艦娘の咆哮 ~戦場に咲き誇る桜の風~   作:陣龍

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行き成りで申し訳ありませんが、今回は主人公が艦これ世界に飛ばされるまでの話なので、
容姿能力解説などは今回は有りません(汗)
タグの通り思いついたら書き込む無計画型ゲリラ投稿タイプですので、次回投稿は完全未定です(汗)


第零話 奇跡が伝説となり、伝説が奇跡となる日

 

 

「・・・長!・・・艦・・?艦長!起きて下さい!」

 

太平洋海溝の海域に浮かぶ一隻の駆逐艦の艦橋に、オレンジの髪の毛の快活な女性の声が響き、艦長席に座って眠る一人の男を揺さぶっている。

 

「・・・ナギ少尉か。・・・そうか、もう時間か」

 

「もう筑波大尉もクルーの皆も移乗は完了しています。いま『桜風』に残っているのは、私とシュルツ艦長だけです」

 

分かった、私も今行く。そう答えたこの男性の名前は『ライナルト・シュルツ』。『超兵器大戦』と非公式に俗称されているこの世界大戦に置いて、帝国軍との絶望的戦力差を幾度と無く覆し続け、ウィルキア解放軍を勝利に導いた英雄である。当の本人は『英雄』呼ばわりされるのを余り好んではいないが。

 

「・・・艦長。もう、よろしいのですかな?」

 

「筑波大尉。・・・ええ、もう大丈夫です」

 

タラップの向かい側でシュルツ大佐を出迎えた、豊かな髭を蓄えた老人。名を『筑波貴繁』特務大尉。シュルツ大佐を一から海軍軍人として鍛え上げた恩師であり、この超兵器が暴れ回った今世界大戦ではシュルツ艦長の補佐に付き、正しき道へと導き続けた日本男児である。

 

 

「・・・艦長。今更ですが、『彼女』を・・・『桜風』を、記念艦のような形で残すことは・・・」

 

「・・・ナギ少尉。私も可能なら『桜風』を残していたい。だが、今のウィルキアには財政的にも、外交的にも『桜風』を残すことは許されていないんだ」

 

「『桜風』は頑張りすぎましたからのう・・・もはや、『桜風』はただの駆逐艦では有りません。今までに『桜風』と艦長が積み重ねた戦歴と戦果は、世界が艦長と『桜風』が同時に存在する事を許す事は無いでしょう」

 

 

 

筑波大尉の言う通りであった。今のウィルキア王国の外交的立場はとても危うい状態だ。自国のクーデター騒ぎが全世界を巻き込み、多数の国家国民に対して甚大な戦火の被害を齎した。今はウィルキア外交部の尽力、並びに超兵器との戦争で急速に発達した各種技術と言う『戦争の果実』を得たアメリカ合衆国の友好的態度、そして不気味な策動を開始したソヴィエト連邦と言う脅威の存在によって事無きを得ているが、仮に幾多の超兵器を撃沈し続けてきた『桜風』を何らかの形で残そうとした場合、世界から『何らかの野心有り』と見做される可能性が十分に有った。またそれ以前に『桜風』の船体には多数被弾、至近弾を受け続けたダメージが致命的なレベルにまで蓄積されており、軍艦としてはもう使えない。記念艦として残そうとしても、大戦争を終えたばかりのウィルキア王国にとってみれば、その維持管理費用も決して馬鹿にはならない。外国に譲り渡すのは論外一択である。・・・ウィルキア王国には『桜風』を自沈処分させる以外の選択肢は無かったのだ。

 

 

「艦長。・・・準備完了との報告です」

 

「有難う御座います、ブラウン博士。博士にも、長い間お世話になりましたね・・・」

 

「その言葉は私から言うべきでしょう。潜水艦の乗員を助けて頂いた事、超兵器の魔の手から祖国を守って頂いた事。・・・私たちは、ずっと忘れません」

 

 

『エルネスティーネ・ブラウン』博士。国防軍のクーデターと君塚艦隊の反乱により追い出されたシュルツ大佐によって偶然救出されてからずっと対超兵器戦に関する考察や調査を行い続けた才女である。彼女は『桜風』の自沈処分を見届けた後、ドイツに戻ると言う。

 

 

ナギ少尉や筑波大尉、ブラウン博士だけでは無い。『桜風』に乗り込んで闘い続けた全ての乗員、そして『桜風』と共に戦い、『桜風』によって命を救われた各国海軍艦艇も、『桜風』の最期を看取りに、ここ日本海溝まで来ていた。ウィルキア海軍や日本海軍は兎も角、大半の艦艇は遠洋航海演習などの名目で自国政府の思惑を無視して集まって来ていた。海の戦士たちにとって見れば、戦友の最期を看取らないのは死んでも死にきれない、一生の恥なのだろう。

 

 

「艦長。・・・最後は、貴方の手で」

 

「・・・了解した」

 

 

自沈処分としては極めてオーソドックスにキングストン弁に仕掛けた爆薬を遠隔操作にて爆破し、浸水させて沈める方式であった。艦砲射撃や雷撃処分と言う手も有ったが、誰一人として志願する者は居なかった。

 

 

そして・・・シュルツ大佐の手によって、爆薬は起爆。艦内の障壁は全て解放してある為に、後は沈むのは時間の問題であった。少しずつ沈みつつある『桜風』を前にして感極まった『桜風』の乗員が泣き崩れ、友軍艦艇乗員にもさまざまな思いが馳せ巡りだした時に、『彼女』は皆の前に現れた。

 

 

 

「・・・か、艦長!『桜風』に!『桜風』に人が!」

 

「ナギ少尉、何を言っている?既に『桜風』の乗員は全員移乗して・・・」

 

「居ます!艦長!船首部です!船首部に『女の子』が!」

 

 

何を馬鹿な、そう思いながら周囲の人間は『桜風』の船首部に目を動かし・・・言葉を失った。確かに『桜風』の船首部の船縁に立ち、こちらに向かって手を大きく振っている『女の子』が、皆の目には映っていた。

 

 

・・・『桜風』乗員に、あのような少女は乗船していなかったぞ!?

 

・・・何時の間に乗り込んだんだあの子?

 

・・・早く助け出さないと!『桜風』はそう長くは持たないぞ!

 

 

周囲が騒ぎ立てる中、今度はその『桜風』に搭載している探照灯が突然繰り返し発光し始めた。突然の事態に各艦が混乱する中、シュルツ大佐と筑波特務大尉のみは騒ぐ事無く平静であった。

 

「・・・『ワレ、サクラカゼ。カンチョウタチトトモニタタカエタコトヲ、フカクホコリニオモウ。イママデアリガトウ。サヨウナラ』・・・か」

 

「・・・クックックック、ハッハッハッハッハッハ!まさか、『桜風』自身が挨拶してくれるとは!いやはや、長生きはする物ですなぁ、艦長!」

 

「そうですね、筑波大尉。では、私達も『桜風』をしっかりと見送らねばなりませんね。・・・総員傾注!甲板に出て、それぞれの思う最上の敬意を持って駆逐艦『桜風』を見送られたし!」

 

 

 

 

 

 

・・・まさか最後にみんな揃って敬礼してくれるとはねぇ・・・『軍艦冥利に尽きる』とはこの事かな。いや、ちょっとちがうかな?

 

『桜風』の意思は、艦全てが海中に没する中、誰にともなくそう呟いていた。彼女自身、唯々嬉しかった。『彼女』は元々極めて旧式な駆逐艦でしか無く、軍籍も名前も消された状態で何故か横須賀軍港の隅に放置されていたのをシュルツ大佐たちウィルキア近衛海軍に奪取された後、『桜風』の名前を与えられた。そして武装も船体も原型が無くなるまで改造、換装され、世界の海を駆け巡り、ありとあらゆる超兵器や敵艦隊と戦い抜いた。そして今際の時に乗員に感謝の言葉を伝えたら、『桜風』の乗員だけでなく友軍艦艇の乗員からも様々な形で感謝の念を伝えられたのだ。これが『桜風』にとって嬉しくない筈が無い。

 

 

・・・私が沈んだ後のウィルキアや日本が心配だけど、まあ何とかなるよね。シュルツ大佐なら、どんな大艦隊相手でもきっと勝つだろうし。陸戦でも、仮想敵のソ連とは兵器レベルが違い過ぎるし

 

 

『フリードリヒ・ヴァイセンベルガー』率いるウィルキア帝国は、軍事通行権を認めたソ連に対する見返りとして一部技術を譲渡していたが、それらは現在のウィルキア王国やその同盟国軍が装備している兵器と比べれば遥かにレベルが低い代物であった。此方側は『F-15 イーグル』の様な視界外戦闘が可能な超音速戦闘機を配備しているのに対して、ソ連空軍は未だにレシプロ機が主力なのである。その点、『桜風』は安心していられた。

 

 

・・・ああ、水圧で艦体がギシギシ言い始めた。もうそろそろ限界かな。でも不思議と痛みは感じない。海神の加護かな?

 

 

冗談めかして『桜風』はそう思うも、『桜風』の意思は否応無しに重く、静かになり始めた。水圧で艦体が少しずつ破壊され、海溝に落ちようとしているのだ。海溝に落ちれば最期、母なる地球のマグマに溶かされ、『桜風』は跡形も無く消え去るだろう。

 

 

・・・ありがとう、シュルツ艦長。ナギ少尉。ブラウン博士。乗員の皆。私は、『桜風』は、皆と一緒に過ごせて、戦えて、幸せでした。

 

 

 

『桜風』の意思が最後にそう念じ、意識が掻き消えようとした瞬間、なにも居ない、光も存在しない筈の深海で『猫を追いかける子供の声』と『猫の鳴き声』、そして『『桜風』を呼び求める声』が、『桜風』には聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここ、どこ?」

 

次に『桜風』の意識が覚醒した時に見えた光景は、『穏やかな海』『真っ青で雲が点々と有る奇麗な青空』『二頭身サイズの小人の山』『戦闘可能状態の自分の艦艇』であった。

 

 

彼女の・・・『桜風』の航海は、まだ終わっては居なかった。

 

 




さて…いきなりですが字数や文面的にこんな感じで大丈夫何でしょうかね…
今回は兎も角、次回以降の字数などは完全に不安定に増減すると思われます。

さて、次はどうやって我が嫁青葉を登場させるべきなのやら(オイ)

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