ナンパ勇者と魔物たち   作:図らずも春山

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〜前回のあらすじ〜
ルカはずぶ濡れになり、ララはいたぶられ、女王様は過去にルカと話したことを話し始めました


「姐さん……!」

♢♢♢

 

 

 

「そこに腰掛けるといい」

 

 クイーンハーピーは家に入ったルカに座るよう促した。ルカは言われたとおりに丸太の椅子に座った。クイーンハーピーもテーブルを挟んでルカと向かい合うように椅子の上に腰を落とした。

 

「それで、おぬしが話したいこととはなんだ?」

 

 ハーピーの一族をまとめる女王は水をルカに差し出すと、そう聞いた。

 

「僕は……」

 

 コップに手を添え、少しうつむいたルカは口を開く。

 

「僕は、この世界が好きです……」

 

 言葉をゆっくりと、紡いでいく。

 

「他人ひとの笑った顔が大好きです……」

 

 部屋の静寂にルカの言葉は溶けていく。クイーンハーピーは見定めるようにじっとルカを見つめている。

 

「僕は、この世界が嫌いです……」

 

 ルカは更に顔を下げて続ける。

 

「常にみんながいがみ合っているのが大嫌いです……」

 

 ルカのコップを握る手が一段と強くなる。

 

「変えたいんです……僕は変えたいんです、そんな世界を」

 

 そこまで言うと、ルカは顔を上げてクイーンハーピーの顔を見つめた。

 

「そこであなたに頼みたい……僕に、人と魔物が笑い合って過ごせる世界をつくるために、あなたの力を貸してください」

 

 女王は深々と頭を下げるルカを静かに見据える。

 

「おぬしがそう強く思うにはなにかきっかけがあるようだが、それで世界は、他の者たちも喜ぶというのか?」

「僕はそう信じています。少なくとも共存を始めることで悲しむ者はいないでしょう。何か問題が起きたとすれば、僕が解決します」

「フン、殊勝な心がけだな」

 

 そう言うとクイーンハーピーは席を立ち、窓のそばまでゆっくりと歩いた。沈みかかる太陽が地を照らして影を伸ばしている。

 

「ならばおぬしはどうやって世界を変えようというのだ?」

 

 窓の外をみつめながら女王が尋ねた。ルカは答える。

 

「そうですね、世界を変えるためには、まず人間による魔物の認識、魔物による人間への認識を変えなければなりません」

「ふむ、そうだな」

「そこで僕が考えたのは、魔王の許可を得た上での勇者と魔物の結婚、です」

 

 ルカは続ける。

 

「人々に固着した考えを拭い取るには話を聞いてもらうことが必要です。魔物を、魔王を倒すことを使命とした勇者が魔物と結婚することで良くも悪くも種族間の問題に目を向けるでしょう。そして理由を求める声が飛んでくる、そこでみんなの前で人間と魔物の共存を訴えかけるんです」

「そうか……。おぬしの作戦はだいたい伝わったが、それならまずは勇者をその気にさせねばならんのではないのか?」

「ああ、それなら大丈夫です。僕、勇者ですから」

「ほう……」

 

 そこまで意外そうな顔をせずに女王は返した。

 

「まあ、正確に言えば勇者のうちの一人ですね」

「というと?」

「えーとですね、勇者ってのはですね、ここスタット、そして隣国のアロガット、北にあるドルミットの三国からそれぞれ二名ずつ選ばれているんです」

「そうなのか」

「ええ。魔族に対する反感を一番強く持つアロガットの呼びかけで三国間勇者連盟が発足され、三年に一度、六人の勇者をドルミットのさらに北にある魔物が多く生息しているデルビットへと送り出すんです」

「おぬしはもう送り出された身なのか?」

「いや、まだです。今年の春に送り出されます」

 

 クイーンハーピーは窓のそばから椅子へと戻り、再びルカと向き合った。

 

「それで、おぬしはわらわの協力を得たいと言うが具体的にどのようなことなのだ?」

「それはですね……、魔王城まで僕を連れて行って欲しいんです」

「ほう?」

 

 その言葉にクイーンハーピーの片眉がつり上がった。若干身を乗り出しながらルカに訊く。

 

「このわらわを乗り物扱いするというのか?」

「いえいえとんでもございません」

 

 ルカはすぐさま否定して、続ける。

 

「あくまで『僕があなたに乗って城まで行く』のではなく、『あなたが僕を掴んで城に行く』のです」

「ふん、小賢しい」

 

 クイーンハーピーは小さく笑みを浮かべる。

 

「おぬしの要求は把握した。もしお前の言う通りに世界が変わったとすれば、わらわたちにも良い影響となるだろう」

「それじゃあ……」

 

 次の返事を待つルカはツバをごくりと飲み込んだ。

 

「ああ、交渉成立だ。喜んで協力しよう」

「姐さん……!」

「誰が姐さんじゃ」

 

 女王はルカの発言を冷たくあしらう。

 

「して、いつおぬしを運べばよいのだ?」

「その時が来れば僕が『魔物が襲ってくる」と噂を流します。そうしたらここの、アロガットのリユニオンという街まで来てください」

 

 ルカは地図を広げて大陸の西側あたりを指差した。それを確認してクイーンハーピーは頷いた。

 

「それでは改めて」

 

 そう言ってルカは手を差し出した。女王も手の代わりに翼の先を差し出す。ルカはそれを軽く握って言った。

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「と、いった具合じゃ」

 

 そこまで喋り終えたクイーンハーピーはそう結んだ。




お ま た せ

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