ギャンブル少女ばくち☆マギカ《完結》   作:ラゼ

12 / 20
叩かれるのは覚悟の上さ。

あと幕間なので短いですが、必須の話です。


幕間 因果

 地球外生命体であり、少女を破滅の運命へと導くことを命題とする孵卵器、通称「キュゥべえ」

 

 彼らはその優れた技術と文明により太古から宇宙の存続の危うさを知り、延命のためにエネルギーの変換効率を高めることを至上としていた。それは自らがこの宇宙の一員であり、生命体として当然の義務と考えてのことだ。全ての生命体がそうあるべきだと思っていることも、彼らにとっては疑いようのない真理である。

 

 生命体というものを定義する時に何を基準とするかはそれぞれだろうが、概ねそれは自分達を基本として設定するのが当たり前だろう。彼らもそれは同様で、感情というものをほとんど持ち合わせていないことこそが生命体としての基準であり、そもそもその稀に起こる効率を否定した訳の解らない精神状態に陥ることは一種の病気としか捉えてはいなかった。

 

 しかしひょんなことからその「感情」というものが効率のいいエネルギーに、それどころかエネルギーの定理を覆す可能性を秘めていることに気が付いたのだ。

 研究は進み、それでも感情を手に入れるというプロセスは終ぞ発見することは出来なかった。ならばどうするか。それは当然の如く自分達以外からエネルギーを生産しなければならないという義務感に繋がった。

 

 こういった考えは感情の発露ではないかと推測できそうなものだが、彼らの計測の観点上「感情」とは大きな爆発のようなエネルギーであり、生命体としての本能に直結するようなその思いは感情とは認められていない。全ては「義務」で、当たり前の「犠牲」で必要な「燃料」なのだ。それはまず自分達が燃料になり得ないか試していたことからも疑いようのない事実だ。

 

 故に彼らからすれば想像の埒外だったのだろう。広い宇宙でもほんの一握りしか居ない、感情を持つことが基本の生物達がエネルギーとなることを拒んだのは。彼らは問うた、何故それを拒むのかと。いまだ言語すらおぼつかず、比べるのも馬鹿らしい文明の差があるにもかかわらず現地の生物達への態度は紳士的、もしくは真摯なものであったろうか。しかしその問いに対する答えは言葉ではなく、彼らにとって必要な筈の莫大な負の感情だった。

 

 別段争いなど望んでいない彼らは拒絶の感情を見せる現地生物からいったん離れ、観察を行った。自分達からでる稀な被験体だけでは感情の理解など出来ず、故に彼らは緻密で入念な「観察」を行った。

 

 果たしてその年単位での観察結果は、彼らにとっては一切理解出来ないものであった。余裕があるにもかかわらず尚求め、必要以上の何かを望む。非効率を優先させた結果が滅びの道へ繋がることもあった。

 

 訳が解らない行動理由に行動理念。感情とはかくも難解にして非効率でありにけると、それでも侮蔑や嘲笑の概念を持たない彼らはひたすらに、つぶさに観察を続けた。そして通信手段を持たない生物達は地域によって文明にかなり差があることに気づき更なる観察を続けた。

 

 文化的な集落を築いている者達のほうがより大きな感情エネルギーを燃やしていたことを発見した。

 

 性別というものがある生物達は女性体の方がより多くの感情エネルギーを燃やしていることを発見した。

 

 短い寿命の中でも特に生物的に若い個体のほうが感情エネルギーを燃やしていることを発見した。

 

 どんな状況で、どんな瞬間に、どんな形で感情は動くのか。彼らは観察し続けた。それは自分達が感情を得ることが出来るかもしれない可能性も視野にいれた観察と研究であったが、結局は無駄に終わってしまった。

 

 永い時が経ち、彼らは行動に出る。いまだ感情の揺らぎは解明できないが、それでも効率よく取り出す手段は確立出来た。協力が得られないのならば無理やりにでも。文明にこれだけ差があれば気付かれることもない。そんな考えのもと彼らは動き出す。時にはその不可解すぎる感情に手酷い失敗もしながら、それでも手段は洗練されていく。

 文明が増すごとに感情もより複雑になると気付いた彼らは生物達の文明開化を手伝うこともあった。感情の多寡ではなく、そのものがもつ運命、因果ともいえるものがエネルギーに直結することも認識した。

 

 曖昧なエネルギーを、曖昧な理解で、曖昧に運用する。その危険性に気が付かないのは彼らにとってエントロピーの逆転がそれほどに魅力的だったことの証左であろう。それはさながら進歩した生物達がエネルギーのため原子爆発の危険性を知りながらもエネルギーとして運用しているかの如しだろうか。いや、むしろそれより酷い。彼らは知っている筈なのだ。エントロピーは絶対な筈で、エネルギーは消費した分以上に戻ることは絶対に無いことを。覆されているように見えるとすれば、それは全く未知の部分に反動が溜まっている筈なのに、彼らは気付かない。

 

 それは彼らが無意識に持ってしまった感情「慢心」か、もしくは「驕り」か。神の存在を認めていない、もしくは超自然的なものの一つとしか位置付けていない彼らにとって何たる皮肉であろうか。

 

 崩壊は近く、新たな誕生もまた近い。

 

 世界の再編とはその規模の縮小と同義であり、溜まる因果は限界を速める。世界の改変は確実に寿命を縮め、神の生誕はその主観をもって認識から零れた生物達を無に帰す。

 

 彼らが溜めた因果の特異は二人の少女をその収束地点として、宇宙の寿命を縮める結果となってしまう――――筈だった。

 

 世界は、宇宙は、それも一つの生命で。滅びを拒むもまた必定。待てばそのまま滅すなら、奇跡を引くもまた必定。世界がどうにもならぬなら、違う世界に助けを求め、一つの可能性を迎え入れる。

 

 姓は九曜、名は葵。彼女の来訪は―――必然であった。




話の進行上短くなるのは仕方ないけど、もう少し日常書いてもいいですか?

だれるかもしれないけど。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。