「.....ごめんね、タツタ君。」
「だから!何で姉御が謝るゼヨ!」
「癖...かな?少し、御話をしようか。」
「...何ゼヨ...」
何処か、暗い顔で語り出す...
「数年前、原生林ではタマミツネの親子が三頭居た....
親子は、至って普通。子竜は親に懐き親は育てる。
そんな当たり前の、生物として普通の。
ただ、それを良しとしない者がいる。
原生林近辺の村の者達だった。
もしかしたら、村に襲いに来るかもしれない。
人が食われるかもしれない。
日に日に、村の者の不安は積もっていた。
未だタマミツネが人に知られていない時期。
だから肉よりも魚を好んで食むタマミツネを、ある日村の一人が魚を捕った姿を人を襲っていると言った。
その結果、村は違法ギルドに依頼し、数の暴力でタマミツネを討伐した。
そして村には平和が訪れましたとさ。
めでたしめでたし.....」
「姉御....」
「勿論の如く、僕の御話だよ。」
「...ッ姉御が一体何をしたってんゼヨ!人が濡衣を着せて、姉御達はただ暮らしてただけゼヨ!」
「人は、自分以外は信じない物だよ。同じ種族でも、少しでも違う所があれば良しとせず、排除する。」
「あ、姉御は何も思わないゼヨ!?そんな事をされなければ、姉御は家族と居れたはずゼヨ!」
「何も思わない事は無いよ、今だってあの頃を想う事はある。でも、だからといって人を襲えば僕は間違いなく殺される。両親が死んでも生き永らえたんだ、その命を散らしたくは無いんだ。それに、あんな事が起きなければここに僕は居ないしね。」
「なんで....姉御はそんな簡単に割り切れるゼヨ!」
「割り切れる訳無じゃないか!」
「!?」
「....ごめん、タツタ君。でも....もしあの時に僕が人に見られない様に気を付けていれば良かったのに....」
今までに無いほど、暗い表情で、消え掛かりそうなか細い声で言う。
「御帰りニャー!」
「....ただいまゼヨ。」
「?どうしたニャ?それにミツさんも居ないみたいニャけども。」
「何でも無いゼヨ...それと、姉御は寄り道してから帰って来るゼヨ。」
「...まあいいニャ。ミツさんもその内帰って来るだろうニャ。」
ミツだよ。
僕は、他のモンスターと違って高い知能を持って産まれた。
知能があればいい事もある。だけど、僕は知能なんて欲しくなかった。
感情は知能が無ければ存在しないと思う。
野生として持つのは怒り、快感。それぐらいだ。
知能、いや、感情が無ければタツタ君の言う様にあっさり割り切れるだろう。
それが、感情なんて物を持った事で忘れられない。
記憶という形なき物としても、こびり付いて離れない。
タツタ君は僕が悪く無いと言った。
じゃあ、何故見つかった?答え、僕が注意散漫だったから。
何故、両親が殺された?
答え、僕が住処に逃げたから。簡単だ、元は人が悪いと言われても。
その理由を作り出したのは僕だ。
相手の罪を被る?
答え、元から自分の所為にした方が楽だからだ。
元から自分が悪とすれば、簡単に楽になれる。
あの子達を助けたのだって、心の奥底でその罪の意識を掻き消そうとしたかったからだろう。
きっと、誰かに怒られたとき。
自分が悪くなくても自分を悪としたことがあるだろう。
何にせよ、嫌な事から逃げ出したいからだ。
僕は、人を特に何も思わ無い。
だって、あんな事になったのは僕が悪いのだから。
人の恐怖心を掻き立てた、僕が悪いのだから。
例え、親が人に斬られ、殴られ、息絶え屍を漁られようとも。
親が死んだのは僕が敵を呼び寄せたから。
人が親を襲ったのは、目前に獲物が居るから。
生物として人間は当たり前であり、破綻してもいる。
一部の人間は他種族の屍に忌避感を覚える。
何故?今、その忌避する屍を食しても?
僕は、人をどうとも思わ無い。
憎むのであれば、助けもしない。
むしろ喜んで屍へと変えてみせる。
それを望まないからしないだけだ。
何かを失えば、手に入れる物がある。人を殺めれば、僕と同じ事を思うだろう。
形は違えど知性があるのなら。
人が、アイルーを貶めようとも。
それは、人間の中の生存競争に生き抜くため。他種族を排除、無能な者を排除する。
生きる為ならば仕方ないだろう。
『知性なき者であれば』の話だが。
知性有りしと称すならば、欲望を抑える。
知性にて動き、本能を抑えて時に解放する。
人は、知性よりも本能と欲望に知性を使う。
それに巻き込まれたのだろうか、僕等は。
僕は、人間と同じく、ナニカが欠落しているのだろう。
それでも、関係は無い。
僕の存在理由は、生きるだけ。
そして罪を晴らせもしないのに、虚偽の優しさで罪を晴らそうとする。
知性を持ち、感情を持った。
だから罪の意識を感じる。
何故僕は、知性を持った?
人と関わる事で何になるのかい?救われるとでも思っているのかな?
救われる訳が無い。
偽善を施して救われる訳が無い。
困った時に助けてくれるヒーローなんて者、居やしない。
そんなのが居るなら、居ると言うならーーーーーーーー
僕を、殺してよ.....