を変えようと、ラーがそうロロに声をかけた。
「ありがとう……」
「それじゃあ、4人で力を合わせて頑張りましょう!」
しかしラーが挙げた拳に賛同して挙がった手は、2つだった。
「あれ、スイは?」
「ええと、車椅子の横の……あれ?」
彼女たちが気がついたときにはスイのはいっていた筒は、すでになくなっていた。
♦♦♦
レナたちの元を小走りに去ったルカは上着をその手に抱えながらまた違う路地へと駆け込んだ。周りに人がいないことを確認するとくるまれた上着の中をまさぐった。
中から出てきた筒に向かってルカは声をかけた。
「スイさん、ちょっと出てきてください」
「んー」
少し間を開けて返事が帰ってきたことを確認し、蓋を開けて筒を逆さにする。すると固形物並みに固くなったスイが筒の形そのままで出てきた。完全に外に出るとスイの身体がどんどんと膨らんでいった。そのままスイは十秒足らずでいつもの大きさまで戻った。
「んたぁー!」
人型になったスイは大きな伸びをした。
「お久しぶりです。密度まで変化させられるんだなんて、すごいですね」
「おうルカ! 久しぶりだな! あれ結構疲れるんだぜ」
久しぶりの新鮮な空気に幾ばくかテンションが上がっているようだ。声が大きい。元気で何よりである。
そんなスイはあたりを見渡して訊いた。
「あれ、レナたちは?」
「えーと、さっきまでのやり取りは聞いてました?」
「いや、全然!」
どこか嬉しげにスイは答える。
「まあ、簡単に言うと別行動です」
「ロロの姉ちゃんを助けるんだよな?」
「ええ、そうです」
「……なんでルカはそう魔族に肩入れするんだ?」
ルカはポリポリと頭をかきながら答える。
「うーん、そんな肩入れしているつもりはありませんよ。ただ僕がそうしたいだけです」
「ふーん……ま、いいや。で、どうするんだ?」
望むような答えではなかったのか、スイはさっさと切り替えると話をもとに戻した。
「そうですね、まずはコロシアム周りの偵察です」