はくのんの受難 作:片仮名
ああ、今週も終わりましたね……ええ。
そして来週を乗り切れば穏やかな日々が戻ってくるのです。
今回もあまり話は進まず。
まぁ説明云々入れないといけないのでしょうがないね!
現在、私は所長たちと顔を突き合わせてコソコソと話をしていた。
だって、プライドの高い所長を何も知らないままギルガメッシュと対面させたら首ちょんぱされてしまいそうだし。下手なことを起こすとホントにギルガメッシュの機嫌を損ねかねない。口を慎め雑種、王の前だぞと言い出したらアウト。
というか、もう限界。
――取りあえず、正座はもういいですか?
「ダメに決まっているでしょう!? ああ、もう、並行世界、月の聖杯戦争、そして最古の英雄王!? どうして並行世界の住人がこっちに来てるのとか、なんで月で聖杯戦争が起こってるのかとか色々聞きたいことはあるんだけど!?」
いや、そこんところよく分かってなくて。
気づいたらいつも通り知らないところにいて、命の危機にあって。
まぁ大分いつもの事と化しているので私的には問題ないかなって。
「大あり、大ありよ! というか貴方、記憶喪失って嘘ついてたわね!?」
いやいや、嘘ではない。
実際に、こうして並行世界に飛ばされる直前の記憶はない。何があって私がここにいるのか、何のために私がここにいるのか、一体誰の仕業なのか、これらに関して私が知っていることは一切ないのである。
というか、まぁ、私――――記憶喪失とは言ってない。
「……はっ! そう言えばそうでした!」
「……じゃあなに、並行世界からきた為、こっちの常識を知らないから記憶が無いと勘違いした挙句、アムネジアの痕跡が見つかったから記憶喪失って? ええ、理解したわ――――全部あの馬鹿のせいね! まぁハッキリ訂正しなかった貴方も同罪だけれど!」
いや、ちょっと、ちょっとだけ言い訳させてほしい。
正直に言えば私の記憶は失われてこそいないが、混雑というか、混乱はしているのだ。
本来有るはずのない記憶が四つあり、それこそ並行世界の記憶が私一つにのしかかってるみたいな!
「意味がよく分からないけど、要は自分が選んだ選択肢とは別の選択肢を選んだ時の記憶があるってこと?」
おお、流石は所長。
言いえて妙、というかまさにその通り。
「言っておくけど、褒めても許しはしないわよ? とは言え、貴方を問いただしたところでこれ以上は何も分かりそうにないし……かの英雄王なら何か知ってるんじゃなくて?」
うーん、多分何か知ってるというか察してはいると思う。
ぶっちゃけ性格こそあれで慢心の塊だが、それは知っているからこその慢心だ。
彼の洞察力はまさに王そのものなのだ。
――そしてその態度も傲岸不遜。
「……何が言いたいの」
要するに、あの王様はもったいぶって教えてくれない。
もしくは私自身が察するまではヒントを小出ししてくれる程度だろう。
「話を聞く限り、本当にあの英雄王のことをよく知ってるみたいね。まぁ、召喚時の会話から分かっていることではあったけど、並行世界の移動なんて生きている内に見ることがあるなんて……もう何があっても驚かないわ、私」
「そういえば先輩。記憶喪失ではないということは、魔術の記憶もあったのでは? 先輩が魔術を知らないということから、ドクターは記憶喪失ではと勘違いしたわけですし。はい、私もですが」
それに関しては本当である。
私がいた世界では、すでに神秘は薄れてしまったため現実世界で魔術を使えるのはほんの一部だけだったのだ。そして当然ながら私はその一部に入ってなどいなかった。だから私は魔術なんて知らないし使えるなんてこともなかった。
例外として、月での聖杯戦争ではコードキャストという魔術の代替品のようなものが使えたが、それも用意された礼装に記録されているもの限定だった。まぁそれがまた何でか魔術刻印としてこの体に刻まれているのだ。
「成程……あ、申し訳ありません先輩。もう一つ、確認したいことがありました」
うん、なんだろう。
もうこの際だから何でも聞いてほしい。
多分、聞かれないと、まあ大丈夫だろうと勝手に判断して自己完結してしまうことがよくあると思う。
何気に、サーヴァントの仲間以外と戦場に出るのとか初めてだからついつい忘れてしまうのだ。彼らとは不思議なことに意思の疎通がいつの間にかできていたし、もはやツーカーだったし。あ、ギルガメッシュは一方通行ね。無論、ギルガメッシュが何を考えているのか察するのが私。
「では遠慮なく。……先輩、これ以上の隠し事はありませんか?」
……おっとマシュ、顔が近いぞう。
大丈夫、逃げないからその手は一旦放してください。それにこれ以上に隠していることなんてない。まぁ私が自覚していないだけかもしれないが、それこそ私が意図して伝えてないことはもうないと断言できる。
「わかりました、先輩を信じます……実は、少し不安でした。ギルガメッシュさん――英雄王と言葉を交わす先輩が、とても手の届かない遠くにいるようで……」
マシュの手に、ほんの少し力が加わった。
そんなにも私の様子が違ったというのだろうか。
「そりゃあ貴方ね、過去の英雄と何故か親しげに話していれば知らない方からすれば異様にしか見えないわよ」
むぅ、そういうものか。
ならば私がやることは一つ――変わらぬことを証明するほかあるまい。
だから私は声高々に叫ぼう。
――――私は、可愛い後輩が大好きだー!
「せ、先輩!?」
――――後輩のましゅまろボディが大好きだー!
「あ、あの先輩!? は、恥ずかしいので――」
――――鯖化してから露出されたおなかも好きだ! ただし眼鏡は返せ!
「あうっ!? す、すみません、すみませんでした先輩! 何一つ変わらぬ愛情をありがとうございます! ですのでそろそろお口チャックを――――!」
うむ、わかってもらえたのなら何よりだ。
「ふはははは! 何を喚いているのかと思えば、ついに頭が逝ったか! だが良し! お前は少し欲に対して素直になるべきであったからな。白野に影響を及ぼすとなれば――未熟者であるデミ程度でも存在価値があるというものよ」
「は、はい、英雄王! 未熟な私ではありますが、先輩を守り抜く所存です!」
「ふむ、まぁ未熟ではあるが見る目はある。いい従者を見つけたではないか白野よ。これで我も少しは自由にやれるというものよ」
確かにそうかもしれない。
今の今までギルガメッシュには、私という重しがあったのだ。そりゃあ自由に戦うこともままならなかっただろう。だが、今はマシュというディフェンスの達人がいるのだからギルガメッシュの火力が全て前面に回せる。
「思いあがるなよ白野。貴様を守りながらの戦いが、我にとって重しであっただと? ハ、我は王だぞ? 国一つを懐に収めるのに比べれば貴様一人どうということはない」
――――と、このように実はいい王様なのである。
「そのようなこと、言わずとも分かっていたことであろう」
「流石です、先輩。今の一連の流れでよく分かりました」
――ただ、調子に乗るとお仕置きされる。
「……調子に乗れる先輩を尊敬してしまいます、本当に。そのメンタル強度、もはや宝具の域ではないかと疑ってしまいます」
「もし何かの間違いでサーヴァントになることがあればきっとそうでしょうね。私も認めるところよ、呆れながらね」
呆れたような視線を背に、私はいつの間にか近くに来ていたギルガメッシュと相対する。
相変わらず黄金の鎧をまとったその姿は眩く輝かしい。この地獄の中でも、彼の周囲だけは彼の色に染め上げられている。
そんな彼が私を見下ろしながら、とある一方向に視線を送った。
「いい加減、変わり映えせんこの場も飽きてきた。それに向こうもそろそろ動くころだろうよ、白野」
飽きてきたとか、相変わらずである。
というか、向こうもそろそろ動くころとは一体どういうことなのか。
「……まさかとは思っていたが、貴様衰えたな? 元々みすぼらしい回路がマシになって来たと思った矢先にこれか。だが良しとしよう。この地獄を抜けたころには見てくれだけは整うだろうよ。おまけに他のサーヴァント共と共に鍛え上げたソレではないのはポイントが高いぞ?」
えっと、それはつまりセイバーたち三人とそれぞれ戦い抜いた結果出来上がったスーパー白野ではなくて良かったということだろうか。ちなみに、そのスーパー白野状態だったら私はどうなっていたというか何をされていたのだろうか。
「決まっている。我のものが雑種ごときに染められたのなら、この我自ら染め直すしかあるまい。幸いここに、かつてこの身に浴びたことのある醜い泥がある。これでも飲ませればあらかたの痕跡は消えようよ。まぁ安心しろ。我との記憶くらいならば保証してやる。それ以外は知らん」
そういいながら彼の蔵から取り出されたのは一つの杯。
同時にその杯から漂う気配に、どこか身に覚えというか似たものを知っているような感覚を抱く。それを見ていたギルガメッシュは面白そうに鼻を鳴らし、その杯を自らの蔵に押し込めていった。
「我としては、貴様が我以外をサーヴァントとした記憶の全てを消してしまいたいとは思っていたが……まぁいい。考えても見れば、恐らく此度の戦いもまた貴様にとって厳しいものとなろう。アレら雑種との記憶の中に役に立つものもあるやもしれん。事が済んでから消せばいいことよな」
――――この英雄王、ついに私の人権否定しやがった!
「モノに人権も何もあるまい? しいていうなら、我が法だ」
ごらんのありさまである。
これこそが世界最古の英雄王にして世界最古のジャイアニスト。
まぁ取りあえずはすべて終わってから考えよう。
「先輩!? 思考を放り投げてすべて後回しにした気配があるのですが!」
いいの、これでいいの。
そのウチ忘れてくれる――――――そう信じよう。
「こうやって、先輩の鋼鉄のメンタルは完成していったのですね……納得です」
「納得しちゃうのね。いえ、私もちょっと納得してるんだけど」
「む、貴様、そうお前だ女。白野よ、どこかで似たような女と会ったことはなかったか?」
ふむ、所長と似た人か。
それはきっとプライドが高くて強気、でもちょっと抜けてるところがあるツンデレ。
「――――……あの小娘か」
うん、その小娘だ――胸の事じゃないよ!
聞かれてたらガンド間違いなしだから言い訳はしておく。
全てはあの英雄王が悪いんだ。
「成程……まぁ、貴様の同行も許そう。あのタイプの人間は思わぬところで役に立つからな」
ああ、これで一つの懸念事項がなくなった。
これで全員一緒に行動を共にすることができる――――って、あれ、何か忘れているような。
「先輩。恐らくは、向こうも動き出す、といった英雄王の言葉に関してだったと思います」
そうだ、そうだった!
あまりに私の人権を否定する発言に、疑問がすっとんでしまった!
「何、向こうと言えばこの状況下では一つしかあるまい――――敵襲だ」
その言葉と同時に、ドクターから緊急コール。
『みんな、急いでその場を離れるんだ! 敵性反応がすごい速度で向かってる――――って、あれ、見慣れぬまぶしい人がいるけどどちら様で?』
「ドクター、説明はあとで! 無礼はダメです、絶対に!」
下手すると剣山になるから気を付けて。
『なにそれ怖い。って、兎に角今はその場から――――!』
「よし白野よ。コチラに来てから初めての実戦だ――――我を失望させるなよ!」
『あ、だめだ人の話を聞いてくれないタイプの人だ! いいかい、向かってきている反応は前までの敵とは比にならないほどに強力だ! 恐らくはサーヴァントクラスの化け物がやってくるぞ!?』
――サーヴァント、だって?
いや、でも、サーヴァントが召喚されることなんてありえるのか?
それこそ私たちのように独自の召喚術を行える組織か、もしくは聖杯戦争――――聖杯戦争?
「その通りだ、白野。まぁ正確には召喚された挙句、無様に泥に飲み込まれた雑種に過ぎん。貴様が戦い下してきた英霊とはまた格が違う――――我と貴様なら相手にもならん」
『え、ちょっと待って!? 岸波ちゃんにサーヴァントとの戦闘経験? 一体、何を言って……』
「ロマニ、貴方にはちょっとお話があります。帰ったらその場で待機――――逃げないことね」
『あれ、所長が激おこなんだけど、僕なにかしたっけ!?』
慌てるドクターに心の中で謝りつつ――――目の前に音もたてずに降り立った黒い影へと視線を向ける。
先ほどまでの敵とは比べ物にならないほどの魔力の凝縮体。
そして、狂気に飲まれながらも向かってくるその意志ある行動。
マシュが体を震わせ、所長が顔を青くする中――――ふと、比較している自分がいた。
――ああ、あれは……違う。
「それでこそ我のマスターだ。恐れることなどあるまい? そも、敵が何であれこの我が貴様に力を貸すのだ。醜き神すら殺す我の力――――存分に振るうがいい!」
敵はサーヴァントで、意志こそあれど思考なんてできていない。
私が戦ってきた彼らは自らの意志を持ち、人としての思考を駆使し、人に称えられ奉られた英雄として力をふるっていた。そんな彼らに比べれば、ただ力をふるうだけのサーヴァントに満たない存在なんて怖くない。
――――私一人でなければな!
「ええい、それが余計だというのがなぜ分からんか! まあいい、見ているがいいそこのデミ・サーヴァント。これが真の英雄、真の王の戦い方よ!」
ギルガメッシュの背後、その空間が揺らぐ。
そこから姿を現すのは、神秘の具現。
本来、英雄が自らの生涯の中で成し遂げた偉業、その集大成。
それを惜しげもなく両の手を超えるほどに展開させる。
マシュ、これが世界最古の英雄だ。
世界全てを一度手に収め、人の作り出す宝の全てを自らの蔵に封印した王の偉業の具現。
故に彼はその蔵の中にこの世の全てともいえる宝具の原典を所持している。
「さて、ではいくぞ? 我もいささか、狐のいう逆サーチとやらのせいで力を削ぎ落としてきた……見事に補えよ、白野!」
――――そういうことは早く言えー!
「ははは、反省はしていない。そら、来るぞ。デミ・サーヴァント、貴様もせいぜい白野に見限られぬよう働くがいい!」
「勿論です。先輩に見捨てられた私は、鼻をかんだ後のティッシュに同じ! 全力で先輩を守ります!」
「で、私は相変わらず放置されると……いいわ、もう、慣れちゃった」
――――大丈夫、所長は私が全力で守るから。
「そんなこと言って、絆されると思わないことね! あ、でも本当に耐久やらかけてくれるの……そう」
その後、僅か二分足らずで戦闘は終了した。
たった一騎のサーヴァントがギルガメッシュを前に二分も持ったとなれば相当なものなのだが実際は違う。その後も何かにつられるように現れたサーヴァントが二騎もおり、それをギルガメッシュとマシュで殲滅して、かかった時間が二分。
攻撃力上昇の魔術を重ね掛けしたギルガメッシュの無双っぷりはやばかった。
そして、
「ったく、こいつはどういう状況だ? アイツらが走り出していくから何事かと追いかけてみれば……こりゃあ助太刀なんていらなかったか」
聞き覚えのある軽快な声。
かつてのライバルが従えた、英雄の声だ。
「ま、やるじゃねぇか嬢ちゃんたち――――って……おいおい、見たことがあるような気がしたが、どうもどこかで縁があったマスターか?」
私たちは、かつての敵と再会した。
今回のイベのアヴェさん……来ないね。
何故か単発でアタランテさんが来たよ……違うんだよ。
何だか最近、イベの度に単発☆4が多い。
ちなみにはくのん、マシュに言いそびれている事実があることに気づいておらず。
そして虚気さん、兼任仙人さん、ザインさん、多くの誤字修正報告ありがとうございます。