オール甲難易度クリアを目指す提督には正攻法ではムリゲーかつ殆どお祈りゲー状態だったと専ら評判だった様子の今回の艦これ春イベ。提督の皆さまの戦果はいかがなもので御座いましょうか。
陣龍の艦隊は最終的にはE-4までを甲作戦。E-5を乙。残りは丙作戦にて攻略しました。そして攻略中に二隻目のU-511と春風、堀三回目にて伊401を確保出来ました。親潮?黒潮の間違いでは有りませんか?(白目)
追記:今回の戦闘では原作における『絶対フレンドリーファイアしない仕様』と『絶対プレイヤーがやった事が有る筈の回避方法』をチラッと表記しました。
「・・・意外と、戦う時は違う表情をするのね、『桜風』は」
「・・・深山提督、それだけですか?」
「・・・これ以上何を言えと言うのよ、大石君」
そう言葉を交わす二十代前半の軍服を着こんだ男女二人。現在大石提督と深山提督は戦艦大和に設置された大型スクリーンに映る、硫黄島航空隊所属の偵察機が撮影し転送している駆逐艦『桜風』の艦影を眺めていた。この大型スクリーンに映りだすのは終始外側から見た『桜風』の戦闘の様子であったが、深山提督だけは『桜風』の艦内の様子が分かる様に、今回の演習の為に海軍庁が用意した軍用のタブレット端末を通して駆逐艦『桜風』艦橋の様子を見ていた。仲本提督が艦内の様子を見れたのは秘かにこの深山提督が持つタブレット端末映像を転送出来るようにした為である。無論、演習後には転送された痕跡は一切合切残さず抹消される用意周到さである。
「200機の大群を被弾ゼロで潜り抜け、しかもロング・ボウ・アパッチの様な現代兵器を飛ばしてくるなど予想外にも程が有るのですが。『桜風』ちゃんって建造されたのは1940年代ですよね?」
「正確な建造年月日は『桜風』も知らないようだけど、艦歴としては1939年から1940年頃の一年程度、って言っていたわ」
「・・・今度、正確な『桜風』の歴史を教えてもらっても良いですか?」
「『桜風』が嫌って言わなければね」
そう答えながらも、深山提督の視線はそろそろ大石艦隊の本隊と交戦に入り始めている『桜風』の方に向けられたままであった。
「攻撃機が来ませんね」
「流石についさっき200機を撃滅させられたからじゃねーか?」
「同じように繰り出しても同じように撃ち落されるだけだー、って考えたんじゃない?」
『事前情報を元に勘案すれば、次に襲い掛かってくる航空機は最大数で切り良く333機ですね』『狙ってたのかどうかは知らんが見事に確変ゾロ目だな』『・・・ん?空母の艦載機、そんなに多かったか?』『航空戦艦の扶桑、山城の瑞雲も計算に含めました』『あー、そうか』『今まで来ていないと言う事は、やはり3部隊共同で『桜風』に殴り掛かってくるつもりだろうなぁ』『なあに、その方が帰って感覚を思い出せる』『装備は返ってこないけどな』『言うな。・・・空しくなるから言うな』『何時になったら復活するんだろうな、前の装備』
一方駆逐艦『桜風』の艦橋では、艦長の『桜風』とその妖精さん、そして観戦武官として乗り込んでいた摩耶と鈴谷が色々と駄弁っていた。赤城達が所属する第三艦隊を弾薬以外の消耗も無く一方的に殲滅して以降、巡航速度で演習相手の大石艦隊本隊に向かって居た為、暇だったのだ。因みに空母の赤城、加賀が降伏を宣言して演習海域を離脱した時『桜風』は【なんで砲撃戦かミサイル戦に打って出ないんですか】と素で言い放って、鈴谷達を筆頭に関係各所を絶句させている。陸でもそうだが、戦闘中は本来属していた世界の感覚や記憶が陸地以上に強く蘇りでもするのか、今いるこの世界の常識とはかけ離れた事ばかり大真面目に言い募っていた。
『ところで艦長。次に交戦する大石艦隊本隊との戦闘方法は、一体どうしますか?』
「さっきと変わらず流れに任せて殲滅する感じでお願い、副長」
『了解です。やっぱり何時も通りですね』
「この
「・・・あー、『桜風』?」
「はい、なんですか?」
「やっぱり、さっきみたいに突撃するの?」
「はい、そうですけど?」
何言ってるんですか、と言わんばかりに小首を傾げて不思議そうな顔で疑問符を頭の上に浮かばせた表情で鈴谷の問いに答える『桜風』。流石に先ほど同様の事を体験した鈴谷と摩耶は、それ以上に問い質す事はしなかった。有言実行かつ不言実行。今までの交流で既に『桜風』は真面目で嘘を言わない素直かつ純粋な・・・要約すれば聞き分けの良い小さい子供の様な性格で有る事は分かっていたし、最高速50ノット、時速にして約90㎞を超える高速で荒れ狂う駆逐艦『桜風』の激しい回避運動を見れば、圧倒的劣位の自身の艦艇性能を鑑みれば余りその行動に対して多くを言う事など不可能だった。
「・・・『桜風』は、怖くないの?」
「・・・怖い、ですか?」
「一緒に戦う艦も無しに、ずっと一隻で戦って来て、何時も『ヴィルベルヴィント』の時みたいにいっぱい傷付いて、さ・・・怖く、ないの?」
―――鈴谷、『桜風』にいきなり何聞いているんだろ?
『桜風』へ向けた問いかけに対し、鈴谷の心は自身に対してそう言いだした。『桜風』に対して傷付ける様な言葉はぶつけない、とついさっき自ら発言したと言うのに、今鈴谷の口から出たのは『怖くないのか』。陸地でなら兎も角、戦場の雰囲気が有り、尚且つ過去の記憶が蘇りやすいこの海でのこの言葉は、下手すれば『桜風』に存在するかもしれない隠された地雷を踏みかねない。今回は何ともなかったが。
「んー・・・自分が損傷を負うのは別に何とも思いませんね。痛いのは嫌ですけど、何時もの事なのでもう慣れましたし。沈まなければ何とでもなります。・・・それに・・・」
「・・・それに?」
「・・・私は、駆逐艦『桜風』は、友人や仲間が傷付いたり、あまつさえ沈んでしまうくらいなら、自分が致命傷を負ったり、超兵器や敵艦隊に単艦突撃する方を選びます。その方が気持ち的にも楽ですし・・・誰も、傷付いて欲しく無いですから」
―――・・・駄目だこりゃ。コイツ、艦隊戦には根本的に向いていないぜ
鈴谷への回答を外野ながらに聞いた摩耶は、自然とそう感じた。艦隊戦では、余程のパーフェクトゲームでない限りは、必ずと言っていいほどの確率で、僚艦は損傷を負う。中破、大破するだけならまだしも、場合によっては轟沈の可能性も有る。現在の深山艦隊は3年以上に亘る深海棲艦との戦闘でも、今まで一度も轟沈艦を出してはいないが、これから交戦するであろう『超兵器』では、どうなるかは全く予想が付かない。自己犠牲精神は一見立派に見えるが、メンタルがそこらの駆逐艦娘以上に脆い様子が見受けられる『桜風』が仮に僚艦の断末魔、乃至長時間にわたる苦痛の叫びを直視した場合、いわゆる
無論、ただの杞憂である可能性も十分にある。『桜風』は子供っぽいが、『桜風』の戦闘経験は少なくとも今摩耶たちが居る世界全ての艦娘を圧倒するだけの物では有る。味方が傷付いても戦闘中は動揺を見せずに敵艦に飛び付いて、味方艦を守りつつ冷徹に戦い抜く可能性も考えられる。だがそうなると、今度は深山艦隊から抽出した対超兵器艦隊の艦娘が不味い事になる。具体的には【対超兵器艦隊】と言う名を冠しながらも結局は『桜風』に全てを託さざる負えなかった場合の、対超兵器艦隊所属の艦娘のメンタル面である。
「・・・ずっと単独で戦ってきたが故の弱点・・・か」
「・・・摩耶さん?」
「あぁ・・・?何でもねぇ、ただの独り言だ」
―――提督、正直これからのかじ取りは台風のど真ん中を突っ切るよりも難易度高いぞ・・・
『桜風』が生きた世界のドクトリンに則れば、単純作業的に『桜風』を単艦で敵艦隊や敵超兵器に突撃させ続ければいいのだが、生憎摩耶の属する深山艦隊の艦娘は、たった一隻に全てを任せて高みの見物と洒落込めるような精神はしていなかった。特に対超兵器艦隊に志願した長門たちはそうである。軽い部分の有る様に見える青葉も、艦艇時代の過去が影響させてでもいるからか、味方艦艇の損傷を殊の外嫌う。その為深海棲艦とは比べ物にならない脅威である超兵器に対して、『桜風』製の新兵器を全く使いこなせないが為に『桜風』に全負担を押し付けざる負えない現実は、彼女たちの『心』に対して極めて大きな負担がかかっている。表面上は何とも無い様に振る舞っているが、年単位で苦楽を共にした摩耶や鈴谷には、薄らとでは有るが彼女たちの胸の内の叫びが聞こえた気がした。
『艦長、アクティブソナーに反応!反応から小型潜水艦らしき物かと思われます!』
「潜水艦
『いや、でも海中に反応が有るので潜水艦だとは思われるのですが、ライブラリーには存在しない未知の代物なので・・・』
「分かりました。では『新型対潜ロケット』準備。何かされる前に沈めます」
『了解!』
そんな摩耶の心中を知る余地も無く『桜風』は、妖精さんからの報告に直ぐに戦闘中に見せる冷徹な表情に戻り、再度戦闘態勢に戻る。これからは摩耶や鈴谷と私語を交わす事も無く、全力で大石艦隊本隊を叩き潰す作業に戻るだろう。
「・・・ねえ摩耶っち。『小型潜水艦』って、多分アレの事だよね・・・?」
「だから摩耶っちは止めろ鈴谷。まあ、『小型潜水艦』って言ったら、多分『甲標的』の事だろうな・・・」
本来『甲標的』をソナーで捕捉するのは、演習でも深海棲艦との戦闘でも例外無く一度も無かったのだが、恐らく『桜風』は正確無比に大石艦隊本隊に属する北上と大井が放った『甲標的』を捉えている。とは言えここまで来れば『まあ『桜風』だからなあ』と言った風に、諦めとも慣れとも言い難い状態になる二隻の艦娘たちなのであったのだった。
「・・・そろそろ、だな」
「そうだね、長門さん。今までのセオリーを無視した戦法だけど、こうしないと彼女には勝てそうに無いからね」
「私の戦況分析によれば、航空攻撃と同期した艦砲射撃と雷撃が成功すれば、必ず駆逐艦『桜風』に対して打撃を与えられる筈です」
「まーそうだねー。赤城達があっさりと粉砕されたのには驚いたけど、こっちもむざむざ負ける気はこれっぽっちも無いからねー。ねー大井っちー」
「そうですね北上さん!北上さんとなら、駆逐艦の十隻や二十隻、直ぐに沈められます!早く勝って横須賀の街に遊びに行きましょう北上さん!」
『桜風』が『小型潜水艦』を探知した頃、大石艦隊本隊では最終調整を終えた全艦娘が戦闘態勢に入りつつあった。前衛支援任務に就いていた第三艦隊の犠牲の元、可能な限りの情報を集めて即席ながらも対抗策を作り出していたこの18隻に上る艦娘たちは、通常の戦闘における常道である第四艦隊による先制攻撃を放棄し、『桜風』の放つ『AH-64D
「・・・妙高お姉さん。本当に、大丈夫なんでしょうか・・・?」
「・・・はっきり言えば分からないわね。でも、私たちは何時も通り・・・いえ、それ以上に頑張るだけよ」
とは言え、口では強気な発言を発しているが、この艦娘たちはそれなりに修羅場を潜り抜けている歴戦艦揃いである。たった一隻で第三艦隊を文字通りのワンサイドゲームで叩き潰した『桜風』の戦闘能力を軽く見ていはしなかった。ベテランが戦闘開始前に良く交わす軽口のたたき合い、の様な物である。
「・・・あ、あれ?お、おかしいな・・・」
「・・・ちょっと、どうなってるのよ・・・」
「んー?どしたのお二人さんー?」
そんな中、唐突に北上と大井の雷巡姉妹が困惑する声が聞こえ、代表して軽空母の隼鷹が二人に問いかける。何時も酔っぱらっている疑惑がもたれているこの軽空母艦娘だが、大石艦隊に所属する隼鷹は比較的真面目な方の性格で有り、出撃中やその出撃前は我慢して一滴足りとも酒は飲まないタイプである。つまり他の艦隊の隼鷹の中には飲酒して酔った状態で出撃している不届きな輩も居ると言う事である。流石に提督がよっぽど隼鷹に甘くない限りは最低限矯正されているので、少数派ではある。
「いやー・・・なんかね、甲標的からの通信が無くなっちゃってさー」
「こっちも全部の甲標的からとの連絡が取れません。・・・いったいどうして・・・」
そうして返ってきた言葉は『甲標的との連絡途絶』であった。どちらか片方だけならば、何かしらの事故か不具合が発生しただけという可能性も有った。だが今回の場合は『ほぼ同時に大井、北上両方の甲標的との通信途絶』と言う、今までに無い事例であった。そもそもの話、重雷装巡洋艦として数々の戦場や演習に投入されてきた歴戦の両艦が扱う甲標的が今まで事故や不具合を起こした事は無かった。
「・・・これは、まさか・・・」
「・・・神通、どう思う?」
「・・・警戒を通常体制程度で良い、と言う事は無いと思います」
おっかしーなー、等と言いながら甲標的との交信を繰り返す北上と大井の姉妹の通信を聞いていた長門や神通、扶桑と言った、過去の艦艇時代の記憶、そして今の艦娘となってからの戦闘で磨き上げられた『勘』が警鐘を鳴らしだしたが、具体的に何か行動や発言に移れる前に、状況は一気に動き出した。
「・・・っ!?水上電探に反応!え、ちょっと待って、『桜風』にはアパッチが搭載されているのでは無かったの!?どうして
水上電探で捕捉した『桜風』の想定外なぶっ飛んだ手段に陸奥の驚愕の声が艦橋に響き渡るも、周囲の艦娘はそんな事は知った事ではないとばかりに、先に作り上げた対抗策に基づき、全力出撃させた艦載機やそれぞれの魚雷発射管、砲口を完璧に『桜風』に捕捉する為に艦隊運動を開始する。50ノットを超える速度で駆け回る『桜風』相手では一瞬の遅れが命取りである事を第三艦隊の通信を傍受して理解して居た為の行動だった。
「・・・良し、じゃあやりますか。総員、死力を尽くされたし」
『了解!』
『これで感覚が取り戻せると良いんですけどね』
「まあ正直に言って望み薄だね。敵艦の能力の問題もさることながら、前提として今駆逐艦『桜風』が搭載している兵装が極めて貧弱と言う、敵艦の状況とは関係無い部分での問題を抱えているんだから」
『・・・あの艦長、もうちょっとオブラートに包んでも良いんでは・・・』
「事実を嘘で塗り固める事程戦争に置いて害になる事は無いよ、副長」
一方大石艦隊に向けて全力突撃中の駆逐艦『桜風』の艦橋内部。副長妖精と『桜風』が会話していたように、今回は『前の世界での戦い方』の感覚をほんの少しでも取り戻すべく、先制航空攻撃と言うセオリーを無視して戦闘を開始している。無論艦載機を出さないわけでは無く、単に『戦闘中の発着艦と航空管制を同時並行させた砲雷撃戦』と言う『何時もの戦い方』をやるだけの話である。
『敵艦載機接近!敵機種、先行して少数の烈風と紫電改二、続けて彗星一二型甲と流星改、最後に瑞雲の編隊構成です!』
「戦闘機による露払いからの主力部隊による航空攻撃、そして動きの鈍った所に止めの瑞雲の精密爆撃。教科書通りの航空戦ね」
『そして水上艦艇も
「うん、よろしく」
『ヒャッハー!!も一回出番だУрааааааー!!!』『・・・無駄にハイテンションだなぁ三番機』『アレですよ。初陣者特有の猛勇ですよ。そんでもってお約束的に一番最初に敵機によって撃ち落されるんですよ』『縁起でも無い事言うなよ4番機!?俺コレで生還したら主計科妖精にステーキとパインサラダ奢ってもらうんだからな!?』『あ、それ有名な死亡フラグじゃん』『ナニィ!?』
そして今から敵機の大群に加えて水上艦艇と同時に戦闘を開始すると言うのに全くと言って良い程に緊迫した雰囲気等欠片も無しに、『桜風』と愉快な妖精さん達は『演習』を開始する。尚鈴谷と摩耶は大石艦隊本隊による立体的同時攻撃と言う手段を即決で取った上に実現させた事に驚きつつも、全く気にせずに戦闘準備を続ける『桜風』とその妖精さんの姿を見て大石艦隊に対して冥福を祈っていた。とは言え、先ほどの様に外野の野次馬気分でいられたのも此処までであったが。
雲霞の如く迫る300機を超える大編隊と精鋭の水上艦艇が迫る中、駆逐艦『桜風』は一切針路変更する事も無く『AH-64D
速度を調整しながら『桜風』と共に進撃する、一般的な固定翼機ではまず不可能な芸当を見せて演習を見ている空母艦娘や航空巡洋艦娘を感嘆させながらも、先ほどの様にフレームアーツ隊が対艦ミサイルを射出する事は無かった。既に射程圏内に敵艦を捕捉している距離で有る筈だが、『桜風』から攻撃命令が下される事も、フレイムアーツ隊の妖精さんから攻撃命令の要請や催促がされる事も無かった。その不可解な行動による演習海域外の艦娘たちの疑問は、『桜風』から発せられた「Enemy In Range。All Weapons Free、Start fighting。We went into action as preconcerted」の一言と共に消し飛ぶ事となる。
先行して突入してきた、飛鷹と隼鷹の烈風制空隊。この部隊に与えられた任務は『フレイムアーツ隊の撃墜若しくは拘束』そして『可能であれば駆逐艦『桜風』への機銃掃射による妨害』の二つであった。だが命令した二隻の艦娘も、その命令を受けた妖精さんも、前者は兎も角後者は『天運が味方しない限り難しいだろう』と判断していた。既に判明しているだけでも、『AH-64D
『機銃掃射開始。1,2,3・・・五機撃墜!』
『ヒャッハー!入れ食いだー!!撃って撃って撃ちまくれー!!』
『あーあ、調子に乗っちゃって・・・。三番機、敵機直上!連続してくるぞ!!』
『うぉ?!』
「
『・・・す、すみませんでした、艦長』
「構いません。
『りょ、了解!』
『艦長!敵雷撃機より雷撃確認!3本です!!』
「見張り員の報告とソナーにて魚雷スクリュー音を捕捉、位置を確認。機関全速後進、面舵30度、5秒後舵中央戻し全速前進。雷撃の隙間を抜けます」
『ハッ!』
21世紀現代における攻撃ヘリの頂点に君臨する性能を持つAH-64Dと、第二次世界大戦末期にようやく試作機が飛び立った、ある意味仮想の戦闘機である烈風との航空戦と言う、一時期流行った架空戦記でも先ずお目にかかる事は無い組み合わせの光景もさる事ながら、多少余裕のある者は『『桜風』が一切フレンドリーファイア無しに航空管制も行いつつ間断無く対空射撃と回避運動を敢行している』事に気付いて背筋を凍らせていたが、それらが児戯に思える程の『本番』は余り間をあけずにやってきた。
『妙高型重巡洋艦の妙高、羽黒!白露型駆逐艦の時雨と暁型駆逐艦のВерныйが接近中!その背後には大石艦隊本隊が追随しています!』
「OK、予定通り。対艦戦闘準備。取り舵一杯」
『敵重巡洋艦、並びに本隊の敵戦艦からも発砲確認!』
「問題ありません、全て遠弾です。第一目標、妙高。第二目標、羽黒。主砲、撃ち方始め。
大石艦隊の決戦支援艦隊である重巡洋艦娘の妙高と羽黒、そして長門たちの先制砲撃に対して欠片も動揺する事無く、転舵して10秒とかけずにT字を描き、反撃にて最大射程圏内に入った妙高と羽黒に対して精密射撃にてそれぞれ5回斉射を開始。僅か5回と言えでも、一隻に向かって飛んでくるのは80発にも上る20.3cm50口径砲相当の破壊力を持つ15.5㎝75口径砲弾である。弾速も通常の20.3㎝砲よりも早く、弾頭も『新型徹甲弾』となっている。
今相対している妙高型重巡洋艦ならば普通にヴァイタルパートに施された装甲を撃ち抜くのはそこまで無理な話でも無く、それ以前に魚雷発射管の様な危険物をマトモな対策無しで完全に丸出しの上に防御重力場も装備していないこの世界の日本型重巡洋艦の場合『どうぞ沈めて下さい』と言っているようなものである。威力過剰である事が判明したばかりの対艦ミサイルに至っては、完全にオーバーキルですらある。
【『ああっ! ・・・まだ・・・まだ、退けません・・・!』】【『被弾・・・二番砲塔!?・・・いえ、まだ行けます!』】【『流石にこれは・・・恥ずかしいな・・・』】【『くっ・・・この僕を、ここまで追い詰めるとは・・・』】
【『・・・あー、すみませんが判定員です。大石艦隊決戦支援艦隊の皆さまに轟沈判定が下されました。今から出す指示に従って演習海域を離脱して下さい。では先ず・・・』】
『・・・何と言いますか、その、もう、あれですね。凄い哀れですね』
「演習とは言え、ここは戦場よ、砲術妖精。魚雷が節約出来て良かったとは思うけど、それ以上の感想を抱くのは時間の無駄。タダでさえ今航空爆撃を受け続けているんだから」
『とは言え爆撃3発、航空機の雷撃1発受けた程度で、防御重力場のお陰で殆どダメージ有りませんでしたけどね』
「でも既に発覚した問題も出て来ている。反省会は演習後にするから今は自分の仕事に集中しなさい」
『了解!』
通信に紛れて艦橋内に流れる大石艦隊の艦娘や妖精さんが発する悲鳴やら何やらを軽く流して、此方に臆する事無く突撃を継続中である大石艦隊本隊と、味方艦の砲撃に撃ち落されたりしながらも必死に損傷を与えようともがき、足掻き続ける敵艦載機部隊に対して『その勇気は素晴らしくあります』とさり気無く相手の評価を上方修正しながら、戦艦砲と雷爆撃の雨あられの中を再度突き進む『桜風』。今の彼女には『やや相手と自身の装備が期待外れとは言え『前の感覚』を少しでも取り戻す絶好機』で有る為に、遠慮無用にあらゆる兵装を動かし、射撃し続け、思うがままに艦艇を駆け回らせていた。
「・・・うぅ・・・もう、マジテンション下がる・・・身体痛い・・・食べなきゃ良かった・・・あう」
「・・・が、頑張れ鈴谷・・・。た、多分もう少しで終わるからな・・・」
そして『桜風』が戦闘に全神経を集中させ続けていたが為に、シートベルトの様な物など無い、床と固定されているだけの椅子に座っていた鈴谷と摩耶が、唐突な急加減速と連続的転舵、そして無数に降り注ぐ至近弾の豪雨に『桜風』自身の兵装による射撃振動によって幾度となく椅子から振り落とされて床に叩きつけられ、身体的な打撃だけでなく『艦が船酔いする』と言う前代未聞の感覚に苦しんでいる事には、演習が終了するまでついぞ気付く事は無かった。
と言う訳にて大石艦隊の決戦支援艦隊は消滅。字数的に長門や陸奥、霧島や神通達との殴り合いは次回に回します。
Q.こんなに航空機無双しちゃって大丈夫か?
A.大丈夫だ、(どうせ中盤位から囮役と嫌がらせにしかならないから)問題無い