艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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今回は日常回兼開発回。しばらくは『桜風』がこれから運命を共にする艦隊の駐屯地を見学する回になる予定。日常回は四千から五千字程度。決戦時は無限増大のパターンになる気がス


第八話  『桜風』の第3海上部隊駐屯地見学会 ≪工廠編≫

「では『桜風』さん!今からこの不肖、重巡洋艦娘の『青葉』が第3海上部隊の駐屯地の案内を務めさせていただきますね!」

 

「は・・・はい。宜しくお願いします。・・・あの、青葉さん?」

 

「なんですか?」

 

「あの・・・さっきから桃色の髪の人と緑髪の人が、私の『艦艇』(からだ)をずっと見ているんですけど・・・」

 

「工作艦娘の『明石』さんと軽巡洋艦娘の『夕張』さんですね。二人とも工作や兵装関係の事が好きなので、『桜風』さんの搭載している兵装に興味が有るんでしょうね。・・・大丈夫です!あの二人は悪い人では有りませんて!」

 

 

 

―――そう言われても、あんなに穴が開くまで艤装や船体を見つめてスケッチしているのを見ていると、凄い空恐ろしさを感じるのですが・・・

 

 

『心配しなくても大丈夫』と笑顔で力強く断言する青葉だったが、実際にエンジニア系女子に熱い目線を注がれている『桜風』にとっては、艦娘として発現して三日も経っておらず、また直接『他人と関わる』と言う事が初めてと言う『海戦』以外の経験値が壊滅的に低い事もあって、『明石』と『夕張』に芽生えた苦手意識は早期に払拭は出来なかった。まあ誰だって『桜風』と同じ反応を取ったとしてもおかしくは無いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

古鷹による青葉の説教が終わった後、深山提督はその古鷹と一緒に駆逐艦『桜風』の事を報告する為に、艦隊上層部に報告に向かい、『桜風』には『これからは貴女の家となる、私たちの艦隊を一回りして見てきた方がいい』との事にて、『桜風』の船体を調査兼燃料弾薬の補充のためにドックに入渠させた後、この艦隊の先輩たる青葉と一緒に一回りする事になった。明石と夕張が『桜風』の船体を嘗め回すように見続けて調査していたのはこの為である。決して私利私欲『だけ』で動いた訳では無いのだ、とは事情聴取で得られた二人の本人談である。

 

 

 

「まずは入渠ドックや建造ドック、兵装開発部があるここ、工廠ですね。青葉やさっき『桜風』さんが会った古鷹さんはここで建造されたんです」

 

「・・・『さんは』と言う事は、それ以外の所からも・・・えーっと、艦娘が来ているんですか?」

 

「そうです。青葉たちのように建造で司令官の所にくる艦娘もいれば、深海棲艦を沈めて、その結果艦娘を『解放』して、艦隊に配備されるというパターンもあります」

 

「へぇー。そうなんですか・・・でも、私が深海棲艦を沈めた時は、特に何も起きませんでしたよ?」

 

「基本的に深海棲艦を沈めても、どんな艦娘が来るのかは完全に『運』ですからね。凄い強い艦娘が連続してくることもあれば、駆逐艦娘すらも『解放』されない時もあります。因みにこれは建造でも大体同じです。資源投入量である程度建造する艦娘を調整出来たり、少なくとも建造失敗する事は無いみたいですけど」

 

「・・・不安定な戦力補充ですね」

 

「ですね」

 

 

 

艦橋での話に加え、ドックまでの移動中に深山提督や古鷹、青葉の三人から『桜風』は、この世界の事を掻い摘んででだが教えられた。駆逐艦『桜風』の辿った航路とはかけ離れた道を辿ったこの世界の歴史の流れの事。予兆も何もなく現れた深海棲艦の事。史上初と言える全人類の総力を挙げたシーレーン防衛作戦が無残にも一月と持たずに崩壊した事。日本の自衛海軍が深海棲艦と絶望的な海戦を行っている最中『始まりの艦娘』が現れた事。その艦娘との協力で人類がどうにか息を吹き返した事。現在太平洋方面はアメリカ領アラスカ~アリューシャン列島~日本列島~フィリピン等東南アジアを結ぶラインで人類の防衛線が安定していると言う事。その他色々。取り敢えず深山提督たちからの情報を得た『桜風』が抱いた感想は(何か一つ切欠が有るだけで崩れ去りそうな安定度合いだな)と言う事だった。

 

 

「まあ建造の方はともかくとして、これからは『桜風』さんは何度も『開発』する事になると思いますので、その時は取材を受けてくれるようお願いしますね!」

 

「取材は別に良いんですけど、青葉さん。『開発』って、具体的に何するんですか?まさか設計図を引くんですか?私はやった事無いんですけど・・・」

 

「大丈夫です!実際にやることと言ったら、投入する『燃料』『弾薬』『鋼材』『ボーキ』の4つの資材の量を決めてボタンを押すだけですから!あとは妖精さんが直ぐに作り上げてくれますので」

 

 

やった、言質が取れました!と心中で握り拳を振り上げながら、青葉は『兵装開発で何をするか』を『桜風』に対して簡潔に答える。それに対する『桜風』の反応は『そんなので本当に開発出来るの?』と言わんばかりに疑いの目が青葉に対して向けられていた。青葉は嘘を吐くような艦娘ではない事は『桜風』は分かっていたが『そのような『遊び』のようなやり方で兵器が作り出せるのか』と思ってしまったのである。

 

 

 

「まあ『百聞は一見に如かず』と言いますし、実際にちょっとやってみましょう!」

 

「え?いや、青葉さん?流石に深山提督から指示も受けていないのに勝手に弄るのは・・・」

 

「ふふふふふふ、大丈夫です『桜風』さん。青葉に手抜かりは有りません!」

 

そう胸を張って取り出したるは、深山提督直筆の開発命令書。まあ『桜風』は一度も深山提督の筆跡を見た事は無いので本物の筆跡かどうかは分からないが、少なくともハンコが押してある以上公文書としては問題ない物ではあるだろう。

 

 

「・・・何時の間に調達したんですか?」

 

「・・・実はつい先ほど司令官から。『やってみた方が慣れやすいでしょ?』との事にて」

 

 

・・・まあ、提督が良いのなら、新兵器の『開発』しますか・・・

 

 

自分の提督が思いの外天然なのか狙ってやってるのかこれが素なのか良く分からない『桜風』だったが、取り敢えず指示書の通りに開発する事となった。

 

 

「回数は十回。本土居残り航空母艦用の艦載機を開発して欲しいそうですね」

 

「・・・青葉さん?私一応『駆逐艦』ですよ?艦載機が開発できるとは思えないんですが・・・」

 

「まあ失敗したら失敗したらでそれで良いんです!さあさあ『桜風』さん、早く開発してみて下さい!」

 

「・・・青葉さん。単に新聞に載せるネタが欲しいだけなんでしょ?」

 

「ギク」

 

 

図星ですか。そう思いつつも『桜風』は指示書に書いてあった通りのそれぞれの資材の数値を開発機械に入力し、スイッチを押す。開発装置は丁度アイロンを天井から押さえ付けるイメージで、四角い鋼鉄製の箱が天井から降りてきて特注らしい白色の床と接地。そして金属同士を叩きつけた様な金属音が3回なったかと思うとゆっくりと天井に向かって戻っていった。そして『開発』された兵器を見て、青葉は顎が外れんばかりにあんぐりと開け、『桜風』は『失敗したか』と顔をしかめている姿が対照的であった。

 

 

「あ、あ、あの、あのあのあの、さ・・・『桜風』さん?あの機体はなんですか?」

 

「『陣風』です。最大速力が時速685㎞、航続距離2700㎞、武装は『40mm航空機関砲』と『30mmバルカン砲』の二つですね。夜間戦闘は可能ですが悪天候では発着艦不可。・・・幸先悪いですね」

 

「いやいやいやいや『桜風』さん何を言われているんですか?!こんな凄い戦闘機を一発目で開発するって凄い事ですよ!?」

 

「・・・そうなんですか?私が元々いた世界だとレシプロ軍用機は割合早期に二線級以下の存在になっていたんですが」

 

 

なにそれこわい。日本軍機共通の識別マークである日の丸が描かれた、何時も青葉たちが見ていた華奢な零戦とは全く違う大柄な戦闘機である『陣風』が格納庫に移動されているのを見ながら青葉は呆然とそう呟いたが、一度『開発』してみて『面白そう』と感じた『桜風』は青葉に触れないまま再度数値の入力を始め、もう一度ボタンを押した。

 

 

「・・・今度は『彗星五四型』ですか」

 

「なんでしょう・・・青葉は、こんな爆撃機は見た事が無いんですが・・・」

 

そう言いながら手に持ったカメラのフラッシュを焚く青葉。基本的に『艦娘』の装備は第二次世界大戦に装備していた、若しくはする『かもしれなかった』装備で固定されている。人類側が戦力増強を期待して艦娘用に製造した未来兵器、又はミクロ単位のズレも無く当時の製法で製造した艦娘用の装備はどれもこれもことごとく艦娘には使用不可能であったため、『艦娘』と『妖精さん』による『開発』でしか現状では『装備』は開発製造できない状況である。その為『『開発』では『艦娘』の記憶から装備を呼び出している』と言う学説が実しやかに提督たちに囁かれている。

 

「時速602㎞、最大航続距離2520㎞、武装は『1500lb(ポンド)爆弾』のみで、夜間戦は可能ですが悪天候は戦闘不可。せめて初期型でも良いんで悪天候でも戦えるジェット機が欲しいです」

 

「『桜風』さん。この機体でも十分に超高性能機です。具体的には『Sレアホロ』くらいには」

 

「と申されましても青葉さん。正直この爆撃機そんなに強くありませんよ?」

 

「・・・今度古鷹さんや瑞鳳さんら艦隊の良識派を招集して『桜風』さんにこの世界の常識を教える必要がありますね・・・」

 

「青葉さん、私の事呼んだ?」

 

 

そう言いながらひょっこりと入口から、紅白の弓道着を着こんだ少女が顔を覗かせた。大和や武蔵たちが提督に今回の顛末を報告した後、最終的に上層部に対しても今回の航海の事を深山提督と一緒に直接報告する事になってしまい『赤煉瓦』こと再建された海軍省へと向かい、居残りを命じられた瑞鳳はする事も無かったので何の気も無しに工廠に来たのだ。因みに同じく居残りを命じられた陽炎は精神的に疲れたらしく、自室に戻って熟睡している。

 

 

「って、うわあー!なにこの機体!スッゴイ強そう!これ『桜風』ちゃんが作ったの?」

 

そして出来立てホヤホヤの陣風と彗星五四型を見た途端に目を輝かせて『桜風』に迫る瑞鳳。双方小柄であることも相まってか、傍目から見ると完全に『欲しい玩具を見つけてウサギのように飛び跳ねながら姉にねだる妹』の図式である。

 

「え、あ、は、はい。そうですつい先程開発したものです」

 

「瑞鳳さん。ちょっと落ち着きましょう?まだあと8回『桜風』さんは開発するんですから、今からそんなに興奮していると倒れちゃいますよ?」

 

「あ・・・。うん、二人とも、ごめんなさい。ちょっと、今まで見た事のない機体だったから興奮しちゃった」

 

 

テヘヘ、と右手を後頭部にやって苦笑する軽空母艦娘『瑞鳳』。その姿を写真にとって、その手の好き者を集めてオークションをしたら確実に7桁を超える値が付くであろう可愛らしい姿を見せた事にも特に大きく反応する事無く『桜風』は、じゃあ続きをやらせて頂きます。と開発を続行するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そして、結果がこれですか」

 

「『桜風』ちゃん、どうしたのその浮かない顔?今回の開発、大成功じゃない!」

 

「悪天候でも戦闘可能な戦闘機や雷爆撃機が出なかったからと言って、そう沈まなくても・・・」

 

「・・・いえ、想像以上に思い通りに行かなかった事に少々打ちひしがれただけなので、もう大丈夫です」

 

 

そう言って俯く顔を正面へと動かす『桜風』。その目線の先には、先ほど開発した『陣風』と『彗星五四型』に加えて『AS332(スーパーピューマ)』『流星改』『零式水偵一一型甲』『彩雲』『強風』『雷電一一型』『烈風一一型』『晴嵐改』があった。『桜風』がこの世界に現界して二日目、初めて交戦した深海棲艦を損害皆無で殲滅出来て僅かながらに調子に乗った『桜風』が始めて得た敗北感だった。直ぐに立ち直ったが。

 

「青葉さん!『桜風』さん!ちょっとこの装備を見たいんだけど良い!?」

 

「私たちは開発が終わった後は、このまま駐屯地を見学して回るので別に大丈夫だと思いますけど・・・」

 

「そう・・・ですね。出来れば次いでで良いですので・・・」

 

「提督への報告書でしょ?大丈夫、瑞鳳がきっちりしっかりびっちりと詳細な報告書を提出するから大丈夫!!」

 

 

・・・これは手が付けられませんね。

 

・・・あとは任せた方が無難かな。

 

青葉と『桜風』は、航空母艦娘としての血が沸騰状態にある瑞鳳の姿を見てそうアイコンタクトを交わして『じゃあお願いします』と異口同音に瑞鳳に調査を委託した。その後瑞鳳が本当に性能表や機体の図解すらも書き込まれた書類を大量に提督に提出する事を、今のこの二人は知る由も無かった。




卵焼き好き艦娘から艦載機好き艦娘にジョブチェンジしたように見える瑞鳳ですが、今回この場面に遭遇したのなら、深山提督の艦娘でなくとも正規空母娘でも軽空母娘でもあんまり変わらない反応になるかと思います。

自分の商売道具の艦載機よりも遥かに強い艦載機が目の前に積みあがっていたら誰だって興奮しますよね。因みに艦載機の武装などはWSG2世界準拠です。つまり偵察機が普通に爆雷積んでたり96艦戦が20ミリ積んでたりしてます。

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