クイーンハーピーによる、ルカとの会話の回想会でした。
「それじゃあ何……」
それを聞いたセラは静かに口を開いた。
「あたしは……あいつの目的のためだけに利用されてるっていうの?」
半ば自問自答のようなその問に答えるものは誰もいない。
「ハハ……」
セラは乾いた笑い声をあげるが、その顔はまるで泣いているようだった。そんな彼女を女王と精霊は静かに見守る。
「もう、なに? この気持ちは。どうとも思ってなかったけど、その……っ、裏切られたっていうか……。あぁ! もう何なのよ!」
ぶつける場所がわからないもやもやした気持ちがセラに頭を掻きむしらせる。
「わかんないわよ……一体あいつは……一体あたしは何なのよ……」
辺りに静寂がわだかまった。セラのやるせない気持ちがひしひしと伝わってくるようだ。
「あいつもあいつだけど女王様も女王様よ! あたしをまるで都合の良く利用できるメスとして送り出したんですからねぇ!」
半べそを掻きながらセラはクイーンハーピーに迫る。
「何!? あたしの自由は!? なんであたしの生き方を他の人に決められなきゃいけないのよ!? ねぇ! おかしいでしょ!? 操り人形じゃないのよあたしは!」
セラは溢れ出る言葉を女王にまくし立てる。そんな彼女を女王はやさしく呼びかける。
「……セラ」
「なによ! 今更何か言おうたってあなたがしたことは一生……」
「セラ!」
クイーンハーピーはセラの言葉を威厳あるその声で遮った。そして、セラに問うた。
「おぬしは……何故泣いておるのだ?」
「えっ」
セラは急いで頬のあたりを触った。ヒヤリとした感覚が返ってくる。涙だ。目からホロホロと涙がこぼれ落ちているのだ。
「おぬしは、何故泣いておるのだ?」
もう一度女王が問う。
「あたしは、その……裏切られた感じ……あいつの言うその計画に利用するためだけに接しられてたって言うのが、嘘だったて言うのが……許せない……というか……」
「それではおぬしがあやつと接して感じていたものも全て嘘であったのか?」
「それは……」
セラの脳裏にルカの影がちらりと浮かぶ。セラはそのイメージを振り払うように頭を横に降る。
「でも! あいつはなんの気もなしにただその辺にいた魔物を利用したっていうわけなんでしょ!?」
「それは知らん」
「はぁ!?」
「そんなもんあやつに訊くしかわからないだろうが」
「で、でも……」
セラは再び頭をかきむしる。わからないのだ、自分の気持ちが。わからないのだ、どうすればいいのか、どうしたいのか。
そんなセラに精霊が声をかける。
「なあ、セラ。お前はなんでルカがそんな「世界を変える」だなんてことをしようと思ったのかわかるか?」
「いや……知らないわよ。聞かされてないもの、当たり前でしょう?」
「へぇ〜、知らないのか」
まるでからかうように言う精霊にセラは思わずムッとする。
「知ってるんなら教えなさいよ」
「やだね」
精霊は即答した。
「知りたいんだったら直接あいつに聞きに行けばいいんじゃねーか」
「…………」
精霊のその言葉に、セラは口をつぐんでうつむいた。そのままその場に静寂が居座る。
しばしの沈黙のあと、口を開いたのはクイーンハーピーだった。
「わらわは早朝にあやつの所へ向かう、ついていくかどうかはそれまでに決め…」
「行くわよ……!」
女王の言葉を遮ってセラはそう答えた。
「行ってやるわよ! もう! なんであいつなんかのことであたしが悩まなくちゃいけないのよ! 絶対殴ってやるんだから!!」
♦♦♦
「本当にありがとうございます……!」
服と帽子を買ってもらってモコモコの下半身と角を隠したロロはリユニオンの広場の中でレナたちにへこへこと頭を下げていた。
「いや、いいんだってそのくらい!」
そんな彼女をラーがなだめる。姉が人間に捕まったことでいささか感傷的になっているようだ。
「まあ、ともあれこれであとはあのコロシアムにうまいこと忍び込むことに集中できるわね」
レナの言葉にラーは頷く。
「ええそうね、早速行きましょう」
そうして一行はコロシアムの元へと向かった。
「デカイわね……」
間近で見るコロシアムは予想の倍以上に大きく感じられた。それこそそびえ立つ壁である。
「どこから忍び込むのが一番かしら……」
「そもそも入れる場所が限られていますね……」
「そうね……」
彼女たちが頭を悩ましていると、後ろからいきなりこえがかかった。
「やあやあやあ、綺麗なお姉さんたち」
その妙に腹立たしいその声にレナたちは振り返った。