はくのんの受難   作:片仮名

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書いてたら文字数がね……? 
いつもよりちょっと多め。急いだのもあって誤字あるかもです。

なにより導入部分は難しい。



単発してたら式こないのに金色のライダーカード。ワンチャンありかと思ってたらマリーさん(二枚目)とか金色バサカでキャット(二枚目)と金色アサシンでカーミラさんがいらっしゃいました。

アサシン枠はヒロインと式とカーミラさんで安泰です。

……イベ用の星5礼装でなかったのが残念です。
NP50%は魅力的。


六話

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、先ずは説明しなければなるまい。

 私にマスター適性があったことが唐突に判明したその経緯を。まぁ理由はどうせムーンセル云々のせいだと思う。一度マスターとして聖杯戦争に参加した身だからとかそんな理由に違いない。ムーンセルの聖杯戦争とこっちの聖杯戦争は仕組みから別物だけど。

 何にせよ、そのような理由があったにせよ、適性があるのは変わらない。

 ではなぜ、適性が判明したのか。

 Aチーム着任を確認した私はふと、マシュもマスターであったと思い出したのだ。同時にマシュはどこのチームなのだろうかと疑問が生じた。そこで直接マシュにどこチームに所属する予定なのかを聞いてみたところAチームだと伝えられた。

 

 Aチームはエリートだ。

 しかしその優秀さから特異点へのレイシフトで最も先に送られるチームであり、その危険度は計り知れない。共に戦闘訓練を行ってきたマシュだったが、身体能力の方は実際に私の方がよさげであり、そのことから少々不安になって言ってしまったのだ。

 

 ――私もマシュと共に行けたらよかった。

 

 するとドクターが、適性がない岸波ちゃんじゃ難しいかな――といったところで固まった。

 マシュと二人ではてと首をかしげていると、

 

『あ、あれ……そういえば岸波ちゃんって――適性検査受けてたっけ?』

 

 思い返して、

 

 ――あ、私受けてねー。

 

『そ、そうだった!? 最初、カルデアのデータベースから岸波ちゃんの情報が見つからなかったから、マスターになれない、もしくはなれなかった部外者だと思ってたんだ! そのあとで岸波ちゃんが魔術師だってわかったから……!』

 

 ことの顛末。

 カルデアに来たけどデータがない。つまりマスター適性のない一般人などの部外者。しかし保護した後で魔術師だと判明し、その後の検査も調べたのは健康状態と身元を調べるための魔術刻印の有無に関して。マスターなにそれおいしいの状態であった。

 そもそも大したことのない回路数の私が適性ありだとは思わなかったのだろう。

 質はいいんだからね、質は!

 と、そんなこんなで検査を受けたら見事にヒットしたわけである。

 

『なんで、なんでよ。なんで私になくてこの人畜無害で凡人の理想形みたいなのが適性あるのよー!』

 

 涙目の所長がなんだか可愛かった。

 と、そんなこんなで適性が見つかったのだ。

 後にドクターは、

 

『ドクター……取り返しのつかないことを。先輩が……先輩がもっと危険な道に!』

 

 と私を心配し怒ってくれているマシュに連れていかれた。

 その後ぞろぞろとスタッフも抜けていったが彼らが何をしに行ったのかは分からない。

 

『もういいわ……なんだか貴方と張り合おうとすると私だけ一方的に疲れていく気がするから。いい、貴方もマスターの適性が発見されてしまった以上、戦闘訓練はより密度の高いものになるから覚悟しなさい』

 

 と、それから数日はより密度の濃い戦闘訓練を受けさせられた。

 サーヴァントとの共闘を想定したドールでの訓練はもちろん、他マスターとの連携や支援魔術の運用方法。霊脈の見つけ方やら簡易拠点の設営方法だとか、それはもう一月で終わらないような内容をみっちりと。隣に癒しのマシュがいなければ力尽きていただろう。

 流石に力尽きて倒れたときの膝枕はHP全回復の効果があった。状態異常『魅了』つきだったけど。

 その後、急遽現れた新しいマスターということで霊子筐体(クラインコフィン)の用意がされておらず、仕方なく一般枠の一名を減らし私用に調整することと相成った。作業を突貫で行ってくれた職員の方々には感謝である。

 

 ――そして、その時は来た。

 

 今私の目の前には、各地より選ばれてやってきた魔術師たちがずらりと並んで所長の話に耳を傾けていた。幸い、所長の予定していた時間通り(・・・・)にことは進んでいるため時間のロスは見られないし、何より所長の機嫌が悪化することもない。

 話の途中、所長のあんまりな言い方に反発する声が上がりはするが、現在世界がどのような状況なのかを説明すると理解力のある彼らは息をのみこんだ。ほら見なさい、これが正しい反応よと言わんばかりに所長の視線が飛んでくる。

 だって経験したことあるんだもの。

 そして所長たちは世界が滅亡に向かう原因ではないかと予想される特異点の話をする。本来なかった場所に生まれた特異点Fは、西暦2004年の日本のとある地方都市――ぶっちゃけ冬木と呼ばれる凛の生まれ故郷である。加えて、カルデアの召喚システム『フェイト』を開発するにあたって参考にされた、この世界の聖杯戦争が起こった場所でもある。

 それを聞いたとき、冬木って呪われてるんじゃと思った。

 

「ではこれより一時間後、初のレイシフト実験を行います。仮想訓練はもう十分でしょう」

 

 そういいながら所長の視線はまたも私に。

 当然うなずくことで返す。

 

「まず第一段階として成績上位者8名をAチームとし、特異点Fに送り込みます」

 

 ちなみにこの8名、カルデア内から選抜されたマスター適性者である。

 要するに私たちの身内から出たマスター。

 かといって贔屓とも言えず、一月ほど前からチームとして訓練を行っている為彼らの練度は高いものとなっている。私もその内の一人に入れればよかったのだが、ほぼ完成した連携に新人が入ってきても数日で修正できるはずもなくあえなく待機組。

 それも待機組の更に後発組である。

 

「Aチームは先行しベースキャンプを設立。後に続く貴方たちの安全を保障します。Bチーム以下は彼らの状況をモニターし、第二実験以降の出番に備えなさい。……ではさっそく霊子筐体(クラインコフィン)の個人登録を行います。いい、代用の利くものではないから丁寧に扱いなさい」

 

 そういって所長は指示を出していく。

 BからDのチームは今回のレイシフトでは待機組で、Aチームに異常が発生した場合に備えて待機するため霊子筐体(クラインコフィン)の中でずっと待機しなければいけないのだ。私も事前に登録する際に入ったが、なんとも息苦しいような、どことなく懐かしいような感覚に陥った。

 と、それはともかくである。

 待機組といえど私にも今回は仕事があるのだ。

 

 ――じゃあ一人づつ並んでください。

 

 ス、と手を上げて存在をアピールすると、マシュを筆頭にAチームが終結。

 その統率の良さに感心しながら、これとこれとこれ、などと今から使用する魔術を選択する。

 そう、今回の私の役目は万全を期すために支援の魔術をガン積みすることである――私のMPが空になるのを承知で。まぁ私がヘトヘトかつ動けないほどに疲弊したとして、人の命が助かる可能性がグンと上がるのなら安いものである。

 どうせ私は待機組だし。

 こういう理由もあって、待機組が出撃する状況でもさらにその後からだ。

 

 ――gain_lck(32)で幸運強化!

 

 ――gain_mgi(16)で魔力強化!

 

 ――gain_str(16)で念のために筋力強化!

 

 ――gain_con(16)で耐久力強化!

 

 それを8人にかけ――力尽きる。

 途中で魔力が切れかけて、プレミアロールケーキを食べて回復したものの魔力の残量が心もとない。かつてのマスターLvMAXの私ならプレミアロールケーキを食べずとも余裕があったかもしれないが、最低限の強化だけで今の私ではこのざまだ。

 

「ありがとうございます、先輩。必ず無事に帰ってきます」

 

「よし、それじゃあ岸波ちゃんは僕が医務室へ連れていくよ。マシュも気を付けて」

 

 駆け寄ってきたドクターが予定通りに肩を貸してくれる。

 しかし、プレミアロールケーキで回復した魔力がまだ少しだけ残っている。どうせ私はしばらくの間動けないし、レイシフトに参加できないのだから使い切ってしまうのが吉だろう。もはや贔屓にしかならないが、私にとってマシュはかけがえのない人の一人なのだ。

 そんなことを考えていると、表の聖杯戦争で二人のうちどちらを選ぶのかという最悪の選択肢が浮かび上がる。私は確かにその時、自分のエゴで選び自分勝手に生きることを押し付けた。それまでの戦いで何人ものマスターを倒したうえで。

 それでも私は変わらない、変われない。

 

 ――gain_con(32)!

 

「――――先輩!? それ以上の魔術行使は……!」

 

 先ほど以上の耐久強化。

 使用した魔力は1.5倍近くだが、その効果はよく知っている。

 代償として回路に痛みが走るが、

 

 ――これくらい、大切な人を失う痛みに比べれば大したことなんてない。

 

「岸波ちゃん……君って子は。僕、男として自信を無くしそうだよ。でもここは医者として言わせてもらう。自分の限界を超えた魔術の行使は危険だ。最悪の場合制御ができないし、岸波ちゃん自身に悪影響しか与えない。これ以上の無茶はもうしないこと」

 

 ドクターに言われ、反省も込めて黙ってうなずく。

 声音から心配してくれているのだと感じてしまった以上、無碍にできるはずもない。

 

「それじゃあ僕は岸波ちゃんを連れていく。早く帰って来て、岸波ちゃんを安心させてやってくれ。じゃないと自分を顧みず乗り込んじゃいそうな気がする」

 

「はい、必ず帰ります。先輩。帰ってきたらまた、ロールケーキを」

 

 ――うん、また作ろう。チョコとか抹茶もいいかもしれない。

 

「抹茶……日本の飲み物ですね。楽しみです――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、気づけば私は自分の部屋にいた。

 おかしい、確かドクターは私を医務室に連れていくとのことだったが。

 

「あ、起きたかい? いやぁごめんごめん。実は医務室、コフィン内のバイタルデータを映し出してるから音がうるさくてね。これといった異常もなかったし、医務室じゃ気疲れしてしまうと思ったから岸波ちゃんの部屋に連れてきたんだ――っと、勿論カギは所長が開けてくれたんだよ? 不法侵入じゃないよ?」

 

 成程、そういうことか。

 しかし医務室から私の部屋までそこそこの距離があったはずだが、重くはなかったのだろうか。

 

「いや、まぁ、機材に比べれば全然軽い――アイタァ!?」

 

 別に重いとか疲れたとか言われても運んでもらった手前黙っているつもりだったが、機材と比べられるとなけなしの乙女のプライドが唸りを上げる。ダメだこのドクター、女心のおの字すら理解していない。研究職ってみんなこうか!

 

「ごめんごめん、こういう時なんて返せばいいのか僕には経験値が足りないね。もっと勉強しないとなぁ」

 

 それはゲームで?

 

「ゲームで」

 

 脳内から改革しないとダメだなこれは。

 と、それよりもレイシフトの実験はどうなっているのだろうか。

 

「あぁ、それはまだ何とも言えないかな。実際、岸波ちゃんが意識を失って回復するまでにそう時間は経ってない。僕も現場にいると空気が緩むって追い出されたし、もう始まるだろうね。僕、しっかりとお仕事してるつもりだったんだけどなー」

 

 それは何となくわかる気がする。

 ドクターが近くにいると気が緩むのは確かだ。

 

「あれ、それって褒められてる?」

 

 私としては褒めているつもり。

 近くにいて気が張ってしまう人よりも私としては接しやすくていいと思う。

 

「……あれ、涙が。うぅ、人のやさしさってこうまで心の染みるんだね」

 

 グスと鼻をすするドクターだが、どんな過去を送っていたのか気になるところ。

 しかしここでコールが鳴り、ドクターが応答する。

 纏めてしまうと、レフ教授が新任のマスターのバイタルがよろしくないので一応来てくれとのこと。二分で。

 

 ――30秒で支度しな!

 

「無理だからね!? ここから急いで走っても5分はかかる! ああ、見栄を張らないで追い出されたって素直に言うんだった!」

 

 ――まぁ冗談として。取りあえず私も同行してもいいだろうか。

 

「岸波ちゃんが? いや、でも体調は平気かい?」

 

 全然大丈夫である。

 これでも痛みには耐性がついている方だし、そもそも魔力の使い過ぎは慣れっこだ。今すぐ激しい戦闘に巻き込まれさえしなければ問題ないと断言できる程度には回復している。

 

「タフというかなんというか。わかった、連れて行こう。でも少しでも体調が悪くなったら言うこと。約束できるなら連れていくよ」

 

 約束するという意味を込めてうなずくと、ドクターは疑わしいとばかりに視線を送ってくるが諦めたように立ち上がる。私もそれに続いて部屋を出るが――その瞬間、事態は急変した。

 館内の明かりが消失し暗闇に包まれる。続いて鳴り響くのはカルデア中に響き渡る大きな爆発音。それを追うように管内全体に緊急事態発生のアラームが鳴る。耳を澄ませてアナウンスを聞けば、中央発電所と中央管制室で火災が発生したとのこと。

 

「一体何が起こっている!? モニター、映像を――――」

 

 ――気が付けば走り出していた。

 

「岸波ちゃん!? せめて君は隔壁が下りる前に避難を――!? って速い、速いって!」

 

 中央管制室はマシュや所長が、Aチームの仲間や新しくやって来た魔術師たちもいる場所だ。そこで起きた火災――恐らくは爆発音がしたことから何かが爆発したのだろう――なんて嫌な結末しか運んでこない。爆発に巻き込まれたのか、その後の火災にその身を焼かれるのか、どちらにせよ人が死ぬ。

 いつの間にか肩にしがみついていたフォウをわきに抱え走る。

 そしてたどり着いたその先は――

 

 ――地獄そのものだった。

 

 所長が誇らしげに語っていた『カルデアス』を中心とした管制室は赤い火の海で覆われていた。見渡せばコフィンも大きなダメージを受けており、ひしゃげていたりガラスが飛び散ったりと中を覗き込むのが怖いものが多い。

 後から息を切らせて走って来たドクターは、その惨状を見て息を飲むがすぐに自分のやるべきことを確認し私に指示を出す。

 

「見ての通り、無事なのはカルデアスだけだ。生存者は絶望的……どうやら予備電源の切り替えも上手くいってない。僕はこれから手動で予備電源への切り替えを行いに行く。岸波ちゃんはすぐに避難するんだ。爆発の起点から見て、事故じゃない。あそこに爆発するようなものを置くほど、カルデアの技術者は馬鹿じゃない」

 

 ――つまり、人為的な破壊工作?

 

「恐らくね。もしかするとその下手人がまだ潜んでいる可能性もある。せめて無事だった君だけでも戻るんだ。万が一のシェルターの場所は分かるね? いいかい、寄り道なんてしてる余裕はないぞ! 外に出られなければシェルターに、外に出られれば外部の救助を待つんだ!」

 

 そういってドクターは予備電源へと切り替えるために姿を消した。

 私はどうすればいいのか――自問自答する意味もない。

 問うまでもなく私がすることは、可能性にすがって生存者を探すこと。

 

『システム レイシフト最終段階に移行します。座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木』

 

『ラプラスによる転移保護――成立』

 

『特異点への因子追加枠――確保』

 

『アンサモンプログラム――セット。マスターは最終調整に入ってください』

 

 アナウンスが何かを言っているが、頭になんて入ってこない。

 しかし体は勝手に動き、以前職員の人から聞かされたコフィンの冷凍保存機能の話を思い返す。緊急時用の生命維持手段。本人たちの了承が無ければ重罪行為とされるらしいが、本人たちも何もわからず焼け死ぬよりはマシなはずだ。

 無事な端末から元ウィザードとしての技量を最大限に発揮し、全コフィン内の絶命の危機にあるマスターに対し冷凍保存の処置を実行。幸い死者の表示は一つもない、まだ無事なのだ。しかしエラーが続発し原因はと調べれば圧倒的電力不足。仕方なしに電力復旧と共に処置の開始を予約し再び足を動かす。

 マシュがいない。

 端末から調べたコフィン内のマスターにマシュがいなかった。

 汗が流れ落ちる。

 喉が焼けるように熱い。

 所長は、レフ教授は、カルデアの職員たちはどこにいる――――!

 

「――――……なん、で。せん、ぱい?」

 

 ガラリ、瓦礫が崩れる音がして、声が聞こえた。

 慌てて振り向けばそこには血を流しふらりと歩くマシュがいた。

 

 ――無事か、マシュ……!

 

「私は、なんとか。いくつか、骨が折れては……いますが、生命活動の維持に支障はありません。私はコフィン外で、レイシフトの立ち合いをしていたのが幸いでしたが、他の皆さんは……」

 

 ――良かった、本当に良かった。

 

「せんぱい……何故、来てしまったんですか。隔壁も閉鎖、電源も戻りません……このままでは」

 

 ――大丈夫だ。ドクターが電源を戻しに行った。それよりも、本当に大丈夫なのか

 

「は、い。恐らく、先輩のかけてくれた魔術のおかげかと。耐久は勿論ですが、飛んできた破片が致命傷にならなかったのは……先輩の不思議な魔術のおかげです」

 

 ――そうかgain_lck(32)か。

 

 あれは幸運を上げる魔術だ。

 ということは、他の7人のAチームも無事な可能性がある。とはいえコフィンの中で逃げ場はなかっただろうから、せいぜい死ななかった程度で重症の可能性が高い。後は電力復旧後のコフィンの判断に任せるしかない。

 取り合えず一段落――とはいかない。

 再び耳障りなアナウンスが鳴り響く。

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを書き換えます』

 

 無機質なその声に嫌な予感がする。

 こういうときの私の勘は大抵外れてはくれない。

 

『近未来百年までの地球において、人類の痕跡は『発見』できません』

 

 マシュと共にカルデアスを見上げれば、赤く染まり人類の痕跡がかき消されていた。

 これは不味いと思うものの、現状を打破しなければ関係のない話となる。

 

 ――しかし、隔壁はもう閉まってしまった。

 

「これでは、もう……そと、には」

 

 障壁をあける手段はない。

 

『コフィン内のマスターのバイタル、基準値に達していません』

 

 アナウンスが淡々を響く中、マシュの手を握り締める。

 この程度の危機がなんだ、神霊を越えるだろう相手との戦いより、女神の集合体と戦うより、自分たちよりも格上の存在たちと戦うより、今のこの状況が絶望的であるはずがない。あるはずが、ない。――でもここには、そのすべての時を共有した、仲間がいない。

 身体が震えた気がした。

 

 ――せめて、マシュだけでも。

 

 魂を燃やして、魔術を行使しよう。

 『アトラスの悪魔』か『赤原礼装』の一度くらいなら行使できそうだ。

 この世界に来てからこんな強引な魔術の使いかたは初めてだが――――

 

「――――だめです、先輩。私にも、今のせんぱいの次の行動が、わかります」 

 

 そういって、マシュの体が寄りかかってくる。

 温かく、鼓動の音が心地よい。

 

「せんぱい、私にとってせんぱいは――――今の私のすべてです」

 

 ――言葉を失った。

 

「今の私なら、わかる気がします。せんぱいがいない世界なんて考えられないし、その中で前を向けるほどの精神強度がありません。私にとっての世界の割合はカルデア2、フォウさん2、せんぱい6です」

 

 ――あ、重かった。めっちゃ重かった。でも何だろうか、心地よい重さだ。

 

 よく考えると、『桜』にも同じように愛されていた、愛してくれていた。その好意がとてもくすぐったくも心地よく、私の原動力の一つともなっていた。マシュの好意が家族としてか、桜と同じものかは別としても嬉しいことに変わりはない。

 その想いだけで、まだ私は立ち上がることができる。

 ああ、やっぱり後輩って――――いいものだ。眼鏡も素晴らしい。

 

「だからせんぱい……手を、握っていてください」

 

 手を握る。

 寄りかかってくる体を、骨を痛めないように抱きしめる。

 失ってはいけない温もりがここにある。守らなければいけない世界がここにある。

 その世界のうちに私も入っているというのなら――意地汚く生きて見せる。

 

 ――早く復旧、復旧はよ!

 

 そうドクターに強く念じれば、

 

『レイシフト開始まで 3、2、1――全行程完了。ファーストオーダーの実証を開始します』

 

 再び聞こえた無機質な声。

 それを最後に、私の意識はあっけなく落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 





次は週末か週明けか。

ガンダムとかやらないよ、進撃とかやらないよ!

だからきっと次のお話しは週末か週明けか。

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