「考え直すんだジャージ少年。この人をパーティーに入れると後々絶対後悔するぞ」
誰がジャージ少年だ。ってそういえばお互いに自己紹介してなかった。俺は冒険者カードを見て、向こうはアクアとの会話を聞いて名前はお互いに知ってるけど、自分で自己紹介しないと名前は呼ばないタイプらしい。
まぁ、今はそんな事はどうでもいいとして……。どうして仁慈はそこまで言って彼女のパーティー入りを阻止しようとするのだろうか?取り分が減るからか?いや、知り合ってからまだ間もないが、一緒に居てトクなんてほぼないめぐみんと数日パーティーを組んでいる奴だ。そういった欲はあまりないだろう。
「あ、あの粘液まみれの少女は君のパーティーメンバーだろう?一体何をどうやったらああなるんだ……」
……変なことを聞く人だな。
「えーっと……ジャイアントトードに捕食されて粘液まみれn「なッ!?」」
俺が言った言葉にかぶせる形で驚愕するダクネスと名乗る女騎士。
「想像以上だ……」
……なんだろう、この女騎士…………目がヤバイ。
今も、年端も行かない少女がそんな目に遭うなんてッ!とか言っているけど、若干トリップしている目で息を荒くしていらっしゃる……。
「……ちょっと用事を思い出したからいったん席を外しますね」
「待て待て待て待て!」
ちょと待てwait!置いていかないで!一生のお願いだからッ!
俺に忠告してきたくらいだからもっと早くこの女騎士の特異性というか異常性を見抜いていたであろう仁慈が脱出を図ろうと席を立つ。俺も今になって感じた。こいつはアクアやめぐみんに通じるものを持っている。……簡単に言えば、残念属性を内包しているッ!
それに対して、こちらそうはさせるかと言わんばかりに彼の袖を掴んだ。
「どうしたんですか?今日は早めに寝たいのですが……(何をする。俺の忠告を無視して断ることを躊躇ったのはジャージ少年のほうだろう?こんなとこに居られるか、俺は宿屋に帰らせてもらう)」
「いやいや、夜はまだ長い。今日の報酬で一杯やってこうぜ(コイツ……直接脳内に……ッ!じゃなくて、自分だけ逃げようたってそうはいかねぇぞ!というかそれがお前の素か)」
女騎士に見えない位置で、攻防を繰り広げる俺たち。負けられない戦いがここにあった。この結果によっては負担する重荷がかなり変わってくる。逃がすわけには行かないッ!
しかし、現実は非常である。俺が引きこもりやってたときから分かっていたことだが、まさにその通りだ。
やり取りの中心にいる女騎士は仁慈の袖を掴んでいないほうの腕を掴んで俺に顔を近づけていた。
くっ、こうなったらウチのパーティーのダメさ加減を知らせて本人のほうから離れてもらうしかない!
「いやーお勧めはしませんよ?1人はよく分からないし、もう1人は一日一発しか魔法が撃てないし、そこに居る奴は1人だけ世界観違うし、俺は最弱職の冒険者。このようにポンコツパーティーなので他のところをお勧m「なら尚更都合がいい!」いだだだ!?」
なんて力してんだこの女!
強力な力で握られた腕をさすっていると、女騎士は若干恥ずかしそうに口を開いた。
「ちょっと言い辛かったのだが……私は力と耐久力には自信があるが、不器用で……攻撃がまったく当たらないのだ」
「完全なる肉盾……だと……!?」
まさにメイン盾(盾しかできないという意味)。
戦慄する仁慈を他所に、俺は自身のセンサーが正しかったことを確信した。
「というわけで、ガンガン前に出るので盾代わりにこき使って欲しい!もちろん、モンスターの攻撃の盾、触手、捕食もバッチコイだ!」
「「うわぁ……」」
思わず、引き気味な声が口から零れだす。
「(……これって、性能だけでなく中身まで残念な奴だよな……?)」
「(そうだな。彼女は被虐嗜好の人……ありていに言ってしまえばドMだ)」
仁慈と顔を見合わせ、自分の中の懸念が事実に変わったことを自覚したとき俺たちは同時に溜息を吐いた。
―――――――――――――――――――
なんでこの世界まともな人が居ないんだろうか……。
昨日、カズマ―――昨日の一件でカズマと呼べといわれた――――のパーティーに入りたいと希望したクルセイダーのダクネスを思い出して俺はしみじみとそんな事を考えていた。
「あ、仁慈。おはようございます、早速ご飯を食べに行きましょう」
「………はぁ」
「人の顔見て早々溜息とはいい根性してますね」
「はぁ」
「直しすらしないっ」
「いや、ごめん。別にめぐみんは悪くないんだ。ただ、周りには残念な人が多いなということについて考えてたらたまたまめぐみんが目に入ってね」
「先程の溜息を含めて考えると、それは私を残念な奴と認識していることになりますが?」
「そうだよ」
「直球!」
ぎゃーぎゃー騒ぐ爆裂娘を背後につれて冒険者ギルドへと足を運ぶ。目的はもちろん朝食である。
花鳥風月!といいながら宴会芸をノリノリで他の冒険者に見せている駄女神をスルーしつつ、席に座り近くに居たウェイトレスに注文をする。ご飯を食べると分かった瞬間に静かになっていためぐみんもちゃっかり料理を注文していた。俺の金で。
しばらくしてやってきたご飯に舌づつみをうつ。極東とは違って、料理の素材が全て天然物だからかなりおいしい。もちろん、ムツミちゃんの料理にはかないませんけど。
「朝から肉かよ」
「……食べますか?」
「いらない」
重くて朝からは食べられないわ。
しばらく2人で黙々とご飯を口に入れる。
数分ほどで食べ終わり、我らがリーダーカズマを待っているのだが、一考に来る気配がない。もしかすると、昨日のドM騎士襲来で精神を削られすぎているのかもしれない。
「んー……カズマも来ないみたいだし、なんかすぐに終わるような仕事でも請けてこようか」
未だに大きい肉と格闘しているめぐみんを置いて席を立ち、適当に仕事を選んでさっさと冒険者ギルドを後にした。
ちなみにめぐみんは目の前の肉に集中して一切気付いていなかった。
―――――――――――――――――――――
「この世界のモンスターって割りと脆いよな……いや、神機の特性上しょうがないのかな?」
珍しくヴァリアントサイズではなくロングブレードの刀身に変えた神機を振るいつつ、今回の討伐目標をサクサク切裂く。
目標は5体だったが、どうやら群れに遭遇したらしく、今斬ったので10体目に突入していた。後で紐でくくってギルドに持って帰ろう。この世界、死体も換金してくれるので元々居た世界より金策が楽だ。敵もそこまで強くないし。
死んだパーティーメンバーを棺桶に入れて引きずる勇者の如く、モンスターの死体を引きずりながら帰還した俺は専門の人たちを呼び、死体を持っていってもらった後、お金を引き取るために再び冒険者ギルドへと立ち寄る。
時間もいい感じだし、ついでに昼ごはんでも食べていこうかなと考えていると、
「財布返すだけじゃダメだって……じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼んだら、自分のパンツの値段は自分で決めろって」
という、いかにも信じがたいセリフを口走る女性の声と、
「待てよ!おぉい待て!間違ってないけど……ホント待て!」
信じたくないことに、知り合いの声とよく似た声がそんな事をあせって口走っていた。
騒動の中心に目を向けてみれば、そこには残念女性三人組と涙を浮かべて足をもじもじさせる見知らぬ女性、そして必死に弁解しているジャージ姿の少年だった。
帰ろう。換金なら別の日にでもできる。あのパーティーに居ると人として何か大切なものを失うかもしれない。
「帰ろう」
踵を翻して、俺はこの世界に来てからずっと使っている宿屋に向けて歩き出そうとした。
「あ、仁慈」
が、ダメッ!
無常にも俺の後姿は爆裂娘に捕らえられてしまった。めぐみんの言葉で
俺はそんな彼に性犯罪者に向ける冷たい視線をプレゼントする。
「そんなとこでなにやってるんですかー?」
「そうだよ。俺たち同じパーティーメンバーだろ!」
こいつら……。
俺を全力で巻き込みに来やがったな。
「そんなに大きな声を出さなくてもすぐに行くよ」
本当は行きたくないけどな。
しぶしぶと変人集団に近付いた俺は、先程のパンツ泥棒騒動の経緯を聴くことにした。
で、聞いてみた感じだとカズマが相手の持ちものをランダムで剥ぎ取れる盗賊スキルを試しに使ったらたまたまパンツが取れたらしい。その後パンツを取ったカズマは若干調子に乗って盗賊スキルを教えてくれた女性、クリスをからかったと。
「普通に返してやればよかったじゃん……」
「うぐっ」
なんでそこではしゃいじゃったかなぁ……。
カズマの行動に呆れていると、ふとめぐみんが疑問に思ったのか口を開く。
「それで、カズマは無事に盗賊スキルを覚えられたのですか?」
覚えられたからパンツ取ったんじゃないの?そんな疑問をぶつける前にカズマがにやりと笑い、
「まぁ、見てろよ」
といってめぐみんに向けて盗賊スキルを発動させた。
…………まぁ、取れたのは黒い女性用パンツだったんですけどね。
「何ですか。レベルが上がってステータスが上がって……冒険者から変態にジョブチェンジしたんですか?」
「ぷっ、ククク……フフ……」
変態にジョブチェンジとは……その発想はなかった。思わず吹きだしちゃったぜ。
「笑い事じゃないです!後、スースーするのでパンツ返してください……」
「カズマ……あんた……」
「い、いや……コレは、ちがっ!」
あー……面白かった。でも、状況が落ち着くまでしばらくかかりそうだし、先に換金してこよう。
――――――――――――――――――――
帰ってきたらカズマが物凄い沈んだ表情をして、めぐみんとダクネスの表情が対照的
に生き生きしていた。
どういうことなの?
「どうした
「お前今なんて書いてカズマって読んだ?なぁ、おい!」
「なんか、私たちに魔王を倒しに行く覚悟はあるかと聞かれたので私たちの意気込みを言ったらこうなりました」
俺の質問にめぐみんが答える。
あぁ、なるほど。大方、性能も中身も残念な奴らしか居ないから魔王の名前をだして脅し、篩いにかけようとしたんだろう。でも、そうだな……ダクネスは魔王の奴らにいろいろひどいことをされそうだから、めぐみんは私の爆裂魔法で吹き飛ばしてやるとか言ってどっちも引かなかったんだろう。
「ところで仁慈は大丈夫なのですか?魔王を相手に取るらしいですけど」
「元々俺の目的は魔王を倒すことだし、問題ないな」
「えっ?アンタ魔王の仲間かもしくは本人とかじゃないの?」
「何でそれを
俺が魔王じゃないって知ってんだろ。送り込んだ本人なんだから。
『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は正門に集まってください!繰り返します!冒険者各員は至急、正門に集まってください!』
駄女神の残念さを改めて思い知っていると、切羽詰った放送がギルド……いや、町中に響き渡る。
この放送を聴いた冒険者達は、一斉にギルドから出て行き、正門を目指して走り出した。何がなんだか分からないがとりあえず俺たちも彼らの後ろについていく。
外に出れば、どの家もドアと窓を閉め切っており、誰一人として外に出ているものは居なかった。
緊急クエストって言うくらいだし、結構やばいのが来てるのかもしれない。
そう考えて気を引き締める。
正門につくと、はるか彼方から緑色の大群がこちらに高速で接近してきているのが確認できた。遠すぎてよく見えないが、どこか丸いフォルムをしている。
「緊急クエストって何だ!?モンスターの襲撃か!?」
「言ってなかったけ?キャベツよキャベツ」
「はぁ……?」
俺と同じくこの世界に来たばかりで何がなんだか分からないといった感じのカズマにアクアが大きな網のかごを運びながらそう答えた。
先程よりは距離が近付いたためか、神機使いの驚異的な視力で捕らえたその姿は確かにキャベツだった。星〇カービィに出てきそうな外見だった。
「今年は荒れるな」
何言ってるんですか、兄貴。
「嵐が、来る」
そのポーズは何だ、めぐみん。
『収穫だー!』
一斉に騒ぎ出す冒険者。マヨネーズを求める元女神。
そんな状況の中、俺は生の野菜を知らないナナたちがここにいたらキャベツは飛ぶものだと誤解しそうだなぁと現実逃避気味に考えた。
――――はぁ。まさか、アラガミ蔓延る世界が恋しくなるとは思わなかった。
そういえば、息抜きで一話で終わるような異世界漂流記を考えているんですが、いい感じの世界ありますかね?
活動報告で意見を募っています。
暇があり、気が向いたら覗いていってください。