元駄目人間が異世界から来るそうですよ? ~のび太と問題児の異世界大冒険~ 作:虎吉戦車
そのため、めっちゃ長くなりました。
「…………うまく呼び出せた?黒ウサギ」
「みたいですねえ、ジン坊っちゃん」
小さな体躯に似合わないダボダボなローブを着た少年と耳の生えた扇情的な格好をした十五、六歳ほどの少女が言葉を交わす。
「まあ、あとは運任せノリ任せって奴でございますね。あまり悲観的になると良くないですよ?表面上は素敵な場所だと取り繕わないと。初対面で『実は私達のコミュニティ、全壊末期の崖っぷちなんです!』と伝えてしまうのは簡単ですが、それではメンバーに加わるのも警戒されてしまうと黒ウサギは思います」
おどけたようにコロコロと表情を変えながら力説する黒ウサギに、は同意するように少年は頷いた。
「何から何まで任せて悪いけど…………彼らの迎え、お願いできる?」
「任されました」
ピョン、と椅子から黒ウサギが跳ね、ドアに手をかけ出ていこうとすると、少年は不安そうな声をかけた。
「彼らの来訪は…………僕らのコミュニティを救ってくれるだろうか」
「………。さあ?けど”主催者(ホスト)”曰く、これだけは保証してくれました」
クルリとスカートを靡かせて振り返る。
おどけるように悪戯っぽく笑った黒ウサギは、
「彼ら三人は………人類最高クラスのギフト所持者だ、と」
視界は間を置かずに開けた。
嫌がおうでも自分が異常な高度に身をおいていることを理解させられる。
「うわああああああああああああああああああああああ死にたくないいいいいいいいいいいいいいい」
ドラえもんとの楽しかった思い出が頭を駆け抜ける。
あぁ、これが走馬灯なんだね………
そんなことを考えていたら、幾重もの薄い水膜がその身の衝撃をやわらげ、辛うじて怪我をしないスピードで湖に放り出された。
今度も理解が追い付かないが、息をするために必死に水面へと浮かぶ。
20秒ほど息を吸ったり吐いたりしていたら、冷静さを取り戻してきた。
周りを見渡すと、自分の他に三人のー恐らく自分より年下な少年少女がそれぞれ悪態をつきながら、既に陸地にあがっていた。
「し、信じられないわ!まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」
「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」
「………。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」
「俺は問題ない」
「そう。身勝手ね」
金髪の不良っぽい少年と気の強いお嬢様という感じの少女が弾丸のようなトークをしている横で、三毛猫を抱えた少女が
、
「此処………どこだろう?」
「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?まず、間違いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」
「そうだけど、まずは”オマエ”って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」
「………春日部耀。以下同文」
「そう。よろしく春日部さん。じゃあ、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」
「高圧的な自己紹介をありがとうよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」
「そう。取り扱い説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」
「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」
なんだかヤバそうな人達だ…………。
「最後に未だに湖に使っている冴えない雰囲気の貴方は?」
「へ?僕!?」
「貴方以外誰がいるのよ」
「あ、え、えーっと。野比のび太です。22歳です」
「そう。よろしくのび太さん」
「一番頼りにならなさそうな年長だな、ハハ」
二人の辛辣な言葉が耳に入る。
うう………僕って未だに冴えないように見えるのかな?
心からケラケラと笑う逆廻十六夜。
傲慢そうに顔を背ける久遠飛鳥。
我関せず無関心を装う春日部耀。
そして、ようやく陸地に上がった野比のび太。
そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。
(うわぁ…………なんか問題児ばっかりみたいですねえ…………)
召喚しといてアレだが………彼らが協力する姿は、客観的に想像できそうにない。黒ウサギは陰鬱そうに重くため息を吐くのだった。
十六夜君は苛立たし気に言う。
「て、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」
「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」
「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」
全くだよ!なんで三人ともそんなに冷静なの!?
僕は現在進行形で状況が掴めてないけど!?
そんなことを考えていると、ふと十六夜君がため息交じりに呟く。
「―――仕方がねえな。こうなったら、そこに隠れている奴にても話を聞くか?」
え?
「なんだ、貴方も気づいていたの?」
「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気づいてい
たんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「…………へえ?面白いなお前」
え?どういうこと?なんでみんな一斉に茂みのほうを向いたの!?
そう思っていると、茂みから可愛らしいウサギ耳の女の子が現れた。
その女の子は三人の視線にやや怯みながら、
「や、やだなあ皆さん。そんな狼見たいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」
どうやら、このウサ耳の女の子がこの状況を説明してくれるらしい。この世界が何処なのかというとこや元の世界に戻る方法が分かるかもしれないので、重要な情報を聞き逃すまいと身構えていると、三人は
「断る」
「却下」
「お断りします」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
即答で拒絶した。
え?何してくれちゃってるの?
僕が動揺していると、耀ちゃんが不思議そうにウサ耳少女の隣に歩みより、黒いウサ耳を根っこから鷲掴み、
「えい」
「フギャ!」
力いっぱい引っ張った。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」
「好奇心の為せる業」
「自由にも程があります!」
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
今度は十六夜君が右から掴んで引っ張る。
「………。じゃあ、私も」
「ちょ、ちょっと待――――!」
今度は飛鳥ちゃんが左から。
「そこの眼鏡のお兄さん!黒ウサギを助けて、助けてください!」
さすがにいじめ……だよね?
止めたほうがいいのかな?
よし、いくぞ………
「や、やめr」
「兄ちゃん。これはいじめじゃねーぜ。コミュニケーションをとって親睦を深めてるだけだ」
「あ、はい。そうですか。ごめんなさい」
「唯一の希望がーーー、諦めたらそこで試合終了ですヨーー!!」
黒ウサギちゃんの悲鳴が近隣に木霊した。
「――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「いいからさっさと進めろ」
結局僕は三人の黒ウサギちゃんに対する一方的なコミュニケーションを止められなかった。
黒ウサギちゃんは目に涙を浮かばせながらも、僕達に話を聞いてもらう状況に成功したようで、気を取りなおして咳払いをし、両手を広げて
「それではいいですか、皆さん。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!ようこそ、”箱庭の世界”へ!我々は皆さんにギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」
「ギフトゲーム?」
「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆さんは皆、普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその”恩恵”を用いて競いあう為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」
両手を広げて箱庭をアピールする黒ウサギちゃん。飛鳥ちゃんが質問するために挙手をした。
「まず初歩的な質問からしていい?貴女の言う”我々”とは貴女を含めた誰かなの?」
「Yes!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある”コミュニティ ”に必ず属していただきます♪」
「嫌だね」
「属していただきます!そして『ギフトゲーム』の勝者はゲームの”主催者(ホスト)”が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」
「………”主催者(ホスト)”って誰?」
「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが”主催者(ホスト)”が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。”主催者(ホスト)”次第ですが、新たな”恩恵(ギフト)”を手にすることも夢ではありません。
後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて”主催者”のコミュニティに寄贈されるシステムです」
「後者は結構俗物ね………チップには何を?」
「それも様々ですね。金品・土地・利権・名誉・人間………そしてギフトを賭けあうことも可能です。新たな才能を他人から奪えばより高度なギフトゲームに挑むことも可能でしょう。ただし、ギフトを賭けた戦いに負ければ当然――――ご自身の才能も失われるのであしからず」
黒ウサギちゃんは愛嬌たっぷりの笑顔に黒い影を見せる。
挑発ともとれるその笑顔に、同じく挑発的な声音で飛鳥ちゃんが問う。
「そう。なら最後にもう一つだけ質問させてもらっていいかしら?」
「どうぞどうぞ♪」
「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」
「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していってくださいな」
飛鳥ちゃんは黒ウサギの発言に片眉をピクリとあげる。
「………つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えてもいいのかしら?」
お?と驚く黒ウサギ。
「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰しますーーーーが、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だということですね」
「そう。中々野蛮ね」
「ごもっとも。しかし”主催者”は全て自己責任でゲームを開催しております。つまり奪われるのが嫌な腰抜けは初めからゲームに参加しなければいいだけの話でございます」
黒ウサギちゃんは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
清聴していた十六夜君が威圧的な声を上げて立つ。その顔にいままでのような軽薄な笑顔は無くなっており、黒ウサギちゃんも構えるように聞き返した。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなものはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜君は視線を黒ウサギから外し、他の二人を見まわし、巨大な天幕によって覆われた都市に向ける。
彼は何もかもを見下すような視線で一言、
「この世界は…………面白いか?」
「――――――」
他の二人も無言で返事を待つ。
彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。
『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。
それに見合うだけの催し物があるのかどうかこそ、三人にとって一番重要な事だったみたいだ。
「――――Yes。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証します♪」
三人はその言葉を聞きそれぞれ、フッと笑みを溢した。
僕抜きで凄くいい感じに盛り上がっている。これがコミュニケーションをしたものとしなかった者の差なのかな?
でも、こればっかりは聞かないではいられないよね?
意を決して手を挙げる。
「あのー………」
「え?あ、忘れてはいなかったのですヨ。質問でしょうか?」
「えっとですね……僕、”恩恵(ギフト)”ていうのに全く心当たりがないんですけどぉ…………」
瞬間、世界が停止した。
「え、ええ、冗談でございますよね?箱庭について書かれた手紙を受け取ったのでございますよね?」
「パソコンのメールでなら届きましたけど………。僕昔は勉強も運動も苦手で、才能といったら昼寝か射撃、あ、あとあやとりくらいですかね。修羅神仏のギフトというとやっぱり思い付かないです」
「ええええええええええええええええええええええええ」
黒ウサギちゃんの今日一番の驚きの声が響いた。
何故今回の話を原作準拠にしたかというと、のび太が登場人物にあまり大きな影響を与えてないので、これが一番それぞれにとって自然かな?と考えたからです。しかし、次回からはのび太が加わったことにより二次創作ならではのオリジナルな展開があるので、どうぞお付き合いください。のび太が今は、残念なキャラですが、きちんと活躍の場を与えるので安心してください。