ロキ・ファミリアのたった一人の眷属 作:抹茶オレンジ
───ロキは、下界に飽いていた
その日、迷宮都市オラリオは雲ひとつない青空で、太陽は空の頂上で爛々と輝いていた。
ロキはただ一人、手を頭の後ろで組みながら歩みをすすめる。
特に何をするでもなく。
また、何かをしたいと言う気持ちも起きずに。
「暇やなあ……」
───こんなもんなんか、下界は
次いで口に出そうになった言葉を、ロキは飲み込んだ。
言ってしまえば、いよいよ惨めな気持ちになりそうだったから。
ロキは眷族を作らなかった。
下界に降りてまで子供に恩恵を与えて見守る、なんて面倒くさそうこと自分には出来そうにないと思ったし、ほぼ同時期に降りてきたドチビが、割合すぐに眷族ができたと笑顔になって自慢してきた姿を見て、なんだか後追いするのが癪だったというのもある。
生来の天邪鬼さはどうすることもできず、心のどこかにあった悔しい気持ちを隠して、ロキはオラリオを出て世界を周った。
どこぞの国の
とにかくやるだけのことはやった。
そして、なにもすることが無くなった。
ロキは空を仰いだ。
───空は青いのに、どうして世界はこうまで灰色なのだ
───自分はもう何だって、手にしているはずなのに
組んでいた手を離して、顔を地面に向けて大きく脱力した。溜息を付き、顔を上げる。
「もうええわ、いっかい宿屋にかえ……」
気が付けば、ドチビの拠点の目の前に来ていた。
オラリオに帰ってきてこれで
「あのドチビがこんな立派なホーム建てよるとはなあ……」
ロキは自分の背丈の何倍もあろうかと言う壁に近づき、ぺちぺちと壁を叩いた。
自分だって眷属でも作っていれば、今頃こんな拠点の一つや二つでも持っていて、子供の帰りを手もみしながら待っていたのだろうか。
「そんなん、無理やろ」
誰に言うでもなく、ロキはポツリと呟いた。
そもそも、天界では神々に殺し合いを演じさせようとしたロキだ。
他の神々同様、下界の子供を必要もなく殺そうとは思わないが、だからと言ってただただ子供を愛し慈しんでいる自分が、やはりどうにも想像出来なかった。
ただ、何でもやってきた自分が唯一やっていない神らしい行為とも言える。
そして、自らにとって下界で追い求め、そして最後に残された
ロキはそう考えると少しだけやる気になって、かと言って天邪鬼ゆえに、どうしても今ひとつ素直になりきれずにいた。
そのとき、ロキから少し離れた場所にあったホームの出入り口から、一人の少年が出てきた。
ロキの居る場所とは反対側の方向へと進むその少年は、えらく気落ちしていて、なんだか背中がさびしい。
処女雪のような髪が、ふらふらと揺れる体に合わせて動くせいか、さながら幽鬼のようだった。
(なんや、あれ……?)
恩恵は感じられないから、ドチビの──ヘスティアのファミリアの
だったらあれは誰なんだとロキは少し興味が湧いた。何かしらの契約を取りに来て断られただけ、にしてはえらく力が抜けている。
どうせ帰っても暇なだけやし、と少年に興味を持ったロキは声をかけた。
北のメインストリートから一本入った路地に構えられた、二階建ての木造の家。
周囲に溶け込むようにして構えられているのは【ロキ・ファミリア】のホームであり、彼女と
ドアを開け、一人の少年が笑顔で中へと入っていく。
「神様、ただいま帰りました!」
「ベルたんおかえりーっ!!」
中にいたのは、満面の笑みで少年を迎えるロキ。
彼女は、下界で───
これは、一柱の道化師が一匹の兎と共に歩む、
次回更新予定は2月中です(漠然
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