感染して体が化物になっても自我は消えませんでした 作:影絵師
自分の部屋で少し休んだラピンは玄関ホールのところに来た。そこにはジルとクリス、バリーの姿があり、彼らが気づくと彼女を呼び寄せた。そばまで来ると、クリスが警戒して遠ざかる。私やほかの化け物のことをバリーから聞いたんだろう。彼に向ってバリーが言った。
「落ち着け。さっきも言ったが、こいつからの感染はないと思った方がいい」
「……フォレストが化け物にされたんだ。こいつらに接触してな」
ラピンを睨みつけるクリス。一方、フォレストを知らないラピンはしばらく彼を見ていると、ジルが教えた。
「私たちの仲間よ。もうこの世にいないけど」
「あいつはグレネードランチャーの扱いがうまかった。しかし、あいつの遺体のそばにその遺品がなく、せっかく見つけたこれも意味がないな」
そう言いながらバリーは硫酸弾取り出して見せる。化け物を飼っていたとはいえ、洋館にそんなものまであったのかと、見て思うラピン。
バリーがそれをしまう間、ジルがクリスを宥める。
「クリス、ラピンを責めたいのはわかるけど、彼女はゾンビじゃないし、フォレストを殺した者でもないわ」
「だが、感染者だ。放っておけば、面倒なことになる」
その言葉に頭にきたラピンは一回足踏みして、クリスの前に立つ。彼女の行動にバリーとジルが止めようとするが、ラピンの口が先に動いた。
「ちょっとあなた、感染してる=悪って考えてるの? 化け物になった人間はゾンビになりたいって思ったわけでもないし、私もこうなりたいと願ったわけでもない。勝手に善悪決めつけないでくれる?」
「なんだと?」
クリスの表情が険しくなっても、ラピンは続ける。
「もしかしてあなたが感染しちゃってゾンビになりかけたら人間のままで死にたいって方? するんだったら私がヤるよ。それとも化け物に殺されたくないなら自決でもしたら?」
「さっきから聞いてれば! 人間とは思えないな!」
クリスがラピンの首元を掴み、彼女を殴りつけようとした。その時、眼鏡を落としたラピンも彼の腹を蹴ろうとするが、バリーがクリスを引き離した。ざまあみろと言おうとした時に、ジルに頬を叩かれた。
痛いというより叩かれたことに驚いて、その頬を押さえているラピンにジルが叱った。
「ラピン、今のはあなたが悪いのよ。クリスは変わり果てたフォレストの姿を見てショックを受けている。そんな彼にさっきの言葉をぶつけるのは許せない。もう二度としないように」
そして、クリスとジルに捜索を続けると言って玄関ホールを去った。ラピンが床に落ちている眼鏡を取り上げる時に、バリーが声をかける。
ジルと同じように怒りを感じている。
「もうふざけたことは言うなよ。フォレストのことは俺たちもショックだ」
そう言い残して、彼も去った。
ラピンと共に残されたクリスは彼女を睨み続けていたが、しばらくして黙って別の部屋に行った。その場に立ち続けていたラピンは首を横に振り、探索を再開した。
……どういうわけか、両耳が垂れて鬱陶しい。いつもはピンと立っているのに。そのままにして二階に上がる間に自分がクリスに言ったことを思い出す。
私も被害者のようなことを言ってたけど、そんなことを言う権利はなかった。むしろ、加害者の方だ。
人間だった頃はT-ウイルスでB.O.W.を作る時にほかの人間を使ったり、出来上がった生物兵器のテストをするために標的を人間にしたりなど、まともとは言えなかった。そしてこの姿になったきっかけのバイオハザードも自分たちが扱っていたT-ウイルスが漏れてしまったのが原因だ。ゾンビが大量発生したのも私のせいだ。
そのことを反省してるのかというと、はっきり言ってしてない。罪悪感も感じない。後悔はしているといえばそうだが、ずっとここにこもっていたことにだ。こんな怪物(というよりは誰かに受けそうなんだけど)の姿になったのは驚きだけど、人間を超えた力を持っているのもいいね。人間に戻ろうとは思わない。
……でもまあ、あんなことを言ったのは悪く思うけどね。あとで謝ろ。
心の中でそう思い、玄関ホールの二階にある東側の扉を開けて入る。確か、この近くには甲冑や剣が飾られている部屋があったね。あのクリムゾン・ヘッドみたいなやつにあったら武器が必要なんだけど、弾が必要な借りた銃より近接武器の方がいいね。
ラピンがその部屋の中に入った途端に並べられていた鎧が動き出した。えーと、これを戻すのに順番があったような……右手奥、手前左、手前右で最後は左手奥だったかしら? 記憶を便りに元の場所に戻していくと、最後の左手奥の鎧が自分で戻っていく。中央に置かれているボタンを押すと、奥の壁の一部が開かれた……
が、何も入ってなかった。おそらく、ジルたちの誰かが不気味な仮面を取ったんだろう。
「まあ、私は武器を取りにきたんだけどね」
つぶやいて部屋を見渡す。B.O.W.に鎧をつけていくなんてとんでもない。長剣、曲剣、大剣、刀などがいろいろあるけど、どれも私に似合いそうにない。
ふと、まるで長針と短針のような長短の双剣が目に入る。私が大事に持ってる懐中時計の針と似たデザインをしている。長いの右手に、短いの左手にして持ち、試しに甲冑を相手する。
頭に長剣を突き刺し、短剣で脇腹を引き裂く。よし、これは使えるかもしれない。それの鞘を腰の後ろに吊り下げ、納刀する。武器を手に入れて満足したラピンはその部屋を出て、屋根裏部屋の方に行く。
そこへ通じる扉を開けた時に見知らぬ二人が壁際にいた。どうやらS.T.A.R.S.のメンバーのようだ。怪我をしている男性がラピンに気づくと、銃を取り出して狙いを定める。
「くそ! ゾンビに化け犬、そして大蛇の次はうさぎ人間かよ!」
「待って、あれは襲ったりはしないわ」
……あの三人よりは冷静だねこの子は。ラピンがそう思いながら近づいていく。男は左腕に大怪我をしていて、苦しそうだ。どうやら毒にやられているみたいだ。
「毒蛇に噛まれたのね。それもかなりでかいのに」
「ああ……あれはバケモンだ……お前のような馬鹿みたいに可愛くしたのと違ってな……」
「……楽にしようか」
短剣を握りしめてそう言った。二十の女性が手で止めながら言う。
「血清が必要なの……でも、ほかの部屋に置いて来たの……」
「……血清の場所は知ってるよ、私が取りに行く」
通路を出て、洋館の西側へ走っていくラピン。彼女がいなくなると、男性―リチャードは女性―レベッカに言った。
「レベッカ……あんなのを見ても……驚かないなんてな」
しばらくしてからレベッカはこう返した。
「あれみたいな人は初めてじゃないから」
レベッカは洋館に来る前にとある場所で死刑囚と人外と協力したことがある。今はそのことをここに書かないが、いつか書くときが来るだろう。
その頃、西側の保管庫にたどりついたラピンは棚に置かれている血清の瓶を手にして、急いで戻る。途中でゾンビやクリムゾン・ヘッドが襲ってきたが、長剣で奴らの首を刎ねてやった。リチャードとレベッカがいるところまで戻り、血清を渡した。
「これでしょ、血清」
「ええ、ありがとう」
感謝を言い、リチャードに声をかけるレベッカ。
「今、血清を打つわ。しっかりして」
その様子を見守るラピン。ヨーンというふざけた名を研究員に付けられた大蛇はすぐ近くにいるのが聴力でわかり、警戒していると少し顔色が良くなったリチャードに声をかけられた。
「……お前のことを疑ってたぜ……化物のお前が血清を持ってくるなんて思ってもいなかった……悪かったよ……」
「クリスとジル、バリーがこの館にいる。会いたいなら死なないで」
「へっ……あいつらもここに来てるのか。だったら生きるしかねえな……」
それだけ言うと目を閉じて動かなくなった。ラピンがすぐに耳を立てて彼の体を触れる。まだ暖かい。気絶しているだけのようだ。
とはいえ、ここにいるのは危険だ。ラピンとレベッカはリチャードを運んで血清があったところまで移動した。
今回はレベッカとリチャードが登場しました。……まあ、ちょっと地味になるんですけど
ラピンがクリスと喧嘩したのは「人間とクリーチャーが共存するのは難しい」と示したかっただけです。いつか和解するつもりです。
今回からラピンは専用武器を使います。ウェスカーのように銃火器で戦わせることも考えましたが、彼女の個性を出したかったので。
次回もお楽しみに!