はくのんの受難   作:片仮名

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今日一日、弓の修練超級に行って手に入ったのはピースが五、六個と石が何個か。
10回行ってモニュメントが一個も出ないとか、相変わらずですね畜生!
後一個、一個でいいのに……!


三話

 

 

 更に翌日である。

 あの激闘の末、応援がやってきたのが三十分後。

 流石に私の体力も限界だったし、魔力も切れかけあれこれやばいんじゃないだろうかと思った。

 幸い駆け付けてくれたカルデアの職員が暴走ドールを瞬殺してくれたので大事には至らなかったのだが、なんかこう、自分が必死に戦ってた相手をサクッとやられるとくるものがある。いや、本当に感謝しているのだが。

 何にせよ、私はあの試練を乗り越えたのである。

 

「それじゃあ説明してくれるかな、岸波ちゃん」

 

 そして次の試練がやってきた。

 私を取り囲むのは珍しく真面目な表情のドクターと、興味深げに視線を向けてくる所長。唯一マシュだけが心配そうに私を見つめていた。フォウくん? 所長につまみだされてた。

 

「手荒な真似をするつもりはないし、君がアムネジア・シンドロームで記憶を失っているのも理解しているつもりだ。それでも、覚えていることを話してくれないかな」

 

 実際、覚えているというか分かっていることは少ない。

 これがかつてコードキャストと呼ばれていたものであること、それが何らかの理由で刻印として私の体に刻まれていること。その効果は大体把握しているものの、私のさび付いた魔術回路では十全に扱うことができないということくらいだ。

 

「40近い刻印なんて、頭がおかしいんじゃないの? それだけの数の神秘を体に刻んで反動がないわけないじゃない。貴方の記憶喪失、アムネジア・シンドロームだけが原因じゃないのかもしれないわね」

 

「それに、コードキャストか……データベースには載ってないなぁ。秘匿された特殊な門派なのかな……うーん」

 

 二人はそれぞれ考察するが、私からは何とも言えない。

 本当に知らないのだから仕方がないのである。

 

「先輩、本当に体への異常はないんですか?」

 

 うん、それはない。

 怖いほどに体になじんでいるし、どの刻印がどんな魔術を記録しているのかまで把握できる。

 

「それ本当? ならいくつかどんな魔術なのか言ってみなさい?」

 

「ですが所長、魔術師にとって魔術はそう簡単に開示できるものでは……」

 

「そんなこと言ってる状況じゃないでしょ? それに格下の魔術を嫌がらせで公開なんて真似しないわよ。一応、ロマンも個人的に記録しておくだけにしなさい」

 

「うわぁ、所長が所長らしい」

 

「ロマン!」

 

「はい、分かりました! 取り合えず岸波ちゃん、言える範囲でお願いできないかな」

 

 それは構わないのでちょっと待ってほしい。

 基本的に私が使えるのは、

 

 ――回復系小・中・大、味方の攻撃力アップ、防御力アップ小・中・大、あとスタン付与と弱体化全解除と、

 

「ちょちょ、ちょっと待ちなさい! 貴方、他人に対して強化が使えるの!?」

 

 使えるのかといわれると微妙だが、そういう効果の魔術は確かに使える。

 他にも私自身を強化するものもあるが、大体の魔術は能力を強化するタイプ。

 

「嘘でしょ、こんなのほほんとした草食動物みたいなのが他人の強化ができるとか……」

 

 草食動物と言われてもくじけない。

 そんなのはエリザベートに言われなれているのである。ギルガメッシュにはもはや雑種扱いされていたのだから。

 

「岸波ちゃん、強化の魔術って生きているものには通りにくいんだ。かつ、それが他人ともなれば難易度は跳ね上がるんだ。強化魔術の最高難易度の技術なんだよ」

 

 いや、でも、私の知り合いはみんなこうやってサーヴァント強化してたような……と思ったけど、聖杯戦争に参加してたマスターってみんな一流のウィザードだった。むしろ一族固有の魔術をコードキャストで再現した規格外もいたくらいである。その中で私は最弱だったのだから、他のみんなはできて当然か。

 そんなことを考えていると、所長がなにか思いついたらしい。

 

「もしかしたら貴方の門派、限界が来ていたのかもしれないわね。魔術刻印は成長するけど、限界を迎えてしまえば後は衰退していくだけ。そこでアムネジア・シンドロームに浸食されていた貴方に白羽の矢が立ったとか」

 

「……成程。既に限界が近かった先輩なら、今さら負担がかかってもコールドスリープで眠るから問題はないと。果てに衰退する魔術刻印を未来まで残すことで何らかの打開策を見出そうとした……それまで刻印をつなぐ金庫が先輩だったのかもしれません」

 

「魔術師らしいと言えば魔術師らしいね……でも岸波ちゃんを回収しようという動きはどこにもなかったことからすると……」

 

「この子が眠った後、協会の粛清にでもあったのかもしれないわね」

 

「岸波ちゃん……」

 

「先輩…………」

 

 なんか勝手にバックストーリー出来上がってる――!

 違う、きっとそれは違う! どうせ私がこうなってるのは聖杯のせいだって! 青い狐かAUOのせいだって!

 

「大丈夫だよ岸波ちゃん。君はもうカルデアの仲間だからね。ね、マシュ」

 

「はい。カルデアは私にとって家のようなものです。同じ家に住む先輩は、その、家族のようなものですから」

 

 ――勘違い、されててもいいかな。

 

 うん、マシュと家族になれるならそれでいいや。

 きっといずれ、そのうち、真実がわかる時が来るだろう。

 

「……まぁ別に私も追い出したりはしないわよ。どうやら後衛としてはソコソコ使えるみたいだし、バックアップ要員として働いてもらいましょう。ロマン、彼女の訓練内容を変更するから後で確認しておきなさい。勿論、貴方もよ」

 

 何だろうか、心なしか所長からの視線が柔らかい。

 でもしっかりと打算もいっぱい。

 まぁ利用価値がはっきりしていたほうが私としても安心なのでどんとこいである。

 

「ああ、それとカルデア内ではこれを着なさい。カルデアの制服よ」

 

 そういって手渡されたのは白を基調とした制服である。

 しかしこの制服、基調といいベルトといい少しだけ嫁王の事を思い出す。

 

「一応、マスターに支給する予定の魔術礼装よ。丁度いいからデータ取りも兼ねて使いなさい」

 

「あ、勿論あの戦闘服がいいっていうならそっちでもいいよ。耐久性なら戦闘服、礼装としての効果なら制服かな」

 

 選択の余地はない。

 当然ながらこちらの制服を使わせてもらうことにする。どうせ戦闘になったら耐久力なんて紙も同然である。敵がどのレベルか分からないが、サーヴァント級ならば何を装備していても攻撃を受ければ結末は変わらないし。

 

 ――ちなみに、サイズは。

 

「先輩の検査時に、ドクターがしっかりと」

 

 オーケー、覚えた。

 それと検査時に隠し事した件も思い出した。

 

「あ、岸波ちゃんの目が座ってる。……さってと、僕は仕事に戻らないと! マシュを部屋まで送り届けてあげてね!」

 

 逃げた!

 脱兎のごとく逃げた!

 乙女の数字を暴くとは許しがたく!

 ……ちなみにマシュは、

 

「検査はドクターに一任されていますので……」

 

 マシュのもか!

 ましゅまろもか!

 ちょっと本格的にお話がしたくなってきた今日この頃。ここに女の医療関係者はいないとでもいうのか。

 

「取りあえず一度部屋に戻りましょう先輩。部屋に戻り次第、マッサージでもいかがですか?」

 

 マッサージか、確かに体は疲れているからうれしい提案だ。

 迷惑でなければお願いしたい。

 

「はい、ありがとうございます。お任せください――東洋のツボは既にいくつか押さえてあります」

 

 それは楽しみだ。

 そういえばここの施設、お風呂は存在するのだろうか。

 

「共用ですがこのフロアに用意されています。勿論男女別かつ、防衛機能は万全です」

 

 防衛機能はよく分からないが、お風呂があるのはうれしい誤算だ。

 マッサージをしてもらった後でゆっくりと入らせてもらおう。よければマシュも一緒にどうだろうか。

 

「い、一緒にですか? ……でも、いえ、良ければ、ご一緒させていただければと思います」

 

 よし、そうと決まればまずは部屋に戻ろう。

 東洋のツボを押さえたというマッサージ、楽しみである。  

 私はマシュと共に自分の部屋へと足を進めた。

 

 

 

 

 その五分後、私の部屋からは私の絶叫が放たれることとなる。

 

 

 

 

 

「……申し訳ありません、先輩」

 

 ちゃぷんとお湯に沈む音を立てて、マシュがつぶやく。

 何に対して謝っているのかといえば、間違いなく先ほどのマッサージの一件についてだろう。

 正直に言おう――――ヤバかった。

 気持ちよくてとか、体全体がほぐされてとかではなく、人体の急所を網羅した匠の技だった。エネミーの攻撃やサーヴァントの攻撃で外傷を負うことはあったし、毒を受けたり分解されそうになることもあった。しかしあの痛みはそれらとはまた違うもの。

 体の血行はよくなれど、精神的疲労が倍プッシュ。

 

 ――仕方がない。次がある。

 

「先輩……はい、頑張らせていただきます。復習と予習、加えてドクターを実験台として完璧を目指します。当面の目標は、先輩に気持ちよかったと言ってもらうことですね」

 

 頑張ります、とこぶしを握るマシュ。

 元々色が白いマシュの頬はお湯の熱さからはほんのりと色づいていて、よく見れば肩なども同様だった。

 色っぽい、艶やか、そしてそのポーズ。うん、可愛い。

 というか、よく見てみるとマシュって、着やせするタイプのようである。

 パーカーと制服の上からでは分からなかったが、無駄なところなどないようなスラリとした肢体に素晴らしいものをお持ちである。やっぱり『桜』と何かしらの共通点が見られるような気がしてならない。

 後輩ってみんな天使なんだね。

 

「……あの……私の体に、興味深いところが?」

 

 恥ずかしそうに体を沈めるマシュ。

 どうやら視線が露骨すぎたらしい。同性といえど気を付けなくてはいけない。

 

 ――いや、ただ綺麗だなって思っただけだよ。

 

「……何でしょうか、こういった対応に慣れたこの感じ。記憶を失う前の先輩はもしかしてプレイボーイならぬ、プレイガールだったのでは……」 

 

 プレイボーイは錬鉄の弓兵である。

 あの女慣れしているような余裕の表情。

 執事のごとく気遣いにもたけ、ホントにサーヴァントなのかと思うくらいだった。

 そんなことを考えているとマシュは私の全体を確認するように視線を動かし、ほっと息をついた。

 

「それにしても、先輩に怪我がなくてよかったです。戦闘訓練用のドールが暴走したと聞いた時には、血の気が引いた思いでした」

 

 あれは当の本人である私の血の気も引いた。

 我ながら悪運が強いというかなんというか、最終的に生き残れたのでまぁ良し。

 

「ですが先輩、あの事故は最悪死につながるレベルの危険なものでした。訓練用といえどリミッターが解除されてしまえば人間一人の命を奪うのもわけないものです。この施設は機密保持の観点から、多数の防衛機能が備わっています。あのドールも緊急時にはああやってリミッターを外して外敵の迎撃にうつるものです」

 

 ……そんな物騒なものだったのか、あれ。

 確かに死にそうとか思ったけど、まさか外敵用にリミッターが外れている状態だとは。要は寸止め機能が無くて敵の反応が消えるまで殴るのをやめない機械だったわけだ。もしコードキャスト――じゃなかった、魔術が使えなかったらマウント取られておしまいだった気がする。

 

「はい。ですので先輩が魔術を使用できたのは複雑ながらも喜ばしいことです。ただ、魔術が使えると証明されてしまったがために、バックアップ要員として起用されてしまったのが……」

 

 心配してくれるのは嬉しいが、バックアップ要員だからそう危険はないはず。

 あくまで私の役割はファーストオーダー発動時、この拠点に残って支援の魔術を使用するだけなのである。つまるところ直接戦闘に巻き込まれるわけじゃないので危険性は非常に低い。おまけに所長が訓練内容を変えると言っていたから、魔術の修練が増えるのだろう。

 

「いいえ、先輩。たとえバックアップ要因とはいえ戦闘訓練は行います。むしろ先日の先輩以上に戦闘訓練の割合は多くなるでしょう」

 

 なんで!?

 

「バックアップ要員はカルデアの主力が出払っている際、カルデアに残る二次戦力です。作戦中にどこかしら、何かしらの妨害工作が入った場合戦闘の主体となるのは先輩方になります」

 

 と、いうかである。

 やっぱりこのカルデアって狙われてたり?

 

「はい。カルデアは科学と魔術の入り乱れた特殊な団体です。古きを好む門派や一部の宗教団体から目をつけられています。その為このカルデアは人知れぬ山奥に存在しているんです。レイシフトを実現させる装置や魔術は精密なため、妨害工作が入らないように」

 

 人類の危機に人類がいがみ合うとか、どこかで見た光景である。

 あれは聖杯によって操作されていた事象であるから仕方がないと言えば仕方がないとは思うが。

 

 

 それにしても、そんな状況下にあるカルデアをまとめる所長のすごさを実感できた。

 前所長の後を継ぎ、適性がないと魔術師としてのプライドを嘲笑され、それでもなおこうしてカルデアを存続させているのだから。

 どうやら私が知り合う魔術師はみな優秀で、そしてどこか親しみやすい人ばかりのようだ。

 

「……その言葉、所長に直接言ってあげてください。本当に先輩は……もう」

 

 マシュはそういうと、どこか嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 




次話はちょっと忙しくなるので日が空きます(;´・ω・)

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