艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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最近裏で書き上げるたびに『ドウシテコウナッタ』と何時も何時も呟いている陣龍です。

何か書いている内に皆が良い感じに動き出したりしているんですよねぇ…キャラ崩壊とかしていませんかね、と言うかそれを言えば『桜風』の描写も色々と(ry


第二五話  硫黄島沖大演習午後の部 ~小休止~

「・・・ヘイ、ミス加賀、ミス赤城。ワンモアプリーズ」

 

「・・・攻撃隊は、全滅しました。今帰ってきた機体が、生還した全機体です」

 

「・・・帰ってきた機体、全部で10機も無いっぽい」

 

「・・・海中投棄した機体と合わせれば、次に飛ばせるのは2機だけです」

 

 

艦隊に沈黙が広がる。『桜風』は特に通信妨害する事が無く、と言うよりする為の装備が無い為に赤城と加賀の妖精さんの通信は全てこの海域にいる全艦娘の元に届いていた。誰も信じなかった。誰も信じたくなかった。空母でも無い、戦闘機を一機も飛ばせない筈の駆逐艦一隻に、赤城と加賀の精鋭妖精さんが操る攻撃隊200機余りが、たった一戦で殲滅させられたなど、信じられる筈が無かった。・・・現実は、無情であったが。

 

 

「・・・デハ、砲撃戦で決着をつけマース。いずれにしろ、私たちに選択肢は有りまセーン」

 

「了解っぽい!加賀さんと赤城さんの敵、夕立が必ず取るっぽい!」

 

「分かりました!綾波、頑張ります!」

 

「了解です金剛お姉さま!榛名、全力で参ります!」

 

 

とは言え、これで引き下がるような艦娘たちでは無い。赤城と加賀は完全に戦力外になってしまったが、駆逐艦娘と戦艦娘に関しては問題無く『桜風』と戦闘可能である。

 

 

 

『・・・?艦長?何か・・・』

 

「っぽい?」

 

「どうしましたか?」

 

『・・・っ!何かがこちらに向かって飛んできます!』

 

「い、今すぐ迎撃するっぽい!」

 

「き、機銃、高角砲!てぇえええ~い!!」

 

 

 

・・・訂正。駆逐艦娘二隻は『桜風』と交戦前に撃沈判定を受けそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

海面を舐める様に進撃する、4機の鋼鉄の怪鳥。国籍マークにウィルキア解放軍軍旗を付けたこの攻撃ヘリ・・・『AH-64D アパッチLB(Apache Longbow)』のコックピットでは、ヘルメット・マウント・ディスプレイに代表される近代的な装備を纏った妖精さん達が会話を交わしていた。

 

 

『やっと出番だな』

 

『そうだなー。まあ演習とは言え初任務が対艦攻撃とはねぇ』

 

『不満か?』

 

『いーや。ただ事前情報を見たら相手は相当貧弱な装備じゃ無いか。正直ただのイジメにしかならんと思うが』

 

『お前それ艦長の戦歴を見て同じことが言えるか?』

 

『・・・艦長を例に出すのは卑怯だぜ隊長・・・』

 

 

 

そう言って頭を振る、駆逐艦『桜風』艦載機部隊のフレイムアーツ隊二番機の火器管制員。『前の世界』での記憶が有る彼らには、自分たちの艦長である『桜風』が日本海軍の特型駆逐艦にすら劣る初期頃の貧弱な火力で帝国海軍の精鋭水雷戦隊を夜戦で例外無く殲滅してのけた過去を知っていた。無論今交戦している相手と『桜風』とは色々と違うが、要らぬ油断を戒めて慢心しないだけの精神は有った。

 

 

『・・・そろそろ対艦ミサイルの射程内だな。各機スタンバイ』

 

『イエス、サー』

 

『一番機、二番機は白露型駆逐艦夕立に、三番機と四番機は綾波型駆逐艦綾波にそれぞれ一発ずつだ』

 

『先ずは様子見ですね』

 

『性能評価試験とも言うがな』

 

 

そして各機のレーダーに敵性反応を探知し、自分の機体と駆逐艦『桜風』からのデータを照合し、目標を捕捉する。尚この時点では大石艦隊からはこの4機はマトモに視認も電探でも探知されていない。帝国海軍の血を引く見張り員の妖精さんと言えども、流石に超低空飛行中のフレイムアーツ隊を発見するのは困難だった。性能劣悪な電探は猶更である。

 

 

『・・・良し、敵艦捕捉!フレイムアーツワンより各機、敵艦を射抜け!』

 

『了解!フレイムアーツツー発射!』

 

『フレイムアーツスリー発射!』

 

『フレイムアーツフォー発射!さあ行ってこい!』

 

 

アパッチの妖精さんの威勢の良いコールと共に、それぞれの機体から一発ずつの長距離空対艦ミサイル(Long-range Air-to-Ship Missile)が放たれ、白煙を発して瞬時に加速して行く。各機全速で発射した為に、時速800㎞が発射直後から上乗せされ対して間を置かずにLASMは音速を突破し、自らに命令された目標に向かってシースキミング機動で突き進む。

 

 

『・・・ところで隊長。もしこれで撃沈出来たら、余ったミサイルはどうしますか?』

 

『・・・艦長に、余ったら戦艦に全弾撃ち込む様に具申してみるか』

 

 

現在全速力で発艦したフレイムアーツ隊を追い掛けるような形で敵艦隊に向けて航行中の『桜風』の艦影を思い浮かべつつ、フレイムアーツ隊隊長は部下からの質問に、そう答えた。

 

 

 

 

「撃つっぽい!撃つっぽい!撃ちまくるっぽい!ぽいぽいぽいー!!!」

 

「左舷!対空砲撃戦、用意!!よく狙って・・・てぇえええ~い!!」

 

「夕立と綾波を援護シマース!ファイアー!」

 

「榛名!全力で参ります!撃ち方始め!」

 

『当たれ!当たれよ!弾幕薄いぞ何やってんだ機銃班?!』

 

『こっちも撃ってるがアレ速すぎるんだよ!!』

 

一方艦艇の位置関係上、フレイムアーツ隊の対艦ミサイルを迎撃している駆逐艦娘の夕立と綾波、そして外側から援護する金剛と榛名だが、動かせる火器全てを使用しての迎撃戦は全く効力を発揮して居なかった。前提として射撃管制装置(FCS)が一般的な艦娘基準、つまりは第二次世界大戦の日本海軍のレベルで止まって居る為、四隻から放たれる火箭は美しいだけの花火でしか無かった。対空誘導弾どころか近接信管も無い様な、しかも駆逐艦が搭載できる程度の対空兵器で、超音速かつ超低空飛行で突っ込んでくるミサイルを迎撃出来たらそいつは超えてはならない一線を越えている。

 

 

『駄目です!命中します!?』

 

「っぽい?!」

 

「そ、総員、衝撃に・・・」

 

 

そして夕立と綾波の努力もむなしく、迎撃には完全に失敗。無情にも4発の空対艦ミサイルは二隻に突き刺さり・・・

 

 

 

『駆逐艦夕立、綾波。対艦ミサイル命中。轟沈!』

 

「ぽいぃぃぃーーーー・・・」

 

「あ、綾波は・・・まだ・・・戦え・・・」

 

『・・・綾波さん。諦めて下さい。貴女の戦いは、もう終わりました』

 

 

『演習』で有る為当然爆薬が炸裂する事無く、夕立と綾波の船体にド派手な、被弾した事を示す着色が花開き、二隻は轟沈判定を受けた。因みにこのミサイルは工作艦の明石と夕張が工廠妖精と一緒に徹夜で制作したものである。正しく『明石と妖精さんと夕張が一晩でやってくれました』状態の逸品である。尚その明石と夕張は徹夜明けだと言うのに餓えた獣の様に目をギラギラと輝かせながらこの演習データを記録中であり、その姿を見た万人から思いっきり引かれている。

 

 

「・・・シット!・・・マサカ、こうなるとは予想外デース・・・!」

 

「・・・金剛お姉さま・・・」

 

 

夕立と綾波が無念の様相を呈しながら演習海域外に離脱するのを悔しそうに見送る金剛と、その長女の様子を見て心中を察して心痛の表情を見せる榛名。だが、この二隻にも同じく、そして容赦無く同じ脅威が迫りくるのだった。

 

 

『艦長!又です!また来ます!』

 

「っ?!直ちに迎撃デース!全砲門、ファイヤー!!!」

 

「榛名!全力で参ります!撃ちー方、始め!!!」

 

 

戦艦で有る以上、装甲は駆逐艦よりも遥かに厚いし、搭載して居る対空砲火も多い。その為一、二発程度なら弾幕を集中させ、尚且つ奇跡的な幸運が重なれば撃墜出来たかもしれなかった。例え撃墜出来なかったとしても、一発二発程度ならば、戦艦の重装甲で凌げる可能性だって零では無かった。

 

 

『敵弾・・・い、一発二発では有りません!何発も飛んできます!!?』

 

「ワッツ?!」

 

「そ、そんな・・・!?」

 

 

だが生憎、駆逐艦『桜風』の乗員は、艦長の『桜風』の影響からか常々『オーバーキル』を信条とする火力信者だった。元々『戦艦』が相手である以上、手加減無用の思考が働いたのも有るが。そして防御重力場も無い、大和型の様な装甲も無い巡洋戦艦上がりの金剛型戦艦が、『桜風』の居た世界では防御重力場や重装甲を打ち抜けられる様に設計された対艦ミサイルに、耐えられる筈も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『金剛型戦艦二隻、撃沈。航空母艦の赤城と加賀は降伏を宣言。敵前衛艦隊の殲滅完了です、艦長』

 

「・・・なんでですか」

 

『・・・艦長?』

 

「なんで『戦艦』が、たかが空対艦ミサイル10発程度で撃沈判定を受けているんですか!?再判定を要求します!『戦艦』があの程度で沈む訳が有りません!」

 

【『却下です『桜風』さん。艦艇の全体に対艦ミサイルが命中するだけに止まらず、トップアタックで砲塔の天蓋を撃ち抜かれて搭載弾薬に誘爆したと言う判定となれば、撃沈判定を出すしかありません。・・・すみませんが、私はこれから報告書を作成しなければならないので』】

 

『分かりました。・・・艦長も、よろしいですね?』

 

「・・・分かりました。お手数をおかけしました、判定員さん」

 

 

結局フレイムアーツ隊の対艦攻撃だけで大石艦隊前衛部隊を撃滅判定にさせ、想像以上の戦果に何故かお冠の『桜風』。この娘も自身の妖精さんの戦意に当てられたか、それとも何気に砲撃戦を楽しみにでもしていたのだろうか。

 

 

 

「・・・ねぇ、『桜風』」

 

「あ、鈴谷さん?どうしましたか?」

 

「いや・・・『桜風』の居た世界では、こんな風に航空戦だけで全部終わった事って有ったのかなぁって、ちょっちお姉さん気になっちゃってね」

 

「いやいやいや、流石に補助戦力でしかない航空機だけで戦闘が終わった事は殆ど有りませんでしたよ?海戦の主力は戦艦とか巡洋艦の様な水上打撃艦です」

 

「あ、うん、分かった。ありがとな『桜風』」

 

 

『よろしかったら使って下さい』と『桜風』の主計科妖精から渡されたタブレット型端末を通して、前衛支援任務に就いていた大石艦隊に降りかかった不幸を直視し、『桜風』の言葉が余計に引き攣った笑みを更に加速させざる負えない摩耶と鈴谷の両艦娘。その名前の通りに春風の様な温かい雰囲気で真面目な今の『桜風』と、戦闘中に見せる氷の様に冷え切り、日本刀の様に鋭い雰囲気の冷静沈着な『桜風』とコロコロ変わる雰囲気に、この二隻は時間が経つにつれてこの引き攣った笑みしか見せなくなって来ていた。

 

 

 

『艦長。次に交戦する相手は艦隊決戦支援任務に就く大石艦隊の第四艦隊であると思われます』

 

「中型正規空母二隻に重巡二隻、駆逐艦二隻の艦隊だったね・・・流石に性懲りも無くこのまま突撃してくるとは思えないけど」

 

『おそらく本体と共同でわが艦に攻撃を仕掛けてくるかと思われます。その方が勝率は高いでしょうから』

 

「だろうね。まあでも私たちがやる事は変わりない。前の世界で戦友だったフランス軍の精神に則り、勇壮に突撃して勝利しようじゃないか妖精諸君」

 

『艦長ソレ大損害かつ世紀に残る大惨敗フラグじゃないですかヤダー』

 

 

自身の妖精さんと和やかに会話する『桜風』。この光景からは全く想像が付かないが、戦闘中はスイッチが切り替わった様に別人の声色と雰囲気、そして冷たい表情で戦っていた。鈴谷たちは様々な戦場を駆け巡り、それ相応に様々な性格の艦娘と交流した事も有る。だが、この様な二重人格に等しい両極端な性質の艦娘と逢った事は無かった。

 

 

 

「・・・霞が『桜風』を怖がった理由、分かる気がするわー」

 

「鈴谷?・・・どういう意味だ、それ」

 

小さく溜息を吐きながら鈴谷が言った言葉に、摩耶が目敏く反応する。因みに今『桜風』は副長たちと一緒に大石艦隊の本体を捜索中であり、鈴谷達がそのような話をしている事には気付いていない。帰投して補給が終わった直後に威力偵察に向かわされたフレイムアーツ隊の動向の方を気にしている。

 

 

「『桜風』ね、『敵』と認めた相手には容赦しないの」

 

「・・・当たり前じゃないか?」

 

「ただ容赦しないだけなら、鈴谷も何も思わないって。問題なのは『戦う行為に何も感じていない事』」

 

「・・・?」

 

 

まるで意味が分からない、と言う表情の摩耶に、鈴谷は鈴谷なりに感じた『桜風』の姿を言葉にする。

 

 

「鈴谷達は、戦う時は、少なからず『恐怖』だったり『戦意』だったり、とにかく何かの『感情』を持ってる。流石にここまでは良いよね摩耶っち?」

 

「そんな事当たり前だろ?後摩耶っちは止めろ」

 

「・・・だけど、『桜風』は『何も感じていない』。戦闘中は『恐れ』も『猛り』もせず、ただただ『何の感情も抱かずに』戦っている。まるで『無垢なる機械人形(Pure massacre doll)』みたいじゃん?」

 

「・・・機械人形って・・・」

 

「だってそうじゃん?200機の大群を見ても何の感慨も浮かばず、一瞬の迷いも無しに無表情で最効率の戦闘を実行する。・・・戦っている時の『桜風』には、『怖い』とか『嬉しい』とか、そう言ったのが無いようにしか見えないよ」

 

 

 

例えどれだけ装備が整っていたとしても、普通ならば敵と接触する時には必ず何かしらの感情を抱く物である。弱敵であったら『哀れ』んだり『舐めきった』り『残念』がったり、強敵であれば『意気高揚』したり『早く終えたい』と思ったり『活躍したい』と考えたり、『機械』とは違う感情を持った『艦娘』にとって、そう言う思念を持つ事は普通である。

 

然れども対する『桜風』には、そう言った感情は無い。何も感じず、最適な行動を選び、探し、戦うだけである。それは、『桜風』に対して他の艦娘が『畏れ』を抱かせるには十分だった。無表情に、無感情に、そして強烈な威圧感を発しながら、圧倒的な能力を持って敵対者を殲滅し、だが戦闘が一度(ひとたび)終わった瞬間には温かな雰囲気を持った真面目で世間知らずな少女に様変わりである。外野や『桜風』と余り関わっていない者が見れば、まるで『強大な力を持った機械が人間の振りをしている』様にも見えて、不気味さや恐怖心を感じて余りある。

 

 

 

「・・・じゃあ、どうするんだよ?『桜風』に『敵の攻撃を怖がれ』とでも言うのか?」

 

「言える訳無いじゃん。それにそんなことしたらまた『桜風』が変に勘違いして泣いちゃいそうだし」

 

「・・・その点、妙に感情的に不安定だよなぁ、アイツ」

 

「鈴谷が言いたいのは、提督が言っていたように『桜風』を守るの。それも、心の方をね」

 

「・・・ああ、そう言う事か。『桜風』が傷付かない様に心無い罵倒とか脅迫してくるような奴を片っ端からぶっ潰すんだな」

 

「さっすが摩耶っち。脳筋の鏡だねー」

 

「オイなんであたしが脳筋なんだよ。脳筋は霧島とか天龍だろ」

 

 

 

実際のところ、駆逐艦『桜風』は縁有って深山艦隊に身を寄せているが、経歴も能力も既存の艦娘とは全く違う部分が多い、と言うより違う部分しかない。つまり『通常の艦娘と同じく自分の提督に絶対服従』するのか確証が持てていない。杞憂かも知れないが、仮に『桜風』を精神的か何かで追い詰めて暴走させたとしたら一体どうなるのかは見当もつかない。ある意味特別待遇であるが、『桜風』の戦闘力や不安定な精神、そして部分部分で欠落したこの世界の常識と言った、改めて見ると凄まじい爆弾になりかねない彼女を大切にするのは、感情を抜きにしても当たり前であった。現場の艦娘にとっては『新しく出来た世間知らずな後輩のお世話』感覚だったりしているが。

 

 

 

 

「・・・あのー、鈴谷さん?」

 

「んー?どったの『桜風』?」

 

「いえ、何か私の事を呼んだように聞こえまして・・・」

 

「あー、えっとー・・・」

 

「単に摩耶っちと夏に着ていく水着の事話してただけだよー。それで『桜風』の着ていく水着とか何が良いかなーって話が出てさー」

 

「そっ、そうだぜ!『桜風』可愛いからなー、何着て行ったら良いかなーって話をしていただけだぜ!!・・・べ、別に、変な話はしてないぜ!」

 

 

 

艦長席から背もたれを両手でつかんで頭を覗かせた『桜風』が、鈴谷と摩耶の会話で出て来た『桜風』の単語に反応して会話に混ざる『桜風』。フレイムアーツ隊に集中して居た上、終わりかけの部分の会話を途切れ途切れに聞こえただけの為、都合の良い事に鈴谷と摩耶の会話は『桜風』には届いてはいなかった。

 

 

「水着・・・ですか。もし使うとしたら、あの潜水服見たいな『すきゅーばーだいびんぐすーつ』って言うのが良いですね」

 

「えー?アレ超地味だよ?」

 

「普通にワンピースタイプの水着でも良いと思うんだがな、摩耶様的には」

 

「いやー・・・。私、身体に何でか凄い範囲にずっと傷痕が残っているんです。なので、そう言った肌が見える水着を着て行ったら大変な事になるんじゃないかなーと」

 

「・・・え゛?アノ傷、治ってないの?!」

 

「・・・若しかして、今までずっと仮眠室とかで寝泊まりして、そこで何時も着替えやシャワー浴びていたのって・・・その傷痕を見られたくないからか?」

 

「私としては傷痕に関してはどうでも良いんですが、こんな物見せて皆に不快な思いをさせたくないので・・・。後は提督から『今部屋割りを選出している最中だから待ってて』との事ですので」

 

 

 

誤魔化す為に適当な事を言ったらある意味それ以上に問題な事を初めて聞いた二人。『桜風』の事を慮って陽炎と不知火、青葉は一切『桜風』の『消えない傷痕』には言及しなかった上、超兵器『ヴィルベルヴィント改めワールウィンド』との戦闘にその対策会議、そして今回の演習と続けざまに色々な事が発生して居る為に、『桜風』の傷跡の事はマトモに触れられておらず、その為深山艦隊の艦娘の殆どはこの事を知らない。

 

 

―――アレこの事実どうすれば良いの摩耶っち?

 

―――あたしに聞くな鈴谷。それと摩耶っちはやめろ

 

 

取り敢えず演習が終わった後に考えよう。そう心に決めた二隻であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふふふ。良いわ、良いわ。最っ高に私の求めていた『兵器』じゃない!駆逐艦『桜風』!!」

 

トラック諸島に存在するとある鎮守府の執務室にて、豪勢かつ高性能なPCに映る駆逐艦『桜風』の戦闘映像を見て、口角を釣り上げて本心から嬉しそうに笑う、提督としての制服に身を包んだ美しい女性。名を『仲本穂乃果』。表情はとても美しい物であったが、隠しようも無いほどに滲み出る黒い雰囲気が全てを台無しにしているが、今この執務室には一切誰も居ない為、何の支障も見られていない。

 

 

 

「あの不必要な感情が欠片も存在していない!そして一切の躊躇無く敵を撃滅出来る性能!最高の『兵器』よ!『あんな女』なんかには猫に小判処の話じゃ無い!アレは私の所で使われるべき!」

 

目を輝かせて思いを発露する仲本元帥。過去鬱陶しく纏わりつき、戦闘中にも泣き言を言ったりしていた『兵器』とは違い、戦闘中の『桜風』の様子は『仲本穂乃果』の欲する『最高の兵器』の完成形であった。先の『桜風』の転属要請書は、ただ単に『桜風』の性能を小耳にはさんだが為に出しただけに過ぎなかった。

 

 

「・・・絶対に、アレは私の所に引き込む。アレを使えば、私はもっと登れる!更に高い地位に!『あの女』や老害共を早く地に叩き伏せられる!待ってなさい駆逐艦『桜風』!必ず私が教育して、お前の有るべき場所に、必ず連れて来て上げるわ!!!」

 

 

だが今回の演習映像を、裏に手を回して深山艦隊にしか見れていない筈の駆逐艦『桜風』艦橋内部の映像を見て、仲本提督は『如何なる手を使っても、必ず『桜風』を配下に引き込む』事を決意する。戦略的な理性的云々よりも、殆ど感情的な欲求からくる行動であり、まるで子供の我儘のように思えるが、『仲本穂乃果』の皮を一度引ん剝けば中身は実質的にこの程度の子供と変わらない精神年齢である。知性と天性の生き抜く事と手駒を見つける才覚だけが成長して居る為に手が付けられないのは事実であるが。

 

 

 

 

 

 

 

・・・任務。『連合国艦船、並びにウィルキア王国海軍の撃滅』。本国通信・・・反応無し、途絶中。

 

・・・一時任務を中断。本国ウィルキア帝国に帰還し、指示を仰ぐ。尚遭遇した連合軍艦船、並びにウィルキア王国海軍艦艇に対する攻撃は継続する。

 

・・・私は・・・どうして、ココニイルノだ・・・?私は・・・ナンナノダ・・・?

 

 

 

 

トラック諸島に身体と頭脳だけは大人である子供の哄笑が響き渡り、硫黄島沖では駆逐艦『桜風』が大石艦隊の懐に殴り込もうとしている時、遠くカリブ海では『詳細不明の広範囲に広がるノイズ』が、人知れず発生していた。




次回、駆逐艦『桜風』と大石艦隊精鋭艦娘18隻による艦隊決戦(殴り合い)の模様をお届け出来るはずです。鈴谷と摩耶のエチケット袋が使用されるかどうかも人によっては見たい部分になるかな?(なる訳無い)

追記:『桜風』の『あの程度で戦艦が沈んでたまるか』発言について。
『桜風』は交戦相手を『金剛型戦艦』とだけ聞いていたので、元々『桜風』の居た世界で交戦して来ていた『改金剛級』をベースに考えていました。なのでこんな発言が飛び出ました。どうしても相変わらず故郷の常識で考えてしまう『桜風』なのでした。

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