感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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兎の大蛇狩り

 

 ラピンが持ってきた血清で一命を取り留めたリチャードは血清があった部屋のベッドで眠っている。彼を見守っているレベッカにラピンは声をかけた。

 

「それじゃあ私はここから離れるよ。ジルやクリスたちに会ったら伝えとくから」

「ええ、彼が目を覚ましたら二人で探索をするわ」

 

 そう返す彼女にラピンは頷き、部屋を出た。レベッカやリチャードのことをジルたちに伝えると言ったけど、揉め事のあとだから信じてくれるかな?

 心の中で思いながら、彼女たちを見つけた場所へ向かう。そこの近くには大きなあくびをする蛇がいるはずだ。リチャードはそいつにやられたんだ。その場所まで行き、さらに奥の扉を開ける。

 目に飛び込んだのは蜘蛛の巣が張り巡らされた扉だ。いかにもその扉の向こうに危険な奴がいることが勘でわかる。まあ、鍵がかかっていて入れないが、向こうから大蛇が来ることもない。準備してから進むか。

 そういうことでその扉とは違う方の扉に入るラピン。そこにはピアノが置かれていて、楽譜もあった。それを見た彼女はあることを思い出した。人間だった頃、この近くで歩いていると演奏が聞こえてくるのを。それも一回ではなく、何回もだ。

 

「まさか、これも仕掛けの一つなの?」

 

 そうつぶやき、ピアノの鍵盤に手を置く。楽譜に目を通して弾こうとする……が、思ったとおりの音が出ない。タイミングが合ってない。

 それでも諦めずにピアノを弾き続け、耳にいいとは言えない音楽が部屋に響く。もううんざりしているラピンの手が止まる時だった。部屋に誰かが入ってきて、ラピンはとっさに構える。

 入ってきたのは化物ではなく、ジルとクリスだ。相変わらず彼はラピンを睨んでいるが、先ほどよりは落ち着いている。ジルがラピンに言った。

 

「レベッカとリチャードに会ったわ。二人を助けてくれたのね」

「……まあ、それくらいならやってやるからね」

「ありがとう。ブラボーチームに生き残りがいてよかった」

 

 感謝するジルとは違って、何も言わないクリス。そんな彼に謝ろうすると、ラピンが弾いていたピアノを見て彼女に聞く。

 

「さっきから聞こえていたのはあなたが? ということはこれも仕掛けなのね」

「よくわかんないけどね。前にここから演奏が何回も続いたことくらいしか」

「私が弾いてみるわ。こういうのは得意なの」

 

 ラピンの代わりに演奏するジル。すると、ラピンが弾いていたのよりかなりまともな音楽だ。目を閉じ、長い耳をゆったりと揺らして聴いているラピン。続いた音楽が止まった。

 黙っていたクリスがジルを褒めた。

 

「うまいぞ、ジル。そんな特技があったとは」

「ええ、まさかこんなところでやるなんてね。少しは平和なところで弾きたかったわ」

 

 その時、部屋の壁が上がってその先に進めるようになった。奥に何かが光っている。ラピンが入ろうとするが、クリスが止めた。

 彼に言おうとした時に、思ってもいない言葉をクリスが発した。

 

「罠かもしれない。俺が調べてみる」

「えっ? いや、私が調べるよ。何かあっても私なら―」

「お前はここに残ってろ」

 

 それだけ言って、隠し部屋に入るクリス。そんな彼の態度に耳を後ろに倒し、強く足踏みしようとした。

 その時、彼女に言ったジルの言葉がラピンの動きを止めた。

 

「あれはクリスなりの感謝と謝罪よ。前者はあなたがリチャードとレベッカを助けたことと、後者はひどいことを言ったこと。もしもあの部屋で何かあった時のためにあなたより先に入ったの」

「えっ?」

「ちょっと頑固なところがあるけど、少なくともあなたをただの化物として見ていないわ」

 

 ……なんだが私が馬鹿みたいだな。上げていた足をゆっくりと戻し、耳も少し立つ。今のうちに謝った方がいいかも。

 そう思い、クリスのあとを追う。しかし、隠し部屋に入る直前に壁が降りて閉まった。ラピンは思わず壁を叩き、閉じ込められているクリスに呼びかけた。

 

「クリス!? ねえ、クリス! 大丈夫!? 私が悪かったから! あなたが出てこないとごめんなさいって謝れないじゃん!」

 

 すると、壁がまた上がり、クリスが前に立っていた。ラピンの声が聞こえていたのが、口の端が上がっている。その表情に両耳にきたラピンは彼を蹴り飛ばそうと考えたが、クリスにこう言われて落ち着く。

 

「ああ。俺も言いすぎた、悪い。それとリチャードとレベッカを救ってくれてありがとう」

 

 ……あの時からあった重い気持ちがなくなった。ラピンが微笑むと、ジルがクリスにたずねる。

 

「何かあったの? 壁が降りてきたけど」

「ああ、奥にあったこの鍵を手にしたらそうなった。その時俺はその鍵の模型を持っていたのを思い出して、それを取り付けたら壁が上がったんだ」

 

 ジルにそう説明したあと、取ってきたという鍵をラピンに渡した。

 

「この洋館を大体知っているお前が持ってくれ。俺とジルは見落としていないか、確認してくる」

「気をつけてね、ラピン」

 

 部屋を出て行くクリスとジル。残ったラピンは渡された鍵を眺めながら、部屋を出る。そして、すぐそばにある例の扉を見る。あれは鍵がかかっていたけど、もしかして……

 クリスからもらった鍵で試してみる。やっぱり開いた。クリスがあのまま鍵を持たなくてよかった。ドアノブに手をかけ、開く。

 そこは屋根裏部屋のようで、床が埃に覆われていた。長い何かが引きずったあとが残っているのを見ると、やはりここにいる……ラピンが長剣と短剣を片手ずつ握りしめ、耳をあらゆる角度に動かして化物の位置を探る。

 

 シャァァァ……

 

 実験で聞きなれた音。しかし、大きさが違う。そんな鳴き声が頭上から聞こえる。見上げると、牙の生えた大きな口がまっすぐ落ちてくる。すぐに横に跳び、丸呑みされずにすむ。

 立っていた場所を向くと、そこには人の数倍の蛇―ヨーンが首を持ち上げて大きなあくびを見せている。人間ではなくても、あれに呑み込まれたらただですまない。

 

「まあ、こいつの武器は口くらいだけどね」

 

 メガネをかけ直して、長短の剣を握る。ヨーンが口を開けて突進してきた。それを床を蹴って飛び越え、太い胴体を切りつける。切り傷ができて、血が噴き出るもののこれで終わるわけがない。

 再び、開口して迫るヨーン。どうやらその口を狙うしかなさそうだが、あの毒の牙があるのに接近戦で挑むのはちょっと……剣をしまい、代わりにハンドガンを取り出し、口内を狙う。引き金を引いて数発撃った。

 怯んで勢いを止める大蛇を見て、弱点部位を確信したラピン。怒ったのか、あくびではなく威嚇をしたヨーンは自分の体を彼女に巻きつける。少し油断したラピンは跳び遅れた。

 

「きゃっ!」

 

 下半身と胸を締め付けられた彼女にヨーンの開いた口がゆっくりと近づいてくる。どうにか腕だけは抜け出したラピンは長剣を手に取り、ヨーンの牙を叩き切る。

 大きくのけぞる隙にヨーンの胴体を何度も突き刺し、どうにか解放された。そして、トドメに口内から上顎に長いのを、下顎に短いのをそれぞれ刺し、そして一気に手前に引き裂く。

 大きく体を揺らして周囲に血を噴き散らかしたあと、倒れこむヨーン。どうにか厄介な化物を倒したラピンは部屋の奥に不自然なものが落ちているのに気づき、それを調べるために大蛇のそばを通る。

 一瞬何かの鼓動が聞こえた直後、体を突き飛ばされて壁に激突するラピン。体を起こすと、まだ生きているヨーンが口を開けて近寄る。武器を取り出そうとするが、手の届かない場所に落ちていてすぐに拾えない。

 

「……ここまでのようね」

 

 体を強く打ってまともに動けないラピンが諦めかけたその時だった。

 扉の方から誰かの叫び声が聞こえ、彼女とヨーンがそちらに向く。声の持ち主はヨーンにやられていたリチャードで、彼の手にはグレネードランチャーがあった。

 

「これでも喰らってやがれ!」

 

 榴弾を何度も発射させ、ヨーンを爆撃する。何発に続いたが、大蛇はまだ死なず、ついにグレネードランチャーが弾切れになった。引き金を引いても発射しないことに気づいたリチャードは舌打ちをした。

 リロードしながらヨーンを挑発する。

 

「ちっ、弾切れかよ! おい、化け蛇! こっちに来やがれ!」

「リチャード、動いて!」

 

 ラピンがそう叫んでも、リチャードは動かない。そんな彼にヨーンが飛びかかり、呑み込んだ。その瞬間を見たラピンは目を見開き、思わず叫んだ。

 

「リチャァァァドオォォォッ!!」

 

 突然、リチャードを呑み込んだヨーンの頭が爆発し、胴体だけになって倒れた。そんな光景を見たラピンは一瞬思考停止したが、すぐに駆け寄る。大蛇の頭があったところに血まみれのグレネードランチャーが落ちている。

 まさか、自爆……? 見ず知らずのこんな私のために……? どうして……

 その場に跪くラピン。ふとグレネードランチャーに紙が挟まれているのに気づいて取る。それには文字が書かれていた。

 

 

 

 これを読んでいるということは俺はもう死んでるだろうな。

 毒で死にかけた時に兎が助けてくれたが、噛まれてから熱が出て、おまけにかゆくなってきてた。これはもうゾンビになっちまうってことだ。洋館でそのような手紙があった。

 俺はあんな化物になるのはごめんだ。どうせなら誰かの命を救って、化物を道連れにしてやる。

 この紙が挟まれていたグレネードランチャーはフォレストの物だが、あいつはもうやられた。俺が代わりに使うつもりだったけど、この紙を読んだやつは使ってくれ。

 S.T.A.R.S.の仲間が洋館から脱出するのをあの世から応援するぜ。

―リチャード

 

 

 

 読み上げたラピンはその紙をポケットにしまい、グレネードランチャーを持つ。落ちている自分の武器を拾い、メガネを掴んだ。そこに目元が濡れているラピンの顔が映った。腕で拭き取ったあと、奥に落ちていた不気味な仮面を拾い上げた。

 ありがとう、リチャード……

 

to be continue             




 リチャード、死亡。ただし原作よりちょっとかっこよく死にました。えっ? 某青狸の二次創作でそういうのを見たって? 気のせいでしょう。
 ラピンに専用武器があるのに拳銃を使った件。ウェスカーと似た感じかな(彼も銃火器を使用しているから)
 あと、ピアノの部屋で手に入れるアイテムを変更しました。エンブレムだと長くなりそうだし……
 次回もお楽しみに!

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