感染して体が化物になっても自我は消えませんでした   作:影絵師

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救助する感染者

 玄関ホールで墓場を調べに行くクリスと別れたラピンは食堂の反対側の扉を開けて入る。そこには美術品が壁などに飾られていて、真ん中に石像が置かれている。奥に置かれているはずの棚が石像のそばに動かされているのを見ると、誰かがそれに乗って石像のツボの中にあるこの館の地図を取ったようだ。

 とはいえ、この部屋には重要な鍵はない。奥の扉を開けて廊下に出る。玄関ホールと同じくらいの明るさのそこを歩き、角を曲がろうとした。

 突然、ガラス窓を突き破って何かが廊下に現れた。それは腐った死体、いや、正確にはB.O.W.として作られた化け犬―ケルベロスだ。そいつはラピンに顔を向け、すぐに走ってきた。口を開けて噛み付こうと飛びかかったところを、横に避けられてしまい、そのままラピンの蹴りで壁に叩き付けられた。

 そいつを足で壁に押し付けているラピンはさらに力を入れる。何かが折れる音と同時にケルベロスは止まった。足を離すと、壁に赤いのを残して床に落ちた。それを見下ろすラピンはジルとバリーが生き残れるか、少し不安に思った。

 

「ゾンビくらいはなんとかなるかもしれないけど、こいつや私のような化物に勝てるかしら」

 

 そうつぶやき、先を進む。また廊下に出た。正面と左に分かれているが、正面の浴室に重要なものはないから左に行こうとした。

 そこの扉が突き破れ、赤い何かが鋭い爪でラピンに襲ってきた。クリムゾン・ヘッドだ。誰かが処分し忘れたようだ。クリムゾン・ヘッドは腕を振ってラピンの右腕を切りつける。白い毛皮が赤く染まる。そこを押さえながらしゃがみ蹴りをし、赤い変異体を転ばす。起き上がろうとするそいつの頭を踏み潰して殺した。

 ゾンビよりは厄介な化物を倒したラピンは安堵のため息を漏らす。切られた腕が痛むけど、化物になった彼女はしばらくすれば回復する。もうすぐ傷が癒えそう。

 

「バリー! クリス! 誰か助けて!」

 

 ジルの助けを呼ぶ声が長い耳に入り、すぐにその方向へ向かった。確か近くに壁をかけられているショットガンを取ると、天井が降りてくる部屋があったはず。そうでもなければさっきの赤いやつに襲われているかもしれない。

 とにかくその部屋に行ってみるしかない。走ってそこの扉を開けようとするが、鍵がかかっている。向こうからジルの叫び声が聞こえる。

 

「誰かいるの!? ドアが開かないの!」

 

 力任せに蹴りつけてドアを破る。その部屋の天井はもう腰の高さまで下がっていて、ジルは横になって潰されないようにしている。彼女の腕を掴むとすぐに引っ張り出した。

 彼女の体が廊下に出た直後に天井が床についたところだった。ジルはそれを見つめたあと、立ち上がってラピンの顔を見る。

 

「ありがとう、もう少しでサンドイッチにされるところだったわ」

「これからよく考えて行動してくれる? それに浴室にいたゾンビも殺し損ねていたでしょ?」

「ごめんなさい……あなたの言葉を少し信じてなかった」

 

 腕組みしているラピンにジルは申し訳なく謝った。その時、ラピンが怪我しているのに気づき、ポーチから緑色の薬草―ハーブの粉を取り出して、傷口に塗りこむ。痛いといえば痛いが、さっきよりは回復してきた。

 

「これで借りを返したわ」

「……まあ、これでチャラにするよ。それとそのショットガンは持ってて。私には必要なさそうだし」

「ええ、使わせてもらうわ。ところで……」

 

 ジルはラピンに聞いた。

 

「ほかのみんなはどうしたかしら? 別れてからクリスとバリーに会ってないけど」

「クリスは墓場を調べてる途中。バリーは見てないけど」

「そう。おそらく食堂の方にいると思うから見てきてくれない?」

「いいよ」

 

 彼女の頼みを引き受けたラピンはさっき来た廊下を戻る。その途中にゾンビとかはいたが、蹴り飛ばして進んでいく。

 食堂の方まで来たラピン。しかし、バリーの姿はなかった。上を見上げて二階の方も見るが、一階からだとよく見えない。ラピンは少ししゃがみ、次の瞬間に跳んだ。二階の手すりを掴み、通路に立つ。そこにもバリーはいなかった。奥に進んで、廊下に出る。

 すると、拳銃を構えて廊下を歩くバリーの姿が見えた。彼に近寄って話しかけようとする。それより先にバリーが気づいた。

 同時に拳銃を彼女に向け、こう言った。

 

「止まれ! それ以上近寄ると撃つぞ!」

 

 すぐに立ち止まったラピンはメガネ越しに彼を睨みつける。音が響くほど、強く足踏みしてたずねる。

 

「どういうわけなの?」

「下手に感染したら困るからだ」

 

 その言葉を聞いて、ラピンは一瞬焦った。私がウイルスに感染して人外になったのを知っているんだったら、どうしてゾンビができたのか、この洋館はどういう場所なのか、そういうのを彼は知ってしまったの?

 彼女の頭上を見たバリーは銃を構えたまま言った。

 

「その長い耳の動かし方……どうやら図星のようだな。お前も奴らと同じ感染者か……?」

「どういうところまで知ってるのかしら?」

「さっき調べた部屋に残されたこの破れた手紙に『感染している』、『生ける屍』という言葉が書かれている。これは何かに感染してる者がゾンビになったということか?」

「……そういうこと。私もそれになるはずだったけど、どういうわけか、自我と知性は消えずにこの姿になったのよ」

 

 問題なのはこの男が何をするかだ。

 この姿を知ったほかの研究員たちのようにヤるつもりは全くないだろう。移らないように私を殺すのかな? もしそうだったら抵抗してやるよ。

 しばらくにらみ合っている時、バリーはまた質問した。

 

「感染したら症状が出ると書かれていたが、どういうものなんだ?」

「……普通は発熱、かゆみ、もしくは馬鹿になっていくってところかな」

 

 それを聞いたバリーはしばらくして銃を下ろした。その行動に少し驚くラピンに彼は言った。

 

「今のところ、そういったのはないからな。それにお前と関わってから時間が経っていても、こうして新鮮なままだからお前からの感染は心配しなくていいだろう」

「空気感染は弱まってるし、ゾンビに噛まれていない限りは……ね」

「いきなり銃を向けて悪かった。変わりにこれで許してくれ。この館の仕掛けを知ってるお前が持ってた方がいいだろう」

 

 

 彼からウインドクレストを受け取った。彼曰く、これを手にするのにデカイ蜂をなんとかしてたとか。

 バリーと別れたラピンは部屋に入って、少し休んだ。バリーから破れた手紙をもらい、読んでいる。これを書いた人物は自分の恋人に自分が死ぬことを伝えている内容だ。まあ、その恋人はこのことを知らないと思うけど。

 手紙を放り投げ、自分の耳をいじっている時に手紙であることを思い出した。自分が書いた黒歴s……秘密の日記がクリスたちにバレたらやばい。すぐに部屋を出て、自分の寝室へ走る。どれだけ走ったか覚えていない。

 その部屋の扉の前で立ち止まり、ぶち破った。誰も入ってないようで、ラピンがクリスたちに会いに行った時のままだ。机に例の日記が置かれているのが見え、床に落としてライターで火をつける。

 燃え上がるノートを見て、安心した。ちょっと惜しい気持ちはあるが、こうするしかなかった。

 ベッドに横たわって、天井を見つめる。彼らが来るまではずっとここにいたが、このままでいいのだろうかと思う。はっきり言えばゾンビまみれのこんなところからすぐに出たいし、街で買い物してみたい。

 だけど、それは不可能であるのはわかっている。兎人間が街の中に現れたら目立つでしょ。そしてアンブレラ社に捕まって実験とか解剖とかされたりすることになるだろうし。

 まあ、そうされるつもりは全くないけどね。

 

to be continue

 


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