ギャンブル少女ばくち☆マギカ《完結》   作:ラゼ

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多人数での会話って難しいと初めて知った物語


藹々の物語

「…なるほど。ならば今回は今までにない可能性を孕んでいるのですね」

 

転校予定日は明日ということで、マミを見送った後にほむらの家へやってきた二人。

二、三日おきにマミとほむらの家に居候させてもらうと提案した葵であったが、さっそくこちらの家に行くと言った時のマミの顔は中々くるものがあったようだ。

 

「そう、ね。……信じてくれるの?」

 

「何を今さら。そんな顔で語った事が嘘なら私はこれ以降誰も信じられませんよ」

 

嘘か真実かを判ずる以前に、事実として話を進めていく葵に拳を少しだけ握りながら震わせるほむら。こんなに素直に他人から受け入れられたのも、こんなに素直に他人を受け入れたのも初めての事なのだ。

 

「…ありがとう」

「どう致しまして」

 

だから感謝の言葉がするりと出てしまったのも仕方ないことだろう。同情でもなく憐れみでもなく、ただ先を見て何とかしなければと悩む葵は希望そのものになってしまったのだから。

 

ほむらが欲しかったのは毒にも薬にもならない憐憫の情ではなく、頑張ってきたことに対する誉でもない。共に前を向いて歩く戦友なのだから。

 

「…で、貴女の事情は聞かせてくれるのかしら。巴先輩に言っていた、貴女が男っていうのはどういうこと?」

「そういえば言っていませんでしたか。少し長い話に……はならないですね」

 

葵はマミに語った通りの話をほむらにも説明した。もちろん男という事が気になるならば居候の件は取り消しにしても構わないということもだ。

 

「あまり驚かないんですね」

「そっちだって全然驚かなかったじゃない。お相子よ」

 

キュゥべえとの話でおおよそを推測していた葵。マミに言っていた言葉からいくつかのパターンを類推していたほむら。案外似た者同士である。

もっともほむらの場合はちょっとした意地も含んでいたりするのだが。

 

「まぁそこは置いておいて、先のことについてです。ほむらの目標は、一番が鹿目まどかさんの無事。二番がその他の人、三番が見滝原の壊滅を防ぐ。間違いないですか?」

「…そう、ね。いえ…やっぱり何でもないわ。間違ってはいないけど結局全部同じことよ。一番を優先にするなら二番と三番は必須だもの」

 

まどかはそういう子だわ、とほむらは溜め息をつく。葵はそれを聞いて優しい子なんですねと笑った。

 

「笑い事じゃないわ。つまりあの子は友人や家族が苦境に陥ればすぐに契約してしまう…たとえ魔法少女の運命を知っていたとしても」

「ふむ…」

 

なるほどなるほどと、どうしたものか考えながら葵は相槌を打ってほむらの話を聞いていく。

 

キュゥべえに対する認識の齟齬がないよう話を擦り合わせ、今までの過去にあった物事を出来る限り詳細に話してもらいながらピースを埋めていった。

 

「聞く限りでは、ワルプルギスの夜以外は何とかなりそうな気がするんですが…やはり実行するとなると不測の事態が多いのでしょうか? いえ、キュゥべえが不測の事態を起こすと言ったほうが正しいのか」

「ええ。感情が理解出来ないと言いながら人間関係を崩壊させるのが上手いのよ、あいつらは」

 

四六時中全てを見張っていない以上は誰かしらがキュゥべえの諫言と甘言により被害を受ける。一つの不幸を消してしまえば二つの不幸で帳消しにされる。

いついかなる時でも現れることができるキュゥべえの人海戦術へ対応するには、圧倒的にこちらの手が足りていないのだ。

 

「そこは紀元前から人間と接してきた積み重ね、ということでしょうね。感情が理解出来ずとも、Aという状態ならばBという行動をすることでCという結果が得られる。人の感情が画一的とは言いませんが、やはり一定の状況ならば似たような行動をとってしまうものです」

「それは骨身に沁みてるわ」

「ごもっとも」

 

提案し、吟味して、取捨選択をする。白い空間の中で策を練り上げていく二人。そして長い長い話し合いの果てに取るべき行動は決まった。キュゥべえの行動により変更を余儀なくされるのは想像に難くないないため、ある程度のゆとりは持たせている。

 

しかし一ヶ月という期間は長いようで短いのだ。二人は話し合いが終わるや否や即座に行動を開始した。まずは、そろそろ学校が終わるマミを迎えに行くことだ。

 

「…大丈夫ですよ。先の言葉通り、状況で人は変わります」

「…ええ。頭では、解ってる」

 

二人が出した答えは―――というより葵が提案したことは、マミに真実を話すという選択だった。

当然その選択肢は端から除外していたほむらは難色を示した。基本的にマミはそれを信じない、信じる時は魔法少女が魔女に変わる瞬間に立ち会ってしまい暴走する時なのだ。

 

悲観にくれて一気に魔女になるか、最悪の場合は仲間に手をかけることもある。実体験として嫌になるほどその悲劇を目にしてきたほむらが、それを拒否するのは仕方ない事である。

 

だが葵はそれでもそうすべきだと決断したのだ。理由は幾つかあるが、その最たるものはマミの暴走する状況である。

どの過去においても絶望しやすいタイミングでの暴走であり、更に真実を話しても信じてもらえなかったのは出会ってすぐの信頼関係も何も無い時だ。

 

先述した通り、人は状況で変わる。人の考え方の変化は葵のように薬で理性を狂わせられるような外的要因もあれば、体調不順で機嫌が悪くなっているような些細な要因もある。

 

葵は思う。人の本質はそんな所で測るものではないと。

 

「普段が善人で優しい人が居たとします。その人が命の危機に陥った時、他人を見捨てて自分を優先したとしたらほむらはどう思いますか?」

「…仕方ない、とは思うわ。でも人によっては偽善だったのかと憤るでしょうね」

「ええ、その通りでしょう。でもそんな極限の状況下での判断でその人を測るなんて事は愚かだと私は思います。その時に自分を優先したからといって今まで他人に優しくしてきた事実が無くなる訳でもなし」

 

未だに躊躇しているほむらを励ますように葵は話を続ける。

 

「苦境の時こそ人の本質が現れる…なんて馬鹿らしい格言でしょうか。ならばマミさんの本質は理由があれば仲間を殺す人非人ですか? 私はマミさんとは本当に少しの付き合いでしかありません。けれど、それでも彼女の優しさと寂しさは理解出来ました」

 

だからこそ真実を話すのだ。

 

無論、理想を語り現実を見ていない訳ではない。先程聞いたほむらの話を鑑みれば、過去と違って今のマミは仲間が出来て寂しさは緩和されている筈だ。

そしてキュゥべえへの信頼により真実を否定する気持ちは、キュゥべえから紹介された葵が言うことでそのまま肯定される。

 

―――とはいかないだろうが、出会ったばかりのほむらがそれを告げて一顧だにされなかったような事態にはならないだろう。少なくとも一考の余地は充分にあるはずだ。

 

「でも、どちらにしても出会ったばかりの三人よ? 信じてくれたところで、ついこの前まで赤の他人だった私達が励ましたり慰めたりしても絶望しないとは言えないもの」

 

「そこは話術で何とか致しましょう。その、ほむらはですね…」

「?」

「人と接するの、苦手でしょう? その…聞いた感じですと、コミュニケーションをもっと取ればもう少し何とかなったような」

「うっ…」

 

コミュ障ここに極まれり。ほむらの過去を聞いた葵の感想はまさにこれである。繰り返しの最初はおどおどと、途中からは一気に刺々しく。中間の無かった彼女の態度ではまさに本質は測れていないだろうと判断した葵。

 

「それに、私には実績があるじゃないですか」

「…何の実績かしら?」

 

くすりと笑って、ほむらの手を引いて家を出る葵。物問いたげな顔をしている美少女にきっちり自分の成果を突き付ける。

 

「出会ってから今で丁度二十四時間くらいでしょうか。さて、ほむらはこんな短い付き合いの私をどう思っているんでしょう?」

「…っ」

 

言葉に窮するとはこの事だろう。もちろん悪い意味ではないのは表情で丸解りである。したり顔で先を進む葵を見て怒ったように追いかけるほむらの後ろ姿からは、先程までの憂いがすっかり消えてなくなっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校校門前。授業が終わり、帰宅部に所属する生徒達が活動に勤しんでいる。少しまばらになってきてはいるものの友達とお喋りしながら、はたまた片手に本を持ちながらと様々な少年少女が通り過ぎていく。

 

「懐かしいですねぇ…」

「私は逆に嫌になるわ…」

 

十年以上昔の思い出を振り返り、在りし日の青春を懐かしむ葵。どことなくおっさん臭さが漂っている。

 

「巴先輩はまだかしら」

「掃除当番らしいですから。もう少しで来るでしょう」

 

マミを迎えに、ついでに地理を把握するために中学までやってきた葵達。私服の同年代らしき美少女二人に生徒達の視線がちらちらと突き刺さる。

 

「目立ちますね…あ、先生らしき方が」

 

眼鏡をかけた妙齢の女性が校門前の立ち番をするためにやってくる。当然ほむら達に気が付かない訳もなく、授業が終わったばかりだというのに私服で佇む二人に声を掛けた。

 

「貴女達どうしたの? ここの生徒かしら」

「いえ、私は違います。この子が転校予定ですので付き添いです」

「どうも」

 

もう少し愛想よくしなさいとほむらを嗜める葵。いいのよ、とすました顔で受け流す様を見て呆れるばかりである。

 

「あら、じゃあ貴女が暁美ほむらさん? 私は早乙女和子。暁美さんが入るクラスの担任よ」

「よろしくお願いします」

 

形式ばった定型句を返すほむら。無愛想とまではいかないが、可愛げがないとは言えるだろう。

 

「下見なんてえらいわ暁美さん。やっぱり女性はそうでなきゃ! それに比べてあの男ときたら女教師は堅苦しいだの真面目すぎるだの…!」

「は、はあ…」

 

ぶつぶつ愚痴を漏らす女性教師に気圧される葵。対してほむらはいつも通りと何処吹く風だ。

 

「あれ、せんせ何してるんですかー?」

 

そんな微妙な空気の中に能天気な声が掛けられる。青髪の活発そうな少女に桃色の髪をしたおとなしそうな少女だ。

 

「…!」

 

ほむらの顔に動揺が走る。彼女達との顔合わせは決まって転校日初日なのだ。いつもと違う出会いかたに緊張してしまうのは、未だに他人とのコミュニケーションに慣れていない故だろう。

 

彼女達がそうですか? とほむらの様子を見て小声で問い掛ける葵。こくりと頷いたのを見て予定変更ですね、と二人に近寄り声を掛けた、

 

「こんにちは。美樹さやかさん、鹿目まどかさん。私は九曜葵と申します」

「へ? あ、こんにちは……って誰?」

「え、えと、こんにちは」

 

戸惑う二人。見知らぬ少女に名前を呼ばれては無理もないだろう。何してるのよ! と視線で怒りを向けるほむら。しかし葵は同じく視線で宥める。ここは任せろと。

 

「こちらは明日転校予定の暁美ほむら。私は付き添いです」

「それはどうも…じゃなくて! なんで私達のこと知ってるのさ」

 

ノリ突っ込みに定評のある美樹さやか。情報通りだなとうんうん頷きながら葵は返答する。

 

「それは…」

「それは…?」

「秘密です」

 

たっぷりと溜めて発した言葉は身も蓋も無かった。ズッコけるさやかに葵は内心でアニメかと突っ込みをいれた。

 

「まぁとにかく宜しくお願いします。実は折り入ってお願いしたいことがありまして」

「とにかくしちゃった!? いや…え? 私がおかしいの?」

「さやかちゃん…」

 

元気はつらつテンションMAX、ノリの軽さは日本一。それが美樹さやかの座右の銘だ。本当に気にせずにお願いを聞いてみようとする姿勢は流石である。

 

「実はこの子、人と話すのが苦手でして…本当はとてもいい子なんですよ。これを機に仲良くしてあげてもらえませんか?」

「ちょっ、あお…」

 

赤面して止めるほむらだが葵は止まらない。まるで友達の出来ない子供を心配するおばちゃんのようだ。

そう、大人と子供には埋められない溝がある。かつて通ってきた道だというのに何故か解りあえない部分があるのだ。

 

つまり有り体にいって、ほむらはいたたまれなかった。授業参観で母親に叱られるところを同級生に見られたような、はたまた先生のことをお母さんと呼んでしまった時のような、なんとも言えない悶えるような恥ずかしさだ。

 

「やめてよぅ…」

「と、こんな風に恥ずかしがり屋さんなので誤解されやすいんです。ぜひぜひお友だちに…」

「いや、あんたのせいでしょ」

「あ、あの…大丈夫…?」

 

もはや晒し者である。しかし効果は抜群だ。真っ赤になって俯くほむらは男女問わず心を惑わす魔性を持っている。

 

「くぅーっ! 恥ずかしがり屋の美少女転校生に謎のミステリアス美少女! もしかしてさやかちゃんの人生にも漫画のようなことが起こるのかー!?」

「うわっ…」

「え、ちょ、何で引くのさ。さっきのあんたの方がよっぽど恥ずかしいノリじゃ無かった…?」

 

まどかがほむらを慰めている間に親交を深めるさやかと葵。さばさばとした性格のさやかと簡潔な物言いを好む葵は意外と馬が合うようだ。

 

「おっと、待ち人が来たようです。名残惜しいですがこの辺でおいとまさせて頂きます」

「はいはい。ま、あの子の事はこのさやかちゃんにどーんとまかせなさい!」

 

中学生にしては中々のボリュームの胸をドンと張って、どや顔で任されたと笑うさやか。ほむらがイラッときたのは言うまでもない。

 

「またね、ほむらちゃん」

「うん……じゃない。ええ、楽しみにしているわ。まどか」

 

やっと落ち着いたほむらはいつもの癖である髪を鋤く仕草でクールビューティーを装う。しかし先程の醜態を考えればそれは精一杯の強がりにしか見えないだろう。

 

「もう取り繕っても遅いぞー転校生。私もほむらって呼んでいい?」

「人の名前を気安く呼ばないでくれるかしら」

「えぇー…」

「照れ隠しです照れ隠し。ほむらがきつい事を言うときは大体反対だと思って下さい」

 

短時間でそれなりに仲良くなった四人。中間管理職で上司と部下の折衝役をこなしていた葵の面目躍如だろう。そしてやっとマミが校門前にやってきた。ちなみに和子はずっと一人で愚痴を漏らしている。

 

「待たせちゃってごめんなさい…あら、その子達は?」

「いえ、いきなり来たのは私達の方ですから。この子達はほむらのクラスメイト兼親友の予定です」

「何故歳上目線なのか」

「秘密です」

「またかよ!」

 

からかい甲斐のある子だなと思いつつさらっと紹介した後、別れを告げる葵。

 

「むぅ…なんだこの体よくあしらわれた感」

「気のせいですよ」

「ちぇー。……で、何で私達の事知ってたの?」

「秘密です」

「何でクラスメイトって解ったの?」

「秘密です」

「ミステリアスゥーー!!」

「発音が歪です」

 

辛辣だーと泣き真似をしながら撤退するさやか。手を振りながら離れていく彼女達に葵も笑いながら振りかえす。

 

「いい子達ですね」

「……」

「まぁそう怒らずに。予定は変わりましたが成果は上々でしょう?」

「予定?」

 

何の話だろうとマミが疑問の声を上げる。

 

「ええ、詳しくは帰ってから話します」

 

少しばかり真剣な雰囲気を漂わせる葵に首を捻りながらも、久し振りにボッチ帰宅から脱却したことに嬉しさを感じるマミ。

 

「さあ! 行きましょうか」

 

新しい仲間達と帰路につき、共に戦う。こんなに嬉しいことはないと死亡フラグを立てながらマミは心の中でスキップして、魔女狩りへと向かうのであった。

 

そして取り残された熟女が一人。人が居なくなったことにも気付かず熱弁をふるっていた。

 

「……ということなんです! ですから貴女達も…あら? 何処に行ったのかしら」

 

気付けば校門前には自分一人。まるで婚期を逃した自分を象徴するようで項垂れる和子。

 

「はぁ…あの子達くらいの時は行き遅れるなんて思ってもみなかったなぁ…。やっぱり男は年増より若い子なのかしら」

 

染々と溜め息をつく独身女性教師の背中からは哀愁が漂っていた。そしてそんな彼女にいつも通りの答えを返す男子生徒が一人。

 

「僕はどっちでもいいんじゃないかと」

「中沢君…」

 

親子ほども年の離れた彼等の行く末は―――どうでもいい話である。




メガほむとほむほむとリボほむと悪魔ほむ。全部可愛い。

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