はくのんの受難   作:片仮名

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EXとCCCを最後にやったのが数年前……
忘れておかしなことになってたら教えてくだせぇ……


プロローグ
プロローグ


 

 

 どうしてこうなった。

 自覚してしまえばぶっちゃけいつものことではあるけど、いい加減にしてほしい。

 長い間眠っていたような倦怠感がさらに気分を落としていく。

 ……気分を落としていく、というか意識が完全に飛びそうです。

 

 ――どうして目が覚めた瞬間、制服一式で雪原に放り込まれなければいけないのか。

 

 寒い、というか痛い。

 幸いなのは旧女子制服ではないため、生足は避けられたことか。

 だからといってこの状況を乗り切れるなんてことありはしないのだが。

 

 ――――おまけにいつも通り、記憶があいまいである。

 

 もう何回目だろうか、こんな状況に陥るのは。 

 悲しいことに慣れてしまったのか、いつもにまして驚きが少ない。

 まぁ大雑把ながらに月の聖杯戦争の記憶が残っているのも一因だろう。

 自分が何者なのか、岸波白野という自分の名がわかっているのだから。

 それだけ分かれば今は上出来である。

 

 ――そんなことより、現状を打破せねば!

 

 死ぬ、本当に死んじゃう。

 ほら見たことか、走馬燈が見えてきてしまった。

 紅い弓兵、赤い皇帝、青い妖狐、そして眩い黄金の王。

 温かいなにかが懐かしいと胸の中を這いずり回る。

 同時にその思い出の中で死にかけた回数を自然とカウントし……両手の数を超えたあたりで目をそらした。これはダメだ、今の状況がまだ生ぬるいと思えてしまうとか私の人生は波乱万丈すぎる。

 と、いうか。

 聖杯戦争はマスターとサーヴァントの二人組での戦い。

 その記憶が複数あるというのは一体どういうことなのか。

 

 ――いや、考えるのは後回しだ。寒い、本当に寒い。

 

 ありすと闘った氷の城より寒い!

 まさか幾多の死線を越え聖杯を手に入れた私が、こんな死にかたをしようとは。

 最強なのは人ではなく自然だった、まる。

 

 ――あぁ、今なら全部食べれる気がする……殺人、まー……ぼ……

 

 もしくは、、エリザベートの料理(温かいスープ限定)

 それを思い浮かべたが最後、私の意識は薄れていった。

 何故か最後に、いたずら好きそうなカラフルな男の人を幻視して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャウ!」

 

「ま、待ってくださいフォウさん! 勝手に施設の外に出てしまうなんて、バレたら所長に怒られてしまいます! あぁもう、雪を掘り返して……遊びたかったのならば施設の敷地内でも……」

 

「キャウキャウ! キューウ!」

 

「ここを掘れと? ……仕方ないですね。こんなこともあろうかと持ち運び用小型スコップが――何でしょうか、今突き刺した部分が柔らかかったような……」

 

「キューウ!」

 

「ひ、人が埋まって!? いいいい急いでカルデアへ運ばないと――――!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、生きているって素晴らしい。

 正確には室温が氷点下よりも温かいことが素晴らしい。

 

「いやぁ、流石に手遅れかと思ったんだけど半端じゃないね、君の生命力は」

 

 ギィ、と椅子を回しながら笑顔を浮かべる男性。

 どうやら凍死寸前で拾われた私を救ってくれた恩人の一人らしい。

 

「あんな寒いところで雪に埋もれて生きてるだなんて……もしかして似たような経験があって耐性ができてるとか」

 

 ……言われてみるとあながち否定できないような。

 何せ、今の体かどうかは分からないが冷凍保存されていたこともあるのだ。

 そのせいかと言われれば否定できないような……いや、それで耐性出来るって適応力おかしい。

 まぁ何にせよ生きているのだから過程は気にしないことにしよう。

 

「おまけに死にかけたというのに、精神のバイタルは正常値って……流石に驚いたなぁ」

 

 あはははと笑う男性はロマニ・アーキマンというらしい。

 私が運び込まれたこの場所、カルデアという組織で医療をつかさどる人間のひとりだという。

 

「っと、マシュに君が起きたら教えてほしいって言われてたんだっけ」

 

 そういいながらドクターは端末を手に取る。

 それにしてもマシュ?とはいったい誰のことなのか

 

「ん、あぁ。君を雪原から掘り起こした子だよ。随分と心配しててね。」

 

 成程、私を掘り起こして……。

 これはお礼を言わなければいけない。

 

「うん、そうしてあげて。っと、やぁマシュ、君が連れてきたお嬢さんだけど目が覚めたよ。うん、バイタルもすべて安定していて医師である僕からみても驚きだよ――ってありゃ、切れた。まぁまもなく到着するだろう」

 

 と、そういえば現状の確認ですっかりと忘れていた。

 

「うん? どうかしたのかい」

 

 ――助けてくれてありがとう。

 

「――あはは、そう真っすぐに言われると照れるなぁ。うん、君はいい子だ、間違いない」

 

 うんうんとうなずくドクター。

 そんな様子を見ていると、パシュとドアが開く音がした。

 視線を向けてみれば、そこには眼鏡をかけたパーカーをまとう可愛らしい少女が立っていた。

 ……なぜだろう、彼女を見ているとやたら保護欲がわいてくる。

 まるで『桜』のような――

 

「おはようございます、先輩。ご無事なようで何よりです」

 

 後輩キャラだと――――! 

 それに加えて眼鏡だと――――!

 ここは楽園だったのか!

 

「ひゃう!? え、え?」

 

 驚く少女を見て正気を取り戻す。

 あぁ、すまないちょっと興奮してしまった。

 

「いやぁ、ちょっとじゃすまなかった気がするけど……もしかして業が深いのかな」

 

 後輩キャラって素晴らしい。

 私は今まで生きてきてそれを学んだ。

 そして今、その素晴らしさを再確認したのである。

 

「いやぁ君とはいい酒が飲めそうだなぁ!」

 

「ダメです、ドクター。先輩はおそらく未成年、何より病み上がりですので体に毒です」

 

「あはは、冗談だよマシュ」

 

 二人の会話を聞きながら、ジ、と少女を見つめる。

 淡い桃色の髪に白い肌、儚そうなその容貌は『桜』を彷彿とさせる。

 守りたい、その笑顔。

 

「うわぉ、男前だね。彼女に合わせたら気に入られちゃいそうだ」

 

 彼女とは誰のことか。

 まぁ私の場合、気に入られた相手は相当に厄介というパターンが多いので会わないで済むならそうしたいところ。

 代表? ヤンデレとか良妻賢母とか……あとアイドル?

 

「あの……熟考中に失礼します。先輩、体調の方はいかがですか?」

 

 言われて、体を動かしてみる。

 痛みも気だるさもなく健康そのものである。

 本当に死にかけたのか疑問に思えるほど。

 これまた聖杯戦争ではいつものことなので動揺なんて今さらできない。

 

「良かった。フォウさんが見つけてくれなければ、先輩が地上に出てこれるのは数世紀も後だったかもしれません」

 

 ぞっとしない話である。

 30年先でも取り残された感があったというのに数世紀とか考えるだけでも恐ろしい。

 本当に感謝してもしきれない。

 

「いえ、私はフォウさんに言われた通りにしただけですし……」

 

 それでも救って、ここに連れてきてくれたのは君だ。

 それは間違いないことで、おかげで私が救われたのも間違いないことだ。

 

「そう、ストレートに言われてしまうと、照れてしまいます」

 

 頬が赤く染まるその表情、プライスレス。

 ……どうしたのだろう私は、後輩に飢えているのだろうか。

 と、そういえばフォウさんとやらはどこにいるのだろうか。できることならフォウさんとやらにも一緒に感謝の言葉を伝えたいのだが。

 

「あぁ、フォウさんなら先輩の布団の中に」

 

 なんだと。

 バッと布団をめくってみれば、そこにはなんだかよく分からない生き物が身を丸めて寝ていた。

 なに、このかわいい生き物。

 狐とか目じゃない。

 ご主人様!? と抗議の声が聞こえたような気がするが気のせいだろう。

 

「経緯を説明するならば、フォウさんが散歩のすえついに施設外へ脱走。それを追った私がフォウさんの言うとおりにその場所を掘ってみたら先輩発見、という流れになります」

 

 つまりこのフォウさんとやらが脱走しなければ今もまだ雪の下だったということか。

 たらればの話は今はよそう、無事だったことを喜ぼう。

 何にせよ、私が助かったのは二人のおかげということだ。

 

 ――だから、ありがとう。

 

「先輩は真っすぐすぎます。あって間もない私でも、先輩が善性の存在であると確信できるほどに」

 

「フォウ! フォーウ!」

 

 いつの間にか目を覚ましていたフォウさん――フォウが私の上で飛び跳ねる。

 重い、かと思いきや自然と軽く、ちょっとした肩叩き程度の衝撃が体をくすぐる。

 

「こら、フォウさん! 先輩は病み上がりなんですからダメですよ!」

 

「あはは、マシュは心配性だなぁ。でもマシュがこうして面と向かって先輩と呼ぶ子は珍しい。何か思うところでもあったのかい?」

 

「そうですね……しいて言うのなら、先輩を見ていると落ち着くというか、どこまでも人間らしいというか……あぁ、この人は人畜無害だと」

 

 何だろう、人畜無害の下りをいつだったか聞いたことがあるような。

 別に馬鹿にされているわけでもないしいいのだが。

 

「あはははは! マシュがそう評するなんて珍しい。カルデアは良くも悪くも癖が強い人間が多いからね。逆にノーマルな人種というのは貴重だよ。それこそ隙を見せてもつかれることはないっていうのはね」

 

 ……ここは魔窟か何かなのか。

 隙を見せたら突かれるって、魔術師のようだ。

 

「――――予想はしていたけど、やっぱり君も魔術師なのか」

 

 シン、と先ほどとはまるで空気が変わる。

 ドクターが私を見る目に確信が浮かび、マシュはフォウを捕まえようと格闘している。

 ……ドクターに私もつきあったほうがいいのだろうか。

 

「その目はやめて! なんだよもう、せっかく真面目にしようと思ったのにさ! まぁマシュが安全と評した以上、魔術師としての危険性もないとは思ってたけど」

 

 喜んでいいのか微妙なところである。

 何にせよ、敵対の意志はないので穏便に事を済ませてほしい。

 

「って、そういえばまだこの場所のことを話してなかったね。カルデアのデータベースに君のデータが無かったってことは、元々やってくる予定の魔術師ではないってことだろう。察するに君は、カルデアがどういう場所なのかを知らないと思うんだけど」

 

 正解である。

 先ほどからちょくちょくと耳にする言葉――カルデア。

 それがここだということは分かれど、その意味までは分からない。

 

「ではドクター。先輩はやはり外部からの……しかし、マスター候補ではないとすればなぜこんな雪山に?」

 

 正直に言えば私もなんであんな所にいたのか分からない。

 流石の私だって、氷点下に繰り出すともなれば制服一式だけでなく厚着をしていた。

 

「そういう問題じゃないんだけどね……まぁ君が状況を理解していないのはよく分かった。先ずはここ、カルデアがどんな役割を持っているかから始めたほうがいいかな」

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは頭の中を整理するのでいっぱいいっぱいだった。

 まずいえることがあるとすれば、案の定ここは私の知っている月――ムーンセルではなかった。

 というかムーンセルが存在しているのかも分からない。

 並行世界の一つ、以前誰からか聞いた可能性の話。

 ここは、私が知っている世界とは異なる場所のようだった。

 

 人理継続保障機関「カルデア」により人類史は100年先までの安全を保証されていた世界。

 その保証が覆り、何の脈絡もなく人類は2016年で滅び行く事が証明されてしまった世界。

 同時に西暦2004年日本のとある地方都市に今まではなかった、「観測できない領域」が観測されたのだという。

 話の中にシバだとかなんとかレンズとかでてきたけど取り合えずは割愛しておく。

 

 ――要するに、人類が滅ぶのが確定した世界。

 

 世紀末である。

 だからこそカルデアは原因を追究し、とある地方都市の「観測できない領域」が原因の一つだと仮定した。

 そしてそれを取り除くために実験中であった過去への時間旅行を決行しようと踏み切った、と。

 

 この計画の中枢を担うのが、どうやら世界中から集められた稀有な資質を秘めた魔術師らしい。

 ……ちなみにこの世界、魔術は確かに存在しているらしく私の知っているコードキャストとは別物であった。

 

「さて、と。そろそろ考えはまとまったかな? 確かに衝撃の大きい話だけど、間違いなく世界は終わりに向かっている」

 

 あ、別に世界が終わりに向かってるのは何時ものことだからあんまり気にならない。

 

「……なんか今すごいことを聞いた気がするけど、ねぇマシュ」

 

「何故でしょう、先輩が言うと説得力があるような気がしてなりません」

 

 それで、そんな大事な話を私にしてしまっても良かったのだろうか。

 ぶっちゃけ部外者だと思うのだ、私。

 

「いやぁ、このカルデアに足を踏み入れた時点でもう元の生活には戻れないからね。それとも記憶を消去して外に帰る? ぶっちゃけ今日の記憶どころか大雑把に消えちゃう可能性があるけど」

 

 ――お断りします。

 

「だよねー。まぁ今回のは人命救助というのもあって例外でね。君には選択肢が用意されてる」

 

 参加するか、記憶を消すかの二択だろう。

 それだったら私は――

 

「あぁ、時間はまだ残ってるからゆっくり考えても――――」

 

 ――参加する。

 

「決断は早っ! 男前すぎる!」

 

 だって記憶なくすのはもう御免だし。

 

「え、君、以前にそんな経験が? って、現状がそうなのか。うーん、でもバイタルに異常はないしなぁ……かといって嘘をついている反応もない、か」

 

 まぁもう過ぎたこと。

 今の私は、今日まで生きてきた中で手に入れた思い出で出来ているのだから。

 忘れてしまった過去は惜しいとは思うが、悔やみはしない。

 

「……僕が女だったら惚れちゃうんじゃないかってくらい男前だね。マシュが呆けちゃってるよ」

 

「いえ、先輩のように前向きな方は初めて見たもので……」

 

 それが私の取り柄である。

 最弱であり、過去すらなかった私の唯一の。

 

 ――で、参加するとしてこれから私はどうすればいいのだろう。

 

「ああ、それなんだけどね。君――――って、まだ名前を聞いてなかったね。教えてくれないかい?」

 

 そういえばすっかり忘れていた気がする。

 

 ――私の名前はフランシスコ……ごほん、岸波白野。

 

「なんか偉人の名前が出てきたような気がしたけど……岸波白野ちゃんね、綺麗な名前だ。それで岸波ちゃんなんだけど……うん、やっぱりか。カルデアのデータベースに名前がないから、マスターの適合者ではないと思うんだけどその魔術回路の質は魅力的だ。できれば色々と手伝ってもらいたいんだけど……」

 

 魔術回路?

 いや、でも、あれは電脳の話である。

 ならば今この体にあるという魔術回路は一体?

 

「……名前は憶えている、そして魔術師は知っているけど魔術回路は知らない? もしかして岸波ちゃん、魔術的な要素で記憶を消されたか改ざんされたか……時間があるときにもうちょっと詳しく検査してみようか」

 

 たぶん無駄だとは思うが、よろしくすることにした。

 そんなことよりも魔術回路である。

 

「魔術回路というのは、魔術を使うためには必須ともいえるものです。魔術を使用するための魔力を生み出す機関で、生命力を魔力に変換する為の「炉」であり、基盤となる術式に繋がる「路」でもあります。どうやら先輩はその魔術回路が通常よりも質がいいみたいですね」

 

 ――まさかここに来て、岸波白野のターンがきたか!

 

「とはいえ、上には上がいるものですが」

 

 ――岸波白野のターンしゅうりょーう!

 

「ああ、落ち込まないでください先輩。それでも先輩の回路の質だけは平均を上回っていますから」

 

「そうそう。だからこそ君の力を借りたいんだ。戦闘訓練然り、メンタルケア然り、君は周りに良い影響を与えてくれそうだ」

 

「人間アロマセラピーのようなものでしょうか」

 

 一攫千金狙えるのではないだろうか。

 そう、お金は大事である、チョー大事。

 お金があればアイテムが買える、おいしいご飯が食べられる。

 ああ、あの時回復アイテムが買えていればもう少し楽な戦いに、リターンクリスタルが買えていれば一瞬で帰れたのに!

 すべては遠坂マネーイズパワーシステムとかとち狂った存在が悪い。

 あと借金取りの太陽の騎士とその主。

 

「おーい、戻ってこーい! 取り合えず君の処遇は所長が決めるだろうけど、悪いようにはならないよ。優秀な人材には比較的寛容な人だからね、比較的」 

 

 果てしなく不安である。

 とはいえ現状、頼れるのはここしかないのだから何が何でもここに置いてもらおう。

 断固としてここを離れるわけにはいかないのである。主に屋根ある生活のために!

 

 

 

 

 

 世界の滅亡は、まぁ、ホント、いつもの事である。

 なるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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