渓流暮らしの泡狐竜   作:狐火(宇迦之御魂)

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慕う者達の怒り

母君が.....怪我を.....

 

「気にしないで陽炎!何でも、何でもないんだ。」

 

「母君!誰にやられたのです!」

 

「まあ、人間だけど。彼らは悪くない、襲おうなんて考えないでね。」

 

なぜ、そんな傷を負わされても奴らを庇うのですか.....

母君は、自己犠牲も.....大概にしてください!」

 

「陽炎、僕は自己犠牲なんて大層な事はしてないよ。彼らは本当に悪くない。」

 

.....口に出してしまっていたか。

だが、それだとしても!母君が傷つけられて良い理由にはならぬ!

 

「.....とりあえず、傷は治します。治り次第、護衛をして帰しますので。」

 

「ごめんね、僕が勝手に動いた所為で...」

 

「謝らないでください。我らが自分達で判断した結果故、母君の謝る道理はないです。」

 

「その通りですよ、ミツさんが謝る必要なんて無いです。」

 

「!?レイス君、何でここに.....」

 

「貴様!何をするつもりだ!母君へ害を成すと言うならこの場で貴様の命は無いと思え!」

 

「陽炎とやら、俺はミツさんを探して助けるために来たんだ、お前と同じ意思だ。」

 

「ッチ...仕方ない、協力しろ。」

 

「言われなくとも、取り敢えずネンチャク草を幾つか取ってきてくれないか?」

 

「ネンチャク草?あんな物どうするのだ。」

 

「取り敢えず取ってきてくれ、人間の知恵だ。」

 

「フン、母君のためだ今回だけ聞いてやる。母君に何かしてみろ、灰にしてやる。」

 

「ああ、解っているさ。頼んだぞ。」

 

レイスside

 

陽炎が戻るまで見ておかないとな。

それにしても、ミツさん静かだな?

 

「すー.....」

 

寝ちゃったのか、それにしても俺が来たときは人型だったが、人型になって傷つけた連中を攪乱したのか?

 

兎に角、警戒しないとな。

 

「それにしても.....誰がやりやがった.....」

 

ミツさんの事だ、自分から襲うなんてありえないだろう。

それに、ミツさんは正直俺では軽くあしらわれる程に強い。

ミツさんは、俺に稽古を付けてくれるのだが、その時に掠らせる事が出来れば大御礼。

 

一太刀入れる事が出来たのは、今までで一度しかない。

自惚れする気はないが、俺はハンターの中ではトップクラスでかなり有名でもある。

そんな俺を軽くあしらえる程に強いのだ、ミツさんは。

 

そんなミツさんが、あれ程の傷を受けたのだ。

恐らく、異常な数による人海戦術を主とする違法ギルドだろう。

大半のハンターが所属するハンターの運営元、ハンターズギルドでは5人以上の狩猟は御法度だ。

 

理由は、5人以上で狩猟を行うと竜車での移動が3台以上になり、移動の際にモンスターを刺激してしまうからだ。

しかし、違法ギルドではそんな事お構いなしに50人にもなる大隊で狩猟をすることもある。

そして自然の調和を守る筈のハンターがモンスターを大量に狩猟し、生態系を崩すのが違法ギルドだ。

 

「今戻った、ネンチャク草だ。」

 

「ああ、ありがとう。今から作業を始める。」

 

「母君は眠ったのか....クソッ、誰にやられたんだ。」

 

「恐らく違法ギルドの連中だ、だが、今は治療優先だ。治療している間警戒頼む。」

 

「ああ、此処には何人たりとも通さぬ。」

 

ハンター御用達アイテムの回復薬、これは飲むと全体的に傷が治るが、実はネンチャク草を使うと一点に集中して回復させ、傷跡を完全に消す事が出来る。

ミツさんに傷など付いていてはいけないからな。

 

まず、肉焼きセットでネンチャク草を炙り粘着性のある液体を出す。

その液体を布に染み込ませて物に貼り付く様にし、そこに回復薬も染み込ませる。

それを傷口に貼る事で、傷が跡形もなく消えて完全に治るのだ。

この湿布の様なものを大量に作りミツさんの傷口貼っていく。

 

「ん...んん?」

 

「起きましたか、母君。」

 

「あ、れ?寝ちゃってたの...かな。」

 

「寝てても良かったんですよ?」

 

「....傷が?」

 

「ああ、寝てる間に治しておきましたよ。」

 

「2人とも、ありがとうね。」

 

その時、藪から何かが蠢く音が聞こえた。

そして、現れたのは...

 

「ミツさん!」

 

「姉さん!それにレイス!?何でここにいるニャ!」

 

「おお、お前ら。」

 

「ミツさんは無事だったのかニャ!?」

 

「.....酷い怪我だったが、もう無事だぞ。」

 

「よ、よかったゼヨ...」

 

やっぱり、こいつらも本当に心配だったんだな。

 

「とにかく、ミツさん此処は危険ですし。渓流まで戻りましょうか。」

 

「うん、迷惑掛けて悪かったよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、準備は良いか!」

 

「「「「「「「「ニャアアアア!!」」」」」」」」

「「「「宿敵に死を!」」」」

 

以前の原生林から戻ってきてから俺は、あの辺りの違法ギルドを探すと。

見つかった。今から、その違法ギルドを討ちに行く。

 

「.....殺す。」

 

「お姉ちゃんがやられたんだ、絶対許さないよ!」

 

「さて、お嬢に傷を付けた連中に落とし前着けてもらわなな!」

 

こいつらは、無口な奴がライゼクスのゼロ。

少し子供っぽいのがディノバルドのノエル。

気のよさそうな奴が、ガムートのトール。

全員、ミツさんに恩義の有る者だけだ。

 

まず、ここに居る者全員がミツさんに恩が有る者だが。

どこから知ったのか、ミツさんがやられた事を聞き渓流まで来たのだ。

ミツさんには悪いが、俺たちは、ミツさんを傷つけた者を許すことは出来ないんだ。

 

「進め!目標まで止まるなああああ!」

 

陽炎とゼロが村の戦闘アイルーを乗せている。

俺はトールの背に乗せてもらっている。

現在は陸路から原生林へ直行している。

時間は陸路だけに相当掛かったが、原生林まで後1時間だ。

 

「トールとノエルは敵の砦を破壊せよ!ゼロと陽炎はアイルーを乗せ砦内部へ奇襲をかけるんだ!」

 

違法ギルドの全員が居る砦に奇襲をかける。

奴らは、一人残らず始末する!

 

 

 

 

 

「おい、何か聞こえないか?」

 

「確かにな、なんだこの音?」

 

違法ギルドの砦見張りが地響きの様な音を聞きつけた。

 

「だんだん、大きくなってないか?」

 

「外はどうなって

 

 

 

見張りの声は途絶えた、トールの突進で潰れたのだから。

 

「御嬢をやられて許されると思うんちゃうで!お前らアア!」

 

「ぅぅううう!あああああ!死ね!死ね!お前ら皆死ね!」

 

ノエルに斬られ、千切れ飛ぶ者。

噛まれ喰われる者。

 

「.....行け、お前ら。」

 

ゼロが低空飛行で強襲し、アイルーを飛ばす。

 

「皆の者!母君を傷つけた愚か者に鉄槌を下すのだ!」

 

陽炎もアイルーを敵に向け飛ばし、翼を広げ急上昇する。

 

「行けニャ!ミツさんを傷つけた罪!思い知らせろニャ!」

 

「斬れ!ぶった切れニャ!姉御の痛み、そのまま返すニャァア!」

 

「キッチンアイルーだからって舐めるニャ!刃物の扱いで勝てると思うニャよ!」

 

「剣士としても我は戦えるゼヨ!よくも姉御を傷つけたゼヨ!」

 

高練度の戦闘アイルーが的確に、鋭い一撃を違法ギルドの者の急所に与える。

圧倒的な力で砦が攻撃される。

アイルーたちの攻撃は確実に鎧の隙間を突き致命傷と成り、敵を処理し。

 

ゼロの一撃は其の雷撃により、駆け抜けた雷で成すすべなく焼けていく。

ノエルの重く鋭い、大剣の様にも太刀の様にも見えるその刃尾にて反撃をも許さぬ斬撃が。

 

トールによる超重量の強力無比な広範囲に渡るプレスで大地が砕け舞い上がる岩石で更なる被害を。

陽炎の高高度からのブレス爆撃で大地に大穴が空き、近くの敵を灰に、土へ還す。

その全ての攻撃が仲間に当たる事も無いのは、レイスによる的確な指示によるもの。

 

指示される度に地が赤く朱く紅く染まっていく。

人間(愚者)は怒りに潰され紅い花を咲かせる。

 

「くそ!くたばりやがれ!」

 

「ギニャッ!」

 

一匹のアイルーが一撃もらってしまう。

そのとたん、後ろと交代し攻撃をした者は一瞬で土に還る。

彼等の、怒りに満ち溢れたその攻撃は、一切の慈悲も無い。

 

一撃必殺の攻撃へ、蹂躙にて砦の人間(愚者)が殲滅され。全てが土に還る。

 

荒れ果てた野、元は原生林の一角だったその場所はとある竜を傷つけ。

その竜を慕う者に殺された愚か者(人間)達が無に帰した土地。

 

怒りを体現した者らの復讐で出来た愚か者(人間)たちにとっての地獄。


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