おりますが……なんでああまでリアリティの無い事ばっかり起きてるんでしょうね(白目)
「……
「
アメリカ合衆国ワシントンD.C.ペンシルベニア通り1600番地。世界一有名なこの白い公宅では、深海棲艦と言う現代科学では到底解明出来様の無いオカルト極まる存在が現れようとも今なお存在感を世界に示し続けている超大国を導く男達が複数集まっていた。彼等の表情は、押し並べて一様に暗い。
「……
「
「
「……
机に両肘を付け、口元で両手を合わせながら報告を聞く大統領。海軍に所属し、その後故郷にて州議員を大過無く勤め上げた末に大統領選挙に出馬、当選すると言う歴代でも似た様な経歴の大統領が多い過去を持つ彼は、現在重大な決断を強いられようとしていた。
「
「……
「
「
入ってくる報告全てが聞く端から耳を塞ぎたくなる物ばかりである。これら全ての事例が、一つ事を間違えれば我が愛する祖国にて巻き起こる可能性が極めて高いのであるのだから、ある意味では当然である。映画等で良く描写される超大国故の楽観は、既に消え失せていた。
「
「
「……Yes.sir」
泣きっ面に蜂、
数的主力であるアメリカ海軍所属の艦娘は、艦娘化した事によって本来の姿よりも相当改善されては居た物の、荒天は余り得意とはしていない。台風に突入しようが平然と作戦行動を取ろうとする帝国海軍の方が明らかにぶっ飛んでいるだけだがその点はおいて置く。その様な些事等より遥かに喫緊の問題は、この荒天を好機として攻撃を仕掛けて来るであろう『デュアルクレイター』に対する反撃戦力の不足である。
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「……
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『
「……
「……
人類の業が生み出した最大の切り札である核兵器と言う、この状況下で無ければまず浮かぶ事すらない選択肢も、戦場が荒天であれば話は別である。基本的に爆風や衝撃波、そして圧倒的高熱が核兵器の主な直接的ダメージリソースであるのだが、強力な雨風が常時吹きすさぶ状況では、その威力も容易く激減する。それにそもそもの前提条件として、鋼鉄の塊である巨大な軍艦に対して核兵器は相性が悪い。極論、船体深部まで破壊されなければ如何とでもなる重装甲の軍艦相手では、核兵器は表面上を消し飛ばすのがやっとなのだ。
「……
「
超大国の面子や体面等気にしては居られない。出来た汚名は雪げば良いが、破壊され、失われたステイツの街並みと多数の死者は、二度と元の形に戻る事は無いのだから。
「
「……彼ら、今では親民党でしたか。あの者達の回復力には目を見開くものが有りましたな」
「笑いごとでは無いがな。……流石に、今日は疲れた」
所変わって極東島国日本国首都。今までもそれなりに使われていたが、ここ最近は使っていない日の方が数える程度な状態の首相官邸の一室。そして集まったのは首相の信頼が厚い何時ものメンバーであったが、その彼等全員が言い様の無い徒労感を滲ませていた。
「忖度、だったか。私はそんな事に気を回すだけの余裕など全くないのだがな」
「民生……親民党や政社党は、この事が
「何をもって
事の発端は、前回の総選挙で殆どの議員が落選して解党寸前まで追い詰められるも、他泡沫政党議員や前政権与党の民生党所属だったのを、選挙前に離党しての無所属ロンダリングで如何にか当選した議員を多数引き抜き、掻き集めて改めて再結党した野党筆頭と自認している親民党が、先日臨時国会が始まった直後に『首相の意向により不正に自衛軍が用地を取得した』と唐突にぶち上げた事件であった。
現在の政権与党である保守自由党にとっては完全に寝耳に水で虚を突かれた中、高らかに
「それだけ自衛軍の予算増加や自衛軍の海外派遣を嫌ったのだろうか?最近は少なくなっていたとは言え、彼らは常々自衛軍向けの防衛費を削減して社会保障費を増額しろ、東南アジア諸国に駐留する自衛軍を随時艦娘のみ残し縮小撤退させろと要求していた」
「首相、今は戦時中ですよ?幾ら何でもそのような馬鹿げた考えを本当に通したがってるとは思えません。一隻だけ例外は存在しますが、基本的に第二次世界大戦期の装備しか無い艦娘だけでは、深海棲艦以外の国防などには役には立ちませんし、そもそも今東南アジアから自衛軍が撤退したら、誰が
「……いやぁ、案外彼等は単純に、政府をバッシングできる様な物が有ったからバッシングしているだけじゃ無いでしょうかねぇ?もしかしたらでっち上げたのかも知れませんけどね」
「……あんな程度の低い
「彼らが何を考えている等はこの際どうでも良い。今の問題は、アメリカからの援軍要請だ」
首相の鶴の一声で、一瞬で部屋全ての空気が引き締まる。そう、今はある種の甘えで
「山本長官。彼女からは、何か?」
「深山提督を通じてですが、本人は命令さえあれば往くとの事です。それと可能なら一つ要望があるとも」
「要望?」
「やはり、対超兵器部隊の面々を全員連れて行きたい、と。どう都合よくシミュレーションしても、単艦では確実に手が回らなくなる為……と」
首相からの問いにそう答えた山本長官の言葉を聞き、押し黙る面々。極めて真っ当な要請である。この集まりが行われる二週間前に執り行われた、駆逐艦娘『桜風』による超兵器『デュアルクレイター』に関する通信講習にて教えられた情報によれば、敵艦は砲身内径だけなら長門級戦艦に匹敵、砲身口径だと完全にかけ離れている戦艦砲や多数の
駆逐艦と言う存在で有りながら、その気になれば砲撃戦
「正当な要望だな。全く持って、否定する要素など無い」
「そうですね。……政治的な問題以外では、ですが」
そして、軍事的正当な要求は内政的事情によって大概潰されるか歪められるか実行するにしても無駄に時間がかけられるのがこの島国の恒例行事の様な物である。今回も、その例から漏れる事は無かった。
「臨時予算案が通過しない事には、自衛軍の艦隊や人員の増員は望むべくも無い。
「それに付きましてですが、外務省からの情報です。今までも外交官等を通じて我が国に様々な接触や交渉が密かに行われていましたが、最近はそれが更に顕著となっています。それこそ、怪しまれる事も恐れずに」
「火元はそこか?」
「いえ、寧ろ鎮火に躍起になっている様子です。向こうさんとしては、現状では国内統制が出来ればそれで一先ず収まる気はある素振りを見せています。無論、我が国がどうしようもない程に大きな隙を見せれば、遠慮なく動く可能性も有りますが」
「少なくとも我が国に深海棲艦が上陸でもしない限りは、向こうが動く事は無いだろう。あの国は本来巨大すぎる国土を統治する為に内向的だ。それに燻る火種も外からですら少なからず見受けられる。今は国内に注力したいだろう、かの国も」
「では、間接的同盟国殿の可能性が?」
「それも無いだろう。そもそもそれだけの影響力も金も既に尽きている。今更何某の行為が出来るとは思えん」
通常、民族存亡の危機を賭けた戦争の最中に反戦等を唱えて妨害をする様な者は大概他国と誼を通じているか決して曲げられない信念の持ち主であるかのどちらかで有るのだが、調査と考察の結果前者の可能性はかなり少ないと判断された。ある意味当然である。装備が第二次世界大戦期限定とはいえ数百隻もの軍艦を保持し、東南アジア諸国と友好関係を保ちつつ軍隊を進駐させて市場とシーレーンの多くを防衛し、尚且つ通常軍備でも防衛戦限定だが侮れないだけの物を持つ日本に喧嘩を売る位なら、箍が緩みだした広大な国内の統制をする方が優先事項である。
感情的問題で日本と半分袂を別った結果、効率的輸出入が出来ず大して時間もかからず経済も政治も何もかも勝手に崩れ去った隣国も居るが、その様な国家が強固な軍事力と経済力を未だに保有している日本相手では完全に分が悪い所の話では無かった。崩壊されては困る為に行われている日本からの財政、物資支援に対して『もっと寄越せ』と抜かす厚顔無恥さだけは相変わらずだが、事実上それだけに終わっていた。国内の政争で忙しいらしい。
「……となれば、今回は純粋な、我が国の野党議員による行動と判断するしかありませんな、総理」
「だろうな。……一応聞くが、理を諭して彼らが心変わりをする可能性は有るか?」
「総理……そんな殊勝な心掛けが彼らにあったら、私たちはこんな苦労はしていないでしょうに」
若手から抜擢された閣僚一人から飛び出た遠慮無用の一言に苦笑いを浮かべる面々。こういう若さを持った人間が居る事は大事である。主に淀んだ場の空気をかき混ぜ、時には発破する存在として。
「既に親民党は不信任決議案並びに防衛大臣に対する問責決議案の提出を宣言しています。どう足掻いても親民党やそれに類する党の議員数では騒ぐ以上の事は出来ない事は分かり切っていますので、確実に廃案狙いの時間稼ぎでしょう」
「同盟国のアメリカがどうなっても良いと言っている様な行動なのだがな」
「……前回の選挙で多数の議員が落選した影響で、現在の親民党の議員は、えー……
「その声で良し悪しは別として何かしらの代案を出してくれるのなら多少は我慢出来るのですけどね」
「……ふむ、溜まっているのか?若人」
「……はい、正直に言えば。現状野党側で真面目な論争を行ってくれる貴重な存在である改進党の質問時間を無視して騒がれた時は、怒鳴り付けられる物ならば怒鳴り付けたかったです」
「えー、そろそろ愚痴の応酬になりつつありますし、本題に戻りましょうか」
総理との会話に水を差す財務大臣の一声でハッとなった若手閣僚は、場の皆に陳謝しつつ面持ちを本来の物へと立て直す。総理や保守自由党の重鎮に取り分け目を掛けられ、年功序列を多少無視して閣僚の座に就いただけあってエリート官僚が犇めく省内を良く統率しているのだが、時間を必要とする場数と経験不足だけは流石に如何ともし難かった。表では付け込まれる様な隙を見せて居ない点は立派であるが。
「この際臨時予算案は後回しにしましょう。最優先で行うべきは深山艦隊のアメリカへの派遣です」
「ですが、正攻法では法案通過が何時になるかは全く分かった物では有りませんが……。敵艦がアメリカ本土に来襲するのは時間の問題です、こうなったら観戦武官か人事交流等の名目で派遣すると言うのは……」
「それはそれで不味いのではないか?そう言った裏口的手法は、一度前例を作ってしまえば確実に悪用しようと目論む輩が出て来るだろう」
「加えて法的な問題もあります。正当な手番を踏まずに行われた戦闘行為が国内に知られてしまうと、政権への打撃は計り知れない物が有ります」
「ならば王道で行くより他無い。可能な限り短期間で押し通す」
「……それしか有りませんね」
疲れ切った表情の浅野首相の呟きに、物憂げな表情で財務大臣が応える。王道に勝る詭道無し。現在の保守自由党が衆議院、参議院共に議員数が過半数を占め、尚且つ保自党に協力的で有りながらも政策論争を真面目に行う新興政党である改進党等の現状を認識している少数野党の賛成票も見込める。
「各党に協力を要請する。現在機密指定されている超兵器関連の情報もある程度なら流して構わん。どうせ何時かは公表する情報だ」
「了解しました。親民党や親民党に類する党へはどうしましょうか?」
「一応話だけは通して置こう。機密情報は不要だ、体面だけは整えておけばそれでいい。協力するのならばそれでよし、そうでなければ放っておく」
深海棲艦との戦争でプライドや自負等の様々な物を容赦無く叩き砕かれ、国民からの支持も選挙で多数議員が落選すると言う形で突き付けられた過酷な現実と言う辛酸を舐めた結果、実行力は別として兎に角妥協を一切知らない突き抜けたイデオロギーを纏った親民党やその思想的同類がそう易々と保自党との妥協、協力体制を構築出来るとは、この場にいる誰一人として考えていなかった。今までがそうだったのだから。
とは言え、如何に面倒極まりない主義を掲げた者達で有っても、彼らは正当な手続きを経て国民から選ばれた議員である。例え現実に即していない主張を繰り返していたとしても、その主張を支持している国民が居るからこそ選挙で当選している。戦争中である民主主義国家の政権としては、少なくとも筋だけは通す積もりだった。
「……あの、総理……今入った情報によりますと、親民党議員が反浅野政権デモに参加しているとの報告が……。先程の国会審議中にも複数が国会外で憲法九条復活デモも行っていた様子です」
「……どう思う」
「駄目でしょうな」
尚、相手がその筋や政治的メッセージを理解したり受け取るとは限らない。
「……ふっ……ん、うっ……!」
草木も眠る丑三つ時。昼間の喧騒も掻き消えた港湾施設に掛かる闇の帳を駆ける迷彩柄。時代劇の様な古臭さは無い、現代的に理に適った暗視迷彩を着込んで監視カメラが投げかける眼の隙間を掻い潜り、一息で壁を駆け上がり物陰に隠れ潜むその姿は、明らかに不審者だった。
「…………っ」
「うー……うーちゃん眠いぴょん……」
「……眠くても、がんばろ……仕事だから……」
「ぴょーん……」
迷彩柄が音も無く地に伏せた数瞬後に、懐中電灯を持った二人の少女がすぐ脇の道を通る。此処深山艦隊のみならず、艦娘が多数所属する鎮守府では基本的に人間では無く艦娘か妖精さんによる警備が成されている。これは人件費削減の為では無く、艦娘と妖精さんと言う極めて特殊な存在が多数籠る鎮守府内に提督以外の人間を混ぜ込んだ場合の化学反応を恐れた民政党時代の前政権の命令が、何となくそのまま続いている為であった。
人件費削減云々は兎も角として、この艦娘や妖精さんによる鎮守府警備は、案外現場の者達には不評では無かった。元々殆どの鎮守府には多数の艦娘が所属しているので、深海棲艦との戦闘による損傷等を考慮した上でローテーション制を取る事によって、艦娘に無理のない警邏が行えていたのだ。鎮守府によっては提督以外の
「……マルフタヒトゴー。異常無し」
「弥生ぃー……何か、寒、寒いぴょ……ふぁ、ふぁ……」
「……くしゃみ、止まった?」
「……止まったぴょん。……弥生、早く行こう?」
「……うん。……そうしよう」
曇り空で月明りも皆無な夜道を照らすのは、僅か二本の光の帯と所々に設置された街灯のみ。日も高い日中ならば容易く見つけられる違和感も、夜中かつ不確かな照明、そして
――――1……2……3!!
桃色と銀髪の子供達が立ち去った瞬間を狙い、工廠に向かって疾走する迷彩柄の侵入者。その動きに迷いは無く、一直線に出撃ドックへと突き進んでいった。
――――良し、此処まで来れば……!
暗がりの物陰から周囲を見渡し、見張りが居ない事を確信した侵入者。工廠にも監視カメラが設置されているが、これ等は盗難防止が主目的である為に指向方向が若干ドック方面から離れている。それに侵入者の目的上、此処まで来れば監視カメラに映ろうとも問題なかった。警報を聞きつけた警備の者が殺到する前にやるべき事をやるだけなのだから。
「Hey、そこまでデース!!!」
「?!」
快活な似非日本語と共に、前触れなく工廠の出撃ドックに灯りが煌々と光り輝き、尚且つ何処から引っ張り出して来たのか探照灯すらも複数用いられて、侵入者を照らし出していた。突然の出来事に、侵入者も一瞬だけ硬直するもすぐさま冷静に周囲を見渡している。
「全く……アンタねぇ」
そして、周囲を取り囲む群衆の中から割って出て来たオレンジ髪の少女。その姿を見た途端、侵入者はそれまでとは打って変わって動揺し、目に見えて忙しなく全方位を見遣り続けていた。身体の動きとしては、パントマイムと阿波踊りに右足を軸にしたコンパス回転が合体した様な滑稽かつ風変わりな姿である。
「ねえ」
「はいぃーー!?」
少女の一言に、文字通り直立不動となる侵入者。余りの変わりように、包囲している妖精さん達や艦娘が苦笑していた。一部はツボにはまったのかお腹を抱えて大爆笑している。
「勝手に出撃とかしない様にって……お姉ちゃん、言わなかった?」
「いや、えっと……その、はい、あの、その………言っていました。ごめんなさい」
腰に両手を当て、幼児に言い聞かせる様に前屈みになって侵入者……
「やっちゃいましたねー」
「そうデスネー」
「……Bad、『桜風』の
「……そうですね」
工廠の屋上から見える、連行中でも陽炎に加えて不知火や黒潮に囲まれてしょぼくれている『桜風』の姿に、二人の眼には呆れが混じりながらも、隠しようの無い同情の思いが垣間見えていた。『桜風』がこんな強行突破を仕掛けたのも、横須賀に福井から帰投して今の今まで一度も出撃出来ていなかったせいなのだから。
「提督は、何か言ってましたカー?」
「海上保安庁などの関係省庁には既に一報を入れているから、もう暫く待って欲しい……ですね」
「ソレ
「対応が難しいんでしょうから、仕方が無いと思います。砲雷撃すれば良い相手でも無いですから」
「Hey、青葉ー。あんまりそう言う事は
自衛軍のヘリコプターと輸送機で北陸から横須賀へととんぼ返りした『桜風』と深山提督たちは、帰投して即時
そしてその予定は、帰投してより即座に破綻した。国会での親民党等のリベラル野党のやらかしと連動したのか、反軍、反政府運動を謳う市民団体の活動が活発化して深山艦隊の所属地にもかなりの数のデモ隊が多数流入していたのだ。と言うより数的には殆ど狙い撃ちであった。現在緊急配備された地元警察や他県からの応援に加えて水上警察や一部では海保すらも出動している。安全が確保されている海域だからと言って、手漕ぎボートや小型船舶を持ち出して抗議活動されたら排除するしかない。
「Bad、
「本当に、嬉しいですね。昨日も、漁協の人たちがお魚を納入してくれた時に応援してくれましたし、市長さんや市議会の議員さん達も、可能な限り色々と手を回してくれるそうです」
「
勿論深山艦隊の周囲全てが敵になった訳ではない。と言うよりも基本的に味方だらけである。横須賀鎮守府第3海上部隊『深山艦隊』が開設されてから、深山満理奈は周辺との関係構築に心を砕いて来た。そして戦力が増強されても尚継続し、或いは強化し続けていた結果、近隣地域との関係性は文字通り切っても切れない間柄にまで昇華されていた。
漁協組合からの護衛要請に一も二も無く答え続け、又組合へ鎮守府への魚介類納入を依頼した事によって漁協組合と漁師は確定収入と安全な漁業領域を確保し、近隣の市街地には非番の艦娘が遊びに行き、眉目秀麗な少女たちが活発な消費活動が行われる事で良性の経済効果が多数発生した。勿論利益だけの関係性では無く、交流が深くなるに連れて深山艦隊の艦娘はまるで地域全体の娘や妹、又は姉やアイドルの様な存在になっていった。昔風に言えば『オラが街の艦娘さん』である。
「でも『桜風』さんでは有りませんけど、一体何時になったら出撃許可が下りるんでしょうね?早く新兵器の練度を上げたくて仕方が無いんです」
「……青葉ー、本当は一番
と言っても、現在抗議活動に参加している連中の車両は悉く県外ナンバーである。市議会が持つ権限では対処が難しいし、今回の騒動を主導した団体に抗議文と公開質問状を送付したら怒濤の勢いで市の公式サイトや受付が長時間潰れる程の猛抗議の嵐が飛んできた位である。安全確保は出来ない為の措置として、艦娘が外出出来ない為の眼に見えた消費活動の停滞やかなりの人気を誇る艦娘の那珂達によるコンサートの無期限中止にネットや関係各所で激怒の暴風が吹き荒れているが、そんな物は彼等には関係の無い話である。
「青葉、早く出撃したいなー。出撃して、深海棲艦を粉微塵にしたいです」
「Hey青葉、さっきから
似非英語の元気娘と取材大好きマスメディア系女子の掛け合いも、何時もより静かになった鎮守府の闇夜に消えていく。まるで、艦娘皆が感じている言い様の無い憤りと未来への不安を表すかのように。
「どう思う?」
「誘導された末の暴走かと。軍や政府の動き、人気を心底嫌う者共に金と火種を送り付ければ、後は野火の如く勝手に燃え散ります。傀儡師の糸も焼く野火の様でしたが」
「ふむ、そうなるか」
「……で、どうするのさ。全部ばら撒く?」
「泳がせるのが最善、最良でなくとも現実的。望み薄なるは重々承知なれど、この理性無き愚者共に関わる時は不毛と信ず」
「まー確かに。面倒くさいからなぁ、此奴ら」
東京某所のとある地下駐車場。車も疎らなこの場所に、一人の壮年、一人の女性、一人の青年が居た。帽子や眼鏡等で外見を変えていた傍らには、近年深海棲艦との戦争によって自然発生した自主的倹約によって製造が減少の一途を辿りつつあるとニュースで流されている高級セダンが有った。運転席には口をガムテープで塞がれ、両手を縛られた男が居るが。
「ならば解放か」
「はい。最早この男に価値は有りません」
「……だってさ。良かったなオッサン」
そう言いつつ、青年が運転席に縛り付けられた男を開放する。口のガムテープを剥がすのがやけにぞんざいなのは気のせいでは無いだろう。
「うぐっ……お前ら、こんな事をしてタダで……」
「黙れ」
男の抗議を遮る女性の声。反応する余地すら与えられず、逆手で何の拵えも無い短刀を喉元に突き付けられれば、どんなお喋り小僧でも黙らざる負えないだろう。
「もう貴様は不要だ。何処へでも去れ」
「……っ、絶対後悔させてやるからな!!!」
お約束ともいえる三流三下悪役のセリフを吐いて、セダンを急加速させて地下駐車場から逃げ出す男。三人は見送るだけで、追いかけようとする気配は微塵も見られない。
「では、帰りましょう」
「そうだな……」
「……なあ、聞いて良いか?」
それぞれが別方向に歩き出す中、青年が女性の背中に言葉を投げかける。
「……後悔とか、していないの?」
「質問の意図が分からない。御国、そして我が友を守る為の行動に、後悔等が入る余地があるの?」
「……『日ノ本に危機が迫りし時、我は必ずや常世に舞い戻り、その危機を打ち払わん』、か。案外、満理姉は本当にご先祖様の転生体なのかも」
深山艦隊の籠る横須賀鎮守府にデモ隊が押し寄せた二日後。そのデモを主導した団体の幹部が真夜中、それも東京のど真ん中の公道で乗っていたセダンの
今回はクッソ長かったですね。すみません。