艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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雪降りて、かじかむ手先で、投稿し、次は夜勤だ、さあ仮眠
   by陣龍





第七話  横須賀軍港の異色の艦隊

横須賀鎮守府第3海上部隊所属『深山艦隊』。この艦隊はある意味異色の艦隊である。『提督が女性だから』と言う理由だからではない。現在の提督の割合で言えば、男女割合はおおよそ6対4で、適正によって艦娘の指揮が行えるかどうかが男女関係なく決まる為、本来男社会であるはずの軍隊に多数女性が入隊するのは必然だった。そうしなければ深海棲艦との圧倒的戦力差の前に屈してしまうからだ。故に『女性提督』と言う存在自体は日本全土の鎮守府、そして東南アジアに現地政府との交渉の結果間借りする形で置かれているそれぞれの泊地には、少なくない数の『女性提督』がいた。

 

 

では何が『異色』なのかと言うと、その『艦娘の運用方法』である。具体的に言えば通常の出撃や遠征に加えて『国内や近隣海外まで移動する民間船の護衛』や『底引き網を使用しての漁猟』『民間のイベント出演』果てには『放棄された離島へ一時帰島する民間人の護送』『人類兵器との連携の模索』等々・・・。本来『提督』がする必要が無い、または本当は深海棲艦が出現してから『自衛隊』から『自衛軍』へと昇格した自衛海軍や、平和団体や一部国会議員による妨害にて自衛隊の出撃が遅らされてしまった中、民間人を守るために最前線に居させられた末に多大な犠牲を払った海上保安庁などの他部署の職域に対して、『深山提督』の艦隊に属する艦娘は多数入り込んでいた。

 

 

その為、深山満理奈少将率いる艦隊は、自らの指揮する艦娘だけが世界の敵である『深海棲艦』を撃滅出来る事に『我は世界の救世主である』などと勘違いして傲慢に自惚れた提督たちからは白眼視されている状態だった。『上層部に取り入って本来の仕事もせずに艦娘を遊ばせているお遊戯艦隊』と陰口を叩く陰湿かつ陰険な提督もいる具合に。ただ基本そういうような提督に限って艦娘を必要以上に束縛していたり、憲兵の目から隠れて酒色に溺れていたり、ちまちまと横領を重ねていたり、指揮下の艦娘からは最低限の接触以外拒否されるレベルで嫌われていると言うような艦隊指揮以外は最低レベルの質の小物揃いなので、当の深山満理奈提督はそう言った雑音は馬耳東風で適当に聞き流していたが。

 

 

そしてその異色の艦隊を率いている深山提督は、駆逐艦『桜風』が巻き起こした『深海棲艦精鋭部隊殲滅事件』の後始末・・・と言うより上層部への事情説明をする為の情報を得るために、現在横須賀軍港に寄港している『桜風』の元に歩いて向かっていた。現在重巡洋艦『青葉』が『取材』と言って駆逐艦『桜風』の艦橋に押しかけているそうだが、やはり人伝えよりも直接話した方が『桜風』の人となりも把握できるために、わざわざ将官だというのに自ら出向いて言ったのだ。昔から変わらないこの自然体の誠実さを、先ほど述べた様な小物連中は『あるべき分を弁えない小心者』等と嘲笑っていたが、この誠実さを軍部や政府上層部、それに『適正持ち』と言う事で半強制的に艦娘を指揮する『提督』へとなった民間人上がりの中でも、歪んだりせずに『提督』として成長出来た者、そして国防、国民のために行動を共にした自衛海軍や海上保安庁が高く評価したり、頼もしく思ったりもしている。その為小物が深山提督に対して何かしらの行動を起こそうとしても、その大体は事前に封殺されている。提督たちだけで無く、指揮系統的には上位の自衛海軍、そしてその対深海棲艦戦での経緯から、国民からの評価も高い海上保安庁からの『深山艦隊』への支持もかなり強いのだ。

 

 

 

 

「・・・ごめんなさい提督。また青葉のわがままで・・・」

 

「古鷹が謝ることは無いわよ。それに、青葉は駆逐艦『桜風』と最初に接触した艦娘の中でも一番自然と相手の懐に入り込むのが上手だから、きっと大丈夫よ」

 

「提督・・・ありがとうございます」

 

 

 

そんな『提督』の一定数以外からは高い支持を得ている深山満理奈少将は、本日の秘書艦だった重巡洋艦娘『古鷹』と共に、駆逐艦『桜風』が寄港した港へ向かって歩いていた。因みにこの古鷹と深山少将との付き合いは大分長いもので、深山少将がまだ新米少佐だったころに、青葉と一緒に建造された艦娘である。つまり青葉も古鷹も『深山艦隊』の中でも相当な古参の艦娘と言う事だ。

 

 

「・・・提督」

 

「どうかした?古鷹」

 

古鷹からの声掛けに首を僅かに傾げながら横を向く深山提督。年齢は既に二十歳を過ぎているというのに、まるで高校生のような柔らかさを意識せずに見せる彼女に対して、古鷹はこう問いかけた。

 

 

「その・・・『桜風』さんは、いったいどのような娘なんでしょうか?」

 

「青葉や瑞鳳が言うには『芋っぽさが完全に抜けて成長した、肩まで伸ばした黒髪を一纏めにしている吹雪』らしいよ」

 

「・・・ぼんやりとは想像できましたが」

 

 

芋っぽさの無い吹雪ってそれ吹雪と言えるのだろうか。そんな風に深山提督が考えている事が目で分かった古鷹であったが、きっと艦隊の皆が同じ事を思う事は想像に難くなかったので、とりあえず黙っておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大きい・・・」

 

「近くで見ると、これは凄いね」

 

「・・・提督」

 

「どうしたの?」

 

「私より『駆逐艦』である彼女の方が、船体が大きくありませんか?」

 

「・・・そうかもしれないね」

 

 

そうこうしているうちに、深山提督と古鷹は駆逐艦『桜風』が投錨している桟橋へと到着したが、初めて写真ではなく近くで『桜風』を見る二人は、まずは船体の大きさに圧倒された。『駆逐艦』と言うのでもっとこじんまりとした艦艇を想像していたが、実際には古鷹型重巡洋艦を圧倒する威圧感と大きさを誇っていた。まあ古鷹型は史実でも改装後でも基準排水量が僅か8,700トンしか無いのだから、15,000トンを超える『桜風』と比べても仕方が無いのかもしれないが。

 

 

「提督。あれはなんですか?」

 

「『RAM』だね。近接防空ミサイルって言って、1980年代末頃に開発された兵器」

 

「・・・あの、提督?」

 

「古鷹の抱いている疑問に関しては多分私も持ってる。写真で見ていたとはいえ、本当に目の前に実物が有るとね・・・」

 

 

背負い式に船体前部と後部に積み上げられた15.5㎝4連装砲4基。計4基搭載されている対潜ロケットランチャー。艦尾に二基有る7連装魚雷発射管。素人目でも最低20世紀末から21世紀レベルと見受けられる電子艤装。そして甲板の隙間と言う隙間に敷き詰められた大量の40㎜4連装機関砲とRAM。古鷹はもちろんの事、個人の趣味レベルとは言え艦艇の事は小さいころから調べてきていた深山満理奈にとっても、こんなチグハグな艦艇は記憶の何処を探しても存在しなかった。

 

 

・・・『ウィルキア王国海軍』・・・か。突拍子もない考えだけど『彼女』は『異世界』の軍艦と考えるのが自然かな・・・

 

 

最初に接触した瑞鳳からの報告に有った正体不明の国家。『桜風』はこの国家の近衛海軍に所属していたという。王室直属の海軍と言うものは、深山提督たちがいるこの世界ではとうの昔に途絶えて久しい。

 

 

「・・・古鷹」

 

「はい」

 

「絶対に『桜風』を、私たちの仲間に引き入れるよ」

 

「・・・分かりました!」

 

 

自分は別に聖人君子と言うような大層な存在ではない。『桜風』が辿ってきた過去も知らないし、『桜風』がどうしてこの世界に来たのかだって見当もつかない。だが、少なくとも『あの連中』の所に行くよりはよっぽど私の艦隊に所属する方が、『桜風』にとっても、『日本』にとっても、そして『世界』にとっても、ベストとは言わないがベターな選択肢だとは思う。

 

 

深山満理奈少将は、自らが『桜風』に出せる条件を頭の中で組み上げながら、『桜風』が自分の艦隊に入ってくれるように説得する材料を整え始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かりました。では私、駆逐艦『桜風』は、これより貴官の艦隊指揮下に編入させて頂きます。これからよろしくお願いしますね、深山提督」

 

「・・・い、良いの?そんなにあっさりと即断しちゃって」

 

「『袖振り合うも多生の縁』。自沈後この世界に生まれた私が、貴官の艦隊と最初に接触出来たのも、何かの良き縁でしょう。青葉さんと話をしましたが、深山提督の所は居心地がよさそうですしね」

 

 

・・・それに、態々戦艦3、重巡1、駆逐艦1、空母1の艦隊を『駆逐艦1隻の為に』救援に出すような人が、悪い人間とは思えませんしね。

 

 

そう言って深山少将の艦隊帰属要請に即時に『是』と答えて、深山少将が困惑するのを見て、『桜風』は笑いながらそう答えた。『桜風』とその妖精さん達は、寄港後直ぐに乗り込んできた青葉との会話と深山満理奈少将の物言いや雰囲気から、彼女を信頼できる人間だと判断していたのだ。無論危害を加える様な人間だったら即座に逃亡出来る様に機関はさり気無く稼働状態にしていたが。

 

 

「・・・ありがとう。『桜風』。今は艦隊の主力がミッドウェーやアリューシャン方面に居るから無理だけど、何時かみんなと一緒に歓迎会開くからね」

 

「え、別にそんな大仰にしなくても・・・」

 

「何言ってるんですか『桜風』さん!今回貴女が成し遂げた戦果は本当なら新聞の一面記事だったり勲章が・・・」

 

「ねえ青葉?」

 

「・・・ふ、古鷹さん?ど、どうしましたか?」

 

「正座」

 

「・・・え?」

 

「勝手に『桜風』さんの所に押し掛けて迷惑かけたんです。少しは反省しましょう?」

 

 

 

 

・・・いつもこんな感じなんですか?

 

・・・まあ、ね。『桜風』はこういう雰囲気、嫌い?

 

・・・いえ。なんだか、とても楽しそうです。

 

 

邂逅して数十分と経たないうちにアイコンタクトを交わす深山提督と駆逐艦『桜風』。その目線の先には正座させられた青葉を何時もの如く説教する古鷹の姿が有った。

 

 

 

尚余談だが、駆逐艦『桜風』の燃料弾薬を補充した明細書を見た深山提督は、その明細書と明細書を持ってきた明石と夕張を二度見したという。




次回は横須賀案内などの日常海予定。『桜風』の性能評価試験もいつか入れる

追記:駆逐艦『桜風』の排水量を『30,000トン』から『15,000トン』に変更。

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