艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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長いタイトルそのままの話になります。まあ今回の主役は提督さんになりますが


第一七話  AL/MI作戦完遂兼超兵器『ヴィルベルヴィント』撃沈成功祝賀兼『桜風』の歓迎会

深山艦隊に置いて、大規模戦役を終えた後の祝賀会は毎度恒例行事である。元々は深山少将と同期である『提督予科練』第二期生や、『始まりの艦娘』と遭遇した自衛隊出身者によって作られた、提督と艦娘の関係を手探りで作り上げた通称第零期生出身の提督が多数戦死者や除隊者を出し『地獄』と称された『アイアンボトムサウンド攻略戦』を、ただの一人も戦没者無しに突破した事に関して感極まった深山満理奈中佐(当時)の発案で、艦隊の皆で祝った事を発祥としている。初めは提督自らのポケットマネーでやる深山艦隊のみでの行事だったが、時が経つにつれて艦娘を愛する提督たちの中に伝染して行き、現在では艦娘を戦友や仲間と見る提督の艦隊では、規模の大小こそ有るが大体似たような事が行われている。

 

 

そして三年も経つともはや伝統となっている今回の大規模戦役の記念祝賀会と一緒に駆逐艦『桜風』の歓迎会も執り行われている体育館の中では。

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ~、ぬい姉ちゃーん」

 

「『桜風』、『ぬい姉ちゃーん』じゃありません!それにいつまで抱き着いてるんですか!?」

 

「ん~~、分かった~。・・・あ、瑞鶴さーん」

 

「え、ちょ、『桜風』?・・・うわ、お酒の匂い凄い・・・。『桜風』、どれだけ飲んだのよ?」

 

「隼鷹さんと~、那智さんと~、千歳さんと~・・・三人とたくさん飲んだ~」

 

 

 

酒に酔った『桜風』が抱き着き魔に変身しての大暴走を開始していた。お陰で誰彼構わず抱き着く『桜風』と抱き着かれた艦娘の困惑やら悲鳴やら愛情の籠った声、そしてそれをやんややんやと囃し立てたりする一部艦娘の声が木霊する体育館内は凄まじくカオスである。

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、那智、隼鷹、千歳。いったいどれだけ『桜風』に飲ませたの?」

 

「うっぷ・・・。あ、あたしは、ビールジョッキ十杯を『桜風』と飲んで・・・」

 

「わ・・・私は、日本酒を二本・・・」

 

「しょ、焼酎を瓶四本だ・・・」

 

 

 

体育館中央部で『桜風』が自身の名の如く走り回って深山艦隊の艦娘に抱き着いている頃、深山提督は『桜風』に多量飲酒させた犯人である軽空母艦娘の千歳と隼鷹、重巡洋艦娘の那智を、体育館のステージ上に引っ張ってきて事情聴取していた。いや事情聴取と言うよりも深山提督の眼が全く笑っていない事を見ると、査問と言った方が正しいかもしれない。

 

 

「・・・お前たち、『桜風』が駆逐艦である事は分かっていただろうに、何故そんな事をした?」

 

「長門・・・い、いや、私は千歳たちと飲んでいるのを見て、てっきり大丈夫だと・・・」

 

「・・・那智はこういってるけど、千歳と隼鷹。釈明は?」

 

「あ・・あたしはぁ・・・『桜風』の顔が硬かったから・・・」

 

「私も・・・『桜風』がぎこちなかったから・・・お酒飲んだら良いかなと思って・・・」

 

「・・・それで、『先輩の勧める事だから』と一切断らずに飲み続ける『桜風』を見て『仲良くなるためだから』との理由を付けて好きなだけ飲み続けた結果か」

 

 

深山艦隊の全く誇れない酒飲み三人官女の言い訳を冷めた目で見る長門。本来この酒馬鹿娘を止めるべき深山提督や姉妹艦は、提督は祝賀会の開始の音頭を取った後で上層部から通信が入った為に一時離脱し、姉妹艦の千代田、飛鷹、妙高も丁度提督の残務処理の手伝いや他艦隊への警戒任務の引継ぎに手間取って宴席から離れていた結果が、この有様だった。

 

 

「・・・そういえば提督、上からいったい何を言われたんだ?」

 

「『桜風』の開発した兵装が本当だったのかの確認と、追加で許可するから他の艦隊に配備出来る分の兵装開発要請。後は演習で良いから『桜風』自体の戦闘データが欲しい・・って」

 

「・・・別に、今言わなくても良い事だろうに。それに提督。本当にそれだけだったのか?」

 

「そうよ。それだけだった。・・・本当に、それだけ」

 

「・・・そうか。それなら良い」

 

 

駆逐艦に多量飲酒させた罪により、深山裁判長から『一か月の禁酒命令』が下され、判決を受けた那智、隼鷹、千歳がそれぞれの姉妹艦に引きずられながら提督に必死に拝み倒すのを完全にスルーしながら、長門と深山提督は体育館のステージ上に座りながら宴会風景を眺めていた。因みに今『桜風』は暁型駆逐艦の一番艦の暁を捕縛して猫かわいがりしている。

 

 

「・・・那智たちにはああ言ったけど、『桜風』の意外な一面を見れたのに関しては、良かったかもね」

 

「良かった探しか提督・・・。まあ、それには同意するが。『桜風』が艦隊に来てからずっと気を張って生活しているのは丸分かりだったからな、始めのころの提督の様に」

 

「長門・・・昔の事は言わないで」

 

「・・・分かった。すまない」

 

テーブルからそれぞれ飲食物を持ち込んで、足をブラブラと自由にさせながら会話する両名。艦娘である長門もそうだが、深山提督も黒髪を肩まで伸ばしているために傍目から見ると仲の良い姉妹に見えたかもしれない。尚その二人の視線の先には『桜風』が飛龍に飛びつき、こちらも酒に酔って上機嫌な飛龍が同じく酔っている蒼龍と共に『桜風』を撫で回している姿が有った。

 

 

「・・・提督。提督は、本当に今の『桜風』が開発した装備で勝てると思うか?」

 

「・・・流石にそこまで傲慢だったら、私はとっくにこの世に居ないわ」

 

「そうか・・・。・・・しかし、やはり歯がゆいな、ビッグセブンのこの力が、超兵器には全く通用しないと言う事が」

 

「こればっかりは仕方が無いわ」

 

 

宴席の場で有りつつも、基本堅物と言うか生真面目な二人なので、自然と仕事に関する話がでる。やはり超兵器と言う異種の存在が居る以上、余り気を緩められるほど気楽な性格では無かった。抱き着き魔と化した『桜風』が台風の様に荒れ狂っている光景とは極めて不釣り合いであるが。尚今『桜風』は青葉に抱き着いてお腹に顔を埋めている。

 

 

「金剛がみんなの士気を盛り上げてくれたのは有難かったけど、開発の不安定さなども考えると、結局は少数のメンバーを選出して対超兵器戦に専念させて、他の大多数はそのサポートと通常の対深海棲艦戦に回ってもらうしかないと思うけど、長門はどう思う?」

 

「・・・それが妥当だろう。超兵器には物量は通用しないと『桜風』が言っていた。だから極少数の精鋭をさらに鍛え上げて対超兵器に専念させるのが最良だろう」

 

「『桜風』には対超兵器戦に加えて開発と訓練、それに状況に応じて対深海棲艦との戦闘にも参加して貰うけど・・・余り無理させない様にさせないとね」

 

「・・・『ヴィルベルヴィント』の時も、凄まじいケガを負っても平気な顔をしていたしな」

 

 

そう言って、深山提督は鈴谷と熊野、青葉によって担ぎ込まれた時の、長門は医務室に見舞いに行ったときに偶然目撃した『桜風』の傷跡を思い出していた。あの時の『桜風』は船体の打撃がしっかりと艦娘の身体に反映されており、『右腕全般の裂傷と地に滴り落ちる程の多量出血』『左脚中央部より下部分の肉が少量抉れて骨一部に皹が入り』そして『腹部に大きな打撃痕による大きな痣と上着を真っ赤に染めるまでの多量吐血』と言う気の弱い人間なら一目で即気絶する壮絶な姿だった。

 

艦娘である以上、船体が急速に修理されるに従ってその傷は消えて行ったが、それでもその状態で動き回ろうとした『桜風』の行動には、その姿を見た誰もが心配し、そして怒るのはごく自然の事であった。当の本人は今では逃げ出そうと喚き騒ぐ霞に対して「可愛い~」などと言いながら抱きしめているが。お陰で霞の半泣き顔と言うレアな姿が青葉によってバッチリと写真に収められている。

 

 

「・・・長門」

 

「・・・どうした、提督」

 

「『桜風』の事、よろしく頼むわね」

 

「・・・ああ、分かった・・・!」

 

 

長門に『桜風』の事を頼む。それは言外に『長門は対超兵器戦メンバーに選出』されている事と同義である。そして長門は、深山提督の頼みに打ち震えていた。心の底から武人染みた気質を持つ彼女にとって、超兵器と言う未知の強敵には、恐れに加えてそれ以上に奇妙な高揚感の様な物が感じられていた。この長門の反応を頼もしいとみるか、それとも難儀な性格だと思うかは、人それぞれではあろうが。

 

 

「提督~。長門さーん」

 

「おお、『桜風』か。・・・まだ酔ってるのか?」

 

「『桜風』、大丈夫?気持ち悪くなったりしていない?」

 

「だいじょうぶです~。えへへ~。提督~~」

 

そしてとうとうステージ上にまで辿りついた『桜風』が、他の艦娘にやったように深山提督に抱き着いた。まあ抱き着くと言うより深山提督は座っているから縋りつくと言う方が正確な見た目表現かもしれない。

 

 

「提督~・・・ていとく~・・・」

 

「・・・これは、寝てしまったようだな」

 

「・・・そうね。やっぱり、大勢と話したりして、疲れていたのね」

 

「酒のせいでもあるだろうがな」

 

 

そして深山提督に抱き着いてからそう間も経たないうちに、『桜風』は静かに寝息を立て始めた。大勢の人の前での説明やその時に鳳翔と古鷹から受けたお説教、そして酒好き三人娘に多量飲酒させられれば流石にそうもなろうと言う話である。

 

「どうする?ベッドまで連れて行くのか?」

 

「・・・そうね。ここで寝ると身体に悪いからね」

 

そう言いながら優しくもサラッと『桜風』の小柄な身体をおぶる深山提督。傍目では完全に『歳が少し離れた姉妹』にしか見えないのは、深山提督が『桜風』に向ける優し気な表情からだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ていとく・・・かんちょう・・・わたし・・・がんばる・・・みんな・・・まもる・・・」

 

 

・・・もう大丈夫だから。今はまだ無理でも、必ずみんな、『桜風』を助けるから

 

小さい『桜風』の寝言を聞いた深山提督は、心中でその言葉を呟きながら、小さく微笑みながらも、力強く再度の誓いを立てた。

 

 

・・・理想論だと笑うなら笑いなさい。夢想家だと嘲笑うなら勝手に嘲笑いなさい。私は、この戦争で、誰一人として、絶対に『仲間』を失いはしない。

 

『地獄』と呼ばれた『アイアンボトムサウンド』を、ただ一人幾多の偶然と必然、そして奇跡的な幸運の末『戦死者無しでの突破』と言う輝かしい実績を残している深山満理奈少将。戦況が逼迫する中、彼女自身は元々適正有りとの事にて『提督予科練』に途中編入された所謂『民間上がり』だったが、その為か『艦娘は兵器であり、人の形をした消耗品』とする『提督予科練』第一期生とは真逆の『艦娘は仲間であり、兵器では無い』とする考えで定まっていた。だからだろう、余計なトラブルを起こさない為にも無駄なプライドや下らない虚栄心に凝り固まった第一期生が居る東南アジアの泊地に配置されずに少将でありながらも首都防備を担当する横須賀に配属されているのは。

 

 

そしてもう一つ、深山満理奈が第一期生の居る東南アジアに配属されない理由。

 

 

 

 

 

 

 

・・・仮に『桜風』を、私の仲間を傷付けようとするのなら、如何なる存在で有っても、どのような手段を講じてでも()()()()()()()()()()

 

 

『仲間を傷付けた存在』に対して徹底的過剰報復行為を一片の躊躇無く行うほどに極度に振り切った強い攻撃性。それが、仏の様に穏やかで汚職など一切考えもしない真面目な深山満理奈の裏に隠された攻撃的性質が、余裕のない政治状況と戦況下で他提督に炸裂されて欲しくなかった上層部の配慮からだった。

 

 

深山満理奈と駆逐艦『桜風』。後方と前線。提督と艦娘。日本とウィルキアと言う違いこそあれど、やはりこの二人の本質は魂からの似た者同士なのかもしれない。




実際の所、陣龍は人生の今まで一度も酒を飲んだ事は有りません。と言うか炭酸自体好きじゃなくてもう十年以上飲んでいません。その為、飲酒時の『桜風』の表現がおかしいかもしれませんが、実際の所どうなんでしょうね?取り敢えずこの世界での『桜風』はこんな感じで行かせて頂きますが…

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