マイクラな使い魔   作:あるなし

12 / 38
エンチャントと防具立てと取引

「おでれーた。てめ、『使い手』か。しかも並大抵じゃねえ」

 

 興味本位で入った家には大量の武器が陳列されていたから、マイン・クラフトはご機嫌だった。ニコニコ笑顔でグリグリ首振りである。キレのいい中腰も織り交ぜる。

 防具ならわかる。実際、ここにも金属製で造形のいい甲冑が飾られている。防具立ては実に魅力的な装飾品なのだ。革、鉄、金、ダイヤの四種フル装備は基本として、それらを組み合わせることも面白い。ウィザースケルトンの頭蓋骨やカボチャを置いても楽しい。総じて愉快で見ごたえがあるものだ。

 

「マイン、どうせなら他のにしたら? もっと綺麗でしゃべらないやつ」

「いやまったくその通りで。昨今では王宮の御方々の間で下僕にこのような剣を佩かせることが流行となっておりまして」

「へえ? 確かに綺麗ね。華奢だけど」

「やはり高貴なる方々に侍るとなれば相応の品物でなければお見苦しく。何せ『土くれ』はメイジの盗賊、平民の力でもって立ち向かうとなれば刃の大きさよりもむしろ刃に込められた心意気というものが肝要かと」

「ふーん」

 

 しかし、この家は武器を飾っている。しかも額縁に入れるでもなく直置きだ。モンスターに拾われることを思えば鬼気迫る行為といっていい。ゾンビやスケルトンも武装すればそれなり以上の脅威となる。

 マインはふと昔を思った。山岳バイオームで仮拠点の建設を余儀なくされた夜、闇濃き木々の合間から金色に光る人影が現れた。金の防具を装備したスケルトンである。頭に二本、体に五本、膝に一本の矢を受ける激闘であった。またある夜はリスポーンが災いしてエンチャント済みダイヤ剣を装備したゾンビと遭遇した。土ブロックを積んで朝を待つほどの死闘であった。

 武器と防具はそのままに力なのだ。ネザーにおけるゾンビピッグマン大集団との乱闘も、相手の武装が違えば切り刻まれていたのはマインであったろう。

 

「……おめえ、本当に人間か? このデルフリンガーさまがちょっと刀身に寒気を覚えるほどじゃねえか。何をどんだけ斬ってきたらこうなるんだ?」

 

 斬新だ。この部屋の内装は大胆不敵にして勇猛果敢なのだ。

 建築というとどうしても屋根や窓といった外観に力をそそぎがちだが、やはり内側を充実させてこそ醸される魅力というものがある。そしてそれはベッドやチェストといった必要なものではなしに、旗やカーペットといった装飾品、暖炉や風呂といった嗜好品にどれだけこだわりを持てるかによって決まってくるのだ。

 

「ふん、上等だ。こんな世の中にゃ飽き飽きしてたところさ。てめ、俺を買え」

 

 それにしても、とマインは先ほどから手に持っている剣を見た。薄汚れているが他のどれよりも強力なエンチャントがかかっている。その内容はわからないがマインをして息を呑むほどのエネルギーだ。

 見た目からしてアンブレイキングやシャープネスではなさそうだ。アンデッドや虫がよく斬れる類だろうか。それとも未知の効果があるのだろうか。興味が尽きない。

 

「そんなにそれが気に入ったの?」

「剣に家格を見る手合いもおります。若奥様の下僕であればもう大分豪奢な品の方が……」

「マインが決めたらそれでいいのよ。どうせここにあるどんな剣よりもマインの剣の方が凄いんだし」

「……これは聞き捨てにできないことをおっしゃいますな。当店にはかのゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿の鍛えし斬鉄の一振りがございます」

「鉄を斬るくらい、そのうちギーシュの剣だってやってのけるわ」

 

 何やら後ろでルイズが賑やかだ。このピンク頭にはクリーパーとも村人もどきとも判別の難しいところがある。爆発が全てという気がする一方で、このように村人特有の交流をする光景をしばしば見かけるのだ。

 

「あれを貰うわ。おいくら?」

「ちっ。へえへえ、あれでしたら百エキューで結構でさ」

 

 マインは驚いた。とうとうルイズが取引までしはじめたからである。いよいよもって謎めいた生態だ。あるいはエンダーマンよろしくテレポートもするのかもしれない。そういえば目が合うと近づいてくることが多い。

 

「そ、そんなにビックリしなくてもいいじゃない。プレゼントよ。わたしはあんたの主人なんだから、それくらいのことはするの。べ、べべ別に、励ましてもらったからとかじゃないのよ? あんまりあんたが欲しそうにしてるから、その、しょうがいなって思ったの! あんたお金持ってないだろうし」

 

 マインは笑顔になった。面白い。こうなると俄然ルイズの村人もどき的性質に興味が湧いてくる。取引してみたい。このピンク頭の摩訶不思議個体はどのような物品を出してくるのだろうか。

 よし、やってみよう。

 しかしところ変われば勝手も変わるものだ。マインはとりあえずアイテムスロットに入っている中からそれらしいものを出してルイズの反応を見ることにした。 一つ一つ見せていけば欲するものがわかる。

 

「そのどこからともなく物を出す魔法、一体何なのかしらね……って、え、何? くれるの? わあ、綺麗な緑色……って、えええ! これエメラルドじゃない! 何て大きさ! え、えええええ!? ルビーも!? サファイアも!? どれも見たことないくらい大きい粒だわ!」

 

 よしよしやはり、とマインは笑む。エメラルドは村人と取引する際の定番であるし、新アイテムである紅玉と蒼玉も似たようなところがある気がしていたのだ。硬さ、頑丈さについては新アイテムの方が優秀であるが。

 

「ありがとう……でも貰えないわ」

 

 そこでマインはハタと気づいた。

 どうして自分は紅玉と蒼玉を素材に道具を作っていないのだろうか。硬さこそ調べたものの、エメラルドに似ているというだけで取引用チェストに分類したのはいかにも浅慮ではないか。ダイヤほどではないにしろ丈夫な素材だというのに。

 

「わたしはまだ、あんたを使い魔とするに相応しい主人になってない。だから、わたしからあんたに何かしてあげるのはいいけど……あんたに何かしてもらう資格がない。わかるのよ。あんたのことがよくわからないって事実が、わたしにそうわからせるの」

 

 目を閉じ、フウと息を吐き、首を横に振って……マインはまたも村人もどきに教えられたことを知った。この家の前に出ていた看板だ。看板といえば木製とマインは決めつけていた。それをここでは金属で作り、しかも長方形でなく剣の形にデザインしている。思えばそれに感動してこそこの家の扉を開けたのだった。

 

「大丈夫。わたしは何も諦めてないの。マインは待ってて? いつかきっと、わたしはあんたが宝石を渡すに足る主人になるわ。そんなに遠い話じゃないの。すぐよ。すぐにそうなってやるんだから!」

 

 よし、とりあえず紅玉と蒼玉でツルハシを作ろう。そして性能を試しつつ丸石を大量に採掘するのだ。ここの近場で。

 マインはウムウムと頷いた。

 ルイズとの取引は成立しなかったが、まあ、それもまたよくある話であった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。