艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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無計画投稿って恐ろしいね。気付いたら何時の間にか超兵器の登場ですよ


第一二話  横須賀沖にて

昨日に引き続き五月晴れのここ日本国神奈川県横須賀軍港。日本国の首都東京を守護するこの軍港に所属している第3海上部隊の一つである『深山艦隊』の所属地からは、二隻の重巡洋艦、一隻の軽巡洋艦、三隻の駆逐艦、二隻の軽空母、二隻の戦艦、そして甲板上に様々な物が敷き詰められている誰から見ても異様な軍艦が出港していた。本土に居残っていた艦艇を動員した『AL/MI作戦参加艦艇出迎え艦隊』である。

 

 

 

「・・・ねえ古鷹」

 

「どうしましたか、提督」

 

「・・・流石に、海に出て結構経つのに縛り付けたままなのはどうかと思うんだけど」

 

「元帥や長官達からの命令ですから。『縛り付けてでも暫く休ませてやれ』、と」

 

「・・・まだまだ大丈夫なんだけどなぁ」

 

「【まだ大丈夫はもう危ない】んです、提督」

 

 

そしてその旗艦である重巡洋艦古鷹の艦橋では、この艦隊の司令官である深山満理奈少将が、本人の意思を無視して艦長席に縛り付けられていた。と言っても深山少将の玉のお肌に傷を残すほど強く縛られているわけでもなく、単に『書類整理などが出来ない程度に』拘束しているだけだった。

 

 

 

 

 

上層部への報告が終わって艦隊に戻った後、武蔵達によって提督の私室のベットに放り込まれた深山少将だったが、その直後に空気を読まずに大量の書類を持って大騒ぎしながら瑞鳳、夕張、明石が乗り込んできた。当然疲れ切った提督を起こさない為にもこの大騒ぎしている3人娘は即座に武蔵と長門によって物理鎮圧されたのだが、武蔵たちの配慮は【市販の眠気覚ましと栄養ドリンクを一気飲みしながら起きて来た提督】によって無意味となってしまった。そう、深山満理奈少将は提督の中でも有名な【ワーカーホリック症候群発症者】だった。その為に上層部からは、深山少将は特に気にかけられている。【艦娘は提督にしか従わない】と言う特性と、雪だるま式に膨れ上がった組織構成のせいで【質の良し悪しに極度に差がある提督たち】、そして【【悪夢の第二期生】を生む原因となった反抗的かつ悪質で一部政治勢力と繋がりのある提督勢】と言う三重苦の為に、深山少将の様な【基本的に上層部に対して従順で、尚且つ常に良好な戦果と犠牲者ゼロを成し遂げている清廉な熟練提督】は、それこそ宝石よりも貴重だった。過労で倒れられたら冗談でも何でもなく本気で上層部は頭を抱えて泡を吹きながら倒れるであろう。

 

 

「『桜風』の方は大丈夫?」

 

「・・・大丈夫なようです。ただ、頻繁に航行速度や艦艇同士の距離が変わっていますが」

 

「『艦隊運動なんて今まで一度も取った事無いです』って言う『桜風』の言葉は、本当だった見たいね」

 

 

重巡洋艦娘の古鷹から伝えられる『桜風』は、先導している陽炎と『桜風』の後方から追尾している不知火に対して、艦艇間の距離を一定に保つために忙しなく加減速と距離の確認を行っていた。一般的に缶の圧力を一定に保てば速力は一定に保てるはずなのだが、『桜風』は一般的艦艇とは違って乗員削減のために『ギア方式』、つまり圧力を細かに調整する能力は保持していない為、何度も『最大船速』と『通常船速』を繰り返して距離を調整していた。艦艇距離や速度を一定に保つ方が無理である。しかも『桜風』の性能が他の艦娘とは圧倒的に違うのだから、余計に無理である。

 

 

 

 

「まあ『桜風』は、今の所大丈夫だとしても、AL作戦参加艦艇からの報告が無いのが気になるわね・・・」

 

「MI作戦参加艦艇の旗艦である加賀さんからは、AL艦隊とは先ほどまで通信出来ていたそうですが・・・」

 

「襲撃を受けたにしても、一切の電波発信も無いのはまず無い。かと言って、AL艦隊すべての通信機器が一斉に壊れる事はもっと有り得ない・・・」

 

「・・・みんな無事だと良いんですけどね・・・」

 

 

そして基本真面目な性格のせいか、涙目になりながらも必死に艦艇間の距離を熟練艦である青葉たちの様に一定に保とうと奮闘する『桜風』を他所に、深山提督と古鷹はAL艦隊からの定時通信が無い事を気にしていた。飛鷹や隼鷹、熊野に鈴谷を主力とし、支援艦隊に翔鶴と瑞鶴に伊勢日向と言うかなり豪勢な艦娘で構成されたAL艦隊は、AL作戦を無事に成功させた後順調に横須賀に向けて航行していたはずだったが、今日の朝方になって突然通信が途絶した。その為、この『AL/MI作戦参加艦艇出迎え艦隊』が編成されていた。フットワークの軽い艦隊である。

 

 

 

「・・・提督、『桜風』さんからです」

 

「分かった、繋げて。あと古鷹、縛ってるの外して・・・」

 

『『桜風』からの通信入ります』

 

いい加減二桁目に突入する縄ほどきの懇願を古鷹の通信妖精の声によってあっさり遮られ、その古鷹も縛っているのをほどく気配を見せない事に軽く涙目になる深山少将だったが、そんなことは知った事ではないとばかりに駆逐艦『桜風』からの通信が入ってきた。

 

 

【「提督、こちら駆逐艦『桜風』です。現在レーダーに機影を探知。解析の結果彩雲と思われます」】

 

「多分飛龍か蒼龍の彩雲ね」

 

【「また彩雲からの通信では【MI攻略艦隊は、未だにAL艦隊との通信はとれておらず】との事です。どう返答しましょうか?」】

 

「・・・取り敢えずこちらと合流する様に伝えて」

 

【「了解。・・・ああ、また近づきすぎてる!ちょっと速度緩めて!」】

 

「・・・加賀たちも、捜索してくれていたみたいだけど・・・」

 

「一体、瑞鶴さんたち、どこを航行しているんでしょうか・・・?」

 

 

 

真剣な表情でAL艦隊の行方を考察し、艦隊の皆が無事かどうかを重巡洋艦の艦橋で心配する提督と艦娘。一方が椅子に縛られながらであるのが色々とおかしいが、この艦隊だと深山提督が働き過ぎた瞬間に艦娘の判断で良くやっている事である。お陰で無垢な『桜風』が色々と勘違いし始めているが。

 

 

 

 

「・・・本当にレシプロ機しか飛んでいない・・・」

 

『ある意味壮観ですな』『烈風に流星改、天山一二型に彗星一二型、そして彩雲と』『こんな航空機で大丈夫か』『大丈夫じゃない、大問題だ』『仮に今すぐあの機体が襲ってきても『40㎜4連装機関銃』だけで撃退できそうですね』『『RAM』は・・・流石に勿体無いか』『また主計妖精に怒られるからなー』

 

 

そして『MI攻略艦隊』と合流した時、駆逐艦『桜風』の艦橋ではMI艦隊に所属する空母が飛ばしている航空機を見てあっけにとられていた。脅威だったからではない。一応深山提督や青葉たちから聞いて居た物の、本当に『桜風』の世界では早期に戦場から姿を消した機体が大空を舞っている光景に壮絶なカルチャーショックを感じていたからだ。

 

 

「HEY、提督ぅー!そこのNew faceは誰ですかー?」

 

無線に快活な女性の声が響き渡る。所々英語混じりな独特の口調に『桜風』が驚いていると、深山提督が苦笑しながら『桜風』に答えてあげる様に伝えて来た。因みに深山提督はようやく拘束を解かれたようだ。筆記用具はすべて隠されて居る為仕事は出来ないが。

 

 

「えーと・・・初めまして、私は駆逐艦『桜風』です。四日前に色々あった末に深山提督の指揮下に編入されました」

 

「Wow!私たちがMidwayに行っている間に・・・Wait、Are you a destroyer?!」

 

 

目の前の軍艦が駆逐艦を名乗った事に金剛から驚愕する言葉が飛び出て、それを皮切りにMI艦隊の他の面々からも驚きの声が聞かれ始めた。

 

「あの、始めまして『桜風』さん。私は高速戦艦の榛名です。失礼ですが、本当に駆逐艦ですか?」

 

「はい。始めまして榛名さん。『桜風』は駆逐艦です。正式名称で言うと『超甲種重武装突撃型高速巡洋駆逐艦 桜風』と言う長い名前になります」

 

「なにそのすっごくカッコよくて強そうな名前!?ねえねえ蒼龍!」

 

「飛龍、航空母艦から名称変更しようといっても誰も認めないよ」

 

「あ、やっぱり?」

 

「同じ駆逐艦なのに、夕立より船体が結構大きいっぽい!たくさん載せている艤装、どんなのか教えてほしいっぽい!」

 

「綾波の何倍も大きいですねー・・・」

 

「え、ええと、船体の、ぎ、艤装に関しましてはー・・・」

 

 

重厚な軍艦が集まる中少女たちの快活な声が響き渡ると言うアンバランスな状況の中、多数の艦娘からの視線と話題を総浚いしている『桜風』はどうにかこうにか受け答えをこなしていた。半分緊張で言葉使いがおかしくなっているが、その点は仕方が無い。別にコミュ障と言う訳では無いが、対人での会話に関しては、『桜風』は絶対的に経験が少ないのだから。

 

 

「加賀。AL艦隊からの通信は未だ来ていない?」

 

「提督。・・・はい、未だに」

 

「一体どうしたんでしょうね。AL艦隊のすべての艦艇の通信機が一斉に故障したとは思えませんし」

 

「また整備を怠ったのでしょう。五航戦には帰還した後で鍛えなおさないといけませんね」

 

「加賀さん・・・。いえ、何でもないわ・・・」

 

 

 

そして初々しい新人が先輩に弄りまわされる世の常の光景をほったらかしにしている深山提督と一航戦コンビは、先ほどと同じくAL艦隊の話をしていた。基本真面目に職務をこなす翔鶴や瑞鶴、それに改最上型航空巡洋艦の鈴谷と熊野が定時連絡をすっぽかすなんてことは今までに一度も無かった。本土近海からは、駆逐艦『桜風』が深海棲艦による本土進攻艦隊を殲滅して以後は、未だに敵影は確認されてはいなかった。

 

 

 

「・・・提督。レーダーに反応。これは・・・航空戦艦?」

 

そんな中で、空気を換える一言を放ったのは、この艦艇の中で最も優秀な電子機器を搭載する駆逐艦『桜風』。彼女のレーダーが捉え、そしてデータベースではじき出した答えに、艦隊の皆は安堵の表情を浮かべていた。加賀は相変わらず無表情だったが。

 

 

「『桜風』さん。それはきっとAL艦隊の伊勢か日向です」

 

「本来は私たちMI艦隊より先に到着して居なくてはならないのに、ここまで遅くなるとは。やはり五航戦は弛んでいます」

 

「加賀さん。きっとあの娘たちにも何か事情が有ったんですから、話を聞いてあげるくらいは・・・」

 

「赤城さん・・・。分かりました。一度だけ言い訳を聞いてあげましょう」

 

 

 

そんな会話が『桜風』だけ置いてけぼりにして艦隊全てで交わされる中、その航空戦艦を通してAL艦隊との通信がMI艦隊、そしてAL/MI作戦参加艦艇出迎え艦隊全てに開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「MI艦隊より遅れる上に定時連絡をさぼるとは良い度胸ですね瑞鶴。教練を受ける覚悟は出来ていますね」

 

「開口一番それ言っちゃうの加賀さん!?こっちも連絡をサボったり遅れたくて遅れた訳じゃ無いのよ!」

 

「加賀。瑞鶴の言う通りだから少し待ってやってくれ」

 

「日向。・・・分かりました、では教練は一週間から三日に・・・」

 

「どっちにしても教練受ける未来しかないの私?!」

 

 

そしていきなり今までより更に騒がしくなる無線。名前こそ資料を見て知ってはいるが、それでも相手の人となりなどは大したことは知らない『桜風』は、ただ単に何も喋らずに嵐が過ぎ去るのを待つばかりだった。

 

 

 

 

「だってしょうがないじゃない!いきなり艦隊のみんなの()()()()()()()()()()()() ()が入ってきて、全然使えなくなっちゃったんだから!」

 

 

 

 

 

瑞鶴からこの一言が放たれるまでは。

 

 

 

 

 

「すみません瑞鶴さん。その話詳しくお願いします」

 

「え?良いけど・・・君は?」

 

「四日前に深山艦隊に編入された駆逐艦『桜風』です。そのノイズの事を教えて下さい」

 

「え、君が駆逐艦?!そんなに船体が大きいのに!?」

 

「今は私の船体の事はどうでも良いです。それよりノイズの事を教えて下さい、今すぐに!」

 

 

つい先ほどまで先輩たちにいじられていた姿とは一変して鬼気迫る声色と表情で瑞鶴を問いただす『桜風』に、瑞鶴はタジタジとなりつつも言われるがままに()()()()()()の事について話し始めた。

 

 

「えっと・・・あれは熊野たちが北方棲姫を撃破して帰投している途中だったわね。前触れも無く艦隊の皆の電探と無線にノイズが奔って全然使えなくなって、仕方が無いから誰も落伍しないように慎重に航行してたの。・・・だよね翔鶴姉?」

 

「瑞鶴の言う通りです。荒天で海も荒れていましたので、せっかく勝ったのに落伍者を生んだら大変だと言う事で・・・」

 

「瑞鶴、整備不良の言い訳なら聞きませんよ?」

 

「加賀さんこれは本当だって!なんならほかの皆にも確認してよ!」

 

「『これは』と言う事は、以前やった事が有るのね?」

 

「ただの言葉の綾だよ!」

 

 

そして正規空母娘同士で何時もの掛け合いが始まる中、瑞鶴に鬼気迫る表情で『大量のノイズ』の事を問いただした『桜風』は、唐突に黙り込んで考え込み始めていた。

 

「・・・『桜風』さん?どうしましたか?」

 

「『桜風』?何考えているの?」

 

「一体どうしたの『桜風』?」

 

 

そして『桜風』の妙な行動に疑念を抱いた青葉や陽炎、そして深山提督が話しかけたと同時に『桜風』は突如行動を開始した。

 

 

「深山提督。直ちに偵察機を全方位に出してください。彩雲だけで無くて艦載機全てを使っての偵察をお願いします。それと直ちに全艦艇を横須賀に帰投させましょう」

 

「え?『桜風』さん?」

 

「自分はその『ノイズ』を発している主犯である超兵器を沈めてきますので、提督たちは・・・」

 

「HEY、『桜風』。突然何を言ってるデスカー?」

 

「『超兵器』?」

 

 

 

そして当然ながらいきなりの『桜風』の言動に疑問符を浮かべる艦隊の面々。『説明する時間も惜しい』と言わんばかりに苦り切った表情で二の句を告げようとした『桜風』の言葉に先んじて。

 

 

「・・・なに、これ・・・。『島』が・・・動いている・・・?」

 

瑞雲を飛ばしていた伊勢の一声が飛んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、異常な戦艦だった。大和型戦艦を遥かに超える大柄な艦艇でありながら、異常な速度で太平洋の海を走っていた。早い事で有名な駆逐艦島風の動きをそれなりに見ている日向たちであったが、その『見慣れた速さ』がまるで児戯に見える速度で航行していた。戦艦と判断したのも、ただ単に戦艦の主砲と思わしき艦砲を積んでいたからである。そしてその異常な戦艦は、まっすぐにこちらに向けて航行して来ていた。

 

 

「・・・え、なにこれ・・・夢・・・?」

 

「くっ、一手遅かった!」

 

 

余りの現実離れした光景に、深山提督を含めた艦隊の皆は呆然とする中、唯一駆逐艦『桜風』のみは艦隊から単独で飛び出した。

 

「さ、『桜風』さん?!」

 

「深山提督は直ちに艦隊の皆と一緒に避難してください!あいつは、『超高速巡洋戦艦 ヴィルベルヴィント』は、私が沈めます!」

 

 

 

 

総員、第一種戦闘配備!対超兵器戦に移行するよ!

 

サー!イエッサー!

 

 

通信を通じて『桜風』と妖精さんの声が響く中、何とか戻ってきた深山提督は日本本土への報告と、『桜風』の言葉を受け入れて艦隊の退避を開始させた。

 

 

 

見つけた・・・私が、ヴィルベルヴィントが超兵器で有ることを・・・証明出来る相手・・・

 

 

 

通信からは、深海棲艦とも、艦娘とも違う、新しい声が混線し始めていた。

 




次回、横須賀沖にて駆逐艦『桜風』と、『超高速巡洋戦艦 ヴィルベルヴィント』との決戦が始まります

追記、MI艦隊所属の夕立と綾波の会話を二行挿入。

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