マイクラな使い魔   作:あるなし

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クモの糸と鉄ブロックとハアン

 探しても探しても羊が見つからないから、マイン・クラフトは大村落の隅々に徘徊してハサミを使用することが日課となっていた。

 今日も空中に土ブロックの足場を作ってアーチ状の梁をなぞるように作業していく。クモの巣の収集である。用途に少々のもったいなさを覚えつつも手早くアイテムスロットへスタックだ。後で羊毛にする。

 

「いつもありがとうございます。高い位置のお掃除は私たちには難しいんですけど、貴族の皆様は空を飛ぶから目につくらしくて……」

 

 土ブロックを殴って回収、廊下へ降り立つと、黒色頭部の村人もどきがお辞儀をしてきた。だからマインは中腰になって会釈した。この村人もどきは当初から随分と友好的である。

 

「あ! こんなところにいた!」

 

 今度はピンク頭のルイズが来た。この数日で慣れてきたとはいえ、小走りに近寄られると反射的に間合いを開けそうになる。クリーパーとの闘争の歴史が身体に染みついているからだ。

 

「事後承諾もいいところだけど、あんたの畑、魔法学院の実験農場ということで王国に認可されたそうよ」

「よかったですね、ミス・ヴァリエール。心配していらっしゃいましたし」

「ええ、本当にね。あんなに楽しそうにされると無碍にもできないし……」

「マインさん、とっても嬉しそうに鍬を振りますもんね……その、目にも留まらない速さで」

「もうそれくらいじゃ驚かないけどね……何アルパンあるのよ、あの畑。厳重に柵で囲ってるし、夜も煌々と照らしてるし」

「ふふ、私は綺麗で好きですよ。マインさんの畑」

「なんか見物客も多いみたいね。まあ、わたしも嫌いじゃないけど」

 

 このところルイズと黒色頭部は頻繁に交流している。実に村人らしい行動で、世界は変われど村人は村人なのだなとマインを和ませることしきりである。小麦を与えてもいいのだが、既に村人もどきの数はおびただしい。

 そこでふと気づいたことがあって、マインは愕然とした。これだけの村人もどきがいるのならば当然存在してしかるべきものを見かけない真相に思い至ったのである。

 

 先日全滅させたレア・スポーン……あれ、もしかしてゴーレムだったんじゃ?

 

 見目はよくとも脆いしドロップしないしあれ以降湧きもしないしで、マインはあれに豚未満の評価を下していた。今もそう思う。しかし役割があったのだとすれば話は別だ。

 既存建築物の保護を信条とするマインにとって、村の備品ともいえるゴーレムもまた保護対象なのだから。

 

「……何を難しい顔して首傾げてるのかしらね、こいつは。食事の時以外はどこにいるかもわからない使い魔のくせに。何で主人であるわたしが保護者みたいな気分なのよ、まったく」

「あ、でも、マインさんって厨房で人気ですよ? すごく一生懸命に食べてくださいますから」

「使用人に嫌われずに済んだのはシエスタのお陰よ。改めてお礼を言うわ。ありがとう」

「滅相もないことです。当たり前のことをしたまでですから」

「厨房に押し入って勝手に野菜を持ってく当たり前なんてないわ。どうもマインには他人の財産についての常識が欠けてる気がするのよね……シエスタが取りなしてくれなかったら、こいつ、何もかも持ち出しちゃったかもしれない」

「そんなことないですよ。もう持っていった分以上のものを持ってきてくれましたし」

「それも非常識なのよ。どうして二日三日でジャガイモやニンジンが増えるのよ……」

「それは……その、魔法なのでは?」

「そうだとしたら、オールド・オスマンも知らない魔法ってことになるんだけどね……多分そうなんだろうけどね……こいつ、マインだし」

 

 失われた防衛力をアイアン・ゴーレムでもって弁償すべきだろうか。

 村人もどきは多いから少しくらい数が減った方がいい気もするマインだが、それはそれ、これはこれである。とりあえず中庭ごとに一体ずつ配置しておけば村人もどきも安心するだろうか。あの金色頭部もバラを渡してもらえるかもしれない。

 

「ああ、ここにいたのかい」

 

 奇遇かな、それが来た。この金色頭部も初遭遇以降によく見かける個体だ。奇妙な習性をもつ村人もどきで、剣や防具をこさえるところから鍛冶系の村人と思われる。

 

「今回は自信作なんだ。少しでも君の剣に近づけていればいいんだが」

 

 渡されたのはやや赤みがかった金属でできた剣である。レア・スポーンの素材と似ているがこちらのほうが硬そうだ。いつもながら柄や鍔にバラの装飾が施されていてマインを唸らせる。

 

「ギーシュ、あんたもよくやるわね。『青銅』はもうやめるの?」

「その名が嫌いなわけじゃないさ。しかしだからといって今のままではいられない。金属を扱うものにとって『脆い』という評判は絶対に甘受できないんだ」

「ふーん、そう……」

 

 マインは中庭へ出て剣を振った。これも毎度のことながら常時クリティカルできそうな力の充実を覚える。ポーション要らずといったところだ。金色頭部がじっとこちらを見ているのを首振り確認する。

 大丈夫、お前の期待通りにコイツのお出ましだ……と設置したのは鉄ブロックだ。

 最初は偶然だった。仮拠点の装飾にどうかと作成した鉄ブロックが、丁度フラフラとやってきていた金色頭部の気を引いた。どうやら鉄インゴットが欲しいようだ。

 金色頭部は何やら興奮した様子でペタペタと触り、終いにはレア・スポーンと同様の味わい深い金属剣で採取を試みた。白頭白鬚に続く暴挙だが、剣が折れるという珍事でもってマインを笑わせた。石ツルハシでも掘れるのになあ。

 それ以来、この金色頭部は毎日のように剣を持ってくる。マインはその度に鉄ブロックを設置する。採取できるかどうか試し掘りならぬ試し切りをするためである。アイテムスロットに鉄ブロックを常駐させるほどにこの行為が気に入っている。

 

「今日こそ、僕の剣はあの鉄に傷をつける……!」

「でも、あれってどんなに凄くても鉄でしょ? マインの剣や鎧って明らかに鉄以上の何かだったけど」

「ルイズ、物事には順番があるんだよ。最初から最後を目指していたら途方にくれてしまう。君に言うのもなんだが、『ドット』には『ドット』の、『ライン』には『ライン』の挑戦すべき事柄がある。『錬金』という魔法は特にそういった要素が強いんじゃないかな? 報われるべく地道な努力を重ねるしかないのさ」

「ふーん……順番と努力、ね……」

 

 鉄ブロックに切りつけた。刃が欠けた。金色頭部がハアンと大きく鳴いた。

 マインは、懐かしいこれが聞きたくてやっているのである。


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