艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

44 / 55
やあ (´・ω・`)
皆様、新年明けましておめでとう御座いました(過去完了形)
早速で恐縮ですが、まずこれを見て落ち着いて欲しい。 つ政治ネタが全体の6割弱

うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとは思えていない。と言うか本格的に政治ネタ嫌いな人には御免なさいです。

でも、この政治ネタを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「中途半端なリアリスティックさ」みたいなものを感じてくれたと思う。
可愛らしい女の子が主役で武器持って戦っている作中世界の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この政治ネタが続いている……訳じゃ無く、単に勢いなんだ、本当にすまない。

じゃあ、続きへと行きましょうか。


第四三話  日出ずる国の行く末は

「さて、それでは定例会議を始めようか」

 

 二隻目の超兵器を撃破した殊勲者が、先任によっていじくりまわされていた日。ここ永田町では、超巨大潜水艦ドレッドノート撃沈によって生まれた余波や今までの情報の再整理の為の会議が開催されていた。

 

 

「では、まず防衛省からです。えー、現在防衛省や大学、企業等により合同で『桜風』さんより提供された兵器の解析を官軍民一体となって必死に進めておりますが……」

 

「駄目だったか」

 

「……はい。未知の素材や製法が使われている事は事前に推測出来ていましたが、肝心の解析が全くな状態です。現場の技術者や科学者たちはこれらの解析の為に研究所に泊まり込む位に躍起になっていますが」

 

 

 そしてその会議の皮切りは、駆逐艦『桜風』の持つ異世界の技術解析がものの見事に進展なしと言う、研究チームを代表した防衛省からの報告であった。 

 

 

「『桜風』さんの対ドレッドノート戦の際に得られた各種データも、余りにも情報量が膨大過ぎたせいで解読出来たのは数字にして僅か6%程度にて研究中止に追いやられています。掻き集めた最新鋭のスーパーコンピューターも、防御重力場使用時の情報量に対して全く歯が立ちませんでした」

 

「それは、残念な事です。私は軍事には詳しくありませんが、その防御重力場が生産できるようになったら、自衛軍の損害を有意に抑えられたでしょうから。特に、海上自衛軍が一番求めていたのでは無いですか?」

 

「……財務大臣の言われる通りです。海上自衛隊時代の隊員削減、そして今戦争による多数の人員、艦艇喪失により海上自衛軍の人的資源はもう限界です。既に予備役は一人残らず現役復帰させている為、これ以上損耗が重なるようなら、海上自衛軍は屋台骨からへし折れてしまいます」

 

 

 防衛省……もっと正確に言えば、海上自衛軍が必死になって『桜風』から得た技術情報を解析しようとしているのは、そう言う訳であった。前政権下における公務員と予算削減の波を真っ先に受け、しかもその状態のまま艦娘が現れるまで自国民保護の為深海棲艦相手に必死に戦い、多数の艦艇と乗員を喪失した。予備役の総動員と急拡大した軍事予算を元手に再建に奔走している自衛軍と防衛省だが、たかが数年程度で割単位で失われた人員を復活させるのは不可能であった。予算確保するだけで装備や人員が湧くのはゲームの中だけでしかない。

 

 背広組、制服組が双方頭を抱えざる負えない状況に置いて、唐突に現れた駆逐艦『桜風』が持ち込んだ多数の兵器は、自衛軍と防衛省にとってあまりにも甘美な果実であった。オカルト的に艦娘が開発、建造した兵器や艦船は人類に動かせないのは何時も通りであったが、技術情報に関しては別だった。ヘルファイヤと同等の大きさでありながら、異次元の破壊力を発揮する対艦ミサイルを装備した『桜風』製『AH-64D アパッチLB(Apache Longbow)』。砲撃も雷撃も被弾回避が可能なSF兵器『防御重力場』。造船学上あり得ない程機敏に転舵、航行、艤装搭載が可能な船体(フリゲートⅡ)。その他諸々全てが仮に再現、複製出来れば、これからの戦争(対深海棲艦、対人問わず)で優位に立てる事は明白であった。解析出来なければ全く意味が無いのだが。

 

 

 

「次は外務省からです。今回の超兵器、ドレッドノートと駆逐艦『桜風』との戦闘光景は、やはり諸外国に覗かれていました」

 

「やはりか。ではそれぞれの具体的な反応は?」

 

「大陸方面は何時も通りに通り一遍の非難をした後は国内統治に四苦八苦しております。グチグチ言われたので大使召還しようとすると面白い様に幹部クラスが低頭平身してくる状態です。裏は兎も角、ですが」

 

「分かっていると思うが、余り行き過ぎない様にな。あの地域は極めて面倒なのだから」

 

「もちろんです。精々外交取引のネタを蓄える程度に止めますので」

 

 

 

――――こいつ()……よっぽどイラついていたんだな(ですね)……。取り敢えず合掌だけしておくか(おきましょう)こいつ(この人)とやりあう人身御供(生贄)に対して

 

 

 防衛省からの報告に引き続き、『浅野幸喜』総理大臣の軽い忠言に涼しい顔をしてこれまた軽く返す外務大臣。前政権の無残な失政の山と歴史に残る選挙での大敗北に連座して既存の勢力も半壊した外務省のトップに君臨したこの男。外務大臣に就任してから日本外交が一変した立役者なのだが……友好的な相手やマスコミ向け等の表向きは兎も角、その実態はかなりの嗜虐志向持ちで、戦時中でも無駄に意気軒昂な多くの外務官僚を大臣就任より僅か一月でプライドをズタズタにし、日本と自身の思うがままに動けるように改革した危険人物である。有能かつ愛国的なのは確かなのだが、あくの強い人物には違いない。

 

 

「続きまして欧州方面ですが、米英仏露は基本的に日本の戦力増強を歓迎。正し英仏は自国の窮状を理由に日本艦娘の大規模増援を希望しています」

 

「……通常の艦娘だけか?『桜風』(彼女)を求めたりはしなかったのか?」

 

「そうです、総理。流石に『桜風』(彼女)の要求に見合う対価は用意出来なかったようです。なお、ロシアは資源輸出や漁業保護関係でより一層日本との連携、友好を要望する……と」

 

 

 口は兎も角日本の援護無しでは事実上外洋に出れない連中は実質的にそれだけで流され、本命とも言える4か国の反応だったが、これも事前の想定からそう大きく外れる事も無かった。西太平洋からインド洋に至るまでの広大な海域の防護を一国で遂行している日本の功績は大きい上、諸外国との貿易を今なお続けている為崩壊するか否かの世界経済を何とか支えているのだ。それに加えて超兵器なる異次元の敵とも戦おうとしている。無茶な要求を押し付けて日本を怒らせる訳には行かなかった。……まあ、そう言う前提条件の上で日本艦娘の増援要求が来たという事は、つまり『我が国は自国防衛で手一杯の為、増援は無理だ』と言う言葉の裏返しでもあるのだが。

 

 

「……山本長官」

 

「はっ……。長期間の増援を行えるか否かと言えば、行えない事は無いです。……ただ、その場合日本や東南アジアに残るのは大多数の筍兼苗木提督と極一部の普通乃至中堅提督と言う事になりますが」

 

「……再教育は……上手くいっていないようですね。あっ別に責めているわけでは有りませんが……」

 

「……御心配、有難うございます、内務大臣。現状、鋭意努力を行っておりますので、今暫く時間を頂戴致したく……」

 

「可能な限り早く再教育が完了する事を願うが、焦ってしまっては元も子もない。その点、十分留意してくれ」

 

 

 国家統治者に悩みが尽きる事はないが、現在の艦娘と提督を統制している立場の日本自衛軍や海軍庁の目下一番の悩みは、対超兵器戦関係を除けば前政権の下で執り行われた促成栽培の提督たちであった。戦果をしっかりと挙げているとは言え、艦娘をゲームの駒の様に非人道的に扱い、消耗と増強と深海棲艦の撃滅を日夜繰り返している第一期生主体の過激派提督勢に関しても頭が痛いが。

 

 

「現在すでに着任済みである経験の薄い新任や若手の提督には、自衛軍やベテラン提督による再教導を行っておりますが、元々彼等は艦娘への指揮能力が有ると言う一点だけで極短期間の教育と不十分な説明により戦線に投入されています」

 

「確か、第一期、第二期辺りの教育期間は半年弱。そこからは6か月、4か月、3か月と急速に削られていき、最終的には一月未満で前線に送られたのでしたか。ようやく認識した深海棲艦の脅威でパニック状態になった前政権の命令で」

 

「その通りです。防衛省や当時自衛隊の方々が意見や抗議、最終的には直訴すらされましたが、ヒステリックになった彼等が聞く耳を持たなかったのは皆様も知られているかと」

 

()()()()()()()()()()()()()。その一点だけは正しかったですけどね」

 

「戦地で一番の害悪は、無能な味方です。それもただの無能で有るだけならば未だ何とかできなくも無いですが、それが無能な働き者で有った場合などは、取り返しのつかなくなる事件が起きるかも知れません」

 

 

 現在、日本には深海棲艦に対する特攻兵器たる艦娘を指揮可能な多数の提督が所属している事、それ自体は事実である。だが、深山提督や仲本提督の様な生まれる時代を間違った様な英才やそうで無くとも大石提督の様に元から若しくは教育の結果良識、良才を持つ提督、そして元の所属が自衛官や警察官等の出身者の提督だけで構成されている筈も無く、数的主力は()()()()()()()()()の一点だけで集められた軍事系の知識も覚悟も殆ど無い一般人だった。

 

 艦娘は、その外見に似合わずに海戦や軍事関係の知識は元から保有しているが、そもそもが軍艦である艦娘が出来るのはあくまでサポート役……軍事組織で言う参謀役が限界であり、艦娘たちに直接指示を出して死地に突っ込ませる事が出来るのは提督のみである。当時艦娘や深海棲艦に関する情報は前政権の命令で多数が封鎖されていた日本では、殆どの日本人は深山提督等が前政権の意志や望み、警告を積極的に無視して艦娘を表に出すまで、多くは知らなかった。

 

 

「その結果、アメリカのハワイ諸島撤収作戦の側面援護としてアイアンボトムサウンド戦(ソロモン諸島解放作戦)が政府のスタンドプレーにて決定され、多数の自衛官出身提督が新米提督の援護の為最前線に出た末に戦死。また提督のみならず、援護していた海上自衛隊の艦艇の多くも撃沈されました」

 

 

「加えて、短時間で適応したり何とか堪えられた者を除く新米提督の一部が艦娘の連続した轟沈でPTSDを発症し、これを聞いた政府は即時拘束かつ病院へ強制監禁、正し戦闘指揮だけは継続するよう命令。正直、この情報を知った時は連中(前政権)の正気を疑いましたよ……」

 

 

 そして、極めて短期間かつ詰め込み式で行き当たりばったりの教育方針とは言えそれでも多少はマシな軍としての教育を受けられた仲本穂乃果や深山満理奈ら(第一期、第二期生ら)とは違い、戦場に出る事の意味もマトモに教えられる時間も無く慌ただしく東南アジアの最前線に送り込まれた後期出身の大多数の提督は、ほとんど実地で指揮等を習得させられる羽目に合い、挙句の果てには無茶な政治的決定により死地(アイアンボトムサウンド)へと配下の艦娘を送り込ませられ、多数が轟沈(戦死)した。

 

 だからこそなのだろうか。何もかも不慣れな自身と共に歩み出したばかりの可愛い艦娘(仲間)を殺させるような命令を出した日本政府に対しての極めて大きな不信感と共に、喪失した艦娘への過大な罪悪感その他諸々によって、自己防衛の為か色々と腐った提督が現在多数存在し、そしてあの地獄から戦没者ゼロで大戦果を挙げた上に日本政府に忠実な深山満理奈提督へ様々な感情が向けられているのは。まあ深山提督にとっては本気で知った事では無いだろうが。

 

 

「最終的には全責任を発足直後の海軍庁やなし崩しで指揮していた自衛隊に押し付けようとしましたしね……。今なお不明なのですか?マスコミに真実をリークして政権を崩壊させた人物は」

 

「はい。元々情報管理が杜撰過ぎた上に一部意図的にしていたらしき状態でもあった為に、情報流出ルートが多すぎて特定出来ません。それに、何故マスコミが握りつぶしも大した脚色もせずに自分たちが好き勝手やれる前政権を崩壊させるだけの真実を報道したのかも……」

 

 

 現在では旧軍以上に末期的な教育期間と体制は改められて、新任提督や経験の浅い提督にはじっくりと心理チェックや戦場に出す事の重大性や覚悟を教え込む様にしているが、それでも政権交代までの間に着任(動員)した多数の心理的に未熟な提督を代替出来るだけの数はそう手早く錬成出来る筈も無く、そもそもその未熟だったり腐っている提督が居ないと現在の制海権が深海棲艦の物量的な意味で崩壊する無情な現実の前に、前政権の負の遺産は今なお清算し切れていなかった。ついでに言えば、清算完了予定日など全く不明である。数が多い上に海路が途切れ途切れなのだから。

 

 

 

「……何と言いますか、政権を奪還してからこの方尻拭いばかりしていますねぇ。私達は」

 

「そう言うな財務大臣。……それに、私達は未だマシな方だろう」

 

「そうですなぁ……上の無能や都合に負担を何とかこなして頂いている現場の方々には本当に頭が下がります。財務省としては、予算は可能な限り自衛軍や海軍庁に対して融通するつもりなので、宜しくお願いします。山本海軍長官」

 

「……ご配慮、感謝します」

 

「何、これが仕事でもありますから」

 

 

 政権を奪還してからこの方、文字通り正月もお盆も何も無しの休日返上にて働き詰めの日本政府や本格的な日本国の危機を目の前に色々と覚悟を決めた官僚陣。基本、マスコミ等で表沙汰になり、知名度やら人気やらが出て光り輝くのは、見るも麗しい艦娘であったり彼女たちを率いる提督達と、後は無駄に声の大きい反政府、反軍運動が大半であり、裏方に近い存在である政府や官僚は影の薄い存在に見えはするが、彼等壮年の大人達の働きによって日本は回っている。

 

 

「……会議中失礼します。総理、野党や団体が会談を要求しておりますが」

 

「……既に野党等に、今日の予定は通達していた筈だが。それにアポも無かったはずだ」

 

()()()()()()()、との事です。内容は、これからの日本の未来の為の重要な話である為、会談時に話す為に言えない……と」

 

「……また後日にするよう伝えてくれ」

 

 

 だが、彼等の働きを全員が全員認める筈も無く、性懲りも無く権力者の席の甘い香り(張りぼての玉座)に憑りつかれた復権や根拠なき自信を元に政権奪取を狙う俗物や、一面の事実しか見ずに、若しくは見もせずに無責任に自身の理想(妄想)をぶちまける右左の思想、業界を問わない団体、更には日本が墜落する事を望む国内外勢力と、数十年の平和の内に巣食った日本の暗部が、駆逐艦『桜風』と超兵器の出現に合わせてまた芽吹き始めていた。今の段階では、直ぐに摘み取れる程度では有るが。

 

 

「……これで、一体何度目だ……?」

 

「取り敢えず二桁は有りますね。さて、また近隣諸国が反省が、戦犯がうんぬんかんぬんでマスコミ等が騒がしくなるでしょうから、後で返しの文句も考えておきます」

 

「……繰り返すが、程ほどにな。外務大臣」

 

 

 

 その後、マスコミを用いて政府の揚げ足を取ろうとした野党や団体がクロスカウンターで反対に社会的常識の無さを突かれて叩き潰され、ネット住民やどういう風の吹き回しか唐突に報道方針を180度変えて業績を回復傾向に乗せた一部マスコミから冷笑と失笑されたのは言うまでもない。

 

 

 

 

「……会議終了後にすみません。総理、山本長官。そして防衛大臣」

 

「一体どうしたのかね?また厄介ごとか?」

 

「何事ですか?首相や自分達の呼び出しとは、ただ事ではない様に思えますが……」

 

「……宮内庁から、いえ……兎も角、向かって下さい。大至急です。……()()、についてです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー……」

 

「これはまた……」

 

「予想出来ていた事ですけどね……」

 

「はい、まあ、これに関しては流石に……」

 

 

 大人達が陰険な策謀(胃を破壊しながらの政策会議)を繰り広げていた日より暫く経った頃、『桜風』は大和たちと共に埠頭へと来ていた。尚、今回の『桜風』は車椅子座乗である。

 

 

「だが『桜風』。あの戦闘機は実戦投入されていたのだろう?」

 

「ええ、まあ……。一応、私の所の航空妖精さんも扱えはしますけど……」

 

「大和たちには無理ですね……。もし扱えたら相当な戦力の強化になりますけど」

 

「流石に私は嫌よ……性能表(スペック)がどれだけ良くても、あんな色物を載せるのは」

 

 

 武蔵や大和、そして『桜風』と霞が口々に語り合いながら眺めているその目線の先には。

 

 

『ぶつかるぶつかるぶつかるイヤー!?』『ウワー!こっちくんなー!?』『あかん落ちる落ちるギャー!?』『ダーぁあープロペラがー!?』『機器が壊れ、ジャー!?』『暴れるな暴れるなどーどードォー!?』『ウォー、アブねぇー!?』『ギャダーお家帰るー!?』『誰か、誰か助け、てぇー!?』『頼む頼む機首上がって揚がって上がれあがれ揚がれー!?』

 

 

 第二次世界大戦型航空機の中でも最大級のイロモノ筆頭格(革新的な新技術挑戦機)である、かのルフトバッフェが誇る名機であるFw190(ヴュルガー)を開発したフォッケウルフ社が産み落とした黒歴史(未来兵器)である【トリープフリューゲル】が多数空を舞っていた。……舞うと言う高尚な表現に見合う光景なのかは甚だ疑問であるが。

 

 

 

 

 

「あぁ、待っていましたよ『桜風』さん!」

 

「ごめんね、怪我の治療中だって言うのに」

 

「あ、いえ……」

 

「私らも居るんだけどね」

 

「あらあら、人気者ですね、『桜風』さん」

 

 

 

 深山提督に背負われて医務室に再搬入されて改めて青葉による取材報道(医務室脱柵の懲罰)を終えた後、最終的に誰かに付き添われての車椅子移動のみ認められた『桜風』は、明石と夕張の要望により工廠の装備開発室へ訪れていた。今日の付き添いは鳳翔(皆大好きお艦)鈴谷(JK艦娘)である。

 

 

「それで、今日はどうしたんですか?また開発ですか?」

 

「あー、うん。開発もそうなんだけどね」

 

「ちょっと確認したい事が有るんです」

 

「またこの無垢なる少女に変な事する気ー?」

 

「……鈴谷さん、そう言う言葉はもう少し穏やかに言う物ですよ」

 

 

 

 何気に鈴谷の言葉を肯定している様な鳳翔の物言いに工廠の主コンビ(明石と夕張)は軽く落ち込みつつ、取り敢えず話題を進めだす。

 

 

「……別に何もしませんよ。今回は『桜風』さんの船体……もっと正確に言えば、()()に関する事です」

 

「『桜風』、改造って言っても私らもしている事だからね?その点安心するように」

 

「あ、はぁ……はい、鈴谷さん」

 

「鈴谷さん、変な事言わないで下さい!大体、どうしてそこまで言われないといけないんですか!」

 

「夕張さん。この娘(『桜風』さん)は、お二人が()()()『桜風』さんの船体を見ていた光景を、ここに来た当日に見ているんですよ?以前から何度も提督より注意されていた筈ですが」

 

「あ……その……あはは……」

 

 

 鳳翔の言葉に怪しく目が泳ぐ軽巡洋艦娘の夕張。他鎮守府の大多数の夕張と同じく、機械系が好きなメカニック系艦娘な深山提督配下のこの少女(夕張)。彼女に取って見れば、前触れもなく現れた未知の機械と技術満載な駆逐艦『桜風』は正しく垂涎の代物だろう。ただこういう好き者の御多分に漏れず、彼女自身はそうする気は無くとも『桜風』にとっては、自身を見る夕張の眼は何時も怖いくらいに(獲物を見つけた豹か虎の如く)輝いていた。

 

 

「話を進めますね。えっと、『桜風』さん。早速ですけど、船体に何か違和感見たいな物は有りませんか?」

 

「……違和感?」

 

「そう。私の計算によると、『桜風』ちゃんの累計戦闘回数と戦果からして、もうそろそろ()の段階に入ってもおかしくないから」

 

 

 現在確認されている艦娘の能力の一つとして、一定度の戦闘経験を持った艦娘はある程度の資源の消費と引き換えに性能向上を図れる事が確認されている。また、その性能向上時は基本的に例外無く船体の延長化や装甲の増圧等の基礎性能が上昇し、更には新兵器を装備していたり、中には扶桑型航空戦艦の様に本来の歴史では存在しなかった様に艦艇が変わる艦娘もチラホラいる。

 

 そして艦娘が一定以上の戦闘経験を積み、改造が施せる時となった場合は、改造可能となった艦娘自身に何かしらの予兆と言うか、自身が()()()()()()()()()()()が有ると言う。人類から見ると艦娘には欠片も変化が見受けられない為全く分からない次元の話ではあるが。

 

 

「違和感……違和感……うーん……?言われてみると……」

 

「何かありましたか?!」

 

「あ、明石さん近っ、近いです!」

 

「あ、すみません」

 

 

 ある程度人付き合いに慣れたとは言え、それでも行き成り両肩を捕まれ、目を爛々と輝かせるメカニック女子(明石)相手にはたじたじになるしかない『桜風』であった。

 

 

「……えっと、何というか……光っている?」

 

「それです!間違いありません!夕張さん、これは本決まりですね!」

 

「そうだね明石さん!よっし、早速提督に許可取って来なきゃ!!」

 

 

 そう言うが早いか、『桜風』が呆然と見送るしかない一瞬の加速と速さと勢いで消え去った夕張。もし道中で島風と出会ったら駆けっこ勝負を挑まれる事請け合いな速度であった。

 

 

「……えっと……?」

 

「明石さーん……鈴谷たち、完全に置いてけぼりなんだけどー……」

 

「あぁ、ごめんなさい。もう大丈夫です。それではこれからまた、開発をお願いします」

 

「アッハイ」

 

 

 結局周囲の勢いに流され続けて言われるがままに行動する『桜風』。相も変らぬ、陸地での自主性、主体性の無さは健在だった。

 

 

「……ごめん『桜風』。何コレ?」

 

「ロケット……でしょうか?ですが、操縦席と思しき場所が有りますし……」

 

「何で?!なんでよりによってコレ!?もっとこう、別の良い物がたくさんあるのに!なんでよりによってコレ?!」

 

 

 そうやって出来たのが、トリープフリューゲル(名状し難き空飛ぶタコ擬き)であった。尚、乱数や運の引きによる物か、それとも何か原因があったのか、この深山艦隊……否、艦娘にとって初のVTOL(垂直離着陸機)はこうやってこの世界に爆誕した。……10回の兵装開発で、内5回がこのトリープフリューゲル(名状し難き空飛ぶイカ擬き)と言う凄まじい偏りによって。

 

 

 

 

 そうして場面は、トリープフリューゲルに搭乗した(させられた)勇敢なる(生贄となりし)妖精さんが蒼天を駆け回るあの光景へと戻りゆく。尚、鈴谷や鳳翔も、瑞鶴や加賀等と共に試験運用の為に艦艇を召喚して海へと出ている。

 

 

「やっぱり駄目そうですね」

 

「そもそも搭載可能な艦艇(艦娘)が限られてるしな。そして発着艦可能な妖精さん(飛行兵)ともなれば、最早誰も飛ばせられないだろう」

 

「……発艦後に、陸地へ着陸させる方式なら……?それなら、駆逐艦とか軽巡洋艦にも有効な運用が出来る可能性が……」

 

「無意味よ、『桜風』。私達の戦場は外洋よ?陸地が有っても、大概は深海棲艦が制圧している敵地。大体、搭載する代わりに兵装の大部分を取り外してようやく数機が搭載出来る程度よ?無意味以外の何物でも無いわ」

 

「それに加えて、大和たちでは発艦出来ても着陸は出来ませんから……。姿勢を垂直に保ったまま降下など、如何すれば良いのか……」

 

「うぐぅ……」

 

 

 そして目の前で繰り広げられる試験(艦娘・妖精体実験)の結果、このトリープフリューゲルの価値は限りなく低い事がはっきりした。まず、駆逐艦への搭載はほぼ不可能。陽炎型、秋月型なら一機搭載出来なくもないが、代償に火砲や魚雷発射管の殆どを撤廃せざる負えず、しかもそうやって搭載しても発艦しか出来ず、そもそも発艦させた後の操縦が絶望的に不得手と言う大問題が有った。第一駆逐艦に突然航空機を操作しろ、と言うのが無謀なのだが。

 

「いくらなんでも此奴は無理なのじゃー!!筑摩ー!筑摩ー!」

 

「もう筑摩にそんな余裕無いよ利根……僕だって、そうだけどさ。全部落ちちゃったし」

 

「あははー……流石の鈴谷さんも、コレはちょっと無理かな……」

 

 

 次に巡洋艦だが、これは軽巡より大淀型、重巡から利根型、最上型(共に航空巡洋艦型)で有れば、何とか搭載が可能である事は判明した。ただ水上機とは遥かに性能も勝手も違い過ぎる為、一隻たりとも発艦は出来ても着艦もマトモな空戦機動も出来なかった。利根による筑摩への全力の悲鳴に対して、筑摩がマトモに答えられなかった事から、事態の深刻さは大体理解で来ると思う。

 

 

「久し振りの出番がコレデスカー?!テートクー!!」

 

「お姉さまー!比叡には、比叡には制御出来ませーん!あ、落ち、落ち、落ち、ひえー!!」

 

「うむ、分かっていた。やはり私には瑞雲しかないのだな」

 

「諦めないでよ日向ぁ……」

 

 

 因みに、戦艦と航空戦艦についてもほぼ同様だった。

 

 

「うん、これは無理だね、加賀さん」

 

「そうね、これは無理ね、瑞鶴」

 

「二人で納得せんといてな……確かに、うちらも出来んのやけどさ」

 

 

 最後に、本命の空母勢だが……こちらも同じく、大苦戦の末総員全面降伏への道を辿っていた。そもそも通常のレシプロ機では無い大馬力ラムジェットエンジン搭載かつ垂直離着陸機と言う通常のレシプロエンジン型固定翼機とはかけ離れた未知の機体が相手では、今まで積み重ねて来た経験は全く通用する事は無かった。発艦出来ても、普通に飛ばす事すら困難だと言うのに、空戦機動(手綱無し悍馬の操縦)着艦(制御された垂直墜落)など、出来る筈が無かった。

 

 

「うぅ……こんな事になるなんて……」

 

「瑞鳳……いくら新型機だからと言って、こんなになるまではしゃがなくても……」

 

 尚、この時速800㎞、航続距離270㎞、夜間戦闘可能な57mm航空機関砲、30mmバルカン砲装備の新型機にハッスルした99艦爆の足が可愛く思うとある航空母艦娘は、誰よりも先に真っ先にトリープフリューゲルを発艦させようとしてラムジェットエンジンの火が甲板に引火して大炎上させてしまい、自らの姉に介抱されていた。お陰で後発の艦娘は養生用の鉄板を敷く等の対処法が取れたのだから、必要な犠牲では有ったのだろう。多分。

 

 

 因みに消火作業には深山艦隊の艦娘のみならず、深山少将が念の為に依頼した海保の消防艇も参加していた為、後に瑞鳳は消火活動に参加した海保の関係者全員に玉子焼きを多数お礼回りと共に献上し、代償に腱鞘炎を発症させかけたのだが、それはまた後日の話である。

 

 

 

アレ(名状し難き空飛ぶ海月)ですら駄目なら、『AV-8BJ ハリアーII』は完全に『桜風』の専用装備になるわね」

 

「戦闘機型の『シーハリヤー FA.2』等の方が良かったんですけどね……」

 

「……『桜風』。少なくとも、今目の前で落ちた()()よりかは遥かに高性能だろう」

 

「ないものねだりは諦めましょう、『桜風』。ある物だけで、何とかしないと」

 

 

 海上に浮かぶトリープフリューゲルの残骸を眺めながら、現実逃避するかの如く話し合う少女たち。彼女たちの会話中も、次々とトリープフリューゲルが燃料切れや失速、制御不能に陥って海面に突っ込んで新たな波紋を刻んでいっている。本日は晴天、時々鋼鉄の雨(トリープフリューゲル)が降り注ぐでしょう、とでも表現出来るか。

 

 

 

「もっとマトモに、皆が使える艤装と航空機が欲しい……」

 

 駆逐艦『桜風』(彼女)の心の底からの呟きは、試験中止命令が出ても今なお空を飛び続けるしかないトリープフリューゲルのラムジェットエンジンの轟音でかき消されていった。




三行要約

1.現在の政権や官僚は相当優秀かつ清廉です。多分能力的には明治期の元勲相手には分が悪いかもしれない程度ですが。

2.いつもの団体や勢力は大体何時も通りです。やったね首相!政敵には困らないよ!(グルグル目)

3.『桜風』weaponsは何時も通りです(S・W・I)。因みにこの試験映像は海外に流れて特に米国人に大爆笑されました。


さて次は……『桜風』の改造や投げっぱなしな命令違反提督のドレッドノート襲撃事件とかですかね……また何時になるのやら

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。