幻想郷での生活は胃が痛くなる……   作:家電

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勘違いって怖くね?

 そこは大きな日本家屋のような場所だった。

 広大な庭には玄関へと繋がる長い敷石があり、その両側には様々な種類の木々が立ち並んでいる。

 不思議なことに、敷石の先は道がなく、あるのはただ広大な空の景色だけである。

 ここは、八雲紫と、その式である八雲藍の住処であった。

 幻想郷のどこにあるかもわからない、もしかしたら幻想郷には存在しないのかもしれない。ただ一つ分かることは、ここにはその二人以外のいかなる生物も存在せず、居場所を知る者もその2人しか存在しない。

 そんな広く、静かで、美しく、そして不気味な空間で、まるで言い争うような声がこだまする。

 

「私は納得がいきません!」

 

「いやねぇ、そんなに大きい声出さないでよ」

 

 その声の主も、当たり前のごとく2人以外はいなかった。

 

「私はなぜ、あのような吸血鬼の餓鬼に対して、紫様が評価するのかが理解できません!」

 

「あら、私はただ、実力を認めているが故の正当な評価を与えているまでのことよ?」

 

「だからそこが納得いかないのです! あの吸血鬼にはそこまでの力があるとは思えません!」

 

 怒鳴るように問い掛ける自身の式に対して、当の紫はのらりくらりと会話を受け流す。

 

「そもそも私は、奴が『最強の吸血鬼』などと呼ばれていることが気に食わないのです!」

 

 ちらり、と藍の顔を見る。

 虚空を睨みつけるその瞳には、あの吸血鬼の過大評価に対する怒りか、それともまた別の感情か。

 紫はそんな藍の顔を横目に見ながら、確かに、と思わざるを得ない。

 

 確かに、藍のいうこともわからないではない。

 

『最強の吸血鬼』

 いつ、誰が名付けたのか、そしていつの間に広まったのか、そんなことは紫自身も知らない。

 しかし、たった十数年前に幻想郷にぽつりと現れた新参者で、しかもその当主が紫はおろか式である藍にさえ届かない歳しか生きていない程の---藍の言葉で言うならば『餓鬼』だろう---が、そのたった十数年(・・・・・・)でそこまでの評価を与えられているのだから、納得はいかないだろう。

 だが、しかし……、

 

「……まあ、藍は直接戦ったことはないものね……」

 

「は?」

 

「ふふっ」

 

 紫のつぶやきを上手く聞き取れなかったのか、藍は惚けた様な声を上げる。

 そんな、いまとても間抜けな顔をしている自身の式に対してかすかに笑い声を上げながら、紫はおよそ十数年前の記憶をたどる。

 

 確かに、あの若さであの強さは異常よねぇ(・・・・・)……。

 

 紫は決して忘れはしないだろう。

 あの時の自分の失態を、慢心を。

 そして、初めて味わった『感情』を。

 

 

 

 

 

 その日、博麗大結界を通り越して、何者かが幻想郷へと入ってきた。

 様子を見に行った紫は、その霧の湖を挟んだ奥にある、全てが血のように真っ赤に染まった、あまり趣味がいいとは言えない館を目にした。

 屋敷全体には強力な結界が張ってあるためか、誰にも気づかれずに中を覗くことは不可能だと判断し、その日は屋敷の外を様子見という形で終わった。

 それからほぼ毎日、私は屋敷を遠くから覗いていた。

 結果は『なにもしなさ過ぎだ』、というところだろうか。

 前述の通り、私はほぼ毎日ここの観察をしている。がしかし、特にこれといったこともなく、見かけたのは門番と思われる赤髪の女性のみで、しかも毎日がその辺に巣食っている雑魚妖怪のちょっかいを真正面から叩き伏せているというだけだった。

 これは、流石におかしいとは思った。

 いや、何も幻想入りしてきたものが必ず問題を起こそうとする訳ではない。

 しかし、もう観察を始めて一週間は過ぎる頃合いだ。

 それなのに、あの門番以外が屋敷の外に一歩も出ないという、ある意味異常な事態が起こっている。

 何もないと言うならば、そこまで気にする必要もないだろう。

 だがこの時、紫はなにかとても嫌な予感がしていた。

 それは『妖怪の賢者』と呼ばれる紫には珍しい、根拠もなにもない、所謂『勘』という奴だった。

 

 杞憂ならば良い、そのような考えで通い始めてさらに3日が経とうとした時だ。

 

「——っな!?」

 

 その日、屋敷には門番がいなかった。

 朝も昼も夜も、館の門を守り続けていた——まあ、大半は寝ていたが——あの赤髪の門番が、今日は珍しくいなかった。

 

 代わりに出てきたのは、何百、何千と湧き出す数多の妖魔だった。

 犬のような顔を持った、アンバランスな体を持つ怪物、小柄で緑色の体色の鬼、猪のような大柄の化け物、コウモリの羽を持った生物。

 他にも多くの怪物どもが屋敷から溢れ出て、大多数は屋敷を守るように囲い、そして残りはあたりに散らばっていった。

 

 ……なるほど、これが狙いか。

 恐らく、今まで屋敷から出てこなかったのは、これらの生物を召喚するまでの準備期間。

 これ程までの多くの怪物を使役して、大方幻想郷に戦争でも仕掛けるつもりなのだろう。

 一体一体は大した戦力ではないが、何しろ数が厄介だ。

 紫と藍だけでは対処できない。

 先代の巫女はもうまともに動くこともできない。

 今代は未熟すぎる。

 このままでは、被害は広がり続けるだろう。

 

「……早急に、戦力を集める必要があるわね」

 

 そう呟くと、紫は隙間の中へと身を滑らせる。

 

 ……目に物を見せてやるぞ、新入り。幻想郷はそこまで甘くはない。

 

 口には出さず、内心でそう呟き、目の前の紅の館を睨みつけながら、紫は虚空へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 紅魔館、iin ゲンソーキョー!

 

 ……長かった、ここまで本当に長かった……っ!

 

 パチュリーと私のつくった、幻想郷への転移魔法が成功してほんとよかった。

 何しろ幻想郷は座標の特定が鬼のようにめんどくさかったからね。

 忘れられたものが流れ着く場所だとか、山の一角を結界で区切ったとか、なんだかとても曖昧な表現をしていたおかげで、転移するのに何年もかかってしまった。

 いやほんとさぁ、場所くらい明確にしろってんだ神主!

 でもレミリアさん優しいからな、許したるで。

 

 無事全員と会うこともできたし、後はきたるスペルカードルール制定の日まで、そして私の初デビュー『紅魔郷』の日まで、力を貯めとくとしましょう!

 

 ……あ、そういえば、今って幻想郷は時期的にどのあたりなん?

 あーあー、そうだそのあたり考えてなかった。

 というか、私の年齢やフランの産まれた時期からして、もう原作と違うからなぁ。

 このままじゃあ、いつ紅霧異変を起こしていいんだかわからないよ。

 というかその前に『吸血鬼異変』ってどうするんやろ。

 あれ起こさないと確かスペカルールの事を考えないんだよね。

 ……でも私面倒ごとは嫌だなぁ。長年の苦労のせいで胃痛を患ってるし。

 つーかそもそも、吸血鬼異変起こすにしても、今度は紅魔館のみんながあぶないじゃんっ。私はみんなのこと怪我させたくないしなぁ。

 ……まあでも、異変起こすとなるとみんな私のいうことなんて聞かずに参加しちゃうんだろうけど。

 でもいつか起こさないといけないよなぁ、だってそうしないと紅魔郷来ないし、ていうかそもそも霊夢や魔理沙が来ないと『あの子』を救ってあげられないじゃないか。

 

 ……でも、いやだなぁ。

 

「……なに、また何か考え事?」

 

 私が幻想郷でもやるべき事が沢山あると知り、胃痛に苦しみながら悩んでいると、向かい側で相も変わらず無表情で本を読んでいる私のマヴダチ、パチュリーが声を掛けてくる。

 …無表情のせいで、あんまり心配しているようには見えないんだよね。

 

「いやなに、これからこの地での生活について考えていてな」

 

「またこの前みたいに吐かないでよ? 貴方はストレスを抱え込みやすいんだから。図書館を汚されたらたまったものではないわ」

 

 いやぁー、心配してくれてありがとパッチェ。

 ……いや、この場合私じゃなくて図書館の心配してんのかな。しどい。

 

 というわけで、いま私は図書館にいる。

 幻想郷での生活も一週間は過ぎようとしていたが、未だに美鈴以外は外に出ようとしなかった。

 まあ美鈴は門番だから当然として、私は昼間出れないし、パチェは引きこもりだし、咲夜と小悪魔はそれぞれ館と図書館での仕事があるし、『あの子』は隔離してるからなぁ。

 そもそも、あまり目的がない。

 いや、紅魔郷を通して幻想郷のみんなと仲良くなるっていう一大企画はあるけれども。

 先程も述べたとおり時期があやふやなため不用意に動くことができない。

 吸血鬼異変も、まず起こしていいのかどうかもわからん。

 と言うわけで、今の所あまり大々的に行動することができない。

 

 しかし、私もさすがに暇なので、昼間は睡眠、そして夜は図書館にてぱっちゃんとお喋りをしている。

 まあ大抵私が胃痛に悩まされているところに図書館に駆け込んで、それをたいして気にしないでぱっちゃんが本を読むだけという。お喋りとは呼べない時間であったが。

 

 いつまでたっても冷たい親友を横目に見ながら、私は出された紅茶を飲む。

 

「失礼いたします、お嬢様」

 

 すると、いつの間にか私とパチュリーが座っている丸テーブルの側に、紅魔館の従者、十六夜咲夜が立っていた。

 この時を止める能力って便利だよねぇ。

 一回だけでもいいから、私もあの技を使ってみたかったよ。

 

 でも私時は止められないし、ロードローラー叩きつけるくらいなら素で出来るしね。やらないけど。

 

「どうした、咲夜」

 

「お話中失礼します。夕食の準備が整いましたのでお呼びに参りました。パチュリー様もご一緒に。」

 

 そう言って丁寧にお辞儀をする咲夜。

 あー、もうそんな時間なんだ。パチェとのお喋り? に気を取られててすっかり忘れてたよ。

 私は紅茶を飲み干して席を立つ。

 パチュリーもそれにつられて、本をしっかりと閉じながら立ち上がった。

 

「それでは、失礼します。」

 

 すると次の瞬間、私とパチュリーは長テーブルについた椅子に座らされていた。

 目の前には綺麗に揃えられた食器に、芸術品とも言えるほどに綺麗で美味しそうな料理の数々。

 やっぱ咲夜さんって料理上手いなぁ。美鈴がやっていた時も美味しかったけどなんかこう、ワイルドな感じだったからなぁ。

 

 内心で感動していると、後から美鈴と小悪魔がやって来て、それぞれの席に着く。

 最後に咲夜がとある場所(・・・・・)から戻ってきて、席に着いてからみんなで手を合わす。

 

「……いただきます」

 

 私がそう言うと、皆も声を揃えて繰り返す。

 これは私がかってに考えたことだ。

 やっぱり、食事っていうのはみんな揃ってから食べないと、美味しく感じないと思ったからだ。

 いただきますというのも、私が決めた。

 食べ物をいただくときには、必ず食材に感謝をしなければいけない。この辺りはやはり前世の知識が関係しているのだろう。

 程よく焼かれた肉にナイフを通す。

 この辺りは私は家柄のおかげで完璧だ。テーブルマナーは任せんしゃい。

 肉はとても柔らかく、すっすっとナイフを数回通すだけで切れてしまう。

 それをフォークで刺して、静かに口へ運ぶ。瞬間、口いっぱいに味が染み渡り、とろけるような柔らかさと相まって、ほおがとろけ落ちそうなほど美味しかった。

 やっぱりさくたんは最高だお。

 

 しかしこうしてみんなで食卓を囲っていると、やっぱり『あの子』のことを考えちゃうんだよなぁ。

 みんなで食べるからより美味しい。しかしあの子は、薄暗い地下の部屋で一人きりだ。

 ……いかんいかん。私が『あの子』のためにも決心した事が、毎回食事時になると揺らぎそうになる。

 まだ、時が来るまではダメだ。私じゃ『あの子』は救えない。

 

 いまはこれを考えることはよそう。

 私は必死に頭を振り払い、別の事柄に目を向けようと努力する。

 

 すると、よくみると美鈴の体のあちこちに包帯が巻かれていることがわかった。

 服だけが小綺麗なのでわからなかったが、よーく観察するとあちこちに治療のあとがある。

 それになんだか、腕を動かす時も少し違和感を感じる。

 

 私は口の中の食べ物を飲み込んで、ナプキンで良く拭いてから食器を置く。そして美鈴に傷について聞いてみた。

 

「美鈴、その体の傷はどうした」

 

「っえ、あぁ、いや、少し……いろいろと」

 

 私の問いに、びっくりしたように反応すると、頭をかいて笑ってごまかす。

 これは美鈴の癖で、ある意味彼女の優しい性格の表れで、そして彼女の悪い癖だ。

 

「話せ、美鈴。私に隠し事は無用だ」

 

 私のこの言葉に、その場の全員が目を向ける。唯一咲夜だけがみんなとは違って、なんかこう、ばれちまったなぁ、見たいな反応をしている。

 ああ、もしかして、咲夜に治療してもらったのかな?

 

「おお方、咲夜に治療でも施してもらい、皆に心配をかけさせまいとしていたのだろう」

 

「っ……」

 

 続く私の言葉に、美鈴はバツの悪そうな顔をする。美鈴がちらりと咲夜を見ると、軽く溜息を吐いて首を横に振った。多分諦めろとでも言っているのだろう。

 

「……っはぁ、わかりました。お話しします」

 

 そう言って、観念したかのように美鈴は話し始めた。

 

 美鈴が言うには、ここ最近紅魔館の館に、興味本位でちょっかいをかけてくる妖怪が増えているらしい。

 最初はなんとかなったが、日に日に数を増す妖怪に対して、対処が難しく、比例するように傷が増えてきたとのこと。

 

「これは私が門番として未熟であったがための失態です。わざわざお嬢様がお気になさる程ではありません」

 

 美鈴は全て話し終えた後、私の目をまっすぐ見つめてそう言った。

 対する私は、美鈴のその視線を真っ直ぐ受け止めた後、顎に手を当てて思案する。

 

 これは、美鈴の問題ではない。

 いくら美鈴が武に精通した妖怪とて、数の暴力というものは時としてどうしようもなく脅威となり得る。

 このまま美鈴を一人門番として使い続ければ、日を追うごとに体力を消耗する割合も多くなるだろう。

 それはダメだ。

 美鈴は来るべき『紅魔郷』のその時までに万全の状態でいなければならない。

 そして何より、ここにいる全員は——もちろん『あの子』も——一人としてかけてはならない私の大切な家族だ。

 

 さて、どうするか。

 

 美鈴をこのまま使い続けるのは、だめだ。それはもう選択肢にはない。

 となると変わりの門番がいる。

 しかし、これまで通りに他の誰かを門番に置いていたら、それこそ美鈴の二の舞になる。

 

 ———まてよ?

 

 美鈴の代わりに門番をやるだけなら、別に紅魔館の誰かじゃないといけないわけじゃないし、別に一人限定というわけでもないな(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 ………よし、「あれ」試してみるか。

 

「美鈴、明日から門番の仕事を一時中断せよ」

 

「っ!!」

 

 美鈴は酷く傷ついた表情をしていた。

 戦力外通告でもされたと思ったのだろうか。

 ……やめてめーりん。そんな顔されるとこっちだって傷つくから。

 

「勘違いをするな、美鈴。貴様は私が誇る最高の門番だ。貴様以上の者など存在するまい。……それに、貴様は我々にとってとても大切な存在だ。壊れてしまっては元も子もない。貴様は『来るべき日』に必要な存在なのだ。門番の仕事は十分な休息と、傷が治ってから再開せよ。--…その間に咲夜、貴様は美鈴が無茶をせんよう、しっかりと監視しておけ」

 

「はっ、お嬢様」

 

 咲夜は座ったまま、私に向かって一礼をする。

 

「……」

 

 それでも納得がいかないという美鈴に対して、私は苦笑を漏らす。

 納得いかないかもしれないけど、いまは十分休んで欲しいな。

 本当に、ここに住むみんなは私にとって大切な人だからさ。

 

 そのあと、特に美鈴も食い下がる訳でもなく、食事も終わり、手を合わせて皆席を立ち、それぞれの部屋へと戻っていく。

 

 そして、翌日。

 

 

 私は玉座のある大きなホールにいた。

 石畳の上に赤い絨毯を敷いて、その一番奥にポツンと玉座だけが置いてあるという、この広大な空間を半端なく無駄に使った場所だ。

 

 その無駄に広い場所の床に、これまたとてつもない大きさの魔法陣を描いた。

 

「……なにをするの?」

 

 私の横には、私に対してたいそう不審がっているパチェさん。

 そんなパチェさんにニヤリと笑いかける。

 

「相手が数ならこちらも数で対応するまでよ」

 

 そう言って私は、描き終えた魔法陣の前に立つと、自分の親指の皮を噛みちぎって、血を滴らせる。

 それを数滴魔法陣に垂らした瞬間、魔法陣が赤く、煌々と輝きだした。

 

 私がいまやっているのは、召喚術だ。

 昔、パッチェさんの図書館からそれらしいものを見て、私もやりたいと思って頑張って学んだ。

 流石に英霊の召喚は無理だったけど、魔族程度なら召喚できるようになった。

 

 私の血に反応して、魔法陣の中からうじゃうじゃと何かが蠢き始めた。

 

「我が血に従い、召喚されし者どもよ、紅魔の王の名の下において命ず。紅魔館周辺の警備、及び索敵をせよ。生物を見かけたら先に攻撃してはならん。様子を見て、害のあるものならば迎撃し、そして我に報告せよ」

 

 私がそう言うと、堰き止めていた川が溢れ出るかのように、たくさんの魔族が屋敷の外へと飛び出していった。

 飛び出していく魔族の勢いは衰えることなく、川のようにドバドバと、魔法陣の中から出てくる。

 ……あ、やべ。

 どうしよう。これ歯止めが聞かなくなってきたな。

 ぶっちゃけ出しすぎた。数千はくだらない数だこれ。やっちまった。

 

「……これ、あとであんたが処理するんでしょうね」

 

 パチュリーは唖然とした様子で、止まることを知らない魔族の流れを見ながら、そう呟く。

 

「……まあ、美鈴が治る間だからな」

 

 ジト目で睨むパチュリーの視線を私は必死にそらし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、絶景ねえ」

 

 一人の女性が、そう呟く。

 日傘のようなものをさした、緑色の髪の毛を持つ美女だった。

 端正なその顔立ちは笑っている

 しかし、それを見て果たして何人の人々が美しいと感じるだろうか。

 恐らく、その顔を見たものは真っ先に不気味だと感じるだろう。

 それ程までの言い知れないオーラのようなものが、彼女から漂っていた。

 

「幽香、殺気がだだ漏れよ。抑えてちょうだいな」

 

「あら、失礼。でも紫、いつになったら突撃するのかしら」

 

 幽香と呼ばれた女性は、待ちきれないという気持ちを抑えながら、静かに佇む紫を見つめる。

 見つめられただけで失神しそうな圧迫感を持った視線に、しかし紫は動じることもなく受け止めていた。

 

「いまから説明するわ」

 

 紫はそう言うと、辺りを見回す。

 

「あらあらぁ。なんだかわくわくしてきたわぁ」

 そう言って、まるでこれから遠足に行く子供のようにウキウキとしている、ピンクの髪の少女。

 良く見ると足首から先がぼんやりと揺らめいていることに気がつく。

 この、おっとりとした雰囲気を持つ美しい少女の名は、『西行寺幽々子』。

 彼女は青色の着物のような服をなびかせ、にっこりと微笑み、口元を扇子で隠して含み笑いをしている。

 

 そして、紫の隣に無言で付き従うのは、紫の式であり、九尾の妖獣『八雲藍』。

 

 あの紅の館から大量に発生した妖魔は、未だ数を減らすことなく、そして何か行動に移すでもなく、屋敷の周りをうろついていた。

 数日後、幻想郷でも力のある者たちを集め、現在館に突入する直前であった。

 

「これで全員かしらね」

 

「あら? これで全員なのかしら?」

 

 と、幽々子が首を傾げて答える。

 確かに、あの数千に対してこちらは四、かなりの戦力差だと思わざるをえない。

 

「他に呼ばなかったの? 私的にはアリスなんておすすめよ。彼女結構やるわ」

 

「行ったわよ。即答で断られたけど」

 

「まあ、あの子ならそうするでしょうね」

 

 紫の話を聞いて、幽香は苦笑を漏らす。

 とにかく、いまはこの人数でやるしかない。いや、そもそも……、

 

「それに、この面子なら十分でしょう?」

 

 紫の言葉に、皆それもそうかという顔をする。

 紫はもう一度皆の顔を見回して、本題に入る。

 

「さて、これからあの大量の妖魔を発生させている館の住民たちを懲らしめます」

 

 その言葉を聞いた皆——特に幽香——は、待っていましたと言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

「敵の数は不明。手当たり次第殲滅。人型の妖怪などは殺してはダメよ。殺していいのはあくまで妖魔だけ。人型に関しても、死なない程度(・・・・・・)には懲らしめてやりなさい」

 

 そう言うと、紫は振り返り、目の前の館に対して笑みを浮かべる。

 

「さあ、いきましょう。身の程を知らない新参者に、目に物を見せてあげましょう」

 

 そう言うと、各々が好きな形で館に向かって突入していく。

 

 今、紅魔館と、幻想郷が誇る大妖怪達との戦争が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続いちゃいますね〜。

なかなか話はまとまらないもんです。

誤字脱字などがありましたらご報告お願いします。

それでは。

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