艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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前話で『二十話突入してからようやく『超高速巡洋戦艦 ヴィルベルヴィント』の姿が垣間見えるか否かな可能性…』と言ったな?

すまない、流れに身を任せた結果僅かに登場しました。チラッと存在が確認出来た程度でしたが


第十一話  『桜風』の第3海上部隊駐屯地見学会 ≪食堂編≫

「・・・やはり、相当疲れていたようだな、提督は」

 

「駆逐艦『桜風』救出のために貫徹しちゃったからねぇ」

 

「提督は何時も、なんでも背負い込んで頑張りすぎです!たまには大和たちに仕事を任せて休んでくれても・・・」

 

「そうは言うがな大和、今国会で『艦娘保護法』の審議中だとは言え、今の私たちの身分は『艦艇』であって『人』では無いんだ。『物』が『人』の代わりになったとなると、後々面倒な事になる」

 

「あうぅ・・・それは、武蔵の言う通りだけど・・・」

 

 

駆逐艦『桜風』の顛末についての報告を上層部に行った後、とんぼ返りで横須賀の自分の艦隊に戻る深山少将と護衛と運転手役を兼務する大和型と長門型の艦娘たち。その車の中では、後部座席の真中で陸奥にもたれ掛って寝息を立てる深山満理奈の姿が有った。硫黄島航空隊から深海棲艦の精鋭部隊が出現したと一報が入ったあの時から、丸一日以上ずっと休まずに今まで動き続けていたのだ。駆逐艦『桜風』の行動によってその横須賀に向けて進撃していた深海棲艦は一夜にしてまとめて蒸発した為にまだ多少は仕事は減りはしたものの、貫徹して『桜風』の事情聴取をしてその足で上層部への報告をするという精神的、肉体的に疲弊する事をしていたのだから、今の大和の言葉は、この場にいる誰しもが共有していた。

 

 

「『桜風』か・・・」

 

「良い娘だとは思いますよ?」

 

「そう言う意味ではない」

 

 

―――たった一隻の駆逐艦に、あれだけの性能を求める必要があった世界。私には想像もつかんな・・・

 

 

軍艦のみならず、兵器と言うものは基本的に友軍戦力との共同作戦を前提として設計、開発されている。どれほど高性能でも単独では戦局を覆すどころか影響を与えるだけでも厳しい。『衆寡敵せず』。それが、大和や武蔵たちが身をもって証明した軍事的常識だ。だが、先日保護した駆逐艦『桜風』は『まるで単艦での戦闘が当たり前であるかのように』行動し、深海棲艦との戦闘に入り、そして無傷で殲滅した。彼女の言動や艦艇の性能とを合わせて考えると、自分たちの世界の常識とはかけ離れた理論で駆逐艦『桜風』は建造されたようにしか、武蔵には思えなかった。

 

 

・・・これから、色々と忙しい事になりそうだな

 

夕焼けで霞が関のビル街が美しく染まっていく中、車を運転している武蔵は、そんな予感を感じていた。そしてその予感は、深山提督をベッドに放り込んだ直後に瑞鳳と明石、夕張がハイテンションに飛び跳ねながら大量の書類を持って来た事により早速的中するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「食堂・・・広いですね」

 

「艦娘だけで50人以上も深山艦隊に所属していますから」

 

「広さだけで無く、出されるご飯も美味しいですよ!」

 

「給糧艦の間宮さんと伊良湖さん、そして二人が指揮する妖精さんたちの料理の腕凄いもんねー」

 

 

お風呂場から上がった四人娘は、さっきまで着ていた制服から着替えた後、艦娘が一堂に会して食事するその名もズバリな間宮大食堂に来ていた。何も知らない人間が傍から見れば『仲の良い女子学生が休日に後輩を連れて高級レストランに連れて来た』ような光景を見せているが、その『女子学生』が実は深海棲艦を唯一効果的に撃滅できる存在である艦娘と言う戦士であると言う事は、今の雰囲気からは欠片も連想させなかった。

 

 

「・・・あれ、鳳翔さん?珍しいですね、鳳翔さんがこの大食堂に居るのは」

 

「あら、青葉さん。それに陽炎さんに不知火さん、『桜風』さんも」

 

「鳳翔さん、こんばんはー」

 

「こんばんはです、鳳翔さん」

 

「あ、え、こ、こんばんはです鳳翔さん。・・・珍しい?」

 

鳳翔の方は、深山艦隊が初めに『桜風』に接触した、深海棲艦の出現頻度が激減した事を調べる『近海調査艦隊』に所属し、通信を聞いて居た為に『桜風』の存在を知っていたが、当の『桜風』は鳳翔とは初対面で有る為に【面識の無い女性に名前を呼ばれた事】に一瞬動揺するも、何とか挨拶を行い、そして疑問を提示する事が出来た。

 

 

「あー、『桜風』はこの艦隊に来たばかりで未だ何も知らないんだっけ」

 

「鳳翔さんは、この艦隊の敷地内で居酒屋を営んでいるんです。艦娘のストレス解消と国民との距離を縮めると言う名目で、深山司令だけでなく海軍庁からも許諾を得ています」

 

「今では艦娘だけで無くて、時間や日時を区切ってですが一般の人からもたくさんのお客さんがくる大盛況ぶりなんです!」

 

「私は、提督にお願いして好きでやっているだけですけどね。今日は艦隊の皆が遠征や出撃でいらっしゃらないので、居酒屋はお休みにして間宮さんのお食事を戴きに来たのですよ」

 

そう言いながら右手を頬に当ててほほ笑む鳳翔。多くの提督から【お艦】と呼ばれる包容力や良妻力が全艦娘の中でも最上級である彼女は、全く意識せずにこうやって話し相手の懐に自然と入り込んで、本人も気付かない悩みを見つけ出して相談を行い解決策を見出したりして居る為に多くの者から慕われており、特に艦娘からが多いが常連客や相談相手から【お母さん】と呼ばれている事も多い。

 

 

「はぁ・・・そうなんですか」

 

とは言え、【艦長】や【副長】と言った存在は兎も角【お母さん】と言う存在は知っていても概念は良く分かっていない『桜風』には、そんな姿の鳳翔を見ても、気の抜けた返事をする以外で余り大きな反応を見せる事は無かったが。

 

 

 

間宮大食堂では、入り口そばに設置してある食券販売機から好きな料理を選び、その食券を受付に渡し、椅子に座って妖精さんが机の間に作られた妖精さん専用通路を通って持ってくるのを待つスタイルになっている。言ってしまえば回転寿司のレーン役を妖精さんがやっているようなものだ。注文された料理を運ぶ妖精さんと食事の終わった皿やコップを下膳する妖精さんによる【無駄に洗練された無駄の無い無駄なように見えて実はお客さんの視覚的意味で有意義な妖精さん流スタイリッシュ運搬術】はこの間宮大食堂の目玉の一つである。無論最大の目玉は料理であるが。

 

 

「『桜風』は・・・ビーフシチュー?」

 

「うん。色々食べたかったけど、一番はコレかなって。そう言えば古鷹さんが見当たらないけど・・・」

 

「古鷹さんは朝潮さんと一緒に執務室に行ったみたいですよ」

 

「朝潮・・・は、名前からして駆逐艦か。・・・なんで夕食も取らずに執務室に?」

 

「なんでも、瑞鳳さんや明石さんたちが工廠からたくさんの書類を持ち込んだらしくて、今深山提督や大和さんたちがその書類を処理しているそうです」

 

「・・・・・・青葉さん、これって・・・」

 

「あ、あは、あはははは・・・瑞鳳さんたち、やっちゃったみたいですねぇ・・・」

 

 

鳳翔から瑞鳳と明石の妙な挙動を教えられた『桜風』と青葉は『どう考えても駆逐艦『桜風』関連だ・・・』と悟りつつも、正直今更どうしようもないので夕食を取る事を優先した。『青葉(私)は悪くない』。そう自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『桜風』さん・・・大丈夫ですか?」

 

「・・・御免、不知火。お腹が凄い張れて痛い・・・」

 

「間宮さんのご飯がいくら美味しいからって、いくらなんでもお皿がこんなに山積みになるまで食べ続けたらそうなるわよ」

 

「・・・だって、生まれて初めて食べたご飯、すっごく美味しかったんだもん・・・」

 

「こんなに美味しそうに食べてくれたのなら、給糧艦冥利に尽きますけど・・・」

 

「・・・陽炎さん、不知火さん。『桜風』さんを仮眠室に連れてやってくれませんか?青葉たちは執務室に言って大和さんたちと代わって書類整理を手伝ってきますので」

 

「分かりました。陽炎姉さん、『桜風』さん。行きましょうか」

 

「そうね。『桜風』、立てる?」

 

「・・・」

 

「あの、無理しないでくださいね?辛いのなら暫く休んでからでも良いんですよ?」

 

「・・・だいじょうぶです、鳳翔さん・・・」

 

 

 

その後、艦娘人生初の食事、そして場を盛り上げて雰囲気を楽しませる達人の青葉や上手く合いの手を入れる陽炎たちによる夕食会で、弾む楽しい会話に間宮特性の美味な料理に舌鼓を打ち鳴らして、自らの限界を全く考えないまま衝動的な欲望の動くままにお代わりして食べ続けた『桜風』は、その代償として胃袋が満杯になって腹痛を引き起こし、陽炎と不知火に手伝われて今日の寝床に連れていかれると言う醜態をさらしていた。

 

 

 

 

「・・・『生まれて初めて食べたご飯』、ですか」

 

「『桜風』さん、本当に楽しそうに喋りながら食べていましたね」

 

「あんなに『桜風』さんがお代わりするから、てっきり大丈夫かなと思ったんですが・・・」

 

 

そしてその三人の後ろ姿を、鳳翔と青葉、そして間宮の三人は見送っていた。とは言え、間宮は明日の食事の仕込みの用意をし、鳳翔はその仕込み準備を手伝い、青葉は現在修羅場状態と妖精さんから伝え聞いた執務室に向かう為に、直ぐに三人に続いて間宮食堂から離れるのだが。

 

 

 

【―――えー、続きましては、アメリカから速報です。先ほど入りました情報によりますと、現地時間の昨夜一時頃、アメリカ西海岸一帯に深海棲艦による奇襲攻撃が行われたとの情報が入りました】

 

 

そしてそれぞれが自分の仕事場に行こうとした時、間宮大食堂に設置してあるテレビが流して来たニュースに、三人は自然と足を止め、テレビを見始めた。帝国海軍に所属していた艦艇である三人は、色々と仕方が無いとはいえ【アメリカ】と言う単語にかなり敏感に反応してしまうのだ。と言っても艦娘全てがそうであるわけでは無く、それぞれ個人差があるが。

 

 

【―――アメリカ海軍、そして沿岸防衛隊の会見によりますと、深海棲艦は電波妨害を行いながら西海岸の沿岸部に大口径砲による艦砲射撃を超高速度にて行ったとのことです。現在アメリカ軍と現地政府は被害状況の確認を・・・】

 

 

「・・・珍しいですね。深海棲艦との開戦初期ならともかく、戦争が開始してから大分たったあのアメリカ軍が自国領土に奇襲を許すなんて」

 

「アメリカ軍も、そう何時も完璧に戦えると言う訳では無いのでしょう。それより青葉さん、執務室には・・・」

 

「ああそうでした!青葉、執務室に行って書類整理を手伝ってきます!」

 

 

鳳翔からの一言で本来の目的を思い出した青葉は、鳳翔からの言葉が終わらないうちに駆け足で間宮大食堂から執務室に向けて走っていった。後に残されたのは鳳翔と間宮。そして調理を専門に行う主計科妖精だけだった。

 

 

「・・・いっつも元気ですね、青葉さんは」

 

「あの元気に助けられている艦娘も多いんです」

 

 

そう言いながら、鳳翔は何度も間宮大食堂に手伝いに来ている事もあって、勝手知ったるなんとやら、手慣れた手つきでテレビのリモコンを操作し、誰も居なくなった食堂のテレビを消した。

 

 

幸か不幸か、テレビが消える前に一瞬映った【30㎝砲クラスの砲弾で無数に穿たれた西海岸沿岸部の映像】が、鳳翔と間宮の目に映ることは無かった。




因みにアメリカの人的資源の喪失は軍人である沿岸防衛隊と港に係留していた通常艦艇ぐらいだった模様。殆ど一方的に撃ち込まれただけの通り魔的戦闘だったうえに、沿岸部に居住していた一般市民は、深海棲艦が侵攻してくる可能性が有る為と言う事で、既に内陸部に退避、疎開していましたので。

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