トメィト量産工場   作:トメィト

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まさかのSAOの続きです。


逃げたいのはこっちなんですけど……

 

 

 

 

 

 

 

 なんか知らないけれども攻略組の一人となっていた。

 そのことに気が付いたのは割と最近の出来事である。俺としては、この世界のことを教えてくれたアルゴの手伝いをするためにとりあえず前線で敵を倒して情報を献上していただけなのだが……。

 そのことをアルゴに伝えたら呆れられた。「そんな軽い気持ちで最前線にいるプレイヤーなんてフリっちだけだろうなぁ……」なんて言われてしまった。

 

 ……まぁ、なんというか、前にも思ったが生きていた世界が文字通り違うからなぁ。こればっかりは環境の違いということだろう。アルゴにこの世界のこと、そして現実世界と呼ばれる世界のことの話を当たり障りのない感じでかつて話してもらったのだが、どうやら現実世界にはここのような怪物やアラガミという生物はおらず、アラガミが現れる前の俺たちの世界のような感じだと言っていたし。

 そんな環境下で生きて来ていたのであれば、あの時のプレイヤーたちの怯えようにも納得ができる。

 

 

 あ、でも。二十五回ごとに現れるボスだけは少々楽しめたかもしれない。

 普通のボスとは文字通り格が違う強さを持っていた。攻撃範囲は長く、防御も攻撃スピードも格段と上がっていた。倒せたけれども。

 しかし、ここでも見どころのある人たちは多くいた。黒の剣士という二つ名を持つキリトというアルゴのお得意さん。それに血盟騎士団なる集団の副団長を務めている閃光アスナ。

 二つ名の中二的なセンスや、それが浸透していて恥ずかしくないんですか?と思いたくなるようなものだが、その強さは他のプレイヤーと一線を画すものだ。レベルを考慮してもその実力に偽りなどないだろう。あれは自らの死線を何度も潜り抜けて来たからこそつく力だ。

 逆に、少々疑問を生じさせるのが血盟騎士団団長、ヒースクリフである。技術は確かだなのだが、なんというか必死さがないというか……あのユニークスキルというのもなんか違和感があるし……。

 そのことをアルゴに聞いてみたが彼女もわからないそうだ。まぁ、どれだけ情報通であっても所詮はプレイヤー。ゲームを作っている側でない限りすべてを知ることは難しいだろうね。

 

 

 と、こんなことがありつつもプレイヤーのみんなは順調に攻略を進めてきたわけだ。現在の階層は74階でそろそろてっぺんが見えてきたというところ。そんな時に俺はどうしているのかと言われれば特に変わったことはない。いつも通りアルゴの手伝いをして、彼女に近づいて不当に情報を貰って行こうとする連中にお仕置きを施して迷宮区を適当に徘徊する日々を送っている。

 

 今日も今日とて、情報収集をしているアルゴの傍らに控えて敵を滅殺する簡単なお仕事中だ。

 

「相変わらずでたらめな強さだね……」

 

「まぁ、そこら辺のプレイヤーとは色々と環境が違うから」

 

「そんなのは出会ったその時からわかってたよ」

 

 溜息を吐きつつ、俺が相手取っていた敵の攻撃パターンをメモしていくアルゴ。いわれのない誹謗中傷を受けているにも関わらずこういったことをやめないのは俺達神機使いにも似たものを感じる。

 あの職業も、守るはずの人たちから罵倒されたり石投げつけられたりするなんてこと、日常茶飯事だからなぁ……。難しいもんだね。人のためになるってことは。

 

「ん?どうした、フリっち。オイラの顔に何かついてる?」

 

「いや、唯アルゴはえらいと思って」

 

「きゅ、急にどうした!?」

 

 不意に言われた一言に顔を真っ赤にするアルゴ。いやはや、ゲームということで下手に表情を隠せないということがその真っ赤さ加減を更に高めていた。これは可愛い。

 

「フリっち!からかうのはやめてくれない!?」

 

「悪いね☆」

 

 この後滅茶苦茶殴られた。

 幸いダメージは発生せず、アルゴのアイコンがオレンジにならなくてよかったと思う。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 アルゴの手伝いを終えた仁慈はやることも特になかったために現在の最前線である七十四層の迷宮区へと赴いていた。そして、ポップする人型のトカゲ、リザードマンが繰り出す剣戟をぎりぎりのところで翻し、敵のソードスキルが終えた硬直時間を狙う。そして、剣戟を終えたところで持っていた大剣を振り回し、リザードマンを空中にうち上げる。

 宙に浮くなど想定していなかったのか、どう行動していいのかわからないリザードマンを華麗にスルーすると、仁慈はそのままリザードマンを地面に二度と落すことなく切り刻んだ。

 

「わっしょいわっしょい」

 

 これは酷い。

 もはや戦いなどと言えるわけもなく、唯のいじめと化していた。その時、仁慈のすぐ近くに別の敵が出現する。その出現を素早く察知した仁慈はいじめをいったん中断すると、アルゴの情報で獲得していた格闘スキルを使用した蹴りを跳んで放つ。

 するとボールのようにして飛んでいったリザードマンは出現した敵と激突、一方は体勢を崩し、もう一方はポリゴンの欠片となって消えていった。

 自分がいじめていたリザードマンの死にざまなど視界の片隅にも入れずに態勢を崩した敵へと接近、大剣を横薙ぎに振り払う。集中的に振られた筋力から生み出される攻撃にそのHPを一気に削り取られてしまった敵はそのままリザードマンと同じくポリゴンの欠片となる。仁慈の視界に今の戦闘で得られた経験値とお金が表示されたことによって彼も戦闘態勢を解除した。

 

「ふぅー……よしっ」

 

『よしじゃない(でしょ)!!』

 

 今の戦闘を見ていたらしい男女の声が、仁慈に対して激しいツッコミを入れる。仁慈が後ろを振り返ってみればそこには黒の剣士キリトと閃光のアスナのオセロコンビ(仁慈命名)がやって来ていた。

 

「やあ白黒夫婦。こんなところでどうした?ここにデートはあまりいい趣味とは言えないけれど」

 

「えぇ!?い、嫌だなぁ!フリークスさん!デートなんかじゃないですよ!ましてや夫婦だなんてそんな……!べ、別に嫌じゃないですけれども、なんというか心の準備が……!」

 

「……ここには普通に攻略で来たんだ。お前の方こそ、どうしたんだ?」

 

「暇つぶし」

 

「最前線の迷宮区を暇つぶしに使う奴なんてお前くらいだろうなぁ……」

 

 キリトの呟きに仁慈は笑顔を返すだけだった。彼は目の前にいる二人と血盟騎士団団長、ヒースクリフと同様に二つ名がついている。彼のプレイヤーネームと駆けられたそれは彼の表現としては最適すぎた。

 

 

―――怪物

 

 

 プレイヤーネームを日本読みにしただけのそれは、万人に納得を与えてすぐに浸透したのである。デスゲームをデスゲームとも思わない行動の数々、ソードスキルを使わずに敵を屠っていくその異常性。一部では存在自体が茅場明彦唯一の誤算とまで言われているのだ。彼の二つ名に、本人以外の人物が納得を返したのである。

 

 

「そうだフリークス。俺たちと一緒に来ないか?今丁度マッピングしている途中なんだ。アンタみたいな強いプレイヤーが居れば、かなり捗る」

 

「俺としては別に構わないけど……」

 

 仁慈はここで一度言葉を切ると、アスナの方をチラリと見た。そこには未だに若干トリップしているアスナが居た。

 ここで一緒について行くとなると、彼女が自分に牙を向くかもしれない。後ろから優雅の如くバッサリざっくりいかれるのは勘弁してほしい仁慈はここで断りを入れようとしたのだが、ここで現実へと生還をタイミングよく果たしたアスナが待ったをかけた。

 

「別に構いませんよ。フリークスさんなら」

 

「そう?」

 

 意外な言葉をかけられ、面を喰らう仁慈だったが、ここは一応迷宮区。デートよりも命を取るのは当たり前かと納得をして彼らに同行することにしたのだった。

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 やっぱり只者じゃない。

 

 目の前で、快進撃を続ける攻略組のプレイヤー、フリークスを観察しながら俺はそう確信した。

 通常、このゲームの売りにして俺達プレイヤー最大の武器でもあるソードスキルを使わないということは本来在り得ない。あれは攻撃を勝手に行ってくれるだけでなくダメージにも補正を入れてくれるのだから。多少の消費は避けられないが、それに見合うだけの効果を持っているのだ。

 

 だが、目の前の非常識が具現化したような男はこのソードスキルを一切使わない。すべて自分の力量だけで剣を振るい、この世界の最前線を走り続けてきたのだ。その強さから一部では茅場本人なのでは?とささやかれたこともあるのだが、その件に関しては自分が作ったソードスキルを使わないはずはないということと、明らかに常識を逸脱した行動の数々から否定された。

 

「フリークスさん。スイッチ!」

 

「了解」

 

 アスナの攻撃で怯んだエネミーの前に体を躍らせたフリークス。そのままかなりの重量と思われる両手剣を片手で扱い、敵を両断する。

 あれを振るう筋力ステータスと、注意していなければ見えないような速さで振るわれたことによりソードスキルにも劣らない威力を得たそれは容赦なく敵をポリゴンの欠片へと変貌させた。

 

「お疲れ」

 

 たった今、戦闘を終えた二人にねぎらいを賭けながらフリークスの様子をうかがう。特に疲れた様子もなく、自然と周囲を警戒しながら佇むその姿は初めて会ったときから変わらない。

 そう……未だ、一桁しか開放できていなかった頃に会った時と変わらずに。

 

 現在、七十四層まで解放されたこの状況であればこれができることに何ら不思議はない。しかし、これをデスゲームが始まったばかりのあの時にできるかと言われればほぼ不可能だと言ってもいいだろう。これは現実でも似たようなことをしてきたということに他ならない。

 ま、リアルの詮索なんてものはこの世界では最大のタブーだし、あまり気にしても仕方がないんだけどな。

 

「キリト君ーいくよー」

 

「今行く」

 

 アスナに呼ばれて一先ず思考を断ち切る。考え事は後にした方がいい。いくら強いプレイヤーが居るからって、油断していれば速攻でHPを0になることだってあるかもしれないからな。……特に、俺は耐久には振ってないこともある。

 

 

 だが、俺の心配とは裏腹にマッピングは順調に進んでいった。どれもこれもプレイヤーの練度が並外れていることが大きい。フリークスやアスナは攻略組でもトップの実力を持つプレイヤーだ。安定感が違う。

 

 そうして順調に進んだ結果、目の前が目の前のボス部屋だった。

 

「これは……」

 

「明らかにボス部屋だねぇ」

 

「一応、どんな姿かだけ確認しておくか……。二人とも転移結晶は持ったな?」

 

 アスナとフリークスに確認を取る。二人が頷いたことを確認すると俺はゆっくりとボス部屋を開けた。部屋の中には明かりがなくボスの姿も見えない。そこで俺たちは扉が閉まらない限界ぎりぎりのところまで進み、ボスの出現を試みた。すると、

 

 

―――――ボボボボボボ!

 

 

 一斉に部屋の隅へと青い炎がともり、ボス部屋の中を見渡すことが可能になった。そしておれたちがそこで見たものは、一言でいうなれば悪魔であった。

 

 見上げるようなその体躯は、盛り上がった筋肉に包まれていて、肌の色は部屋をともす青い炎にも負けないような深い青。頭の両側から生えるは捻じれた角。瞳の色はこれまた炎にも負けない青色で合った。

 

 悪魔型のモンスターはRPGの定番といっていいが、こうして直に対峙してみると恐怖を抑え込めない。なんというのだろうか。今まで戦ってきた的とは色々根本的に違うのだ。俺たちの認識的な意味で。

 

 敵のHPを知るす四本のバーの上にはこう書かれていた。The Gleameye's。間違いない。定冠詞が付いていることからこのモンスターがこの階層のボスだ。

 

「GUAAAAAAAAA!!」

 

 尋常ではない咆哮と共にボスモンスターは俺達に向って走って来た。その巨大な体躯がかなりの速度で迫ってくる光景に恐ろしさを感じないはずもなく、

 

「うわぁぁぁああ!!」

 

「きゃああああ!!」

 

「えっ!?ちょっ、お前ら!転移アイテム使えよ!」

 

 フリークスの言葉も聞かず、ステータスに任せてその場から全力で後退した。フリークス、置いて行ってしまってすまん。

 

 

 


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