◆それは生きている   作:まほれべぜろ

18 / 34
よそ者は嫌われる定めなんやなって

 さて、徴税施設であるパルミア大使館の襲撃日である。

 

 ジェイク率いる盗賊団の一党は、首都パルミアの北にある大使館、その入り口付近にて集合した。

 もちろん、彼らはお尋ね者の犯罪者集団であり、そんな所をガードに見つかれば即戦闘だ。

 

 ノースティリスのガード達は、実力はともかく記憶力と勇敢さは確かであり、

 捕まえるべき犯罪者が目の前にいれば、どんなに戦力差があろうと殴りかかってくる。

 なに?納税忘れて犯罪者になったから納税したいのに、ガードのせいで納税できない?知ら管。

 

 だが、そんな有能であるはずのガード達は、入り口に屯するジェイク達を見ても、

 不審そうにはすれども、攻撃の意思は見せていない。

 

 事前に使用した、変装セットの効果だ。

 

 ジェイク達の姿は、魔法にも近い変装能力によって、別の人間に見えるようなっている。

 これにより警戒されないままに、大使館の入り口まで近づいてきたのだ。

 

 冴えない市民の姿に扮したジェイクが、周りに聞こえないよう小声で団員に囁く。

 

「よし、首尾よく潜り込めたな。変装セットの効く時間も無限じゃねえ、手短に最終確認だ。

 俺が合図をしたら、全員用意してある強化用のポーションを飲め。

 飲み切り次第、俺がそこのガードに斬りかかる。後は事前に決めたとおりだ」

 

 盗賊団員たちは、それぞれ了解の意を示す。

 特にチアフーなどは非常に緊張した様子で、ブンブンと首を縦に振った。

 逆に双子魔術師は、これから本当に襲撃するのか?ってくらい弛緩しているから対照的だ。

 

 しかし、チアフーが緊張するのも無理はないだろう。

 

 まだ1年ちょいしかこの世界にいない俺でも分かるほど、大使館の襲撃ってのは大ゴトだ、

 一つの盗賊団がやろうとするような事じゃない。

 

 犯罪に対する敷居の低い、このノースティリスの住民にとっても、

 それだけ国の、それも金銭を集める施設を襲撃する、というのは一大事件なのだ。

 

 たとえ成功したとしても、それによって得る悪名が大きすぎる。

 もはやマトモに人生を過ごすことなど出来ないし、贖罪など望むべくもない*1

 

 ジェイクのように、それで得る悪名自体が目的でなければ、割に合わないのだ。

 落ち着かないチアフーの方が、正常な反応と言える。

 

 そんなチアフーを落ち着けるように、カーラが頭をなでる。

「大丈夫よ、アンタの仕事はいつも通りに奥に突っ込んで殺すだけ。

 後は私たちが何とかするわ、気楽にやんなさい」

「は、はいっす!大丈夫っす!」

 

 チアフーが大きく息を吐く、どうやら少しは落ち着いたようだ。

 果たして、チアフーの今後の人生が本当に大丈夫なのかは不明だが、

 俺的には問題ないから口に出したりはしない。

 まあ、口に出したところで俺の声が聞こえるのは、手に持っているジェイクだけだがな。

 

 チアフーの様子を確認したジェイクが、団員たちへ合図を出す。

 それと同時に、ジェイクを含む全員(俺を除く)が懐のポーションを飲みだした。

 

 5人の集団が行った突然の奇行に、当然ながらガードも無反応ではいない。

 

「おいお前ら、そこで何をしてる?大使館前で不審な行動は控えてもらおう!」

 

 驚きながらも、入り口に立つ二人のガードの内、一人が武器を構えながら此方へ近づいてくる。

 が、遅い。

 

「やなこった!」

 

 ジェイクは変装で隠していた俺を、ガードが着た鎧の隙間へと突っ込んだ。

 それと同時に、俺はあらん限りの追加攻撃を発動し、叩き込む。

 

 結果、ガードは何かよく分からんことになって、爆発四散した。

 

 同僚の突然の死に、残されたガードは少々うろたえた様子だったが、

 それでもホイッスルを吹き、大使館の中にいる味方へと合図を送った。

 

 そこへすぐさま、カーラが狙撃銃の弾をぶち込み、

 双子のライトニングボルト・アイスボルトも当たり、ミンチとなる。

 

 ここまでは、予め決めた手はず通りの流れだ。

 

 ホイッスルを鳴らされる前に、見張りを倒すのが理想ではあったが、

 無傷で入り口のガードを倒せた時点で充分、勢いのまま大使館の内部へと流れ込む。

 

「俺たちは泣く子も黙る盗賊団『ミッドナイトの夜明け』だ!

 市民と冒険者どもは、邪魔しなければ何もしないと約束してやる。

 ガードどもは大人しく降伏しろとは言わねぇ、命と金、全部寄こしなぁ!」

 

 ジェイクが威勢よく怒鳴りながら侵入すると、

 大使館を訪れていた市民たちが、慌てふためいて奥へと避難を始める。

 そして、ホイッスルの音を聞きつけたガード達が、こちらへ弓や銃を構えた。

 

 大使館内部は、広い玄関ホールと、そこからいくつかの小部屋に繋がるドアにて構成されている。

 そして俺たちのいる入り口は、ホールのど真ん中と言える位置だ。

 

 中のガードは、全員が玄関ホールに配置され、入り口を囲むように散らばっている。

 奴らは遠距離攻撃が使えるよう、国から訓練されているため、

 このままでは、いいように集中砲火を受けながら戦うことになる。

 

 

 そこでジェイクが、市民が邪魔で思うようにガード達が射撃できない隙に、

 ショートテレポートの巻物でランダムに転移を行う。

 2、3度と繰り返すとうまい事、入り口右手の壁際へ、転移することが出来た。

 

 すかさず紐を用いて、盗賊団のメンバーを近くへと引き寄せる。

 予め緊縛状態にされていた団員たちは、ジェイクの近くへとワープしてきた。

 どういう原理で飛んでくるのかは、盗賊団の誰も理解していないので解説不能である。

 

 こうなれば、ホールの広さが仇となる。

 入り口左手側のガード達は、距離が離れすぎて射撃がまともに届かない。

 

 比較的ながらも安全地帯を手に入れたジェイクは、盗賊団のメンバーを大声で『鼓舞』した。

 

 もちろん、別に気合を入れるためだけに声をかけたわけではなく、スキルの『鼓舞』だ。

 俺によって底上げされた、ジェイクの魅力を用いた『鼓舞』により、

 盗賊団は、戦闘力を飛躍的に向上させた。

 

 

 ここまでが、予め決めた作戦である。

 ちなみに、ショートテレポートからの紐による転移は俺の発案である。

 褒めてもいいよ。

 

 そしてここからは、細かい作戦は定められていない。

 ガード達の装備は統一されておらず、戦力が未知数であるため

 作戦を決めたところで、その通りに動くのが難しいから、らしい。

 

 つまり、高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応することとなる。

 

 とはいえ、やる事は昨日の戦闘と基本変わりないだろう。

 

 この盗賊団の役割は、かなり明確に割り振られている。

 すなわち、ジェイクが前衛、チアフーが遊撃、残り三人が後ろから援護だ。

 

 見たところ、ガードの人数は12、3人程度といった所だろうか。

 だが、増援はあるものと思った方が良いだろう。

 

 別隊に異変を知らせる手段がないとは思えない、

 襲撃を知れば、別の場所で警護しているガードが、帰還の魔法で駆けつけることが出来る。

 

 迅速な制圧と略奪が求められる状況だ。

 此方の目的は、税金の納められた徴税箱。

 その所有権さえ窃盗で得てしまえば、後はこちらが帰還の魔法で脱出してしまえばいい。

 

 市民たちが大よそ避難を終え、ガード達がいよいよ射撃を始める。

 レベルにして平均40程度になるだろう彼らの射撃の雨は、並みの冒険者なら即ミンチだ。

 

 だが、ジェイクの体には弾や矢がほとんど通っていない。

 

 ジェイクのレベルは、ガードよりも低く28しかない。

 

 だが、略奪により得た奇跡のような品質の装備達と、

 地のオパートスを信仰することで得た頑健な肉体が、

 ガードの持つ量産品の武器による射撃を、致命打に至らしめないのだ。

 

 そのまま射撃をライフで受けながら、ジェイクは一番近くのガードに肉薄し、俺を突き刺しにかかる。

 近づかれたガードは、弓から両手剣に持ち替えて、ノーガードで剣を突き刺し返してきた、

 

 恐らく、人数差を活かすために、あえて捨て駒となったのだろう。

 普通の戦士相手であれば、これでお互い致命傷を負い、5人しかいない襲撃者が4人になるわけだ。

 対して、ガードはまだまだ人数が残る事となる。

 

 ガードの行為が、愚かな判断だったとは言えまい。

 だが、俺という特殊な武器の前では、完璧に裏目だ。

 

 ガードに突き刺されたままとなった俺は、地獄属性の追加攻撃をし続ける。

 結果として、そいつが冥界に堕ちて、ジェイクが体に刺さった剣を抜くころには、

 ジェイクの体はガードに貫かれる前よりも、むしろ回復していた。

 

「おい、なんだあの頑丈さは!?大した実力には見えないのに、以上に固いぞ!?」

「いや違う、異常に再生しているんだ!あの大柄の男は、吸血鬼か何かだと思って戦え!」

 

 流石に戦闘を本職とするものであり、ガード達はジェイクの状況を正確に把握していた。

 ガードの中でも上位と思われる奴が、全員へジェイクの脅威となる部分を周知する。

 

 だが、後衛が多い俺たちにとって、ジェイクが注目されるのは好都合というものだ。

 

 ジェイクが次の獲物に肉薄しようとすれば、どうしても其方へ注意が向く。

 そこへ、ボレスのアイスボルトが突き刺さり、ゼスのライトニングボルトが貫く。

 

 先に魔術師を攻撃しようとしたガードへ、チアフーが斬りかかり、

 体勢を崩したところで、カーラがヘッドショットを叩きこんだ。

 

 恐らく傍目には、此方が有利な状況だ。

 ガード達に加勢すべきかと、奥からチラチラ覗いていた冒険者が引っ込んだからな。

 こっちが勝ちそうだと思い、余計な手出しをやめたのだろう。

 

 しかし、5人ほど始末して数が互角に近づくにつれて、

 敵が攻めるよりも守りを重視し始めた。

 

 徴税箱を中心に固まって、ジェイクに斬りつけられないようカバーし合い、

 魔法を撃たれたら散開してくるのだ。

 その結果として、思うように攻めきれないでいる。

 

 これは、増援を待つ構えへと切り替えたのだろう。

 相手の数が増えれば、まず勝ち目はなくなる。

 そうすれば、日和見の冒険者たちも向こうに加勢するだろうしな。

 

 それをジェイクも分かっているのか、幾分か焦れたような顔をし出している。

 

 増援が来る前に、今回の目的である徴税箱を奪い取らなくてはならない。

 だが、相手もこちらの目当てが分かっているのか、徴税箱を中心に集まってきている。

 

 この状況から隙をついて、徴税箱を窃盗するのは至難の業だ。

 今いるガードを殲滅する以外に、目的を達する手段は存在しないだろう。

 

 そして、長期戦が不利になる理由はもう一つある。

 

(ジェイク、そろそろチアフーにかかっていた加速が切れる頃合いだ)

「ちっ、もうそんな時間か。テメェら、あと一息だ!根性入れて押しこみやがれ!」

 

 そう言って、ジェイクは再び『鼓舞』を行う。

 強力なバフスキルである『鼓舞』だが、効果時間には限りがあり、定期的にかけなおす必要がある。

 今回の俺の仕事は、剣で斬る事と『鼓舞』が切れるタイミングを計るために、時間を数えることだ。

 

 バフスキルの効果は一定時間で切れる上に、目に見える形で切れるタイミングを計れない。

 なので、戦闘に参加こそするものの、自分で動くことのない俺が時間を数え、ジェイクに伝えている。

 地味であまり好きでない仕事だが、効果的であることは確かだ。

 

 しかし、このまま同じように続けるって訳にもいかんだろう。

 地獄属性でスタミナを回復しているとはいえ、『鼓舞』のスタミナ消費は大きいからな。

 その内に限界が来るのは、目に見えている。

 

(ジェイク、流石にもう仕掛け時なんじゃないのか?安定を取って倒しきれそうには見えないが)

「……そうだな。下がれチアフー!ボレス、ゼス!お前らは前に出ろ!」

「おうよボス!やってやろうぜブラザー」

「MVPは俺たちのもんだな、兄貴!」

 

 ジェイクもここを勝負所とみて、俺たちの配置を変える。

 前に出て敵の射撃を妨害していたチアフーが後ろに下がり、

 双子の魔術師がジェイクと共に、ガードを包囲するように前に出た。

 

「魔術師がわざわざ前に出てきただと……?」

 敵のガードは前に出た二人に警戒するが、警戒したとて対策できるかは別問題だ。

 

 集団を前にした魔術師の仕事、範囲火力の出番である。

 

 ボレスのアイスボールとゼスのライトニングボール*2が、徴税箱を守るように固まっていたガードと、

 その眼前にいたジェイク、そして相方の魔術師を巻き込んで大きな爆発を起こす。

 

 2つの方向から叩き込まれる強烈な魔力の奔流に、

 ガード達が放つ飛び道具は、まともに狙いを付けられていない。

 使用者以外を分け隔てなく傷つける、雷と氷の暴風だけがこの場を支配していた。

 

 勝敗を分けたのは、画一的で防御力のみを重視されたガード達の防具と、

 略奪によって得た強い属性耐性を持っている、ジェイクの防具の差。

 

 嵐の中で早く力尽きたのは、ガード達の方だった。

 

 ジェイクも満身創痍だが、ポーション1つを飲み干して何とか動き出す。

 

「よし、これで邪魔者はいねぇ!

 カーラ!チアフー!ボレスとゼスは魔力の使い過ぎで、もうまともに動けねぇ!

 俺が徴税箱を盗みきるまで、誰も寄せ付けないよう見張っとけ!」

 

 2人が市民たちに睨みを利かせて寄せ付けない間に、ジェイクが窃盗を行う。

 その場にいた冒険者たちも、ガードが倒されている現状で反抗する事は無く、

 邪魔が入ることなく徴税箱を手に入れることが出来た。

 

 すかさずジェイクが帰還の巻物を読み、周囲の大気がざわめき始める。

 

 団員たちが撤収のために集まり始める中で、

 ジェイクが一歩、怯える市民たちの方へ進み出て、声を張り上げる。

 

「さあ、お前らの税金はこの『ミッドナイトの夜明け』団が頂いた!

 てめぇらも周りに教えてやりな、イェルスの非力なガード共じゃ、俺たちの相手になりゃしないってな!」

 

 ジェイクが言い終わるとほぼ同時に、次元の扉が開いて俺たちをアジトへと転移させた。

 双子の魔術師はマナ切れで死にかけているものの、

 5人全員が生存した上で、徴税箱を奪取することが出来た。

 

 ほぼ、完全勝利と言ってよい結果だろう。

 素晴らしい結果に、ジェイクもいつも以上に上機嫌の様子だ。

 

「ハッハハハハハ!上出来じゃねえか、よくやったぞお前達!」

「やったっすね!やばいっす、最強っす!」

「いや、死ぬかと思ったぜ。カーラ、そこにおいてある魔力の巻物、取ってくれ」

「あっ、ずりぃぜ兄貴。俺にも頼む、カーラ」

「はいはい、アンタたちもお疲れ様ね」

 

 死線からの脱出に、団員たちの緊張も緩んだ様子だ。

 疲労でぐてっと座り込んでいる双子たちに、カーラが常備された魔力の巻物を渡す。

 

 思い思いの休息をとる団員達をよそに、ジェイクが戦利品の確認を行う。

 徴税箱の中からは、普段お目にかかれない量の金貨が溢れ出てきた。

 

『流石に多いな、大体どれくらいになりそうなんだ?』

「そうだな……まあ150万gpってとこなんじゃねぇか」

 

 150万か……、確かに大金ではあるが通常の盗賊稼業で稼げない額ではない。

 少なくとも大使館を襲うことによって、国から目を付けられたこと以上の見返りとは言えないだろう。

 となれば、重要なのは今回の襲撃で名声、悪名がどれだけ手に入るかという事だ。

 

「よしお前ら、取りあえず10万gpずつは山分けだ。酒に使うなり装備に使うなり好きにしやがれ!

 残りは新しい団員を迎えた後、この団を大きくするための資金に使う!」

「了解よ、ボス」

「まあ俺たちは、団の運営とか興味ないからな。アンタの好きにしてくれたらいいさ」

「強いて言うなら、新団員に魔術師が欲しいってくらいか。魔法談義に新しい刺激が欲しかった所だ」

「うし、そしたら酒買いに行くか!今日は団の飛躍を祈って飲もうじゃねぇか!」

 

 カラムと双子が、了承の返事をしてジェイクが意気揚々と出かけようとする。

 だが、少々納得がいかなそうな仕草の奴が一人いた。

 

 チアフーだ、何やら言いたげな様子でモジモジと指を絡ませている。

 

(ジェイク、何かチアフーが言いたそうだがいいのか?)

「あん?どうしたチアフー、何か意見でもあんのか?」

「ひょぇっ!?も、文句は何も無いっす!ごめんなさい!」

 

 急に振り返ったジェイクに、チアフーが驚いて謝り出した。

 

(おいジェイク、チアフーに俺の声は聞こえてないんだから、

 急にそんなこと言ったら、脅してるようにしか聞こえんだろう)

「ああ、そりゃそうか。

 ワリィなチアフー、<<エーエン>>の奴がお前が言いたいことがありそうだってんでな。

 別に言いたいことがあったら言ってくれりゃいいんだ。お前も仲間なんだからな」

「は、はいっす!でも、文句はホントにないっす!でも……」

 

 チアフーがおずおずと疑問を口に出す。

 

「あの、今回の襲撃って有名になるためにやったんっすよね?

 でもアソコに居た人しかウチたちの事を知らないし、本当に有名になれるっすか?」

「ほう、お前もいっちょ前にそんな事を考えるようになりやがったか」

 

 などと言って、ジェイクがチアフーの金髪をわしゃわしゃと搔きまわす。

 子分の成長が嬉しいのだろう、カーラも微笑まし気に見守っている。

 

「結論から言うと、絶対に有名になれるとは限らん。だが、俺はうまくいくと思ってる」

 

 ジェイクが椅子にどっかりと座って、自分の計画を楽しそうに語り始めた。

 

「俺が怯える市民共に、周りの奴らに今回の事を教えてやれって言ったのを覚えてるか?」

「覚えてるっす!でも別に、あいつ等が従う理由はないと思うっすけど……」

「そうだ、従う理由はない」

 

 ジェイクが言い切ると、チアフーが全く分からないといった顔で首を傾げる。

 

「従う理由こそないが、周りに言いたくなる理由はあるのさ。

 チアフー、お前あのガード共がパルミア人じゃないのは知ってるか?」

「し、知らないっす……」

「アイツらはイェルスの軍人どもでな、治安維持を俺たちがしてやるって

 勝手に押しかけて来たから、この国の奴に嫌われてるのさ」

 

 ここら辺の事情は、俺も知らんかったな。

 ガードがイェルス人な事とか初耳だ、ゲームでの公式設定なのか俺は知らんが。

 

 ジェイクが大げさに両腕を広げて話を続ける。

 横で倒れながら聞いている双子たちも、ニヤニヤと面白がっているようだ。

 

「さて、俺たちはそんなガード共をぶち殺して金を奪ったわけだ。

 当然市民共は思うだろうなぁ『偉そうなこと言った癖に、マトモに仕事もできないのか』とよ!

 こんな面白そうな話のタネがあれば、周りに言いふらしたくならねぇか?」

「なるっす!」

 

 嫌いな人間の失敗話は、最高の娯楽の一つだろう。

 それはこの世界でも変わらない訳だな。

 

「あの大使館には、多くの町から納税しに来た奴が集まってる。

 奴らは自分の町に戻って話す訳だ『ガードの奴らがしくじって、俺たちの税金が奪われた!』」

「奪われたっす!」

 

「話を聞いた奴は聞く訳だ『奪われたって、誰に奪われたんだよ』ってよぉ!」

「『ミッドナイトを照らす炎』団っす!」

 

「その盗賊団すげぇよなぁ!」

「すごいっす!」

 

「入りてぇよなぁ!」

「入りたいっす!」

 

 ワハハハハと笑い始めたジェイクとチアフー。

 盛り上がるにつれて、ジェイクのIQが下がっていくのを感じる。

 

「って、上手く行くと良いなってお話なのよね?ジェイク」

 

 そこへカーラが横から口を挟んだ。

 

「おいおいカーラ、水差すんじゃねぇよ」

「せっかくチアフーが先の事を気にしてるんだから、もう少し教えてあげましょうよ。

 チアフー、当然だけど話通りにうまくいくとは限らないわ。

 だから、手に入れたお金を使って、サクラを仕込んだりするのよ」

「桜っすか?」

 

 チアフーが今度はカーラに向かって首を傾げる。

 

「ごろつきに金を握らせて、色んな町の酒場で今回の事を広めさせるのよ。

 もちろん、それだけじゃあ限界があるから、運次第なところもあるけどね」

 

 はえー、とチアフーがアホっぽい声で感嘆する。

 

 そんなチアフーに復活した双子達が左右から寄ってきて、二人で肩をガッシリ組んできた。

 

「さて、そんなチアフーに問題を出してやろう」

「今話題の盗賊団!それに入りたいと思わせるのに、大切なことがあるんだぜ」

「そう、今すぐできることだ、何だと思うよ?」

「え?え?」

 

 チアフーが、右に左に顔を向けて、「えーと」と考え込む。

 

「わ、分かんないっす」

「っかぁーーーー、分かんないとよ兄貴」

「なら嫌になるほど教えてやらねぇとなあ、ブラザー」

 

 双子は、顔を見合わせて楽しそうに笑った。

 

「それは仕事が上手く行ったら、楽しく酒を飲むことだ!」

「俺たちが楽しんでないのに、新しく入ろうって団員がいるわけねぇよなぁ!」

「おいお前ら」

 

 ジェイクがチアフーを挟んで、右に左にと揺さぶっている双子の肩をつかむ。

 

「分かってんじゃねぇか、ならさっさと酒買いに行くぞ!

 チアフー、好きなメシ選ばせてやんぞ、お前も来るか?」

「行くっす!」

 

(俺も団員としての権利を主張したいんだが、何か新鮮な血飲めるサービスとかない?)

「おう<<エーエン>>、今日のはいい仕事だったぜ。

 生きた家畜もいくらか売ってんだろ、手前も良さそうなの見繕えや」

 

 やったぜ。やっぱりどんな血でもいいから、折角の宴会なら俺も飲みたいしな。

 

 こうして俺達の徴税所襲撃は、大成功にて幕を占めることとなり、

 盗賊団は、俺を手に入れた時の歓迎会以上の宴会を催した。

 

 

 

 そしてそこから一か月後。

『ミッドナイトを照らす炎』団の名は、パルミア国でも有数の盗賊団として広まったのだった。

*1
罪を取り除くのに掛かる、お布施の金額的な意味で

*2
ライトニングボールなんてelonaに存在しないって?omakeにはあるからセーフ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。