小次郎と沖田   作:ガンタンク風丸

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待たせたな。難産だったよ特に小次郎がヤマタノオロチを倒すところは。

……でもタグに『小次郎超強化』ってあるしいいよね!
説明つかないこととか竹林補正の超時空で済む話さ!


《二人の牛若丸に対しての反応》

沖田「牛若丸って壇之浦八艘飛びのだよね!」
小次郎「船もつ系のサーヴァントに特攻出来るんだろ!」
沖田「船の上なら無双なんですよね!」
小次郎「あったり前だろう牛若丸さんだぞ!天狗先生なんだぞ幻想種先生だぞ!船どころか水面や空だって蹴って飛べるさ!」
牛若丸「過大評価し過ぎですよぉ……」







ヤマタノオロチ【後編】

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ……この俺にケンカ売るたァ、いい度胸じゃねえか。それにテメェに隣の嬢ちゃんもお前ら聖杯戦争の英霊じゃねぇな。あのいけすかねぇマスターの令呪の範囲外だし……イイぜ、俺も不完全燃焼甚だしいからな。その誘い、受けて立つッ!」

 

 

 

 

 

 全身青タイツの2メートル超の赤い槍を肩に担いだ獣のような赤い双眸が印象的の男は人気の無い住宅街の一角で二人を屋根の上から見下ろす形でそう言い放つ。

 そんな男の前に沖田が一歩進んで前へと出た。そしてスラリと腰帯から『乞食清光』を抜刀し、静かに平清眼の構えをとる。その構えを見たランサーが「ほう……」と感心気な声を漏らした。そして傍から見ていた小次郎は一人悟る。ああランサー終わったなぁと。

 何故ならばその構えこそ『無明三段突き』を放つ際にとる構えのソレであり燕ボルグだとか牙突+二重の極みだとか色々あるけど簡単に言えば三つ重なった突きで避けても他の突きが来てしまい回避不可でなおかつ自称崩壊起こして必中だよバーンッ!である。るろ剣の二重の極みを見たことがある人間にならその破壊力の凄さが分かることだろう。そしてその構えを取られてしまってはランサーの勝機はほぼ消えたと言っても差し控えないだろう。だってあの構え=絶技をぶちかます事前姿勢なのだから。

 

 尚、燕返し同様純粋な剣技であるため魔力が発生せず、それを察知するには沖田から漏れでる限りなく無に近い殺気を感じ取るかはたまた自らの第六感(シックス・センシズ)、出来るならば何処かの黄金聖闘士(ゴールドセイント)必修の第七感(セブン・センシズ)の類を極めなければならないだろう、多分。

 そしてこの技の一番の鬼畜ポイントは尚且それを極めたとしても沖田は前提として殺気を抑える事が小次郎よりも上手く、戦闘中でさえよく意識しなければ感じられないほど殺気を消してくるので『あーただ凄い技だすなぁー』くらいの感じでしかなかったりする事だ。初見じゃ死ぬ。直感持ちは別だけれどな。

 まあただ、竹林ではこの構えを放つと同時に微かに漏れた必殺確定の殺気のせいで獲物が先に逃げてしまいまともに撃てなかったとかいう過去があったりしたのだが……きっと彼女が好き好んで使用するのにはそんな背景があるのだろなあーと小次郎は見た。

 

 ちなみに彼女の奥の手である宝具、『誠の旗』とかいうかつての同士を召喚する旗だが一応沖田は持っている。それに使える。まあ使ったとしてもダンダラ羽織を羽織ったDQN共が大量召喚されたりするだけなのだけれど。そして当の新撰組らは召喚した沖田の中身が違うのにそれに気づかなかったりとかいう……ま、まあ新撰組がどうだったかとか別にいいよねっ。そんなことよりもいいなぁ、俺も欲しいよ宝具。燕返し撃てるだけで満足だけどさ。

 

 尚、どう足掻いてもDQN共を呼び出してしまう宝具である『誠の旗』を沖田が好きで使うことは無かったりする。

 

 後沖田の宝具と言ったら羽織もその括りに入るだろう。能力底上げして『乞食清光』を『菊一文字則宗』に昇華させ且つステータスバフとか付くだけだけど。うん。こういうのを主人公とかが使う奥の手とか言うのかもしれない。流石セイバー顔、主人公属性やっぱりあるんですね。

 

「行くぜぇぇぇぇぇーーッ!!!」

「無明、三段突きっ!!!」

 

 人相手にぶち込めることが嬉しいのか、語尾を跳ね気味に紡がれた一応雰囲気出しのためにやっている真名開放。一応突きだけど峰打ちである……はず。だからランサーが死ぬことは無い……多分。

 そして案の定、その鳩尾に叩き込まれた回避不可能な三連撃を受けたランサーは深森町特有の急な坂を転がり吹っ飛んでいった。 だが当たる寸前反射的に後ろに身を逸らしていたのだろうか、はたまた戦闘続行スキルが働いたのかそのまま気を失うことなく吹っ飛んだのち歯を食いしばり気味に大地に見事足を付けて立つことに成功する。

 だがその後膝をついているあたり決して浅くは無いダメージは入ったのだろうことは間違いない。というか小次郎はむしろあの一瞬でその防御動作を行えたランサーの技量のほうに感服極まる思いだった。小次郎でもあの技を相対する時には燕返し放って内包する三つの突きを全て弾くなりしないと回避出来ないからだ。

 無論見えない斬撃に同じく斬撃を当てるなど神業といっても差し控えないものでありとても神経が必要とされる動作だった。対してあちらはコチラか弾かなければ確実に当ててくるとかいう鬼畜仕様であるため小次郎は模擬戦をする時にはいつも沖田に無明三段突きを出させないために尽力していたりする。

 

「ほぅ……なかなか……流石、ケルトの大英雄といったところか」

 

 そんな心情故に小次郎は賞賛と幾分かのやっかみを込めて口笛混じりそう言う。

 

「チッ」

 

 しかしそれが気に触ったのか……というか本音ではワンパンで倒せなかった事にイラッときたというのが実情だろうが舌打ち混じりに沖田は吹っ飛んだランサーへと追い打ちをかけた。

 

「ッ!?……ガッ!?」

 

 容赦無く振り下ろされる構えなど無いただ力いっぱい振り下ろしただけの峰打ち。だがその単純さ故にある種極めて暴力的かつ無慈悲な峰打ちがランサーの頭に綺麗に決まる。まだ峰打ちでやる当たりそこら辺の理性は残っているのだろうが外面は完全にキレたソレである。怖い以外の何者でもない。

 そして、そんな沖田の心情の一辺を表した一撃が一発で終わるわけがなかった。

 

「たぁ!とお!せぇい!一発でやられんかぁい!!KY!すまないさんかテメェは!!!」

「がっ、ちょ……だっ!?テメっ!?」

「悪即斬ァァァんッ!!!」

 

 その夜、無慈悲極まりない打撲音が満月の浮いた宵闇の町の下に響いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後。

 

「いやぁ、呆気なかったですねー」

「…………」

「あれ?どうしたんですか小次郎さん、そんな目を逸らして」

「いや、なんでも……」

 

 小次郎はそう震え声で沖田に返事を返しながら頬を引き攣らせてその足元を盗み見る。もう何度も見返してはのことだったが、そこには相変わらず全身打撲で顔をハチに刺されたかのように真っ赤……っていうか既に青くなっているけどとにかく酷く顔というか身体中を酷く腫らしたランサーがピクピクと身体を痙攣させて横たわっていた。なんか腕が本来曲がらないあらぬ方向へ曲がっているんですけど……(戦慄)

 

 反射的にゴクリとつばを飲み込む小次郎。そして同時に誓った、沖田は二度と怒らせてはならない、さもあれば止めなければ、と。

 幸いにもその誓いを建てる人柱となってくれたランサーに小次郎は密かに感謝の意を送りながら、更に追加で心にまるで念仏のように言い聞かせる『さっきのは見なかったことにしよう』と。

 

「それにしてもランサーどうしましょう。後始末……っていうか本当に殺したら原作おもぶっこ崩壊ですので峰打ちにしましたけど軽く三日は動けなさそうですよね、コレ」

 

 そんな小次郎の心情など欠片も知らない沖田(もちろん当たり前だ)は容赦無くその心を抉りにかかる。付き合いの長さ故に次郎にはその反応が無意識なものだと分かってしまうのでそのあたり尚更質が悪かった。

 

「どうしましょう……ってあれ?このままじゃセイバーキャスターのNTRでいなくなってステナ組終わるんじゃ……うぇ、やばい、真面目に原作ゲシュタルト崩壊しそうなんですけど小次郎さんどうしましょうというかどうしよ!?」

 

 最後の方素の口調が出る当たり彼女はかなり焦っているのだろう。確かにこのままランサーが動けず誰もステナ組を助っ人に行かなかったら原作崩壊まっしぐらであり物語が破綻してしまう。

 つまりはバットエンドである。

 この事には流石の小次郎も現実(ランサー)を認識せざるおえなかった。自らの行動の結果で人が死ぬなど、例え『佐々木小次郎』の殻を被っいようとも根本的な所は高校三年生であり人としての精神が到底そのような事象を許容出来るものではなかったからだ。

 

「まあ……とりあえずはランサーめを竹林へと運ぼうではないか。彼処なら治療の一つや二つ可能な物があるだろう」

 

 だがこういう時こそ彼は『佐々木小次郎 』らしくと明鏡止水の心で言葉を紡ぐ。沖田は外面的に見ればまだ素が出るだけで平気そうであるが小次郎には分かる。そもそも沖田が口調を素に戻すことなどよほどのことがない限り無いのだ。まあ巫山戯てはあるけど……。とにかく、誰だってそのことを知っていれば沖田の心境など察せられることだろう。

 

「ハッ!?確かにそうですね。グッジョブですよ小次郎さん!その案貰った!」

 

 焦っているのかはたまた即断実行な気質だったのか、未だ掴み切れてない彼女の素の性格にしどろもどろしている小次郎を尻目に沖田はそう言うと同時に両手に持っていたマイバッグを左手でまとめて持ち直すとランサーの首根っこをギュッとゴミ袋をつかむように掴んだ。

 また長年の付き添いによる小次郎の勘が言った。沖田が縮地によるショートカットを行おうとしていると。故に、小次郎はその袖に捕まろうとしたのだが……。

 

「米、まさかお主ら……!?」

 

 そう、現在小次郎は米袋七つを担いでいる状態であり手が全く空いていない状態であったのだ。つまり、空いてる手が無く沖田に掴まれないということであり結果沖田の縮地兼テレポートに付いてけないということである。

 

「沖田よ……」

「いえ、流石の私でも置いてくとかしませんからね?十中八九小次郎さん『置いてかれれる』とか思いましたでしょ今!?」

「……そうであったか。ならばいい」

「思ってたんですか……冗談だったのに……」

 

 そんな会話が出来るあたり、沖田は冷静に限りなく近づいたということだろう。そんな事に小次郎はホッとしながらも置いてかれない事に安堵の息を漏らすのだった。

 

「……はぁ、じゃあさっさと行きますよー」

 

 当人からは生意気に見えた小次郎の様子に尚も噛みつこうとしていた沖田であったが今はそれよりもランサーの治療の方が先だとすぐに思い至ったのだろう。二つのマイバッグを持った手の指を器用に動かし小次郎の紫の袴を摘むように握った。

 そしてそんな感触を感じると同時に景色が急に縦に引き伸ばしたかのように流れだす。一瞬で消えて行くそれらに焦点を向ければ即座にその景色群は遥か消失点の彼方へと続々と消えて行った。

 これが沖田の『縮地』またの名を『擬似ショートワープ』。それを体験しながらも小次郎はいつになってもこれは慣れないな、と内心呟きを漏らすのだった。

 

 ……ちなみに沖田よ。ゲシュタルト崩壊とは認知心理学の用語であり決して物理的な側面の『崩壊』は無いからな。強いていうなら『認識』の『崩壊』ならわかるけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は砕ける。

 小次郎が畳を潜って戻ってきた日本家屋の格子窓から覗く空を見てみると夜頃であった。あちらも夜時だったので時間は並行して流れているのかと一人小次郎は推理する。まあこちらに戻る時にいつも思っていることなのでそんな思考今更無駄のような気もしなくはないが。

 

「包帯ってありましたっけ」

「確か軟膏は無かったか?」

「ああありましたねそんなのも」

 

 基本攻撃を受ければ死ぬと同義である幻想種との戦闘を常日頃こなす二人にとって、傷とは無縁の間柄であったためなかなかに捜索は難航したものの数分の後には救急箱は無事発見することが出来た。ちなみに箪笥の三段目の端の方に入っていた。

 そうして二人は幸い上半身に打撲傷が集中していたランサーの上半身のタイツを切り取って治療する事にした。

 そんな治療がもう少しで終わるといった具合に差し掛かった頃だろうにか、ふと沖田は思い出すように言った。

 

「……ってこれじゃあ少なくとも全治三日のままじゃないですかッ!!!」

「む、確かにそうであったな……」

 

 いきなりシャウトした沖田に可哀想なものを見る目を向けながらも小次郎はその沖田の意見にそう呟いて肯定の意を示す。

 そう、沖田の言う通りこのままではどっちにしろランサーの傷は治らずステナ組は終わってしまう事間違い無いだろう。

 だがしかし、ここで小次郎はふと思いついた。

 別にランサーが行かなくたっていいんじゃね?と。

 だがそのまま小次郎が行ったとしても何分この姿はステナのアサシンの佐々木小次郎のそれであるからして混乱は避けられないだろう。ならば、沖田を行かせたらどうだ?

 それならば行ける。沖田ならば十分ランサーの代役を努めれるだろう。

 もしかしたらギルガメッシュとも戦ったり出来ちゃうのだろうが、問題は無い。めっちゃ羨ましいけど。

 そうめっちゃ羨ましいけど忘れてはならない。こちらにはヤマタノオロチがいるのだ。

 つまり沖田がランサー役をするという事は俺が一人でヤマタノオロチと戦えるということである。

 なんと、考えてみれば凄く良い考えではないか。正にwin-winの関係である。

 沖田はギルガメッシュやヘラクレスと戦う機会に恵まれ小次郎は単騎でヤマタノオロチと戦うことが出来る。素晴らしい、Excellent。

 そんな柄にもない言葉を脳内思考で使うほど小次郎にとって天啓とも差し控えない思いつきだったのだ。コレは。

 故に小次郎は直ぐに行動する事にした。別に早く一人でヤマタノオロチと殺り合いたいとかいう訳では決して無い。純粋にステナ組が心配なだけである。

 

「のう沖田」

「なんですか?もしかしてなにか打開策でも!?」

 

 そう言って迫ってきた沖田を小次郎はどうどうと宥めながら、ニヤリと俗に言う人の悪い笑みを浮かべてその言葉を肯定するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沖田が何かぶつくさ言いながらも畳を潜ると、不意にその空間に静寂が満ちた。

 いや、囲炉裏に焚かれた火花の跳ねる音があるから厳密には無言の空間か。

 そんな中小次郎が微動打にせず立つ足元には布団の上に転がる包帯男がいたのは余談である。

 そうして小次郎はふと言う。

 

「……クックック……。沖田は行った、ヤマタノオロチは俺の物」

 

 そう笑いながら漏れでる素の口調。そうして身体が震えているのはきっと武者震いなのだろう。

 ヤマタノオロチは強敵だ。冬木の図書館で調べた内容によるともしかしたら神霊級の幻想種かもしれないがそんな事はどうでも良かった。

 小次郎と沖田が総じて見い出している悦は只相手を斬る事であった。

 更にはサシの勝負なら尚良い。

 もちろんこの転生で他にも生前ではやることのなかった事も沢山あったがやはり二人は戦う事が好きだった。もうそれは否定しようのない事実だろう。まあもちろん二人は頑として認めようとしないだろうが。

 

「さて、では逝くか。邪竜退治へとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして場は移って竹林。沖田がいないので自力で走るハメになったのは割愛しよう。

 ちなみにヤマタノオロチはその強大過ぎる力故の分かりやす過ぎる暴力的なまでの気配が日本家屋のある辺りを抜けるとビンビンに感じられるようになるので気配察知も出来る小次郎に不自由は無かったりした。

 小次郎の着いたそこはまるで何かに吹き飛ばされたのかほぼクレーター状に更地と化した竹林の残骸転がる土堤の上であった。そんな場所で彼は五百メートル前方にいる八頭八尾の邪竜を見下ろして立っていた。

 片やヤマタノオロチの足首までにも劣る背丈を持った抜き身の長刀を担いだ長身の男、佐々木小次郎。

 片や神代の大和(日本)でその権能紛いの力を振るい神に討たれた竜種、ヤマタノオロチ。

 その思わず笑ってしまいたくなるような力の差の存在には小次郎も端から気づいていた。それは沖田にも言えることだろう。

 それでも戦うことは当たり前である辺り、狂人違いない。

 だがただでさえ沖田と二人で苦戦し勝てずじまいだったのだ。ではいったいどうすればいいのか。

 答えは簡単だろう。今までを超えれば(・・・・)いい、ただそれだけである。

 

『グルルル……』

 

 沖田と二人で出来なければもっと手数を増やせばいいのだ。幸いの事ながら小次郎にはそれが出来る。

 小次郎の現在の燕返しで呼び寄せることが可能な斬撃の数は十一。

 それによりその斬撃を振り下ろしている小次郎も他次元から呼び寄せることが可能なのではないか?

 もしこの事を服部半蔵の類いが聞いていたならば皆口を揃えてこういう事だろう。

 

 それ、分身の術じゃん。

 

 呼び起こすは燕返しを放つ時の刹那の一瞬の感覚。まるで世界と同調するようなその感覚を、掴み離さないようにし、ひたすらそこまでの過程を自らにトレースし続ける。

 シュシュと、陽炎のようにぼやけた佐々木小次郎らしき人影が小次郎を起点にヤマタノオロチを囲うように現れていく。

 既にその数は数えるのすら難しい。それほどまでの分身が呼び出されていたのだ。

 その容姿姿は一つ一つ違っていて、浴衣を着ていたり甚平を着ている者から、はたまた童のようなものまで、中には髭をたらりと生やした仙人のような老人とまで十人十色と一つとして同じ人影が存在しなかった。

 だがしかし、その影は紛れもなく全てが“佐々木小次郎”である。そしてただ通じるのは『燕返し』を放てるという一点のみ。

 そんな数々の“佐々木小次郎”らの思考記憶感情の全てを小次郎は同調させ、佐々木小次郎それぞれから抽出した長所のみをコピーし他の分身残らず全てにトレースしていく。

 

 その中には空間を斬る佐々木小次郎が。

 

 その中には神殺しの佐々木小次郎が。

 

 その中には斬撃を飛ばせる佐々木小次郎が。

 

 その中には空を割った佐々木小次郎が。

 

 その中には戦場で一騎当千を体現した佐々木小次郎が。

 

 その中には概念を斬ることに成功した佐々木小次郎が。

 

 その中には神霊にまで上り詰めた佐々木小次郎が。

 

 ―――そんなありとあらゆる世界線の“もしも”な佐々木小次郎を呼び出す。

 その最早『軍勢』と言っても差し控えないソレにヤマタノオロチはそんな思考など存在するかなど分からないものの驚きに微動打にせず固まっていた。

 そんなヤマタノオロチの姿を目に収めながら小次郎はふと笑い、燕返しの型をとる。

 そしてそれに倣うようにまわりの“佐々木小次郎”が皆それぞれの燕返しの型を構えていった。

 その様子は圧巻の一言。そして受ける身からしてみれば悪夢の体現。

 

 

「之ぞ境地。秘剣、燕返し―――ッ」

 

 

 その瞬間、神の権能にも劣らない剣が放たれた。

 

空間という概念諸共ヤマタノオロチという存在そのものすらふくめて切り裂いて最早射程など存在しない分裂する斬撃。ヤマタノオロチを全方向から覆う燕返しらの弾幕。

 それらは例外なくヤマタノオロチを切り裂き両断し分断し粉みじんにする。

 斬撃は残り宙を舞い荒ぶりまるでその獲物を粒子一つ残らせぬぞと言っているかのようだった。

 

 無慈悲な風切り音が鳴り響き同様に獣の叫びが、肉片が、血潮が飛び散る。

 しかしそれらすらも斬撃が見逃すことは無い。一瞬で粉みじんにされ原子という原子までもが切断される。

 

 そうして、幾分経っただろうか。そこにはヤマタノオロチのいた痕跡など欠片も見えなかった。よく見れば残された血しぶきが残っているだろうが、万を超える斬撃の余波で更にズタズタとなったその地面から血痕を見つけることなど不可能といっても違いない。

 そんな圧倒的ともいえる戦闘というより蹂躙という言葉がしっくりくるそれらの終わった後、いつの間にか陽炎の分身らの姿は消えておりそれらの消えたその場にはただ一人勝者のみが残った。

 

「勝ったな。少しつまらなかったが……」

 

 勝者はそう悔しげに呟いてから刀を二三度宙で振り鞘に収めた。

 そうしてまた、今度は悔し度MAX後悔感満載で空を仰いで言ったのだった。

 

「俺がステナ組助けるの行けばよかった……」

 

 

 

 

 

 





次回から新章『影の国とケルト式猪』始まります。

だけどその前に沖田視点が入るっ。

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