感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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真似をするコウモリたち

 アークレイ山で頻発に起きる猟奇殺人。その調査に向かったS.T.A.R.S.のブラボーチームが行方不明になり、彼らを捜索するアルファチームが見つけたのは、異形の怪物と腐った死体が彷徨う謎の洋館。後に洋館事件と呼ばれるこの出来事。クリスとジルを中心としたS.T.A.R.S.の生き残りによる調査で、生物災害が発生したアンブレラの生物兵器研究所だと判明したが、バイオハザードの原因は不明だった。ブラボーチームのレベッカから説明するまでは……

 洋館にたどり着き、ラピンという自我を持ち続ける人外と出会う前にレベッカはアンブレラの幹部養成所で似たような人外と行動していた。

 

 

 

 

 

 

 どこか遠いところから爆発音が聞こえた。

 アンブレラを復讐しようとしたマーカスさんは養成所の爆発で死んだのだろうか。同じ化物だからなのか少し同情してしまうけど、無関係の人間を巻き込むなんてひどすぎる。これで彼の気が済むことを願おう。

 私たちもみんなのためにこの世から……

 

「どこに行くの? カーミラ」

 

 洋館が見える丘にいるレベッカが立ち去ろうとする少女に声をかけた。彼女と脱出した男性―ビリーも少女を見つめる。振り向いた少女は人間とは思えない。

 黒いドレスを着ていて、ロングの黒髪に真っ白な肌特徴だ。その点を見ても人間だと言えるが、赤い瞳と長く尖った耳、そして口から出ている針に例えられる程の鋭利の犬歯が人ではないと教える。

 彼女はバイオハザードに巻き込まれたアンブレラの研究員……ではなく、本人が飼育していたコウモリたちが飼い主を捕食し、飼い主の記憶と人格をコピーした化物だ。マーカスが使っていたヒルのようにコウモリが集まって飼い主の姿になっている。

 

「私たちはあなた方二人とは違うのです……ウイルスに感染した私たちはご主人様を食い殺し、姿を真似したただのコウモリです。もうここにはいられません」

「だから自殺するつもりか?」

 

 座っていたビリーが立ち、カーミラに近づく。彼女はウイルスを移さないように彼から離れる。それを見てビリーは立ち止まり、困った表情でレベッカを見る。人外ではあるが、このコウモリたちはビリーとレベッカの命の恩人だ。

 少し考え、レベッカはカーミラに言った。

 

「カーミラ、友人としてあなたに頼みたいことがあるの」

「なんでしょう?」

「生き続けて。何があっても生きることから逃げないで」

 

 その約束を守るのは難しいと思った。

 私たちが食べてしまったご主人様の記憶も取り込まれている。ウサギを飼っていたおかしな研究員程ではないが、多くの人を使って実験したこともあった。アンブレラ社に入社して頼まれた研究を好奇心で引き受け、バイオハザードが起こった時には罪悪感を感じたけど遅すぎた。

 ご主人様を食べてしまい、私たちも人間といられない存在になってしまった。そんな私たちに「生き続けて」?

 カーミラは少ししてからこう言った。

 

「できる限りはそうします」

 

 レベッカはビリーが死んだことにすると言い、ビリーも二人に親指を上に立てたあとに立ち去る。洋館へ向かうレベッカの姿が見えなくなったあと、カーミラは無数のコウモリに分離し、洋館のそばにある寄宿舎へ飛んでいった。

 そこなら人間が来ない。レベッカが死んでしまうのはいやだけど、彼女とビリーのほかに接してくれる人間はもういない。ゾンビのまずい血を吸ってひっそりと生きよう。彼女はこんな生き方をしろと言ったわけではないが、これしかない……

 

 

 

 

 

 

「……それで、こんなところにいたのね。人のをこっそり見るなんてね」

「こんなところでやる人はいますか!? 普通に!!」

「もう人じゃないけどね、心も体も」

「……こんな変態に会うんじゃなかった」

 

 寄宿舎のバーで話し合うウサギ人間のラピンと人間に擬態しているコウモリたちのカーミラ。レベッカと別れたカーミラが寄宿舎の屋根裏で静かに生きようとした時、バーを調べていたラピンはまた発情してしまい、またアレをやろうとしたのをカーミラに見られてしまった。

 その後、少しはやりあったが、お互いが自我を持っていることに気づき、会話をしている。

 

「レベッカさんとS.T.A.R.S.の皆様がまだ洋館にいるなんて……」

「私は彼らの脱出の手伝いと研究をしていたっていう証拠を隠しているところなんだけど、あなたたちはどうするの?」

「私たちは……」

 

 もしその人たちに会って、私たちからウイルスが移ったらどうしよう……もうこれ以上誰かを怪物にさせたくない。

 そう悩んでいるカーミラを見ているラピン。自分がおとぎ話に出てくるあのウサギだとしたら、この子たち(?)は吸血鬼かな。日光に照らされても死なないけど。ふと、カウンターに新鮮なフルーツを乗せている皿が置かれているのに気づいた。それを食べようと手を伸ばした時、カーミラが止めた。

 

「ちょっと待ってください。ここでバイオハザードが起こってから数ヶ月は過ぎていますよ。誰がそんな果物を用意したのですか?」

「まあまあ、腹が減っては調べもできないって日本の言葉があるじゃない」

 

 そのまま果物を触れた瞬間、先ほどラピンの服を溶かした二本の触手が床から飛び出て二人の体に巻き付く。カーミラがラピンに怒鳴った。

 

「だから怪しいものに手を触れないでくださいよ!」

 

 ラピンも言い返そうとしたが、触手によって床に引きずり込まれる。カーミラは分離して脱出しようとするが間に合わず、そのまま床に引きずり込まれた。その際に頭を強くぶつけてしまい、気を失ってしまう。

 

to be continue

 




 今回から新しいオリキャラ「カーミラ」が登場です。理由はラピン一人だと会話が全くないからです(初期のバイオハザードは単独行動ですから)。
 カーミラはラピンと同じ人間ではないですが、元人間というわけではありません。擬態できるコウモリたちです。
 


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