まったく話しが進んでなくてすまない。
「クリエイトウォータ!」
朝一、気合の入ったカズマの声が人の少ない冒険者ギルド内に響き渡る。その言葉と共にカズマの手のひらから蛇口を適度に回したときと同じ位の勢いで水が噴出し、目の前にあるコップをいっぱいにした。
彼はそれを飲むと、どこか満足そうに呟く。
「まぁ、初級魔法なんてこんなもんだろ。俺もようやく冒険者らしくなってきたな」
「初級魔法で水分補給とは……冒険者とは一体なんだったのか……」
有用なのは認めざるを得ない事実だけどさ。それでいいのかなぁ……なんていうかこう、体裁的に。
こんなことを言いつつ、カズマから水を一杯注いでもらい喉を潤す。うん、今は懐かしき水道水に近い味がするな。
「見てくれ!キャベツの報酬で鎧を新調したのだが、こんなにもピカピカになったぞ!どう思う?」
「なんか成金趣味のボンボンがつける鎧みたい」
「むしろ、貴方なら鎧、要らないのでは?」
どうせ、鎧がダメになるくらい攻撃を受けて恍惚とするんでしょう?その辺の初期装備とかでいいんじゃない?
「む、私だって普通にほめて欲しい時だってあるのだが………君たちはどんなときでも容赦がないんだな……」
「悦ぶな変態」
「はぅ……!」
ダメだこいつ。
物理もダメ、精神攻撃もダメとかもう放置するしかない。それか視界に入れないくらいしかない。もしそれも放置プレイと受け入れるようになったらどうしようもなくなるけど。
「今は構ってやる余裕はないぞ。あそこのお前を越えそうな変態を何とかしろ。というか、仁慈何とかしろ」
「俺に、アレをか?」
「魔力溢れるマナタイト性の杖のこの色艶……はぁ……はぁ……あっ」
カズマと共に視線を向けた先には新しく新調した杖に足を絡ませ、頬すりをしては息を荒げるめぐみんの姿が。絶対に相手したくない。こういうときは見なかったときに限る。俺は自身のスキル習得を行うことでめぐみんの存在を一時的に忘却することにした。
えーっと……狂戦士のスキルって何があるんだ?
戦闘続行 20ポイント
読んで字の如くのスキルだろう。便利そうだから習得しておこう。
ネタ臭ヤバイなこのスキル。しかも、ポイントがやたら高い。効果の確認とか出来ないのだろうか。
効果:回避行動に一定の補正がかかる。大体の攻撃があたらないようになるが、あたったら通常よりも倍のダメージを受ける。
一定の補正ってどのくらいだよ。
それが詳しく分からないと怖くて取れないなこのスキル。もし、大した補正もかからないのにダメージ二倍とかだったら目も当てられない。
とりあえず今回は戦闘続行スキルでも取っておこう。
「カーズーマーさん、今回の報酬はお幾ら万円?」
一体なんだこの状況。
冒険者カードから目を離すと、今まで居なかったアクアがいつの間にかカズマの前に居り、昨日のキャベツクエストで稼いだ金額を尋ねていた。何で?
「アクアが捕まえたキャベツは殆どレタスだったからですよ。レタスは換金率が低いのです」
「で、儲からなかった分の金をカズマからたかろうと」
元とはいえ、それでいいのか女神……。
「………百万ちょい」
『ひゃくまっ!?』
「………さすが華麗なるキャベツ泥棒。高額のキャベツをピンポイントで収穫するとは……」
「うるせぇ」
それにしても、百万はすげぇな。
俺、二十五万くらいしか稼げなかったんだが。……キャベツに避けられるという状況に陥った所為で。
「カズマさん!私、今回のクエストの報酬が高額になると思って、有り金全部使っちゃったんですけど!っていうかもう既にこの酒場に十万近いツケまであるんですけど!?」
アホだ……。
さすが一般よりも低い知力を持つ女神(笑)だけある。というか、女神がツケって……それでいいのだろうか……。案外、神様達もこの人が居なくなって逆に喜んでいる奴らのほうが多いんじゃないかな。
「知るか!今回の報酬はそれぞれのものにって言ったのはお前だろう!」
「だって、私だけ大儲けできると思ったのよ!」
幸運値すっごく低いんじゃなかったっけ?あの女神。
というか、醜いやり取りだなー。女神が一般人に金をせびるなんて。確かこの女神を崇めているアクシス教団とか言うのがあるんだっけ………この光景、絶対に見せられないな。
「はぁ………」
「どうしたんですか、そんな溜息吐いて」
「いや、このパーティーに加わったのは俺の人生の中で最大の過ちだったかも知れない」
「そこまでですか……」
そう思っても仕方ないだろ、この光景。
カズマは結局この後アクアに握られていた弱みをチラつかされてお金を代わりに払っていた。いやー……やっぱりあれは女神じゃねーだろ。
――――――――――――――――――
翌日。
そこにはジャージ姿から一転、いかにもファンタジー物に出てきそうな服装をしたカズマの姿が……!
地味に似合ってるな。
「初級とはいえ、魔法スキルも習得したからな。盾は持たず、魔法剣士のようなスタイルでいこうと思う」
「言うことだけはいっちょ前なんだから」
「でも、盾を持たないというのは正解だ。化け物を相手にする場合。往々にして素人の盾は役に立たない。そういうのはそこの肉盾に任せるべきだな。本人もその気だし」
「あぁ、是非とも任せてくれ。それと、仁慈。その言い方いいな………もっと言ってくれ」
「余計なこと言うな雌豚」
「はぁん……!」
段々こいつの扱い方が分かってきたことは喜ぶべきなのか嘆くべきなのか……。
「準備が出来たら、早速討伐に行きましょう!出来れば沢山のザコモンスターが出る奴です!新調した杖の威力を確かめたいです」
「いや、一撃が重くて気持ちいい……強い奴にしよう!」
「いいえ、お金が沢山稼げるクエストよ。ツケを払ったから、今晩のご飯代もないの!」
「まとまりがねー」
「俺は別に何でもいいぞ?多分、何が来てもある程度戦えると思うし……あ、そういえばジャイアント・トードが再び繁殖しだしたみたいだし――――」
『カエルは止めましょう!!(止めようぜ)』
「ん?何故だ?」
「あー……アクアはカエルにばっくりいかれて粘液まみれにされたことがトラウマになっているのでしょう。でもカズマはどうしてです?」
「俺が両断したカエルを見せたからじゃないかな」
「そんなことしたんですか……」
まさかここまで尾を引くとは思わなくて……。結局、ジャイアント・トードは却下になり、とりあえずギルドに張られている内容を見て決めることにした……んだけど、
「何だコレ、依頼が殆どないじゃないか?」
「カズマ!これだ、これにしよう!ブラックファングと呼ばれる巨大熊の討伐を―――」
「却下だ却下!」
後で行こう。
熊とは戦ったことないからちょっとやりやってみたいという気持ちもあるし、何より金額が悪くない。熊の肉も食べれるらしいし、倒した後の死体も高値で買い取ってくれるだろうし。
「なんだこれ、高難易度のクエストしか残ってないぞ?」
「申し訳ありません。実は最近、魔王の幹部らしきモノが町の近くに住み着きまして……その影響か、近くの弱いモンスターたちは隠れてしまい、仕事が激減しているのです」
「えぇー……」
さすがにこのパーティーで強力なモンスターは倒せないと、今日は解散するらしい。
みんなが居なくなってから俺は先程、任務激減の理由を教えてくれたギルド職員にブラックファング討伐の紙を見せて討伐に向かった。
――――ぶっちゃけ、でかいだけだけのカカシだった。攻撃は大振りだし、特に強い攻撃もしてこない。一撃一撃は確かに強いけどそれだけだった。俺やユウさんなら瞬きしている間に皆殺しにできます(ベネット感)
――――――――‐――――――――――
熊があまりにも期待はずれだったので、若干不貞寝気味に宿屋に帰ったのが昨日の出来事で。
「仁慈、ちょっと付き合ってくれませんか?」
めぐみんにたたき起こされたのが、今朝の出来事である。
ギルドの酒場で簡単に腹を満たした後は来たこともない山道をめぐみん先導のもと歩いている。
「…………魔法の訓練なのになんで山道登ってるの?この辺を燃やすため?」
「そんなわけないです。ただ、爆裂魔法の的となるものを探しているんです。大き目の岩とかがあればいいんですけど………あ」
しばらく歩いていると、視線の先に断崖絶壁に立つ廃城のような建物を発見した。壁は罅割れ、コケのようなものが生えているのを神機使いの視力で確認する。どこからどう見ても人が住んでいるようには思えなかった。
「アレにしましょう。あれなら、盛大に破壊しても文句はないでしょうし」
「一応許可とかとっておいたほうがいいんじゃないか?何か歴史的遺産とかだったら目もあてられn」
「紅き刻印―――」
こいつ、人の話しを最後まで聞かないで詠唱始めやがった。
例の如く前回と違う詠唱を言いながら、杖に魔力を送り込むめぐみん。実は爆裂魔法って詠唱いらないんじゃないかとここ最近思い始めた俺です。
「エクスプロージョン!」
大惨事確定。
廃城目掛けて放たれた爆炎は幸いというべきか、しっかりと廃城に着弾。黒煙を撒き散らして廃城をすっかりと覆ってしまった。
そして倒れるめぐみん。ここまでテンプレ。
「燃え尽きろ……紅蓮の中で…………」
地面に突っ伏しながらめぐみんは決め顔でそう言った。
「はぁ……最高です……」
「それはようござんした。それで?これが爆裂魔法の訓練なのはわかったけど、いつまでやる気なんだ?」
「これから毎日です。なに、時間は取らせませんよ。朝一にぶっ放すだけですから。時間が決まっていたほうが、仁慈もいいでしょう?」
「まぁ、確かに」
こうして、めぐみんの爆裂魔法特訓が始まったわけである。
毎回毎回、廃城を爆破するので見る見る破壊されていくのだが、特にギルドから抗議がくることもなく。普通に続けていた。
雨の日でも雪の日でもやるというのだから執念とは恐ろしいものである。
「エクスプロージョン!」
あぁ、今日も山奥で廃城が爆破される。
もはや日課というか日常の一部になりつつあるめぐみんの運送をしつつそう思う。
「そういえば、今日の魔法はいい感じだったな。俺の知っている爆発の中でも一位二位を争う破壊力だったと思うぞ」
「マジですか!」
「まじまじ。ぶっちゃけ、誤射姫とたまに被って見えて超怖い」
「誤射姫?」
うん、誤射姫。
本当にあの人と被ってきてるから、なるべく味方は巻き込まないように爆裂魔法を使って欲しい。
めぐみんの特訓で、半壊した廃城を視界に納めつつ俺は切実にそう思った。