感染して体が化物になっても自我は消えませんでした 作:影絵師
林の中に建っている小屋でリサに遭遇したラピンは彼女から逃げ続けた。彼女の父親を殺したことで狙われているが、墓の下にあった棺桶に寝ていたクリムゾン・ヘッドがその父親だなんてそんなことを知るわけがない。
貯水池のところまで来たラピン。後ろを振り向き、リサの姿がないことに大きく深呼吸した。すると、クリスとジルがいて彼女に話しかけた。
「ラピン、どうしたの? 慌てて走ってきたようだけど」
「鎖の化物にあっちゃってね。あれはどんなに殺しても死なないタイプだから」
「ウェスカーが言っていたのはそいつか。やつとあわないようにしなければ」
その時、ラピンは驚いた表情でクリスを見た。聞き覚えのある名前が彼の発言にあったからだ。
「ウェスカー……?」
思わずアルバート・ウェスカーと言ってしまいそうになり、口を閉じる。下手して金髪でグラサンが特徴の彼のことを知っているとバレたら面倒なことになりそうだ。
研究員だった彼女はアルバート・ウェスカーのことを疑問に思っていた。軍人や警察といった戦闘のプロという言葉が似合う彼が生物兵器の研究員をしているのを場違いだと見ていたが、逃げ出したB.O.W.を処分する役目だと思って気にしなかった。
バイオハザードが起こる前にウェスカーは姿を消し、人外となったラピンは彼が洋館に来ないと思っていた。そのウェスカーが館に来ている? クリスとジルにたずねた、初めて聞いたという形で。
「誰なの? そのウェスカーって」
「S.T.A.R.S.総隊長だ。彼と一緒にブラボーチームを捜しに来たが、姿が見えなくなったんだ」
「でも、通信機からウェスカーの声が聞こえたから、まだ生きていると思うわ。鎖の化物にやられていなければね」
あの彼が本当に警察になってるわけ? じゃあ、ここに来たのは仕事のため? ……どうも怪しい。
そう疑ってもクリスとジルに本当のことを言うわけにもいかないし、とにかく様子を見てみるか。この二人が貯水池から先に行かないのも気になるし。
その理由はすぐにわかった。
「あー、水が抜かれてないのね」
「ええ、排水して進みたいけど、クランクが必要みたいなの」
「それなら私が持っているけど」
クランクを取り出し、装置に差し込んで回し始める。しばらくして、水位が下がっていき、足場が現れた。それを渡っていき、中庭までもうすぐの時だった。
クリスが持っている通信器から声が聞こえた。
『こちらブラッド、S.T.A.R.S.アルファチーム応答願います……ちくしょう、誰かいないのか』
「こちらクリス……」
クリスは通信機を耳にあて、応答する。しかし、聞こえてないのか繰り返すブラッドの言葉。
『こちらブラッドだ。S.T.A.R.S.アルファチーム……ブラボーでも構わねえ! 誰か応答してくれ、こちら……』
「ブラッド! こちらクリス! ブラッド……!」
そう怒鳴るも、ブラッドの声が聞こえなくなった。耳から離したクリスは通信機を睨みつけてこう吐いた。
「くそ! 壊れてやがる」
「ブラッドって?」
「アルファチームの一人だ。だが、俺たちを置いて逃げやがったはずだ」
「でも、まだ近くを飛んでいるかもしれないわ。燃料が切れてないといいけど」
そんな会話をして、中庭へ行くエレベーターに乗って下るラピンたち。その間にふとあることを頭に思い浮かびクリスたちに聞いてみた。
「ねえあなたたち、私のことをどう思う?」
「最初はゾンビと同じ化物だと思っていたが、今は人間と変わらない。リチャードとレベッカを見つけてくれた恩人だ」
「でも、そのリチャードは私を庇って……」
「あなたを救おうとしたのよ、彼は。だからあなたは生きているのよ」
私に人間の心が残っているとこの二人は思っているようだが、人外になる前から人の心を持っていたとは思えないことをしてきた。さっきもウイルスの感染者だという理由でクリスに冷たい目を向けられていたが、人外になっていなくても研究のことを知ったら同じように冷たい目を向けるだろう。
エレベーターが停止し、中庭に到着した。この近くに建っている寄宿舎に泊まったことはないけど、おそらくゾンビがいるだろう。ラピンは手に入れたマグナムをクリスに渡す。
「これは?」
「仕掛けを解いた景品みたいなもの。私には必要ないよ」
「お前が持っていた方がいいじゃないか?」
「大丈夫、私には」
腰に吊り下げている二つの鞘から双剣を抜き、逆手で構えてクリスとジルに見せつける。
「これだけあれば平気だから」
収めてメガネをかけ直すラピン。三人で寄宿舎の入り口まで行き、扉を開ける。玄関にゾンビがいることはここも生存者はいないようだ。クリスが銃を構えてゾンビの頭を撃って倒したあとに、ジルとラピンに言った。
「ここは分かれて調べた方がいい。油断はするな」
「ええ、わかったわ」
ジルがそう言い、単独で行動を始め、クリスも別の方向を調べ始める。ラピンはリサから逃げた時の疲れを癒すために近くの個室に入る。
椅子に座り、メガネを外して机に置いて頭上の長い耳をいじりながら、今の姿であるうさぎの性質を思い出す。うさぎは自分の○○○を食べるらしいけど、絶対に食べない。クリスたちが来る前は空腹に耐え切れずに食べちゃったけど、これからは絶対に食べない。あとは普通のうさぎは肉食動物に狙われやすいから子孫を多く増やそうと……
気がつけば右手は自分の左胸をつかみ、反対側の手はズボンの中に入ろうとしている。確かにうさぎはよく発情するし、私もこの姿になってしばらくはヤっていたけどさ、R-18でもないのにクリスとジルが来たらマジで終わる。しかし、息が荒くなっていて体が熱い。一回やらないと済まない。手の動きを止めないで、そのまま……
床の一部が割れてそこから何かが飛び出したおかけで中断になった。細長い触手がラピンの首に巻きつく。短剣を取り出して切り離すが、ほかの触手が現れてラピンに何らかの液体を吹き付けた。それも切り裂いたラピンは液が付着した服の異変に気づく。
蒸発する音を立てながら溶けていく。ベストを脱いで自分の体につかないようにするが、シャツやズボンにも溶けかけていて、仕方なく脱ぐ。ネクタイも必要なくなったので外す。
どうにか体に酸がつかなくなったラピンは窓ガラスに映っている自分の姿を見る。シャツとズボンで隠されていた白い毛皮の全身、胸と腰には黒い下着、その上には二つの剣を吊り下げるためのベルトをつけている。新しい服を探さないとね、クリスたちに見つからないように。
メガネをかけて部屋から出る前に自分の姿が写っている窓ガラスになんとなく体を沿って胸を突き出したり、背中を向けてふさふさした丸い尻尾が出ている黒いパンティに手を添えて突きつけたりした。気が済んだ彼女は部屋を出て探索を始めた。
「下着を脱いでもあれが見えないけど、あの人たちに見られたら終わりだし、今の格好もやばいし」
さっきの個室にはタンスはなく、別の部屋に行って探そうとする。耳を立てて誰かが近づいてこないかを確認しながら廊下を歩く。
一つの扉を見つけてドアノブに手をかける。しかし、鍵がかかっていたので廊下を歩き始める。その先に開く扉があり、部屋に入った。そこに誰もいない上、タンスがあったので開けると服がたたんであった。それを着て、そばに置かれている鏡を見る。
映っているのは首元に赤いネクタイがついている白いシャツの上に赤いベストを着ていて、こげ茶の長ズボンを履いている。色が違う点ではさっきまで着ていたのと同じだが、タンスの中にあった黒いシルクハットが気に入り、頭に被っている。穴が空いていたため、そこから両耳が出ている。
鏡の中の自分の姿を笑顔で見たあと、懐中時計で今の時刻を調べるラピン
「……さて、本格的に探索を始めるとしますか」
to be continue