艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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一日に二回投稿は初ですね(小並感)

今回青葉が語ってくれましたが違和感が有った場合は即ブラウザバックを推奨。


……いや、正直自分にもどうしてこうなったのか分かんねぇの。彼女たちが自然と動き出したって感じですかね…?


第九話  『桜風』の第3海上部隊駐屯地見学会 ≪艦娘宿舎編≫

「・・・さて、少々予定とは違いましたが、次は私たち艦娘の宿舎に行きましょうか」

 

「そうですね」

 

駆逐艦『桜風』の荒ぶる開発と瑞鳳乱入にヒートアップと言う想定外の事態が発生したものの、当初の目的通りに艦隊駐屯地を散策する青葉と『桜風』。ちょうどこの日は暖かく日差しの差す五月晴れ。『桜風』が自沈した世界の日時とこの世界の日時にはほとんど差は無かった様子で、駆逐艦だった時には海の上か港の中でしか感じる事しか出来なかったこの陽気を、今では人の依代を持って、大地を踏みしめて感じられる。

 

「・・・『桜風』さん?どうしましたか?」

 

「いえ・・・なんだか、この身体を持つまでは感じられるはずの無かった感覚が、今は一身に感じられるのが・・・」

 

「戸惑っているんですか?」

 

「はい、正直に言えば。・・・でも、とても心地よいと感じます。この暖かさや、風の感覚が・・・」

 

 

―――『桜風』さんは艦娘になってから三日と経っていないんですから、もっと遠慮しなくても良いんですよ

 

『艦艇』から『艦娘』になり、感じるはずも無かった感覚に顔を綻ばせる姿を見せる微笑ましい『桜風』に、青葉は自然と何時もよりも輝かしい笑顔を『桜風』に向けていた。工廠から艦娘宿舎に向かう道すがら、『景観の為』として植林された木々の中で話された二人の会話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この建物が、私たち深山艦隊に所属する艦娘が過ごしている宿舎になります」

 

「・・・意外と大きい・・・」

 

「それは当然ですよ。なにせ深山艦隊には総数50隻を超える艦娘が所属しているんですから」

 

「・・・ねえ青葉さん。今『50隻』とかいう不穏な数字が聞こえた気がしたんですが」

 

「間違いではありませんよ?今はミッドウェーやアリューシャン列島方面だったり、遠征や日本各地に派遣されていますから艦娘は殆どいませんけど」

 

「50隻も停泊出来るような設備は、この艦隊の領有地だと物理的に設置不可能だと思うのですが」

 

「・・・あぁ、その事ですか。大丈夫です!私たち艦娘は『艦艇を艦娘個人の艤装に変換して収納する事が出来る』んです!なので、実際にはそこまで広い土地は必要にならないんですよ」

 

 

なにそれこわい。唐突に明かされた艦娘の・・・特技?特性?に衝撃を受けて先ほど工廠で青葉が放った言葉と同じ言葉が吐いて出た『桜風』に対して『艦艇の調査が終わったら、今度やり方をご教授しますね!』と更なる爆弾投下をサラッと青葉は行いつつ、宿舎の案内を開始し始めた。

 

 

 

 

『宿舎』と言いつつも、実際にはプレハブ住宅の集合体だったり、そこらへんのアパート形式ではない。深山満理奈少将が女性であることもあり、艦娘と提督が一緒に過ごせるように配慮された、遠目から見ると学校のように見える体育館や運動場を備えた鉄筋コンクリート造りの建物だった。元々は初期頃の深海棲艦の侵攻で『危険である』と判断された沿岸部に近い公立学校だったらしく、その放棄された学校を軍は接収し、艦娘宿舎と艦隊司令部を併設した軍司令部を作るべく徹底的に改築。その後民間人上がりだと言うのに今まで一度も艦娘を轟沈させる事無く、それでいて戦果を十分に挙げているばかりか、他の提督は命令されない限り決してやらないような民間人との交流や自衛軍、海上保安庁との共同作戦の模索を自主的に考え、尚且つ上層部に意見する事は有っても基本的に従順な気が強い深山満理奈大佐(当時)の手に渡ったのだと言う。因みに初期の目的だった軍司令部は政治的軍事的云々の兼ね合いもあって東京や横須賀から長野の松代市へと移転した。

 

 

「・・・本当に誰もいませんね。警備とかって大丈夫なんですか?」

 

「艦娘の宿舎に乗り込むような人間はさすがに居ませんねー。一応ここ、軍事施設ですし。それに警備員さんならちゃんとそこにいますよ」

 

玄関から入るなりそう言った『桜風』に対して、青葉は大丈夫である旨を『桜風』に伝え、また『桜風』は青葉の言葉に従って見てみると、左腕に『憲兵』と書かれた腕章をつけた、カーキ色、若しくは橙色と表現できる色の服を着た妖精さんがこちらに向かって敬礼していた。腰には携帯式の警棒と思しき棒を装備しているが『威圧感無いなー』と思いつつも、『桜風』と青葉は返礼を行う。本来はそこまで厳格にするのではないが、まあ『雰囲気』と言うやつだ。

 

 

「・・・まあ、妖精さんなら侵入者がいてもなんとかしてくれますね」

 

「最悪自分たちだけでも対処出来ると思いますけどね。こう、本気出したら」

 

「確実に血を見る事になりそうなので可能な限り回避したい未来図ですね」

 

 

 

 

 

 

「さて、お次は皆が止まる部屋の案内になりますね。すみませんが『桜風』さんの入る部屋はまだ決まっていないので、暫くは仮眠室で寝泊まりして貰う事になってしまうんですが」

 

「決まっていないんですか?」

 

「通例なら『同型乃至その艦娘と縁の深い艦娘と同室になる』と言う事なんですが、『桜風』さんは少々特殊ですので・・・。方々に出払っている艦娘が帰ってきてから改めて『桜風』さんも含めてのみんなとの話し合いで決まるんじゃないかなと」

 

 

・・・まあ『異世界からの軍艦』を唐突に放り込む訳にも行かないよね、うん。

 

申し訳なさそうに話す青葉に対して、ある意味当然の反応と対応に納得して気にしていない事を伝える『桜風』。ずっと単艦戦闘が基本で護衛対象は居ても『僚艦』と呼べるような存在が居なかった『桜風』でも、教科書レベルとは言え連携の大切さは一応理解していた。今まで気心の知れた仲間内に突如ぽっと出の駆逐艦が混ざり込んだら、相互に問題が発生するのは何となくだが『桜風』には想像できた。それも一方は『艦艇時代は一度も艦隊を組んでの海戦も演習も行った事が無い』と言う連携の『れ』の字も知らない艦娘だったら、なおさらだ。

 

 

「・・・でも、教室をそれぞれの艦娘の部屋に流用したようですが、防音とかは流石に・・・」

 

「その辺は大丈夫です!軍司令部の方々も私たちに気を使ってくれたのかは定かではありませんが、暖房や冷房、それに防音なども一般家庭よりもやや優れている程度に各部屋すべてを大改装してくれています!」

 

「・・・使うこちら側にとってはとてもありがたいんですけど、軍令部の人たちは一体何を考えていたんですか?」

 

「・・・さあ?」

 

 

軍令部直属の艦娘の士気を高めるためにも設備は整えなくてはならない、と言う名目の元、本音としては『あんなに美しい女神たちに対して粗悪な住環境を与える訳にはいかん!』と言う紳士なのかどうなのか分からない思惑で改設計されたとは知る由もない二人であった。なおこの艦娘に配慮した設計は、艦娘を『仲間』『戦友』として扱う普通、若しくは良識的な提督たちに受け、各地で艦娘用の宿舎を改装したり、場所によっては新規建築される始末であった。現地の雇用促進を促すものだったり、名目は極めて正しいものである為、『『艦娘』を『物』として扱うべき』と考える連中でも体面を気にして申請を却下出来ないのが余計に質が悪いが。

 

 

 

「まあその事は脇に置いて、『桜風』さん!こっちに来てください!」

 

「なんですか?・・・屋上?」

 

「はい!」

 

艦娘それぞれの部屋を一通り見て回ったのち、宿舎案内の最後に連れてこられたのは屋上だった。元が学校だったのだから、有るのはある意味当たり前だが。

 

 

「ここから見える景色が、とっても綺麗なんですよ」

 

「・・・本当だ。あ、工廠が見える」

 

「艦隊の皆が帰ってくる姿も、ここからなら見えますからね。時々酒好きな艦娘がここを占拠して宴会開いていたりしていますけど」

 

「いろんな艦娘が居るんですね・・・」

 

 

そう言いながら柵を握って横須賀の海を眺める二人の艦娘。深海棲艦の出現と侵攻により多くの人々は内陸部への退避を余儀なくされ、本来大量の民間人で賑わった場所に今いるのは軍人と艦娘、そしてその両者に物資を搬入する民間の輸送会社だけだった。

 

「『桜風』さん」

 

「はい」

 

今までの楽し気な柔らかい声では無く、青葉の真剣な声色に釣られて同じく真剣な声色と表情で答える『桜風』。少なくとも気の抜けた返事が出来る様な雰囲気ではなかった。

 

 

「青葉たちは、過去の戦争、太平洋戦争に置いてアメリカ海軍に敗北し、轟沈、自沈、解体・・・。最期はそれぞれ違いますが、皆あの戦争に置いて母国日本に勝利を齎せなかった事を、心のどこかで後悔し、自責の念を抱いています。もちろん、青葉も例外ではありません」

 

突然の青葉の独白に、『桜風』は何も答えずに、ただ青葉が次に言う言葉を一言一句漏らさずに聞き取ろうと神経を研ぎ澄ましていた。『口を挟んではならない』『口を挟むべきではない』と言う事は、殆ど対人経験が無い『桜風』でも分かった。

 

 

「ですが・・・神様の気紛れか、それとも奇跡の産物か。青葉たちはもう一度チャンスを得られました。母国日本だけで無く、今度は世界を、前の戦争で失った仲間たちを守るだけの力を。・・・しかも、人の依代すらも与えられた上で」

 

先程までいた港を見ながら語り続ける重巡洋艦娘『青葉』。彼女の今話している言葉には、基本的に勝者側だった『桜風』には無い圧倒的な『重み』が有った。物言わぬ艦艇時代、太平洋戦争の開戦時には完全に旧式化しながらも、乗員と共に必死に奮戦し、そして戦場を共にした戦友たちが次々と居なくなってゆき、当の自分も何度も沈む寸前の損害を受け続け、最後は呉軍港で大破着底するも、最期の最期まで天を睨み続けた。『桜風』にはそんな経験は無かった。『何度も沈みかけながらも死地を生き抜いた』と言う一点では『桜風』も青葉も同じではあるが、ずっと単艦で、かつ最期まで勝ち抜いて、シュルツ艦長や筑波大尉ら戦友たちに見送られて自沈処分される望外の最期だった『桜風』には、青葉の言葉が計り知れないほどに重かった。

 

 

「『桜風』さん」

 

「はい」

 

「青葉たちは、そういう理由もあって、きっと沈むまで、日本を守るために戦い続けます」

 

「・・・はい」

 

「ですが、『桜風』さんは違います。貴女の故郷はこの世界に存在しない以上、縁も所縁も無い異世界の為に轟沈するまで戦う義理も義務も有りません。先の海戦であれだけの深海棲艦を撃沈してくれただけでも、青葉たちは・・・本来は、何も言えるような立場では有りません」

 

ですが、恥を忍んでお願いします。そう言って『桜風』に向き合う青葉。その顔はいつもの快活な表情は嘘のように消え失せ、様々な感情が織り交じった真剣な表情だった。

 

 

「『桜風』さん。・・・日本を、この世界を救うために、貴女の力を、貸してください。・・・お願いします」

 

 

そう言い、頭を下げる青葉。その姿からは、日本の脅威である姫級や鬼級の深海棲艦よりも弱い自分に対する自責の念、本来この世界の為に命を捧げる義務などない『桜風』を戦場に引き摺り込もうとする自分の言葉への怒り、綱渡りのこの世界の状況を救ってくれるかもしれない『桜風』に縋りつく事に対する情けなさ・・・その他、様々な感情が混じり合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「顔を挙げてください、青葉さん」

 

その青葉のお願いに対する『桜風』の答えは、ただ一つだった。

 

「怒りますよ?私は既に、この日本の為に戦う覚悟は出来ています」

 

「・・・え?」

 

『桜風』の答えに疑問符で答えながら顔を上げる青葉。顔を上げた彼女の目に入ってきたのは『思いっきりむくれた『桜風』』の姿だった。

 

 

「深山艦隊の艦娘全員が集まってから、私の身の上話をする事になっていましたから話していませんでしたが、私が所属していたウィルキア王国と日本とは同盟関係にありました」

 

「その事は、初めて接触した時の通信で聞いていました。ですが、その日本とこの世界の日本は・・・」

 

「『別の国である』・・・と言う事でしょう?ですが、少なくとも私には『日本と言う国』に対して縁が有ります。ならば、私がこの国の為に戦う理由にはなります。・・・それに、第一ですね・・・」

 

 

私の力で助けられる人や国家が有るのに見捨てたら、それこそシュルツ大佐や筑波大尉に絶縁処分されちゃいますよ。

 

 

 

 

 

激怒したシュルツ大佐たちを想像したら恐ろしくなって震えてきた。そう言いながら二の腕を抑える『桜風』に対して、青葉は二の句が継げなかった。確かに先の海戦では『桜風』は完全勝利を遂げた。だがこれからもそうだとは限らないし、『桜風』の力を見て策動するであろう愚物共の存在も無視できない。しかし『桜風』は事も無げに『青葉たちと一緒に戦う』と明確に宣言した。

 

 

「・・・先の海戦の様に、深海棲艦を一方的に沈められるかどうかは分かりませんし、それに『桜風』さんの能力を見て、『桜風』さんをあの手この手で手に入れようとする連中は、きっとたくさんいますよ?」

 

「大丈夫です。自惚れてるように見えるでしょうけど、前の世界での海戦を超える絶望的戦況での戦闘は、この世界だと有り得ないでしょうし。仮にそんな状況が起こっても、頑張って勝ちます」

 

「『頑張って勝ちます』って・・・」

 

「それに、私は深山提督指揮下の艦娘です。他所からの勧誘が有っても絶対に乗りませんし、仮に勧誘(力づくの誘拐)をされたら、全力で相手を死なない程度に襤褸雑巾にして警察に引き渡した後で艦隊に戻りますから。それに、もしそんな状況になったら、青葉さんたちが助けてくれますよね?」

 

 

・・・そう言われたら、青葉は『当然です』と答えるしか無いじゃないですか

 

 

目尻に光る物を覗かせながら、青葉は苦笑いと共にそう返した。

 

 

 

夕日の光で屋上が赤く染まる中、駆逐艦娘『桜風』と重巡洋艦娘『青葉』は、まるで十数年来の親友同士であるかのような、屈託のない花の笑顔を交わし合っていた。




次回の内容は未定ですが多分深山提督の胃痛劇からで始まるんじゃなかろうかと思います。

それと、気付きましたらお気に入り登録者数が何時の間にか80件にも!正直驚きです。

大したものは書けませんが、駆逐艦『桜風』の航跡を見て多少なりとも時間つぶしにでもなられたら幸いです。

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