◆それは生きている   作:まほれべぜろ

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これで俺達が、ダルフィトップの実力者といっても過言

 俺がジェイクの手元に来て、5か月以上が経った。

 

 時にはダンジョンを潜る冒険者、時には街道を通る商人を襲撃し、

 その悉くを成功させ続け、飛ぶ鳥を落とす勢いである我ら『ミッドナイトを照らす炎』団。

 

 だが、ダルフィの頂点を目指すからには、略奪ばかりを行うわけにもいかない。

 それでは悪名を得られても、ダルフィでの立場に直接は繋がらないからだ。

 

 では、立場を得るのにどういった仕事が必要なのか。

 基本的には、ダルフィにおける立場を持つものと関わり、

 出来れば上に立てるようにする事だ。

 

 ダルフィで立場を持つものは、大きく分けて2つに分かれている。

 

 一つは高位の盗賊ギルドメンバー、住民の殆どがならず者であるこの町で、

 彼らの発言力は無視できるものではない。

 

 セビリスの権勢の源もここにあるようだ。

 ダルフィでの政は、基本的にはここで動くからな。

 

 町長という役職もあるが、ここの住民たちは御上に従うような気骨ではない。

 自分勝手なならず者たちに、言う事を聞かせられるのは、その上役の盗賊ギルド位だ。

 

 しかし、彼らに対してジェイクが影響力を持つのは難しい。

 盗賊ギルドの役割は、ダルフィという町の成り立ちその物に直結している。

 

 もしもギルドの力が弱まれば、パルミア国がこれ幸いと、

 犯罪の温床となっているダルフィに、介入してくる可能性もある。

 だから、まず敵対し倒して上に立つなどと言う、脳筋思考は全く的外れとなる。

 

 かといって、俺たちは盗賊ギルドが求めている物を持っている訳でもない。

 彼らが欲しているのは、ダルフィの安定と更なる発展。

 そして、それに伴う自分たちが得る甘い汁の拡大である。

 

 そのために必要なものは武力ではなく、セビリスの持つ政治力なのだ。

 従って、盗賊ギルドにどうこうし、セビリスに打ち勝つのは難しい。

 

 そこで、もう一つの勢力であるブラックマーケットの店主達、すなわち闇商人達だ。

 彼らもダルフィにおいて、無くてはならない存在達である。

 

 ダルフィにおける主要な産業とは何か。

 娼婦による性産業、奴隷市場も勿論だが、やはり一番は盗品売買だろう。

 

 ダルフィのならず者たちは、パルミア国中で金目の物を盗んでくる。

 しかし、窃盗スキルで得た盗品は、まともな価格で売る事は出来ない、

 それどころか、足がついてガードの御用になる可能性すらありうる。

 

 そこで、ブラックマーケットの店主たちが、

 そんな盗品をそこそこの値段で買い取ってやり、別の町の後ろ暗い奴らに売り渡すのだ。

 

 わざわざ窃盗スキルを使ってまで盗ってくる品は、高価なものが多い。

 だからこそ、ブラックマーケットが成り立っている訳だが、

 そんな彼らだからこそ、金目の物を持っていると見られて狙われやすい。

 

 ここで俺たち盗賊団が関わってくる訳である。

 

 俺たちは、彼らから毎月みかじめ料を貰う。

 この時、大きな不満を買う程の高い額を徴収したりはしていない。

 

 俺たちの目的はダルフィでの立場を得ることだからな、

 金に目がくらんで、そっぽを向かれては本末転倒だ、

『媚びた方が得だが立場は向こうが上だ』と思わせるくらいの額を設定する。

 

 ここら辺の見極めは難しいが、カーラが色々考えてやっているらしい。

 俺もたまに彼女から、ブラックマーケットの店主であるロックと、

 共にいた時の知識を求められて、ちょくちょく情報提供をしたりする。

 

 みかじめ料を払った店主達には、

 見返りとして俺たちが、ダルフィにおける安全の保障をする。

 

 保障と言っても、別に護衛をして逐一守る訳ではない。*1

 

 保障するのは『お前にダルフィで手を出したやつは、俺が徹底的にぶっ殺してやるよ』である。

 いいのか?俺のバックには、あの人が付いてるんだぜ?の奴だ。

 

 今や、ダルフィにいてジェイクの事を知らない奴はモグリだ。

 大抵の奴はこの話を聞いた上で『店主を襲おう』とは思わない。

 

 いくら強盗を成功させたとしても、その後に何度も殺されりゃあ収益はマイナス。

 ましてダルフィにいる奴らは、他のガードが機能している町でまともな活動なんて出来ない。

 強盗して別の町に逃げたところで、その後は強盗の成果に見合う生活とはならないだろう。

 

 なので、俺たちの保障下にある店主を襲うのは、大体は別の町から来た奴らだ。

 ジェイクの事を甘く見ているそいつ等は、盗賊団が襲撃で出かけている間に、

 店主達から強盗を働き、俺たちが戻ってくる前に別の町へと逃げだす。

 

 では、俺たちがそれを見過ごすかというと、そんな訳はない。

 

 ダルフィに所属する情報屋は非常に優秀だ。

 盗賊たちのネットワークを使い、何処の誰が舐めた真似をしたのか、すぐに突き止める。

 

 後はジェイクが傘下の盗賊団に招集をかけて、

 そいつ等の元へと出向いていき、総力をかけて叩きのめすのだ。

 

 正直、この時の襲撃で大した利益は上がらないが、そこはみかじめ料で補っていく。

 目的はダルフィにおける地位の向上だからな。

 

 こうして、ブラックマーケットの店主たちのバックとして活動するにつれ、

 ダルフィの内外にて俺たちの事は知れ渡っていく。

 他人から見た盗賊団は、ダルフィの顔役へと近づいていた。

 

 いずれは外から来た盗賊も、ジェイクが守る店を狙う事はなくなっていくだろう。

 そして闇商人達は、俺たちの活躍と、それに伴う安全性の向上を知り、

 ますますジェイクを頼り、商売をするようになっていくわけだ。

 

 

 だからこそ、ダルフィの中に存在する盗賊団が、

 ジェイクの保護下にある商人を襲った日には、威信にかけて叩き潰さなければならない。

 

 その日、ジェイクの元に訪れたのは、ダルフィでも有数のブラックマーケットの店主だった。

 そいつの話を詳しく聞くにつれて、ジェイクの機嫌は急降下していく。

 

「つまりなんだ、『欺瞞の翼』の奴らは俺の名前を笑い飛ばして、お前の店を襲った訳だ」

「は、はい。そういう事になります。店に置いてあった商品は全部取られた次第で……」

 

 ジェイクの面前で椅子に座るその店主は、非常に居心地が悪そうだ。

 自分の店が襲撃にあった後、超強面である大盗賊団の首領が、

 メチャ不機嫌で目の前にいるとか、踏んだり蹴ったりとしか言いようがない。

 

「ボス、『欺瞞の翼』って言えば、このダルフィでも相当の古株よ。

 自分たちが何をやったか分からない、なんてことはあり得ないわ」

「んなこたぁ分かってる!こいつぁ、アイツ達からの挑発だろうよ」

 

 カーラの言葉にジェイクがキレ気味に返答する。

 ジェイクがカーラに怒鳴るのは相当だ。

 こいつ何時も、付き合いの長いカーラにだけは、態度が違うからな。

 

「ボス、どうするんっすか?『欺瞞の翼』って言ったら、相当の手練れ達だって噂っす。

 いくらウチ等でも、やりあったら相当キツイと思うっすが……」

 

 チアフーが、不安げにジェイクに問いかける。

『欺瞞の翼』は、この世界にきて日の浅い、俺でも名前を知ってるくらいの大物だ。

 この町で生まれて、馴染みの深いチアフーにとっては、恐ろしいビッグネームなのだろう。

 

 少々怯えの見えるチアフーに対し、ジェイクは一瞬激昂したように見えた。

 だがその後、考え直したかのように目を閉じ、フーッと大きく息を吐く。

 

 他の盗賊団員たちが見守る中で目を見開いたジェイクは、

 少なくとも表面上は、いつもの様に野望に燃える男の顔をしていた。

 

「どうするかって?決まってんだろうがチアフー!

 舐められたままで居られるわけがねぇ、相手が誰であろうと関係ねぇさ!

 襲撃を掛けんぞ、野郎ども。傘下の盗賊団にも召集を掛けろ!

 イモ引いた奴は先にそいつ等からぶっ潰す、とも伝えな!」

「へ、へい!」

 

 ジェイクの号令、その勢いに、浮足立っていた団員たちが熱気に浮かされた様子に変わる。

 強大な敵への恐怖を、ジェイクの持つ高い魅力からくるカリスマが包み込んだのだ。

 数人の団員たちが、伝令のために慌ただしく走り去り、残った者は戦いの準備を始める。

 

 椅子にどっかりと座ってそれらを睥睨するジェイクへと、俺は話しかけた。

 

(最初は随分と荒れてたな、何か思う所でもあったのか?)

「お前、何で『欺瞞の翼』の奴は俺らに突っかかってきたと思う?」

 

 俺の質問に、ジェイクは更に質問で返す。

 爆弾魔ならぶち切れる所業だが、質問の内容が気になった俺は少し考えてみる。

 

(んー、お前に自分たちの立場が追われるのが怖かったとかか?

 最近のウチらはイケイケだったし、自分達より上に立たれるのが気に入らなかったとか)

「それもあるだろうな、だが一番の理由はそれじゃねぇだろうと思ってる」

 

「俺の見立てが間違ってなければだが、正直言って『欺瞞の翼』は俺たちの敵じゃねぇんだ」

(は?つってもダルフィでも有数の盗賊団なんだろ?チアフーが怖がるくらいの)

「ああそうだ、だがそれは一つの盗賊団としての名声さ。

 やつらは利益重視で、横との繋がりは薄いからな。

 俺達の盗賊団だけで戦えば負けるだろうが、今や7つの盗賊団を傘下に収め、

 そいつらに良質な装備を供給している、俺らという集団にかなう程の奴らじゃあねぇ」

 

 なるほど、そうなると問題となるのは。

 

(なら、何であいつらはコッチに喧嘩売ってきたのかって話か)

「そこなのさ。最初は未だに舐められてるのかと疑ったのも、ブチ切れてた要因の一つではある。

 だが、俺達に喧嘩を売りたそうな奴の顔を思い浮かべれば、別の可能性が思い当たった」

(セビリスが、裏についてるってのか?)

「それが妥当だ、と思ってるぜ。

 奴が裏にいると考えた瞬間、頭が煮えたぎっちまった」

 

 チアフーのおかげで落ち着けたぜ、感謝だな。などとジェイクは独り言ちる。

 まだ幼さの抜けないジェイクの妹分は、ジェイクの精神安定につながったらしい。

 怒りのままに振舞えば、盗賊団が浮足立ったままの可能性もある、

 意識してない中でのファインプレーだな。

 

「しかし、だからと言ってウチのシマに手を出した以上、放っとく選択肢はねぇ。

 セビリスがどう動くかは分からんが、俺たちはカチコミをかけるだけの事よ」

 

 まあ、こんだけの事されて黙ってたら、何のためにみかじめ料を払ってたのかって話だからな。

 

 それにしても、ジェイクの奴は俺が思ってた以上にセビリスが嫌いらしい。

 あんだけジェイクがキレてたのを見るのは初めてだ。

 

「だが、気になるのはセビリスが裏にいるとして、何ができるのかって話だな」

(何って、盗賊ギルドの奴らを集めて俺たちを襲うとかじゃないのか?)

「それは正直考えにくい。俺らは傘下を含めた盗賊団たちの数を合わせりゃあ、相当の数になる。

 その内の殆どは、盗賊ギルドに所属してる連中だ。

 幾ら盗賊ギルドがセビリスの奴を贔屓しているとはいえ、

 そんな盗賊ギルドの仲間割れに繋がりかねない事に、周りが手を貸すとは思いにくいな」

 

 なるほどな。

 俺たちが盗賊ギルドに手を出しにくいのと同様に、向こうもこちらを攻撃しにくいわけだ。

 

(そうなると、一番考えやすいのは……裏切りか?)

「確かにそうかもな。傘下の盗賊団はあれから7つまで増えた。

 こっから2つも裏切れば、戦力は5分まで持ってかれるだろうよ」

(何か対策はあるのか?)

「……思いつかないことはねぇ。エーエン、戦いの最中に裏切るやつが気にするのは何だと思うよ?」

 

 ジェイクの質問に少し考える、

 

(そりゃあ、『裏切って本当に大丈夫なのか』『裏切ったら勝てるのか』って所じゃないのか?)

「そうだな。そんで『裏切って大丈夫なのか』って保身には、

 裏切った瞬間に殺される事を恐れるのも、当然あるだろ?」

(って事は、裏切ったら直ぐに殺せるぞって状況を作る訳か)

「ああ、それぞれの盗賊団メンバーを、バラバラにして配置する。

 裏切者が出たら、すぐに隣の奴が殺せるようにな。

 そして、テレポート阻害の装備を付けさせて、咄嗟に逃げられねぇようにしとく」

(なるほどな。しかしテレポート阻害して、戦闘に支障が出たりしないか?)

「相手はコッチよりも数が少ないわけだからな。

 テレポートでかく乱するよりか、異次元の手で敵の近くに引きずられるのを防ぐ方が有効だ。

 戦略的にも間違っちゃいねぇよ」

(そこまで考えてるなら、まあ裏切り対策は大丈夫か。

 後は、裏切者以外の罠があった場合だが……)

「ダルフィの戦力かき集めたところで、俺たちを容易に叩き潰せる戦力は集まらねえ。

 大暴れして俺たちの強さを知らしめれば、負けたとしても俺たちの名声に付く傷は小さい。

 ここはリスクを承知で踏み込むとするさ」

 

 そう言うと、ジェイクはいつもの様な上機嫌の悪人面で、ニヤリと笑った。

 

 

 

「よし行くぞ野郎ども!『欺瞞の翼』の根城はすぐ目の前だ!」

 

 ダルフィの外れに存在する、あばら家が密集した地域。

 そこに集まった傘下の盗賊団たちに、ジェイクが号令をかける。

 今から、情報屋に調べさせた『欺瞞の翼』が持つ根城の一つへと、襲撃する訳となる。

 

 100名弱にも届く人数の彼らは、体のどこかにテレポート阻害の装備を身に着けている。

 繋がりのある商人達に、急いでかき集めさせた廉価な装備達だ。

 

 当然、傘下の団員たちからは反発があった。

 ジェイクはこの装備を付けさせる理由も伝えたから、

『俺たちを疑うのか』『こんな弱い装備を付けて戦うのは不安だ』って内容だな。

 

 しかし、そこはジェイクの*2カリスマと、

 これを他の味方が付けることが自分の安全に繋がる、という説明によってなんとか鎮まった。

 

「エーエン、お前の役割は監視だ。俺も戦闘中はそこまで手が回らねぇから頼んだぜ」

(任された)

 

 今回の俺の仕事は、味方全体を見張っておかしな動きをする奴がいないかを監視する事だ。

 見つけ次第、ジェイクに報告をして、

 そいつらを殺すように、ジェイクから指示を出すことになっている。

 

 地味だが、仕事は仕事だ。キッチリやるとしよう。

 

「ここだな」

 

 ジェイクが呟いた面前には、デカい倉庫みたいな豆腐ハウスがあった。

 無骨なレンガが積まれているかと思えば、申し訳程度に光を取り入れる窓がある程度だ。

 ここが『欺瞞の翼』の根城なのか?だとしたら、見た目にはあまり気を使わないみたいだな。

 

 ジェイクが先頭に立って、ズカズカと中に入っていく。

 屋内は中々に広く、集団が入っても十分に戦う余裕がありそうだった。

 

 明らかに一盗賊団が持っているには、大きすぎる施設だ。

 しかしそれにしては戦利品が置かれている様子もないし、殺風景であること極まりない。

 俺たちを迎え撃って戦うために、わざわざ用意したと言われても頷ける。

 

 建物の中にいるのは、12人ほどの黒ずくめの服を着た男達だ。

 レベルは平均して40程度といった所か。

 装備もなかなか良質に見えるし、かなりの強敵といった所だろう。

 

 ジェイクに続いて、ぞろぞろと団員達も入ってくるが、

 そいつらを無視して、相手方で一番強そうなリーダー格の男が話しかけてきた。

 

「ふん、どうやら怖気つかずに来たようだな」

「抜かせ、この人数が見えねぇのか?誘い込んだようだが、お前らに勝ち目はねぇよ」

 

 そう勝ち誇ったようなセリフを言うジェイクだが、それでいて油断はしていない。

 じっくりと相手の動きを観察している様子だ。

 しかし、特に何かを仕掛けてくる様子はない。それは、俺が監視する味方達も同じだ。

 

 

「まさか、ホントに俺たちに勝てると思って喧嘩売ってきたのか?だとしたら、そいつは甘すぎるぜ!」

 

 そう言うと、ジェイクは全体に鼓舞を使い、それに合わせて参加の盗賊たちも吶喊する。

 斬りかかる集団、その先頭はジェイクだ。

 

 勢いよく雪崩込むこちら側に対して、向こうは散開しながら飛び道具を放つ。

 此方の人員はレベル20以下の奴らが殆どだ。

 2発3発と撃たれれば、鼓舞による契約があってもミンチになる奴が出てくる。

 

 敵に近づけるまでで、6人はやられただろうか。

 しかし、100人近い此方の数からすれば、その程度やられたところで、そこまで痛くは無い。

 

 屋内で限られた空間では逃げる範囲にも限界がある。

 こうして壁際に追い詰めれば、相手はテレポートで逃げるしかない。

 

 敵が各々杖を使ってショートテレポートを行う中、一人失敗するものがいた。

 そいつにジェイクが飛びつき、俺を突き刺す。

 

 この状況で俺が使う属性は、神経属性だ。

 通常の魔法などとは比べ物にならない衝撃に、敵はたまらず麻痺に陥る。

 

 そこへ、他の配下たちが飢えた魚の様に群がって、めった刺しにする。

 5秒と経たず、相手はミンチとなった。

 

「まずは一人だ!」

 ジェイクが歓喜の雄たけびを上げ、それに盗賊たちがうなり声で答える。

 

 後は、同じことを繰り返すだけだ。

 

 敵に突撃する。

 6人がやられる。

 ボレスの魔法が、相手のテレポートの杖を砕く。

 ジェイクが突き刺し、俺が麻痺らせ、めった刺しにする。

 

 敵に突撃する。

 5人がやられる。

 ゼスの魔法が、相手を一瞬硬直させる。

 ジェイクが突き刺し、俺が麻痺らせ、めった刺しにする。

 

 敵に吶喊する。

 4人がやられる。

 チアフーが飛びつき、相手にテレポートの杖を取り出させない。

 ジェイクが突き刺し、俺が麻痺らせ、めった刺しにする。

 

 敵に吶喊する。

 3人がやられる。

 カーラの弾丸が、相手が取り出したテレポートの杖を吹き飛ばす。

 ジェイクが突き刺し、俺が麻痺らせ、めった刺しにする。

 

 そして、ジェイクがもう一度味方に鼓舞をして、

 7人にまで減った敵に吶喊し相手に肉薄した時には、もはや味方がやられることはなかった。

 大してこちらは、まだ7割方が残っている。

 これは勝ったな、風呂食ってくるわ。

 

 いやしかし、マジでこれ負けはしないだろ。

 これまで裏切りの予兆はゼロだし、こっから裏切るメリットは無いし。

 例え核爆弾を持ち出してこようが、急いでテレポート阻害の装備外して、逃げればいいし。

 

 っていうか、相手の戦意も萎えてきてると思う。

 明らかに最初の時よりも動きにキレがないわ。

 

 

 

 やはり、消化試合だった。

 戦いは数であり、一度劣勢に陥った側に逆転の芽は存在しない。

 

 相手方も諦めずに、転移しながらヒット&アウェイを繰り返しているが、

 大した数に死人はコッチ側に出ず、向こう側は一人また一人と倒れていった。

 

 残る相手は、最も実力のあったリーダーと思しき男だけだが、そいつも満身創痍だ。

 奴はまた転移で距離を取ったが、肩で息をするレベルで疲労しており、コンディションも最悪だろう。

 

「ちょっと待ちな!お前ら」

 

 そんな男に、盗賊団員たちがまた突撃していこうとするのを、ジェイクが制止する。

 戸惑いながらも突撃を止める盗賊たちを後ろに、ジェイクが男へ近づいていく。

 

「勝負アリだ、何度やっても結果は変わらないだろうよ。

 これから俺達は、お前らが再起不能になるまで、また襲撃を繰り返すことになる。

 だが、お前らの出方次第ではやめてやってもいい」

 

 そういいながら、ジェイクは相手の前に立ち、剣を持ってない方の手を差し出した。

 男は、無言でジェイクの言葉を聞き続けている。

 

「俺の傘下に下れ、お前たち『欺瞞の翼』が俺らに従ったとなりゃあ、

 もうダルフィで俺に逆らう奴はいないだろうよ。

 お互い得をする、いい話だと思うが?」

「断る」

 

 にべもない、断固とした拒否だ。

 

「拒絶か。そりゃ、くだらないプライドか?

 俺たちが程々でやめるだろうって楽観視か?

 それとも……、バックに誰かが付いてやがんのか?」

「答える必要はない」

「ああ、そうかよ。じゃあ死にな!」

 

 そう言ってジェイクが俺を突き刺す。

 相手はかわす素振りを見せず、俺はその肉を貫いた。

 

 後はいつも通りだ。

 属性攻撃を流し込み、相手をミンチへと変える。

 

 決着こそ付いたものの、ジェイクは納得がいかない様子だった。

 

「いくら何でも、あっけなさすぎるぜ。

 こっちの損害もなくはないが、相手方の損害に全く釣り合ってねぇ。

 今回の事を繰り返せば、向こうは破滅だって分かってるはずだ」

 

 何が目的で、俺たちに喧嘩を売ったんだ?と首をひねるジェイクへ、カーラが近づいていく。

 

「とはいえ、いつまでもここに居座る訳にはいかないでしょう。

 一度アジトに引き上げない?

 帰りで奇襲があるかもだし、帰還の巻物を使ってもいいと思うけど」

「いや、襲撃の度に毎回帰還の巻物を使ってたら、流石に出費が痛すぎる。

 奇襲や裏切りがあるかの確認も兼ねて、テレポート阻害の装備をしたまま歩いて戻るぞ」

「それも悪くないわね。了解よ、ボス」

 

 

 

 

 少し時間を戻し、『欺瞞の翼』と『ミッドナイトの夜明け』団が抗争をしている待っ最中。

 そんな彼らを、遠く離れた場所から建物の窓越しに、狙撃銃のスコープで覗く女がいた。

 

「そうやんな、エタやんを使うならその戦い方が一番エエに決まっとる。分かってくれてて助かるわ」

 

 生きている武器専門の商人であるロックだ。

 彼女は自分が所持していた剣を使って、ジェイクがどのように戦っているかを確認していた。

 

「こんなら、セビちゃんとは別にウチの計画も上手く行きそうやな。準備しとくとしよ。

 ……っとと、そろそろ決着って所か」

 

 窓の向こうでは、ジェイクが最後の『欺瞞の翼』メンバーに止めを刺していた。

 周りを警戒しながら、敵アジトから引き上げを開始する『ミッドナイトの夜明け』団。

 

「うしうし、警戒しながら歩いて帰るパターンやな。一番都合がええ奴や」

 

 ロックはそう呟くと、軍用の通信機を用いて、何処かへと連絡を入れる。

 

「はいそうです。テレポート防止の装備したまま、歩いて帰って張りますわ。

 おっしゃってた通りに襲ったったらエエと思いますよ」

「もちろんです。ウチにとってはアイツは仇ですからね、ウソなんてつきませんて。

 しかも、ダルフィの支配者様にこれからもご贔屓にして頂けるんなら、それだけでも十分ですわ。

 ……いやいや、気が早くなんてありませんて、今後ともお願いしますぅ」

 

 調子よく媚びを売り、通信機の電源を切る。

 

「こんで、アイツらも仕舞やろなぁ。

 仕舞になった後の引導の準備、楽しみで仕方あらへんわ。

 でもまずは、特等席で仕舞になるとこ見とかな損や!」

 

 そう言って、ロックは視線を向ける。

 セビリスの思惑通りに動いた、愚かな盗賊団の一味へと。

*1
高額商品を持って他の町に移動する際に、別口で護衛を請けたりはするけどな。

 盗賊団の護衛とか、一般人だったらむしろ怖いだろうが、彼らには案外人気である

*2
そして俺の魅力エンチャントによる


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