小次郎と沖田   作:ガンタンク風丸

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元々緋アリの二次小説だったんだけど書いて行くにつれどんどん変な方向に行った末のコレである。後悔は無いな。



一話しかないプロローグ
竹林は座(仮)


 

 

「―――スゥー―――…………」

 

 

 とある山林の秘境とも言える竹林にその影はあった。

 

 それは比較的長身であろう体躯の青年のものだった。

 青年の服装は和服で藤紫の袴を履いており、長着の半分は袖を通されておらず肌をはだけさせて左肩は素肌だった。その肩には特徴的な燕の刺青が存在して濃紺のソレはその青年の雰囲気にとても合っていて、更にその顔立ちはまだ幼さが残るが美形であり耽美な顔立ちと言えよう。

 深い群青の髪はまとめられておらず無造作に足口まで垂れ下がっている。だがそんな状態でもそこには雅がありどこか流麗な美しさがその青年にはあった。

 

 携えるは2メートルはあろう長大な日本刀。『物干し竿』とも『備中青江』とも呼ばれるその刀身は流麗の一言であり柄の装飾からもそれが名剣であると素人目からしても理解が可能だろう。

 そんな刀を青年は重みを感じさせることの無い動作でゆらりと構える。

 

 その構えは変則的で、足を引き尚且背中を見せながら刀を上段から中段にかけて剣先を下に向けるというものだったが、その構えには物言わせぬナニカがあった。

 

 静寂。まるで青年のその構えと静かなる気迫に反応したかのように風が止みそれに倣い笹の揺れる音が消える。さらには鈴虫のさえずりまでもが消え失せその場は月明かりに照らされるのみの完璧な静寂に包まれた。

 

 数分、もしかしたら数秒だったかも知れない。そんな時の概念を一瞬忘れてしまうほどの雰囲気がそこにはあり、青年の心はまるで現実へと映し出されたかのように明鏡止水と化す。

 

 瞬間、風が吹いた。

 

 剣閃が閃く。風切り音の無いその斬撃は風に吹かれた無数の笹の葉を全て切り裂いていた。

 

 ヒラヒラと三割された笹が再び風の止んだ青年の周りに舞い落ちる。

 

 剣を振り抜いた姿勢のまま青年は数秒の間残心すると、一つ息を吐いた後にその刀を下ろした。

 

「うーん……微妙、だなぁ」

 

 青年がそう悩ましげに呟きながら見るのは先ほど切り刻んだうちの一枚の笹の葉である。

 しかしその葉だけは少し、ほかの葉とは有り様が違っていた。

 

「全部当てたかったんだけどなぁ。これだけ三割に出来てない」

 

 というのも、青年の目標は舞い落ちる笹を全て三割する事(・・・・・・・)だったからだ。

 今回舞い落ちた笹の葉の数は五枚である。まあそれでもそのうち四枚は無事燕返しをぶち当てることに成功したのだが。

 

「一応燕返しは出来たんだし、やっぱり同時に放つとなると四つまでか。

 まあ多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)を剣技のみで出すのを同時に四回出来ただけでも凄いのかな?」

 

 だが青年は思うのだ。佐々木小次郎が余生を燕を切るだけに編み出したこの秘剣にはまだまだ先の可能性があるのではないかと。

 それこそ佐々木小次郎がこの技を開発したのは爺さんの頃であるからして、まだ若い自分が極めて発展させたらもっと凄くなんじゃね?という浅い思考によるものであるのだが……その可能性はやはり高いと思うのだ。

 実際青年は『燕返し』を四回同時に放てているのだし。

 

「まだまだ研鑽あるのみだな。うん」

 

 そんなことを呟きながら青年は数度物干し竿を虚空に振るうと地面から鞘を拾いそれに納め、袈裟懸けに背に背負う。陣羽織は持ってきていないので今は長着と袴だけなのが幸いして身体は妙に軽かった。

 いや、別に陣羽織羽織ったってそこまで変わるわけはないんだろうけど。こう、気分の問題なのだ。

 

「さてはて、帰りますか。……お、タケノコじゃんラッキー。流石幸運Aは伊達じゃないな、うん」

 

 青年の名は『佐々木小次郎』。奇しくも神の気まぐれにより存在の役を押し付けられてしまった転生者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鍛錬はどんな感じでしたかー?」

「やっぱり四発同時が限界だったわ」

「ま、それだけ出来れば十分でしょーに」

「うるさいなぁ。だって可能性感じちゃうだろ?せっかく燕返し出来るんだしさ。なぁ、沖田(・・)

「一応ですが頷いておきましょう。中身は違いますが」

「それは俺も一緒な」

 

 竹林の脇、小川の横にある瓦屋根の日本家屋で小次郎は赤い鞘の日本刀『乞食清光』の刃の手入れをしていたハイカラな和服に身を包んだ“沖田”と呼ばれた少女にそう声をかけていた。

 

「それにしても燕返しの四連ね。もし青王が受けたとしたら確殺間違いなしですね」

「それなー。あそうそう、でも後ちょっとで五連いけそうなんだよ」

「おぅふ……。沖田さん。喀血なんかしないですからね」

「いや、そうやって倒れて吐いた血反吐拭くの俺なんだから正直喀血そのままの調子でやめて欲しいんだが」

「かフッ!?」

「おい!?」

 

 言ったそばから喀血する沖田。病弱(A)さんはこういう場面を逃さないよな。

 ……うん、知ってた。

 

「うぐぐ……それでも沖田さん復活!」

「あっはい」

 

 小次郎は手ぬぐいで畳を拭きながら適当に相槌をうつ。もちろん目線は畳へと向いており『血落とすのめんどくさそうだなぁ』とボヤいていて全く沖田の言葉を聞いていなかったのは沖田の名誉のために言わない方がいいのだろう。

 

「なんかそんな薄い反応されると私かなり居心地悪いんですが」

「じゃあ俺も久しぶりにモノホンの佐々木小次郎みたいな口調で行くか?」

「そうですね……やってみましょう」

「よし分かった……―――それでは沖田よ。この畳、どう流れても掃除するのは私であろうがどうする? 何か言うべきことがあるのではないか?」

 

 何か違う気がするのは言わないでおいた方がいいのだろう。と沖田は内心思ったが有言(?)実行である。何もツッコミを入れることなくそのセリフは空へと消えた。

 

「あーはい……。すみませんでしたね。持病というかスキルでして」

「何、素直というのは良いことだ。ハッハッハッ!!」

 

 まあそんな信念もすぐに消え去るのが常というものなのだが。

 

「いや流石にそんなふうに笑わないでしょ!?」

「えーマジ?」

「まじです。『現実』と書いて『本気(マジ)』です」

「何か違うような気がするのだが……まあ触れんほうが良いのだろうな」

「そう!そんな感じですよ!」

「フッ、このぐらいは当然よ!」

 

 段々テンションが上がってきた二人であるが、周りが竹林である人里から離れた場所であるからいいのだが現在時刻は深夜二時である。もし街中であれば確実にうるさいと近所のオバチャンに怒られるであろう時間帯だ。

 まあそんな事もちろん知る由もないので二人のテンションは尚も上がり続ける。

 こういうのを俗に深夜テンションと言うのだろう。

 

「流石新進気鋭のドラゴンスレイヤーなだけありますね。多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)は伊達じゃないっ!」

「それはお主も同じであろうて?沖田よ!!」

「私はアレですよ。どっかの青タイツの槍的な要素も入ってますから。そうですね……そう、現代風に言い表すならハイブリッドとかですね!!」

「おお!なかなかに響きある言葉では無いか!流石沖田よなあ!」

「いえいえどうもそれほどじゃないですよぉっ!」

「ハハハハハハ!!!」

「アハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 ……しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

「……落ち着きましょうか」

「そうだな」

 

 コホン、と二人ぎこちなく咳払いをして改めて囲炉裏を囲んで向かい合う。

 

「今日はあれですよ。熊鍋です」

「ほう……それはなかなか……」

「ふっふーん。沖田さん頑張りましたから。具体的には縮地からの無明三段突きです」

「ああ……お主の鬼畜縮地をつかったのか。熊も哀れよの。南無」

 

 ちなみにだが沖田は『燕返し』をこれでもかと極めまくっている小次郎と同じように、スキルにある【縮地B】をこれでもかと極めまくっている。今では剣術の相手との距離を縮めるという意味合いの『縮地』を遥かに超えて仙術の『縮地』の領域へと足を踏み込んでいる程である。具体的にいえばだ。沖田からしてみれば例え数キロの距離が離れていようと一歩で踏み込み懐に入り込むことが可能という事である。

 多分沖田のステータスを見れば【縮地B】が【縮地EX】とかになっているんだと思う。

 

「改めて思うが怖いよな」

「それはどっちも言えることですね」

 

 どっからでも踏み込める縮地に燕ボルグ(無明三段突き)持ちの天才剣士に多重次元屈折現象(キシュ・ゼルレッチ)を剣技のみで起こしあまつさえそれを四発同時に放てるNOUMINだ。怖いというかもはやどこぞの兎なみの天災以外の何者でもない。

 

「もしこのままで聖杯戦争行くとなれば、あのギルガメッシュでも出てこない限りは勝てるよな。確実に」

「そうですね。あとガウェインとブッタさえ出なければいけますよ」

「む、だがそうとなるとカルナめのヤツもかなり厳しくはならんか?」

「そういえばそうですね。……今更ながら思うんですけどどうやったら月の聖杯戦争のような真っ向勝負のところで赤王はカルナに勝てたんでしょうね。摩訶不思議極まると思いませんか?」

「そうよのう……。黄金劇場に引き込めば何とかなるのではないか?」

「あー、なりそうですねー」

「まあ所詮は憶測に過ぎんのだがな」

「というか改めて考えてみればCCCの内容とか殆どもう覚えていませんよ私」

「フッ、私など対戦鯖しか覚えておらぬわ」

「おっおーう……流石に沖田さんもそれにはビックリです」

 

 沖田がそう言って口の端を引き攣らせているとクツクツと鍋の下から沸騰音が鳴った。どうやら熊鍋が完成したようだ。

 

「今日は自信作ですよ」

「なに、期待はしているさ。まあ問題は〆であるがな。さて……米で行くか?麺で行くか?」

「ふむ……確かにそれは問題ですね。そうですねぇ、麺は今のところないですし米で行きましょう」

「承知した」

 

 そんな会話をしながら沖田はよそい皿と木勺を持ち小次郎は長着の袖を捲りながら手ぬぐいを用いて鍋の蓋を開けた。もう二人での生活も慣れ早くも無言の連携が出来てきた二人であった。

 まあこの場には指摘する人もいないしそんな事に気づくことは無いのだろうが。

 

「そういえば熊を解体するのは少し骨が折れましたよ。初めてでしたから」

「ほう、其方は熊を狩ったのははじめてであったか。意外なこともあるものだな」

「逸話で熊殺しがあるのは金太郎さんでしょう。あ、今は坂田金時でしたっけ」

「あの頻りに『ゴールデン』と叫ぶヤツか」

「そうそうゴールデンですゴールデン。そして好きな動物はゴールデンレトリバーだそうです。案の定ゴールド繋がりでしょうね」

「あれはきっと今頃玉藻の前とコントでもしておるのだろうな」

「確かに……っと、いい感じですね。どうぞです」

「む、かたじけない」

「大丈夫ですよ。……よしっと。……そういえばブリテン勢は今頃何しているんでしょうね。気になります」

「そうよなぁ。しかしそれよりも問題は青王めではないか?」

「? 何故ですか?」

「黒にリリィ。更には槍まで加わっただろう。謎のヒロインとかいう俗物も青王であったしな」

「あー、今頃ブリテンじゃどれが王様か会議が勃発中でしょうね」

「社長めのヤツが増やす度にそれらは開催されてゆくのだろうよ。哀しい運命よ」

「今頃貧乳派か下乳派、それにロリ派などにブリテン分裂しているんでしょうかね」

「現実味があり過ぎるというのも考えものよな……」

 

 小次郎が一人背筋に悪寒を走らせる手前沖田は二杯目をよそっていた。小次郎の皿もそろそろ空になりそうなのでそれに乗ることにする。

 

「はいはいお代わりですね」

「自分でやれるぞ?」

「いえ、私が好きでやってるので」

 

 そう笑顔で言われれば逆らえる小次郎では無かった。苦笑しながらも自らの皿を沖田へと受け渡す。

 正直最近小次郎は思うのだ。沖田に強く出られないよなーと。

 いや別に何も問題ないのだけどさ。それ元々の性分とかそういうのだってあるのだし。

 まあ亭主関白になる傾向が無いだけましということだろう。

 

「重ねてすまぬな。沖田よ」

「気にしなくたっていいんですよ?」

「それは無理があるというものだろうて」

 

 そんな図々しい事一男としてそれは余程のクズではない限り無理な芸当なはずだ。流石に夕飯も作っもらいあまつさえよそってもらうなど気が引けてならない。

 そもそもな話し、転生する前の小次郎はただのfate好きの青年であり、たとえ『佐々木小次郎』としてロールプレイをしていたとしても地はただの高校三年生と変わらないのだ。

 これは沖田にも当てはまる話であり彼女も『沖田総司』というロールプレイに縛られたfateファンでしかない……のだが彼も彼女もきっと順応性が高すぎたのだろう。

 普通は二人の身のうちも知らない青年少女にこんな掛け合い無理なはずだ。だが現実はこうだ。まあここに時の概念は無いので一体どれくらい過ごしたのか分からない結果とも言えるのだろうが。

 まあ結論。キャラを被っているというこの状況のことも相まり羞恥とかその他諸々の概念が薄れてきたのだろう。故に三人称から見ればどう見たって夫婦にしか見えないような掛け合いなども平気でやっていられるのだ。

 それに二人共結構楽しんでいるし、事実その心境に至るのに手を貸しているはず。たとえ山奥かつ竹林と日本家屋しか無いとしても転生前に好きだった英霊の力を振るえるというのは彼らの恐怖心など微塵に帰すには十分過ぎたのだ。

 故に続く。傍から見れば佐々木小次郎と沖田総司の夫婦ごっこにしか見えないこれもッ!!!

 まあ二人に自覚はやっぱり皆無なのだが。

 

「いやー、やっぱり鍋は美味しいですねー」

「そうよのうこれも一種の風流か」

「そうですねー雅ですねー、はむはむ」

「うむ、誠にその通りよ」

「ふっふ。もっと褒めてもいいんですよ」

「いやはや、感服極まるな。ハッハッハ」

「それほどでもありますねー。さてはて、そろそろ雑炊しますか」

「もうそんな頃合だったか。存外、時は流れるのは早かったか」

「ですねー……あ、そっちにある卵取ってください」

「承知した」

 

 そんな会話のうち小次郎は生卵を二つ最寄りの棚から取ると沖田に投げ渡す。沖田は鍋に投入した米の具合から目を離すことなくそれを菜箸を持っていなかった片手でキャッチすると器用に片手で二つ同時にカラを割り鍋へと生卵を投入した。

 小次郎は軽く卵を鍋の中で解いでいる沖田を横に鍋の蓋を掴むとすぐに蓋を被せられるよう構えをとる。

 

「よしっと」

 

 菜箸を沖田が引くと同時に素早く蓋をかぶせる小次郎。同時に囲炉裏の火力も調整しながら自らの座布団に座り直した。

 

「やっぱり鍋と言ったら〆ですよね!」

「誠にな!」

「あっはっはっはっは!」

「ふはははははは!」

 

 

 

 

 

 ……鍋待ちで暇で仕方がありませんでした。しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

「出来たな」

「出来ましたね」

 

 そしてやはり小次郎が蓋を開け沖田が皿に雑炊をよそうという風景が繰り返される。

 

「ああ、醤油要りますか?」

「ふむ、私は塩派だからな。私は要らぬよ」

「へー、私は俄然醤油派ですね。ちなみにですが私は醤油といっても薄口醤油派です」

「ほぉ、しかし刺身や寿司となると相場は変わってくるのだろう?」

「そーですねー……。まあでも大体は薄口醤油ですね。はい」

 

 そんな不毛ともいえる楽しげな会話をしながらも食は進みやがて鍋は少量の残り汁を残すだけとなった。

 そして片付けも終わり二人は壁端から布団を引っ張って敷いた。

 

「それじゃあ寝ますか」

「おうよ。さて……流石に私も眠く……」

 

 そうやって欠伸をしたその時、小次郎は気づいた。

 それは何か。簡単だ。誰であれ気づくことである。

 ズバリ、空が明るい(・・・)事に。

 

「あれ?どうしたんですか?早く寝ちゃいましょうよ」

「いや……な、沖田よ。外を見てみろ」

「? 外に何かあるんですか?あ、もしかしてケルトのINOSISIとかですかね!?それなら早く言ってくださいよ!ええと羽織り何処だっけ……」

「そういうことではなくてだな……。ほれ、空を見てみろ」

「えー、空ですか?別に空っ……て……」

 

 どうやら沖田も気づいたようだと、小次郎は悟りを開いたような表情で外をみる。

 二人して無言の空間が流れたが小次郎はそんな空気の中でも構うことなく呟くように現実を言い表した。

 

 

「朝よな……」

 

 

 まるで小次郎のその言葉に返事するかのように鶏の鳴き声が響いたのは余談というべきか。

 

 

 

 




一体この後どうしようね。プリヤにでも突っ込もうかな。

そうそう私は思うんだわ。坂田金時の戦った熊もTUBAMEとかINOSISI同様KUMAなんじゃないかってさ。

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